第61話 出発
「ジャスティン、それじゃ行ってくるから」
「お気をつけて、ミーア様」
「何かあったらこれで連絡するからよろしくね」
**********
「国王陛下、ただいまよりミルランディア特別補佐、アズラート帝国へ国王代理として赴きます」
「よろしく頼んだぞ」
「何かあれば連絡いたしますので。何もなくても連絡しますけど」
「何もない事を祈っておる」
「ミルランディア殿、よろしく頼みましたぞ」
いよいよ帝国へ身けて出発です。馬車は3台。2頭立ての護衛の馬車を前後に、4頭立ての私の馬車が進みます。しかしほれぼれするような立派な馬ですね、黒曜馬のような大きくて真っ黒な馬です。この方がカッコいいからね。護衛の馬車はの馬は普通の栗色の馬で大きさも普通、だけど身体能力は特別って言うのにしました。立派なのは私の馬車だけ。あとは引き立て役でいいんです。
道順はこうです。今日は軽く空間転送でグラハム辺境伯の所へ行きます。そこでアンジェリカ伯母様に挨拶をして1泊します。道中動かないベッドで寝られるのはここだけかもしれませんね。
明日、国境の砦を越えて帝国に入ります。砦から帝都までは普通に進めば10日ほどと聞いてますので、それぐらいかけてゆっくり行くことにします。時間のつじつまが合わなくなると面倒だからね。でもこの馬車が全力で行けば多分7日ぐらいで着くと思うけど。
10日も何をしてるのかって。何もすることがないのにミーアが何もしないのはおかしい、ってどういう事よ。自分からは何もしないつもりよ、自分からはね。でもさぁ私が望まなくても起こるイベントってあるじゃない。イベントは楽しまなくっちゃね。関係各所が連携して私のためにイベントを用意してくれるんでしょ。そしたらねぇ、無視するのも悪いじゃない。
まぁ1日1件あるかどうかでしょうけど。
後は臨機応変に行きましょう。
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グラハム辺境伯の町、領都キラフ。そう言えばここに来るの初めてだね。おじいさまたちを連れて来るって言ってたのにすっかり忘れちゃったよ。でもアンジェ伯母さんとは会ってるよね、ここ1年で2度も。ならいいか。そうじゃないって。孫の顔がいたいって言ってたんだっけ。これが終わったら連れてきてあげるね。
「アンジェリカ伯母様、ミルランディアです」
「あらミーアちゃん、どうしたの?」
「ええと、………」
伯母さんや辺境伯様といろいろお話しましたよ。おじいさまとおばあさまが会いに来たいといってたことも。この仕事が終わって王都に戻ったらおじいさまたちと来ますって約束しました。
辺境伯様と二人っきりで話もしました。勘違いしないでくださいよ、そういう関係じゃないですって。だから不倫じゃないって。辺境伯様はアンジェ伯母様に一途なんですって。いくら渋い伯父様に惹かれる私でもそこまで節操なしじゃありませんから。まったく。
辺境伯様と話したのはアズラート帝国の事。最前線で向き合ってるんだもんね、いろいろ教えてもらったよ。でもこんな話、伯母さんがいたら心配しちゃうでしょ。だから二人で話したの。二人っきりだと別な心配しちゃうって?気にしすぎですよ。ねぇ、辺境伯様。ん?辺境伯様?どうしたんですか。
子供たちとも遊びました。従兄弟だね。2人兄妹で上は私よりちょっと上、下はちょっと下でした。2人とも私が公爵だって言ったらびっくりしてたよ。そうだよねぇ、同じぐらいの歳の女の子が公爵なんだから。
ここに来た時からドキドキしてたことがあったの。それはね、「泊まってきなさい」って言われなかったらどうしようかって事。でも絶妙なタイミングで言ってくれてホッとしましたよ。マジ、宿屋探さなきゃって思ったぐらいだから。
あくる朝いよいよ帝国に向かいます。辺境伯様が砦まで案内してくれました。
「私が案内できるのはここまでだ。道中、十分に気を付けるのだぞ。油断してはならぬからな」
「この先は王国じゃないことは分かってます。過信も慢心もしませんので。それでは行ってきます」
**********
「止まれっ!お前たち、何用だ」
「私はヘンネルベリ王国国王代理、ミルランディア・ヘンネルベリ公爵です。国王の書簡をもって皇帝陛下との会談に参りました。今より2週間後に帝都に入るので、そのことを伝えてください」
ちゃんと証のメダルも見せましたよ。さすがに最前線の砦を守る人達です。そこら辺のことは承知していました。不手際があるとまずいからね。
「王国の使節団がたったそれだけの人数なのか」
「何か問題でも?別に戦争しに来たわけじゃありませんからね。話し合いをするだけならこれで十分じゃありません?」
「分かった、通ってよい。ただ道中の安全は保障しかねるからな」
両替?しませんよ。どうせしばらくはお金なんて使わないし。それに多分すぐにお金やら何やらを沢山貢いでくれる人たちが現れると思うから。
