第62話 道中 for 帝都
『ルイスおじさん、ミーアです』
この指輪作っておいてよかったよ。遠く離れていても連絡が取れるってこんなに便利なんだね。私だけだけど。
『ミーアか。今どこにいる』
『昨日帝国に入りました。2週間後に帝都に入るって言ってあるんでのんびり移動中です』
『危ない目にあってないか』
『私はあってませんけど、私にちょっかいを出してきた盗賊たちはかなり危ない目にあったみたいです』
『また盗賊狩りをやったのか』
『人聞きの悪い事言わないでくださいよ。好き好んで盗賊狩りなんてしてませんから。趣味じゃあるまいし。襲って来たから仕方なく返り討ちにしただけですって』
『まぁ無事ならいい。気を付けるんだぞ』
心配性ですね。こう見えても
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はぁ、今日で帝国に入って3日目。たった3日なのになんでこう毎日盗賊が出てくるのよ。日刊盗賊団ですか、デイリー・バンデットですか。そんなに私に貢物をしたいんなら、順番に並んで目録でも置いてってくださいよ。一々アジトまで出向くって面倒なんですから。
今日のお客さんはこんな感じでした。
「お前がヘンネルベリのお姫さんか。荷物を置いてきな」
「私をヘンネルベリの姫と知って襲撃してきたのですか」
「そうとも、お前のことはここいらじゃ有名だからな。王国の姫が皇帝に貢物を届けに行くとなりゃそれなりのものを持ってるって事にちげぇねぇ。それを置いて決定ってんだからさっさとしろや」
「一国の使節が護衛も連れずに来るとお思いですか」
「見たところ大した護衛もいねぇじゃねぇか。おいっ!者ども、こいつらの身ぐるみ剥いじまえっ!」
「「「おぅ!!」」」
とこんな感じです。例によってフェアリー隊が殲滅。慰謝料の請求のためにアジトまで出向いて、ボス
これでこっちに来てから3件目。3日で3件だからね、マジ毎日出てくる。お前らタケノコかってんだ。慰謝料の合計は金貨だけで500枚弱。うーん、こっちの盗賊は渋いね。国の経済状態が悪いのかな。薔薇なんてあそこだけで1000枚以上あったよ。
それから気になったのは、盗賊団が私のことを知っていたって事。私と知って襲ってきたのは今日が初めて。盗賊団の周辺でも私ってば有名人って事。イヤー、モテる女って辛いね。やっと言えたこのセリフ。次いつ言えるかわかんないからね。後で取り上げるときは、ちゃんと編集してね。
盗賊団って言えばガラの悪い、素行の良くない人の集まりですよ。そんな連中が荷物を差し出したら無傷で見逃すと思います。ましてや他の国の人ですよ。何かしない訳ないじゃないですか。そんな連中を相手にしてきた私たちがピンピンしてる。前に襲った連中が成敗されたって思わないのかな。バカですね。でもこのバカ、この先もいっぱい出てくるんでしょうね。
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今日は道中にある何とかって街に泊まることにしました。街の名前なんてどうでもいいです、2度と来ない街でしょうから。マークだけはしておきますけど。ぶっちゃけ馬車の方が何万倍も安全なんだけどね。先触れも出てるでしょ。ある程度の街だったら準備してるかもしれないじゃん。それに応えてあげるのも私の役目かなって。
領主さま直々のお出迎えです。お泊まりは是非って言われましたけど、街一番の宿屋のこれまた一番の部屋を借りました。路銀はたっぷりありますから多少ぼったくられたって大目に見ましょう。私の懐が痛むわけじゃないからね。
「姫様、ようこそおいでいただきました。何もない街ですけど、ごゆっくりしていってください」
ホント何もないんだよ、ベルンハルドと同じぐらいの大きさの街なんだけど。何がないって活気がないんだね。なんかみんな沈んでる。景気が悪いのかな。少し散財しますか。
でもさ、散在するって言ったってこの空気ですよ。何かパーッとしたいんだけど何もできません。生活雑貨も埃被ってます。パーってやったら埃が舞いそう。定番の串焼きを頬張りながらブラブラします。味はまあまあね。お肉の下処理はちゃんとしているみたいだから、あとはもうチョット熟成させた方がいいかな。あとは生地をいくつか。仕立ててある服はデザインがイマイチって言うかダメダメで、買う気がしないんだもん。でもいくつかいい生地があったのでそれはゲットしましたよ。
街をブラつくときも警戒は怠りません。王都でブラつくときだって警戒したまんまなのに、ここでは無警戒なんてことある訳ないでしょ。現にこっちを伺っている人が3、いや5人。このまま裏道に入ればイベント発生確定だけど、こんなところで大立ち回りはしませんよ。今回の旅のモットーは『大人しくいこう』ですからね。
宿に帰って部屋に戻ると…、やってくれますねぇ、誰かが侵入した形跡があります。荷物なんて何一つ置いてないんで、盗られる心配はないんですけど。良く調べてみるとトラップが仕掛けられているようです。バカですねぇ。探索の達人ですよ、私は。砂漠の砂の中からダイヤだって探せるんです。1つはベッドの下にありました。眠りを誘う薬を蒔く罠です。寝ているときにこの薬を吸うと、ちょっとやそっとじゃ起きなくなるってやつ。薬って言うより毒だね。まぁ私には関係ない。あと水に痺れ薬を混ぜる罠も仕掛けられてました。痺れ薬って麻痺毒のことね。私には無意味なヤツね。
