第56話 またパーティー?
「ジャスティン、私今度の式典の中で侯爵に叙爵されるんだって」
「姫様、それはおめでとうございます」
「ってかジャスティン、知ってたわよね」
「はい、ルーファイス様よりお話は伺っております」
「どうして教えてくれなかったの」(知ってたけど)
「こういう事は直接お聞きになった方がいいと思いましたので」
「ふーん、そうなんだ。後で所作とか教えてね」
「承知いたしました。ところでパーティーの準備はどのようにいたしましょう」
「えっ?パーティー?」
「そうですよ。叙爵されるんですよね。ならパーティーもセットです」
「そんなの知らないし聞いてないよ」
「今お伝えしましたけど」
「だってこのあいだ開いたばっかじゃん」
「あの時は王族となったもので、今回の叙爵とは別です。幸いなことに主だった貴族は王都に集まっています。招待状もすぐに出せるかと」
「もういい、ジャスティンに任せるわ。段取り決まったら教えて」
「分かりました。早速料理の打ち合わせをしたいと思いますので厨房までよろしいでしょうか」
最近ジャスティンの人使いが荒くなったわよね。何かあったのかしら。
「姫様聞きましたよ。またパーティーを開くんですってね。腕がなります」
ソッチかい。パーティーの方が嬉しいんか。
「えぇ、それでまたお料理の相談なんだけど、お任せしていい?」
「はい。執事長様と相談の上進めさせていただきます。でお願いがあるのですが、魚とお酒の方を……」
「ジャスティン、どれぐらい用意できる?」
「いくらあっても構いませんよ、ウチの倉庫なら。といっても限度があるでしょうから5枚ぐらいでしょうか」
金貨5枚って、出入りの商会から買うんじゃないんですよ。一般の市民も使う市場で仕入れるんです。市場ごと買ってこいと言うつもりでしょうか。
「じゃぁチョット行ってくるね。ニールとクロラント。今日中には帰ってくるから」
そうと決まればニールへGOです。魚は鮮度が命ですからねぇ。早いにこしたことありません。
「おじさん、お魚まだある?」
もうすっかり顔なじみですね。そりゃそうですよ、毎回あんな買い方してりゃ。
「おぅ嬢ちゃんか。そこにあるだけだけど全部持ってっていいからな」
「じゃぁみんな貰うね。いくら?」
「そうだな、嬢ちゃんだから銀貨20枚でいいや」
おいおい、銀貨20枚って結構な量がありますよ。ほんとにいいんですか。損しませんよね。
「いいの?損しない?」
「いいっていいって。損はしねぇから大丈夫だ。それに俺たちはみんな嬢ちゃんに救われたからな。嬢ちゃんから儲けようなんて誰も思っちゃねぇよ」
やっぱいい人たちですね。クラーケンの一件なんてもうずいぶん前の話なのに。
そんなやり取りを他でも何度か繰り返して魚をたくさん買い込みました。
次はお酒の仕入れです。ここで帰るお酒は種類が多いし、味もいろんなのがあります。どうしてニールにはお酒が多いのかって聞いたら、外国のお酒が多いんだって。なるほどねぇ。ここでもサービスしてくれたよ。こっちもクラーケン騒動だってさ。クラーケンが居座ってた時は外国の船が入ってこれなかったから散々だったんだって。ついでだから外国産の香辛料や調味料も買い込んじゃった。
ついでだ、ギルドに顔でも出しておくか。何しに行くのかって?いや、またクラーケンが出たら王都のギルドにも連絡入れてくれって。そしたらまた退治するからって。そう伝えようとギルドに入ったんだけど、入って第一声が『クラーケンのお嬢ちゃん』って何よ。そんな二つ名いらないわよ。そもままUターンしようと思ったけど、まぁ伝えることは伝えましたよ。
クロラントに寄ってお酒を追加で買ったんだけど、こっちは高いね。種類もあんまりないし。
まぁいいか。結構な量の魚と酒を仕入れたから。そろそろ帰りましょうかね。
「帰ったわよ」
「おかえりなさいませ。早かったですね」
「盗賊団と遊んできてもよかったの」
「そういう意味ではありません。フュールを呼んできますので先に倉庫へお願いします」
「出しとくから、早くしてね」
お酒の量がすごいです。何樽あったのでしょうかとにかく出て来るわ出て来るわ。これだけあれば暫くもつでしょ。
「もう戻られたのですか。姫様の不思議な術にはいつも驚かされます」
「それなりにあると思うからお料理の方は任せるわよ。あと、手伝いの料理人は頼めないと思うから、ここにいる人たちで何とかしてね」
「料理人を頼めないというのは」
