第57話 叙爵とサプライズ

「明日はいよいよリオンハイム王太子が即位する日なんだよなぁ。はぁ式典かぁ。朝早いからこっちに泊まってるけど、向こうの方がゆっくりできるんだよなぁ。特にあの外のお風呂。開放感が何とも言えないのよねぇ。じゃない、早く休まないと明日は大変なんだから」


**********


「今この国は大きく揺れている。あってはならないことも起きた。この国を再び一つにまとめるために、私アルベルトは国王の座を王太子リオンハイムに譲ることにした。改めて諸君らの力を結集し、新国王と我がヘンネルベリ王国の繁栄に力を貸してくれ。今ここにリオンハイム新国王の即位を宣言する」

「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉ」」」」」

「おいっ、新国王様がお話を始めるぞ」

「えー諸君、私がヘンネルベリ王国の新しい国王に即位したリオンハイムだ。先代のアルベルト大公、さらにはクリストフ大公のお力で、この国は帝国の侵略を押さえ平和の道を歩んできた。私も先代に倣いこの国の平和と更なる発展を目指す。諸君らも私と共に明るい未来を目指そうではないか。この国の未来に諸君らの力を貸してくれ」

リオおじさんさすがだね。もうちゃんと国王だよ。

「慣例により王太子を指名する。王太子はルーファイス・ヘンネルベリとする」

ルイスおじさんが王太子になりましたよ。って事は次期国王陛下って事ですね。

「次に政務全般を執り行う宰相を発表する。ダグレン・ヴォラント公爵、よろしく頼む」

「はっ!」

「ザグルフ・サミラージュ公爵も長い間ご苦労であった。ゆっくりするといい、と言いたいところだが、ヴォラント宰相の補佐をお願いしたい」

「承知いたしました」


「続けて叙爵式を行う。先だっての事件については諸君らも耳にしていることであろう。その事件の解決に尽力し、被害者のための施設開発を完成させたミルランディア・ヘンネルベリ、前へ」

「はいっ!」

いよいよ私のイベントです。大丈夫、ジャスティンとあれだけ練習したんだから。前に出て、っていうか私王族だから国王様の後ろに並んでるのよね。だから邪魔にならないところから前に降りて、片膝をついて頭を下げました。

「ミルランディア・ヘンネルベリに公爵の爵位を授けるものとする」

「謹んでお受けいたします、国王陛下」

「ミルランディア、これからもこの国の事、よろしく頼むぞ」

「はいっ!」

これだけなんだけどね。勲章は後で渡されるんだって。


「次に……………」

あきちゃいそう。だって長いんだもん。あれだけの貴族を降爵処分にしたもんだから陞爵される人もそれなりにはいるんですよ。

こればっかりは国王が一人ひとりやるしかないからねぇ。私を含めて叙爵、陞爵された人結構いました。お祝いだからね。

お祝いというと恩赦もありました。あの3人はというと、カッチェは満了、ローデは半年の短縮、ディートは1年の短縮だそうです。あと驚いたのはサウムハルト家とミルデュース家の奪爵処分が取り消され、サウムハルト家は領地なしの子爵家、ミルデュース家は領地なしの男爵家となるそうです。元当主の処刑は済んでるからね。


ホントこういう式典って長ったらしくって嫌になっちゃう。ずっと座ってるだけだけど。


新しい宰相が大臣の名前を発表し始めたよ。これが終われば一応終わりだね。

ルイスおじさんは国王補佐で、国王代理も兼ねるんだ。グランおじさんは騎士団総長か。王都に戻ってくるんだね。軍務大臣と外務大臣は変わらないんだね。引き続き大臣をする人もいるんだ。

「…最後に国王特別補佐、ミルランディア・ヘンネルベリ公爵。公爵には国王代理も兼ねてもらう」

へっ?私?なんで?

「ミーア、返事っ!」

「あっ、はいっ!」

「以上の大臣でこの国の舵取りを行う。各部局に配属されるものは追って発表するので、各自確認しておくように。大臣に任命されたものはこの後会議を行うので、大臣会議室に集まるように。以上」



こんなサプライズ要りませんって。なんです?国王特別補佐って。その上国王代理まで付いてきましたよ。まぁ王族だからねしょうがないか。でもどう考えても浮くよね。そらに浮かぶ白い雲のように浮きまくってるよ。私一人20の小娘だよ。おじさんの中にただ一人。出会いがどんどん遠ざかっていくわ。

