第60話 化け物→超人

「ミルランディア特別補佐、あなたに国王代理としてアズラート帝国の皇帝と面会をしてきてほしい。詳細については後ほど説明する。出発は2週間ぐらい先で頼む。準備をしておいてくれ」


えっ?へっ?

「あっ、はい。承知しました」

ヴォラント宰相ったらいきなりこんな話をするんだもん。ビックリしちゃうわ。


全体会議が終わった後、国王、ルーファイス王太子、ヴォラント宰相、ナジャフ国防大臣、ドルアンカ外務大臣、あと私が残りました。アズラート帝国訪問についてのお話でしょう。

「改めてミルランディア特別補佐殿、あなたにアズラート帝国訪問をお願いしたい」

「私がですか?私で務まるのでしょうか」

「はじめはどうかとも思ったが、いろいろと検討していくとミルランディア殿以上に適任な者はいないと分かったのだ。国王の親書をもって国王の代理が務まる者、自身の危機管理能力に優れた者。前者は別としても後者に置いてあなたより優れた者はこの国にはいません」

「でもこんな若い、と言うより見た目幼い私が皇帝と合ったとしても、帝国はヘンネルベリ王国のことをどう思うでしょうか」

「私どもはミルランディア殿が戦争がお嫌いであるということを承知しています。国王の親書は国境での争いを止め、交流を促進しようという向きのものです。平和を進める使者としてもミルランディア殿は訪問の趣旨に近いのです。国防大臣を派遣などしたら、纏まるものが纏まらなくなります」

「アズラート帝国はこの国に侵攻しようとしてるんですよね」

「グラハム辺境伯と東部方面軍で押さえてはいるがな」

「そんなところへ行って、捕まったらどうするんです」

「ミルランディアは自分が捕まるとでも思っているのか」

「いえ、私は捕まることはまずないと思ってますが、同行のものが捕まった場合私はどうしようもなくなりますが」

「そこで提案なのだが、ミルランディア殿、お一人で行ってきてはいただけないだろうか」

「何を言ってるんですか。国を代表する使節が一人だなんてことある訳ないでしょう。それに護衛はどうするんですか。確かに私一人なら帝都に行くことはできますが、今回はちゃんと馬車で行かなきゃいけないでしょ。そうすれば形だけでも護衛は必要じゃありませんか。それとも全部私の人形でいいのですか」

「それでもいいと思っている。人選はミルランディア殿にお任せしたい」

「分かりました。考えておきます。でもどうなっても知りませんよ」

「そこのところは王族公爵として頼むぞ」

「ルーファイス王太子様、お忘れですか?私が貴族としての教育を受けていないことを」

「パーティーでの振る舞いやファシールでの話を見聞きするところによれば、貴族としての振る舞いはもうしっかりできている。外の世界を知らないうちのバカ息子など比べものにならないくらいにな」

「親書だけ持っていくわけにはいかないですよね。何か贈答品も必要じゃないかと思いますが」

「この間作ってもらったオリハルコンのグラスと同じデザインのものをミスリルで2つ作ってくれないか。あとガラスのティーセット。カップとソーサーが5個に少し大きめのポット、あとミスリルのティースプーンも頼みたい」

「いいんですか、そんなので」

「いいんだ。お茶を嗜んだりお酒を楽しんでいると印象付けたい部分もある。我が国は平和なのだとな。帝国もそれに倣えとのメッセージだ。それにミルランディアならできるのであろう、全く同じ形のものを作ることが」

「それはできますよ。私、職人技で作るんじゃなくって錬金術使って作りますから」

「ミルランディアが作ったと知らない帝国がそれを見たらどう思う。ガラスでできた寸分違わぬカップ、加工が難しいとされるオリハルコンを全く同じ形に成形したグラス。更にそれと同じデザインのものをミスリルでも作ったとなると。我が国の技術力の高さを知ることになるだろう。優秀な武器にもなるミスリルやオリハルコンをグラスにできるほど所有しているというメッセージにもなるのだ」

「そういう事ならわかりました。なるべく早く作っておきますね」


うーむ、大変な仕事を任されたようだ。反目する敵の懐に飛び込んでいこうって言うのだからね。一緒に行くのが人形部隊だけでいいって言うのが気が楽ですね。まぁ平和的なお話をしに行くわけですから、帝国も何か事を起こすことはないと思いますからね。仕出かしたら国がなくなっちゃいますからね。ま一応警告はしますけど。