早馬がすっ飛んでいきました。私も一筆書いたからねぇ。それ持って大慌てですよ。
何故10日で着くところを2週間って言ったのかって?準備の時間をあげたんですよ。私、優しいから。ちゃんとそれぐらい考えてますって。盗賊狩りを楽しみたいからじゃないかって。まぁそれもない訳じゃないですけど、そんなにゴロゴロ盗賊なんている訳ないし。
馬車の乗り心地は上々です。さすが私の創造術&錬金術コンビ。スピードを出せばかなりの速度が出せますが、急ぐたびではありません。警戒を怠らずにのんびり進みます。
でも目立つんでしょうねぇ。黒く大きな馬を4頭立てにした豪華な馬車。それを護衛すると思われる馬車はたったの2台。まぁ私にとっちゃ過剰戦力なんだけど、傍から見ればいいカモかも。相変わらずの盗賊ホイホイです。
早速のお出迎えって早くない?まだ砦越えて半日じゃん。まぁ路銀稼ぎには丁度いいか。
急ぐこともないので、チョットだけ相手してあげることにしました。ってミーアさん、楽しんでませんか。
街道沿いでやると目立っちゃいますから、少し外れてみます。ちゃんと盗賊が待ってる方に外れましたよ。まるで何も知らないかのようにね。
「そこの馬車、止まれっ!」
止まれって言われたんで止まってみました。いきなり襲い掛かってくる連中よりは紳士的ですね。盗賊に紳士なんていないんですけど。
「いいとこにいました。都に行きたいんですけど、道はこっちでいいんですか?」
「そんなことどうでもいいんだよ。お前らは都になんて行けねぇんだからな」
どこの盗賊団も下っ端は下衆な野郎が多いですね。ここも例に漏れません。しょうがない、後ろの護衛部隊を出しますか。
前の護衛は男性仕様です。通称親衛隊。体格のいいタフな盾持ちは槍を持っています。盾持ちと両手剣使いの剣士。盾持ちの剣士は魔法も使えます。罠を仕掛けながら戦う軽戦士は、剣の他スリングショットも使います。最後の一人は魔法使い、風と土の魔法を使って攻撃します。火や雷を使わないのは森が火事になったら困るからね。これが前の馬車にいる護衛の全容。マジ強いよ、盾持ちと剣士だけで1個中隊を足止めできるぐらい。あと2人が加われば軽く1個中隊を蹴散らせるかな。
一方後ろの護衛は女性仕様。通称フェアリー隊。剣士が2人に魔法使いが2人、アーチャーが1人の5人。彼女(?)たちでも1個中隊なら相手にできるよ。たまに演習してるから。剣士2人の得物はレイピア。盾は持たないけど機動性はピカイチ。男の軽戦士なんて相手にならない。軽戦士だって十分に早いんだよ。それを相手にしないんだから相当なもの。2人の魔法使いの速さだってかなりのもの、軽戦士と大して変わらない。更にアーチャーと来たら剣士よりさらに早い。早いだけじゃなくって身のこなしも軽い。木に飛び乗ったり、枝から枝へ飛び移ったり。撃ったら素早く移動してまた撃つ。正にスナイパー。
男性チームがバランス型なら女性チームはスピード特化。攪乱しながら殲滅するにはもってこいなんです。だから今回出すことにしたんだけどね。
「じゃぁ、私たちをどうしようって言うの」
「お前たちは俺たちにたっぷり可愛がられた後、売り飛ばされるんだよ。ものども、やるぞっ!」
「私たちが誰だか知ってやっているのですか」
「そんなの知るかよ。オメェらんてタダのカモだよ、カモ!」
始末確定です。パラライズ・ミストで終わらせちゃってもいいんだけど、少しは恐怖を刻み込んであげないとね。
「最後にあなたたちの名前、教えてくれません。名前も知らない相手じゃいやですから」
「俺たちゃ『逸れ狼』っていうんだよ。やれっ!」
『逸れ狼』さんですか。群れから逸れたんなら大人しくしてればいいのにね。
戦端は奴らに切らせます。こっちから仕掛けたら正当防衛じゃなくなっちゃう可能性だってあるからね。盗賊は8人、リーダーみたいのが1人いるけど、残りはみんなチンピラ。戦闘力も大してないしただの雑魚だね。これなら『ブラック・ボア』の方がまだ強いかもね。
「おっ!護衛が出てきたと思ったらこいつら女じゃねぇか。こいつらも頂いちまおうぜ」
振り下ろしてきた剣を抜刀一閃、剣が飛び散ります。鉄のなまくら剣でオリハルコンの剣に挑むのですから、そりゃこうなりますって。
2人3人と武器を失い、形勢がまずいと思ったのかリーダーが撤退しようとしましたが、アーチャーの放った矢は盗賊の足を確実に射抜き、撤退さえできません。
「分かった。オメェらが強いのはよくわかった。見逃してやるからさっさと行けよ」
置かれた立場と口の利き方を知らないようです。ここはキッチリ教えてあげないといけないようです。
「この状況、理解できてます?誰も死んじゃいませんがあなたたちは全滅です。私の圧勝なんですよ。それなのになんであなたは上から目線なんですか。今命令できるのはあなたじゃなくて、この私です。分かりますね、あなたの首などコレですから」
あれま、今度はコイにでもなったんですか。口がパクパクしてますよ。