「みんな集まったな。ここにいるものがこの国の中心だ。心して励むように。ミルランディア、驚いただろう」

「ビックリしましたよ。いきなりなんですもの。ここにいらっしゃる方って、ご自身が大臣になるっていう事を知ってたんですか?」

「ええ」

「はい」

「知ってました」

「って事は私だけ?知らされなかったのは」

「苦労したんだぞ。ミルランディアに隠し事はできんからな。ハハハ」

そんなとこ苦労しないでいいです。

「それぞれの部局の人事、早急に纏めよ。1週間後に発表があるので、期限は3日後。その後調整を行う。いいな」

「「「「「はいっ!」」」」」

「国王様、私は何をすれば……」

「ミルランディアは差し当たって何もすることはないぞ。後でリオンハイム、ダグレンと共に話をしよう」


「これで会議を終了とする。ルーファイス、グランフェイム、ミルランディア少し残ってくれ」

何でしょう。大臣になった王族だけが残されました。

「ルイス、ミーアの事よろしく頼む。こういう世界は初めてだろうからな。グランもな」

「あのぉ、私って場違いじゃありません?」

「そんなことはないぞ。ミーアの実力を買って私が決めたことだ。それに大臣にでもなればつまらん派閥争いに巻き込まれることも少なくなるからな」

「それから、俺たちだけの時は畏まった呼び方なんてしなくていいぞ。今まで通りでいいからな」


「グランおじさんって騎士団総長でしょ。騎士団って軍の中核ですよね。ナジャフさんと近いって事?」

「何かあった時に軍の指揮を執るのは俺たち騎士団だ。軍務卿は兵隊を集めたり兵站を確保したりといった裏方の仕事だな。でも安心していいぞ。ミーアが戦争に力を使いたくないっていうのは知ってるし、俺もミーアに手伝ってもらおうなんて思っちゃいねぇからな」

「何はともあれ、みんなでやってこうな」

「俺の息子たちもミーアぐらい、いやミーアの半分、それでも贅沢か、10分の1ぐらいしっかりしててくれたらなぁ」

「うちもだぜ。全くアイツらと来たら遊んでばっかいやがって」

「みんな似たようなものなんだな。エヴァンジェリンだけが特別だったのか」


「そういえばミーアはいくつになったんだ」

「私ですか?20になりました」

「もうそんななのか。結婚はしないのか」

「結婚ですか?考えたこともありませんよ。王都に来て1年半ですよ。それまで冒険者やってたし、半年近く事件に関わってたし、さらに半年はファシールを開発してたし。そもそも出会いがないのにどうやって相手を探すんです。おじいさまは私を嫁には出さないって言ってますし」

「俺たちもミーアを嫁に出す気は全くない。そもそも王族公爵家当主を嫁にするなどできるはずがなかろう。だから婿を取るということになるんだがミーアにその気はないのか」

「うーん、そもそもうちの屋敷が女性ばかりですからね。本邸にいる男の人ってジャスティンしかいませんから」

「まさかソッチに目覚めたって事は……」

「ありませんって。狙われているかもしれませんけど。最近メイドの子たちの目も妖しくなってるからなぁ」


「そういえばそうだ。ミーア、お前貴族街に越してくる気はないのか」

「ありませんって。あんな立派なお屋敷建てておいて、今更貴族街になんて住めないでしょ」

「ミーアのとこまでが遠いんだよな」

「呼んでくれればすぐ来ますって。なんなら、私の部屋に連絡用のお人形を置いておいてもいいですよ」

「そうしてくれると助かるな。これからはルイスも王宮から離れられなくなるからな」

「リオおじさんがいればルイスおじさんはいなくても大丈夫じゃないの」

「ルイスには国王の仕事も覚えてもらわないとならないからな」


「よかったぜ。俺なんかこんなとこに押し込められてたら腐っちまうぜ」

「グラン、お前の執務室も城の中だぞ」

「練兵場があったな。そこにいるとするか」

「総長の席はそこじゃない。そこは団長で十分だ。諦めて執務室で仕事しろ」

「体が鈍っちまったらどうすんだよ」

「その時は私がお相手しますよ。今までも騎士団の訓練のお手伝いしてましたから。グランおじさんだったら遠慮なく行けるかな」

「ミーアの遠慮なしは止めてくれ。あの特別な術には手も足も出ないからな」

「私じゃありませんよ。いろんなタイプのお人形さんが相手です。今だと前衛4体と魔法使い兼指示役の5人で1個中隊と模擬戦やって五分ですね」

「そんなか」

「派手ですよ。うちは殺したり大怪我させないように手加減してますけど、騎士団の方は相手が人形ですからね。本気で殺しに来てますよ。私もだいぶ前衛の戦い方覚えましたから、囲まれて倒されることも減ってきたし。魔法もバンバン飛び交いますよ」

「第一騎士団はそんな訓練をしてるのか」

「まぁそこら辺は上手くやってくださいよ。お手伝いはしますから」


「話がそれてしまったがミーアの相手だ。したくない訳じゃないのだろ」

「そりゃしたくない訳ないじゃないですか、私だって年頃の女なんですから。結婚して幸せな生活を送ってる人たちをたくさん見てきましたから、ああいうのに憧れはありますよ。でも貴族の結婚は嫌ですねぇ。裏しかなくって」