どうやら私が動けなくなったところを攫おうって意図が見えてきます。そんなイベントは起きないから大丈夫ですよ。
今日は亜空間シールドを張って休むことにします。
夜中、私が寝ているところに誰かがやってきたようです。夜這いですか、積極的ですね。違う、人攫いなんですって。中からカギはかけておいたんですけどまぁカギぐらいなら簡単に開けちゃうよね。マスターキーでも使ったのかな。足音を立てずにそぉーっと入ってこようとするのですが、何としても入れません。まるで見えない壁があるかのようにです。見えない壁を作ったんだから、あるかのようじゃなくってあるんですけどね。暫く頑張っていたみたいです。(後で聞いたマルチさん談)
ここで捕まえちゃおうかなって思ったんですけど、こういう連中って失敗したら必ず後でもう一度仕掛けるじゃん、その時でいいかなって。他に休んでる人もいるんだろうから夜は静かにしないとね。
「昨晩はゆっくりお休みになられましたか」
「ええゆっくりできましたよ」
ホントのこと言うと風呂に入りたかっただけだから、風呂に入った時点でここの役目は果たせたんだよね。
今日も襲撃イベントがありそうだから、頑張るっきゃないね。
**********
やってまいりました本日の襲撃イベント、何と今回のゲストは盗賊団ではありません。こちらの方々です。パチパチ
いやホント飽きないわ、日刊襲撃。現れたのは昨晩私が寝ているときに訪ねてきた連中。眠そうだね、夜はちゃんと寝ないとだめだよ。この連中が盗賊じゃないって思うのは装備なんかもそうなんだけど、訓練された動きって事。騎士団の動きのようなね。
「お前がヘンネルベリ王国の使者のものか。大人しく我々についてきてもらおうか」
「イヤだと言ったら?それよりそっちこそ名乗りなさいよ。そこら辺のチンピラ盗賊団じゃないんでしょ」
「あんな連中と一緒にするな、私はランド準男爵だ」
「我はロエル騎士爵である」
準男爵に騎士爵、こいつら貴族かよ。まったく。
「でそんな貴族様が私に何の用ですか。私はあなた方に用など全くありませんが」
「敵国の姫を捕らえたとなれば陞爵は確実。この戦いを我々が優位になるようにアンタには人質になってもらう」
「私は国王代理としてこの国を訪れているのですよ。そのような者を襲うなど、この国がどうなるかの想像もできないのですか」
「黙れっ!帝国が王国を支配してやるって言ってるんだ。大人しく従えばいいんだ」
「ではあなた方は帝国として、国王代理である私に対して戦争を仕掛けるというのですね」
「先に仕掛けたのは王国じゃねぇか。俺たちはあの土地を取り戻す戦いをしているだけだ」
「あの土地は王国が開いたものであることは明白です。帝国ができたころの話ですね。そのころからずっとあの土地は王国のものです。そこに侵攻してきたのはあなたたち帝国です。王国はあなたたちから土地を守るために守備隊を置いているだけです」
「黙れっ!俺たちはなぁじいさんや村の長老に『昔はずっと向こうまで狩りに行った』と聞かされているんだ。そのずっと向こうって言うのがお前たちがいるところなんだよ」
「まだ国境が定まる前の話ですね、愚かな。あなた方がこのようなことをしても、帝国にとって利になるどころか害にしかならないことが理解できないのですか。今、ここで引けばあなたたちの愚行を不問にしましょう。まだ妄言を吐き私を足止めするようなら、私も対処せざるを得ません。如何しますか」
「準男爵様、どうします」
「向こうの護衛は10人程度だ。それに対して俺たちは40人以上。戦争は数さ。数で圧倒した方が勝つんだ。今は俺たちが数的に有利だ。この機を逃して俺たちに勝機はない。一気に押し込むぞ」
あーあ、やっちゃいましたね。しょうがありません売られた喧嘩です。買わない訳にはいきません。ってか帝国って喧嘩の大売り出しでもしてるんですか。
「親衛隊、フェアリー隊、両方とも出て。両隊連携を取りつつ襲撃者を殲滅。殺さなきゃいいわ、多少ケガさせてもね。一人も逃がさないようにね。いつものように戦端は向こうに開かせるのよ」
過剰防衛なのはわかってますよ。親衛隊だけでも勝てるでしょうし、フェアリー隊でもなんとかなるかもしれない程度だからね。でもまぁ安全策ね、盗賊と違って統率が取れているからね。
私?私は安全なところになんて逃げ込みませんよ。ちゃんと最前線で指示を出します。愛用の武器【木の棒】を持ってね。でもこの棒大分傷んできたね。そろそろ替えようかな。特別なものじゃないからね。ホントただの木の棒なんだから。
「フェアリー隊、先に魔法使いを潰して。親衛隊前衛は押し返して。後衛部隊は掩護、背後を狙って。中衛隊は抜けてきた奴らの足止めっ!」
あちらさんが戦端を切った瞬間から殲滅が始まります。魔法使いは一撃で気を失い、戦士は手足を折られていきます。5分で大勢が決して、7分で完全に沈黙しました。
「戦争は数、確かにそうでしょうね。でもあなた達が用意した数じゃ足りませんよ、せめてあと10倍程度はなければね。あなたたちは帝国の貴族として王国に戦争を仕掛け負けたのです。その代償はキッチリと払っていただきますから、覚悟しておきなさい」
兵士全員の武装を解除した上で拘束し、傷薬は飲ませてあげたけどそのまま亜空間プリズンへGOです。
牢獄いっぱいなんですけど。今日で4日目だっけ、もうすでに100人以上入ってるよ。あと10日、全部で何人になるのでしょーか。
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