**********


「ミーア、アズラート帝国へ行くというのは誠か」

「はい。初めての大きなお仕事です」

「護衛はどこがするんだ。第一騎士団か、近衛か」

「第一騎士団も近衛も同行しません。私一人で行く予定です」

「なに、ミーア一人か。ダメじゃ、危険すぎる」

「一人といっても護衛に私の人形部隊を10人ほどつける予定です」

「たった10人か」

「第一騎士団の中隊は人形部隊5人相手でも勝てないこともあるんですよ、こっちが手を抜いていても。今回のはさらに強くしたものにする予定ですので、10人もいれば1個大隊ぐらいなら相手できますって」

「それでもこんなかわいいミーアをあんな危ないところに一人でやるなんて。リオの奴め何を考えておるんじゃ」

「一人っていうのは私が動きやすいようにっていう事なんでいいんです。それよりあんな危ないところってアズラート帝国って危険なところなんですか」

「ミーアも知っているだろう。帝国は我が国を侵略しようとしている。東部方面軍が睨みを利かせているからおとなしくしてはいるが、機を伺っているのは確かじゃ。そんなところにミーアが行って捕まりでもしたら」

「ふふふ、おじいさまも皆さんと同じ心配をするんですね。私が捕まると思います?どうやって私を捕まえるんですか。人の気配も敵意や殺意も分かります。毒が仕込まれていたって関係ありません。このあいだ自分を守る新しい技も習得しました。もし捕まったって抜け出ることも簡単です。そんな私を捕まえるって、おじいさまならどうします」

「うーむ」

「それに人質を取ることもできません。人質になる人がいませんから。だから一人で行くのです」

「そうか、そういう意味ではミーアは適任か。だがな、気を付けることに越したことはないぞ」

「おじいさまは帝国に行かれたことはありますか」

「大分昔に1度だけ言ったことがある。まだ国王になる前のことだ」

「帝国ってどんなところなんですか」

「小さな村や町はこの国より疲弊していた。だがな、帝都だけは別だ。帝都の発展が帝国を支える原動力となっているといってもいいぐらいだ。儂が行ったときにも機械というものを使っておった」

「機械って何です」

「動く道具みたいなものだ。魔力で動いていると思うんだが」

「そんなのが見られるんなら楽しみですね」


機械って言うのは気になりますね。ヘンネルベリ王国でも使えるようになったらいいな。


**********


「ミーア、準備の方はどうだ」

「手土産にするのはこのあいだのでいいですよね。もう少しで揃いますよ」

「何が残っているんだ」

「護衛の武器と防具はできています。残っているのは私を襲ってきた賊たちを皇帝への手土産にしようと思ってるので、そのための檻を用意しようと思ってます」

「あんまり派手にやるなよ」

「それじゃまるで私が悪いみたいじゃないですか。悪いのは私に襲い掛かってくるような命知らずな賊たちですから」

「まぁそうだな。ところでミーア、お前自分の魔法について調べてみたことがないって言ったけど」

「調べてませんよ。だって教会になんて行ったら大変なことになるに決まってるじゃないですか」

「それなんだが、王宮で調べることもできるんだ。調べてみてはどうだ」

「魔法を調べるって、何が分かるんです」

「適性属性に魔力量と魔力の回復量。そんなところだ」


へー、王宮でも調べられるんだ。魔法騎士団の所だろうけど教会じゃないところがいいね。話のネタに調べてもらおうかな。

「調べてみてもいいかな。魔法騎士団の所ですか」

「まぁそんなところだ」


「適性属性は水と空間と時間だと思うんですけど、魔力量ってどれくらいが普通なんですか」

「普通の人、まぁ訓練していない人という意味だが、それだと大体30~50。魔力量の訓練を積んだものだと大体100ぐらいにはなる。魔法騎士団に入ろうとするものは訓練を受ける前で大体150ぐらいの者たちだ」

「やっぱり魔法騎士団の人たちって凄いんですね」

「どんなに強い魔法が使えても、ジョブに適性があったとしても魔力がなければ魔法は使えない。入団後に訓練をして400~500ぐらいになる」

「私はどれぐらいだと思います」

「分からんな。普通の人よりは多いとは思うが」


連れてこられたのは魔法関連の本が集められた書庫です。奥の棚に水晶玉が置いてあります。

「あの水晶玉で調べることができる。さぁミーア、手を置いてごらん」

言われたとおりに手をかざすと、水晶玉が光り始めます。魔力が吸われたり吹き込まれたりするような不思議な感じもします。

結果が出たようです。魔力、回復量とも99999となって点滅しています。壊れちゃったかな?