「そう言われてしまうと元も子もないな。確かに貴族の結婚なんて形だけだしな。でもお前も貴族なんだぞ」

「そうなんですよね。女にして当主、しかも王族。誰も近づいてきませんって」

「でもミーアに見合うって大変だよな。それなりの立場じゃなきゃいけないわけだし、それでいて当主や継承権のある者はダメで、歳が離れすぎていてもダメ。ミーアを守ってやれるぐらいの力があって、俺たちの目に叶う者か」

「ねぇ伯父様たち、そんな人いるんですか?」

「いないな」


「まぁそんなに急がなくても。どこかから白馬に乗った王子様が現れるかもしれないし」

「何言ってんだ。ミーア、お前だって王女なんだぞ」

「私って『姫』じゃなかったの?」

「王族公爵には国王の継承権があるんだ。序列の1位がルイスで2位がグラン、3位がミーアだ」

「それってジャスティンは知ってるの?」

「貴族の制度を勉強した者なら知ってるはずだ。ジャスティンは王族に仕える執事だろ。知らない訳ないと思うが」

「お前も少し勉強するか?いい家庭教師紹介するぞ」

「家庭教師はいいです。本があったら貸してください」


「ミーアは俺たちの家族なんだから、何かあったらちゃんと言うんだぞ」

家族ですか。そう言えば私にはあまり縁のない言葉でしたね。お母さんとお父さんがいた時は家族だったけど、その後は家族なんて呼べるもんじゃなかったし、ベルンハルドに出てきてからは仲間だったしね。でもいい響だね、家族って。



「リオおじさん、この後は?」

「公式な行事は今日はもうないが、夕方から今の大臣と前の大臣を呼んでパーティーが開かれる。みんないいな」

「準備しておきます」

「明日は上級貴族との晩餐会。明後日は下級貴族との晩餐会だ。晩餐会の後パーティーの流れになる。1日置いて商会主や有力者といった市井の者とのパーティーになる。ミーアの所はいつになるんだ」

「うちは王宮でのパーティーがない明々後日になるはずです」


「ところでチョットお願いがあるんだが、魚を融通してはもらえないだろうか」

「今からですか?」

「うちの料理長が思っていたものが入らなくなってしまってな、困ってるらしいんだ」

「うちの料理長とも相談しなきゃいけないですけど、その料理長さんを呼んできて、私の部屋で待っててください。向こうで相談しましょう。馬車も廻しておいてくださいね、お魚持って帰ってくるんでしょ」

大慌てで屋敷に戻ってフュールと相談です。フュールにはパーティーで使う魚とそうでない魚を分けておくように言っておきます。あと王宮の料理長が来ることも。

「じゃぁ時間がないのでチャッチャと行きますよ。付いてきてくださいね」

私の部屋には壁に扉が付いています。当たり前じゃないかって?そうじゃなくって、普通に扉を開けてもそこにあるのはただの壁なんですよ。ただ私が魔力を注ぐとワープゲートになる不思議な扉なんですけどね。私の部屋の執務室に繋いでお屋敷に移動です。

「料理長様、こちらがうちの料理長のフュールです。うちもパーティーが近いので、なんでもという訳にはいかないと思いますけど、フュールと相談してください」

「ありがとうございます。ここはとても寒いようなのですが」

「ここはお肉や魚を保存する冷凍の倉庫です。凍らせてしまえば悪くならないので、肉や魚はここで保存しています」

「国王様、王宮にも作っていただけませんか」

「その話は後だ。先にやることを済ませんか」

料理長さんビックリしてたよ。干物でもない、塩漬けでもない魚が大量にあったんだから。

フュールと話して決まったみたい。

「それだけでいいんですか?まだありますよ。この魚なんて身を潰してから料理するととってもおいしいですよ」

「これだけで十分です。いかほどでしょうか」

いかほどって、烏賊じゃないよ、選んだのみんな魚じゃん、って話じゃないよね。これなら向こうで買うと銀貨15枚ぐらいか。あっそれ私価格ったね。普通が倍だとすると銀貨30枚ってところかな。チョット色付けちゃおうかな。やっぱ止めとこっと。

「んー、銀貨30枚ぐらいかな」

「えっ?それだけですか?」

「向こうで普通の人が買うとそんなもんかな。私には私価格って言うのがあって、みんなサービスしてくれるんだけど。ここのある魚全部買っても金貨3枚ぐらいだと思うから。それに特別高い魚でもないし」

「でもこれ生の魚ですよね、しかも海の」

「そうだけど…ねぇジャスティン、どうしたらいいかな」

「料理長さんに決めてもらえばいいじゃないですか。こちらの価格はお伝えしたのですから」

「そうね。じゃぁお任せするわ」


結局金貨1枚を置いていきました。丸儲けじゃん。王宮に行商にでも行こうかしら。

「ミーア、助かったよ。ありがとうな。今晩のパーティー忘れるんじゃないぞ」



ビックリ満載の1日が過ぎていきます。まだ過ぎてない。これから一仕事待ってるんだっけ。



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