もう下っ端の連中には用はありません。作ったばかりの亜空間プリズンに入ってもらいましょう。転送。
「おいっ!あいつらをどこへやった」
「安心してください。殺してはいませんから。あなたが私のいう事を聞いてくれたら会わせてあげましょう。あなたたちのアジトに案内しなさい。案内しないとか時間稼ぎしようとするならあなたにも用はないんで死んでもらいますけど」
コイツも牢獄行きは決まっているんだけどね。良くて牢獄、悪くて死。盗賊の末路だね。
「わ、分かった。案内する」
「いい、私は人の心が読めるの。つまらないこと考えたらわかるんだからね。覚えときなさい」
案内始めたよ、アジトに向かって一直線に。こいつ案外小心者なんだね。
「こ、この先に、アジトがあります。俺が連れて来たってばれるとヤバいから、ここまでにしてください。お願いします」
ボコられて挙句その相手を連れて来るなんて、裏切り行為だからねぇ。仲間に見つかったら私刑確定みたいだし。まぁいいか、探索範囲に十分入っているからね。
「じゃぁ約束通り仲間に合わせてあげますよ。転送」
無事再会できたようです。良かったね。
「えー、『逸れ狼』の皆さん。私はあなたたちのお仲間に襲われたものです。慰謝料の請求に参りました」
「何だてめぇは。ここがどこだか分かってんのか。女だてらに英雄気取りかよ。そんなことしてちゃ命がいくつあったってたりゃしねぇぜ」
命知らずな連中ですね。もしかしたら自殺願望者かな。どっちでも構いませんけど。周囲を探索すると、アジトの中には12名、周りで警戒しているのが8名ですかね。捕らえられてると思わしき人が3人います。
警戒している人たちに帰ってきてもらいましょうか。ここで派手な魔法でもぶちかませばきっと戻ってきます、大急ぎで。
まずはウォーター・カッターで足の腱を狙います。ここにいる連中を戦闘不能にしちゃいましょ。それにしても精密射撃さんたら凄い事、回り込んでスパッですもの。
派手な魔法といえば爆発系の魔法です。アジトの前の広場にファイヤー・ボールを叩き込みます。大きな爆発音が響きます。見張りに出ていた連中は、おっ、一斉に帰ってきます。
「何事だ!」
「ボス!大丈夫ですか」
「ダメだ。逃…」
せっかく帰ってきたのですからまたすぐ出かけることもないでしょう。彼ら8人の腱もウォータ・カッターが切り裂いて差し上げました。
「あなたがボスね。私、あなたの部下に襲われたんですよ。幸い私にはけがはなかったんですが、先に手を出したのはそちらさんですし、慰謝料を頂こうと思ってやってきました。慰謝料いただきますよ、根こそぎ全部」
アジトにあった金や宝石、その他いろいろ一切合切をボスの前に積み上げます。一歩も動かないで空中からパラパラとアジトの中にあったお宝が降ってくるのですから、ボスは怯えてガタガタと震えています。
「これで全部みたいね。大した量じゃないけど、まぁ慰謝料として頂いていくわ。ねぇシャルル、奥に3人捕まっている人がいるみたいだから連れてきてくれない」
シャルルって誰かって?私の侍女として作った人形に付けた名前よ。ドレスの着付けとか手伝ってもらわなきゃいけないじゃない。そのための娘。シャルルが奥に行ってる間にボスとちょっとお話です。
「先ほども言った通り、このお宝は慰謝料として頂きます。そしてあなたたちは無謀にもこの私に喧嘩を売ってきた罰として私特製の牢獄に入ってもらいます。異論は認めません。後であなたたちによく効く傷薬を差し上げましょう。それを飲めば足の傷だけでなく全身の傷が治るでしょう。それでは牢獄へ行ってらっしゃい。転送」
亜空間プリズンに送った盗賊は全部で28人。全員に1本ずつ薬を配りました。私って優しい。天使みたいでしょ。
2本飲んだら命の保証はない。早く飲まないと傷口が腐る、腐ったら治らない。と脅したら、みんな一斉に飲んだね。これで傷は回復するはずです。
「皆さんは盗賊団に捕まっていたのですか」
シャルルが連れてきた3人は大きく頷きます。大人の女性と女の子、男の子の3人です。粗末なぼろきれを纏っていただけだったので、簡単な服を作ってあげました。
「あなたたちは解放されました。あなたたちは自由です。しかし私は先を急がなければなりません。あなたたちの面倒を見る余裕はありません。銀貨を50枚差し上げますので、これで近くの村にでも行って助けを求めてくださいね。その服は差し上げますから」
服と銀貨、それにパンとスープを出して私は立ち去ります。この国の人間じゃないからね。地理も疎いし、何せそこまで面倒を見る義理もない。私の国だったら国民なんで保護もしますけど。そこはそこ、割り切らないとね。
盗賊さんたち大した稼ぎにはなりませんでした。金貨100枚以上にはなってるんだけど。まぁ路銀もできたことだし、のんびりと帝都に向かうとしましょうか。
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