ビックリしたのは適性属性です。大方の予想通り水、空間、時間はあったようです。

「ミーア、お前の属性これ一体なんだ。3つじゃないぞ。火もあるし土もあるぞ。基本の4属性の他に雷、氷にも反応がある。回復もあるようだ」

げげげっ、なんかやばいことになってます。サフィアの事言えなくなってしまったようです。

「なんだ?不明な適性もいくつかあるぞ」

不明って何ですか。まだわけわかんない魔法が使えるようになるって事ですか。スキルや技での【ミーア化物化計画】が一段落したと思ったら、こんなところに罠が仕掛けられていたんですね。スキルや技だけだってもう立派な化け物なんですよ。その上魔法までとは。神様作者は一体私をどうしたいのでしょうか。筋肉ダルマじゃなかったのがせめてもの救いです。神様作者フラグじゃないですよ。筋肉ダルマの美少女ミーアなんて見たくないでしょ。

「魔力量も正しく測れなかったようだ。この水晶は99999まで測れるのだがそれ以上なのだろう。別ので測りなおすこともできるがどうする」

「いいですよ、属性もいろいろあるってわかったし、魔力量も多いってわかっただけで十分です」

「ミーアは本当に訓練をしたことはないのか」

「ないですねぇ。なんとなく水魔法が使えるようになって、毒攻撃との相性が良かったんで使ってたぐらいですし。空間魔法と時間魔法はいつも使ってますけどね」

「いつも使っているというのが訓練になってるのかもしれんな」

「ルイスおじさん、このことは…」

「分かっている。二人だけの秘密だ」

二人だけの秘密、いいですね。おじさんとじゃなくって素敵な人と秘密を共有できる日が早く来てほしいです。


「これからどうする」

「せっかくですからいろんな魔法がどれぐらい使えるのか調べてみたいと思います。私の持ち物は一通り揃えてマジックバックに入れてありますので大丈夫です。道中の食事は私も作れますけどうちの料理長にお願いしてあるので大丈夫です。あとは路銀ですね。帝国のお金は持ってませんから」

「大きな店では王国の金貨も使えるが、聖金貨を使うのが普通だ」

「聖金貨って?」

「聖金貨って言うのはな、国同士の約束で『その国の金貨100枚と交換できる金貨』なのだ。どの国も金貨1枚の価値は同じなんだが、一応そういう決まりになっている」

「じゃぁ聖金貨をどこかで帝国の金貨と交換してもらえばいいって事ですね」

「砦で交換してもらえるぞ」

「じゃぁそれを何枚か持っていきます」

「道中の宿はどうするつもりだ」

「馬車の中で寝泊まりしようかと思っています。50倍スローをかけて10分寝れば8時間寝たことになりますから。10分程度なら馬車の中でも寝られますから」

「馬は休ませないのか」

「馬も人形ですよ。しかも普通の馬より何倍も力が強くそして速い馬です。人形の馬なら餌も水も休息もいりません。しかも御者はいるだけ、馬自身で進んでいくから便利ですよ」

「そこまでやるか」

「馬車も新しく作りました。外からはヘンネルベリ王国のものだということが分かるようにしました。少し大型の馬車で、中にはベッドも用意してあります。でこぼこ道でもほとんど揺れないように作るのに苦労しました。護衛用の馬車2台は今使ってる感じの馬車です」

「そこまで準備が整っているのなら問題ないな。出発はいつになる」

「来週になります」



==========

ついに化け物の殻を破ってしまったミーアちゃん。彼女の運命はこのあと一体……

次回いよいよ新展開のスタートです。前話でもそんなこと言ってなかったかって?

まぁね、いいの。予定は予定だから。



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