「うん、新国王の即位記念の晩餐会やらパーティーやらが1週間ぐらい続くんだって。だから料理人は王宮に集められちゃうんだ」
「大丈夫です。私たちとここの設備があれば問題ありません」
「お酒は隣に出しておいたから。後で確認しといてね。あとこれ、外国の調味料と香辛料だって。使っても使わなくてもいいや」
「ねぇマリアンナ、ドレスってまた新調するの?」
「姫様は前のドレスをアレンジしますよね。今回もそれでいいと思いますよ。あまり時間もない事ですし」
「じゃぁチャッチャと決めちゃいましょ。メイドの人みんな呼んでくれる。あとエレンも」
着せ替え人形ファッションショーの始まりです。便利ですよ。私のコピー人形を作ってそれにドレス着せればいいんですから。動けないと不便なんで操作しますけどね。うわぁー気持ち悪い。だって私が何人もいるんですよ。それがみんな違うドレスを着てずらっと並んでる。
メイドの子たちなんて、あっちがいいだのこっちがいいだのとキャーキャー言ってるし。中には目をトロンとさせて「1つ持って帰っていいですか」なんて言い出す子までいる。絶対ダメだからね。いつの間にやら執事さんたちもみんな集まってきちゃったわよ。ほらっそこの君、抱き付こうとするんじゃないの。それはただの人形だから。本物ならいいのかって?うーん、いいって言いたいけど、ダメだよね。
最初は白の普通のドレスに公爵の勲章を付けて宝剣を持ちます。次に黄色のドレスをアレンジしたものに変えて、最後は赤のドレスをアレンジしたものになりました。
黄色のドレスはもとは一色だったのを緑色を加えてさわやかな感じにします。片方の肩を出すとか裾を大胆にカットするとか。アレンジの枠を超えてますね、完全に新作ですよこれ。
赤のドレスもそうですよ。両肩を出して赤のロンググローブにしたり背中も大きく開けて裾も斜めにカット。原形なんてほとんど残ってないじゃん。こっちも新作って言っても大丈夫だよね。
でもこんなに大胆にカットしたら見えちゃうでしょ、って見えないや。アレンジしたドレスに着替えさせた人形をくるくる回したりひらひらさせたりしてみたけど全然大丈夫。まぁこれでパーティーのドレスは決まった。
「そういえば王宮のパーティーのドレスも決めとかなきゃいけないよね。何回ぐらいあるのかなぁ」
「3~4回だと思いますよ。晩餐会は正装ですからいいとして、向こうでもパーティーでは途中で着替えることはしませんからこの白と水色のとピンクの、これでいいと思いますわ」
ドレス選びって結構大変なのよ。私はチョイチョイってアレンジできちゃうからいいけど、それが出来ないご婦人方や令嬢たちはお金かかるよねぇ。
あれだけ作った人形はどうしたかって?そりゃみんな消しちゃいましたよ。みんなとっても残念そうな顔してるんだけどダメですよこれだけは。ところでマリアンナさん、あなたの目、あれはよくありませんねぇ。だんだんエレンに近づいてませんか。
「パーティーの準備はこれでいいかな。連絡と手はずはジャスティンに頼んだし、ドレスは決まった。料理はフュールに頼んであると」
「姫様、お土産はどういたします」
「そうか、お土産の事すっかり忘れてたよ。何がいいと思う。このあいだはティーセットだったよね」
「どんなものがいいでしょうか」
「おじいさまに聞いてくるね」
「おじいさま。私の叙爵に合わせてパーティーって開くもんですか」
「そりゃそうじゃ。貴族の社会ではおめでたいことがあればパーティーを開くのは当たり前じゃ」
「やっぱりそうなんですね。はぁ、準備始めといてよかった。ところでお土産って要りますよね」
「そうじゃな。必要になるな。国王のパーティーでもお土産はあるからの」
「国王のパーティーのお土産って何ですか?似たようなものにならないようにしないといけませんから」
「確か酒といってたかな」
「お酒ですかぁ」
「ミーアは何にするつもりなのじゃ」
「決まんなくって。どうしよう」
「この間のティーセットはなかなかの評判だったぞ。ミーアはああいうのができるのだから今回もそうしてみたらどうじゃ」
「ガラスは面倒なんだよな。ミスリルはまだたくさんあるからそれでグラスでも作ろうかな」
「
「止めた方がいいですか?」
「構わんじゃろ。ルイスにも聞いておけ」
「はーい」
ルイスおじさんに相談したら苦笑いしてたけどいいよって言ってくれました。その代わりに国王用にも何か作ってくれってお願いされちゃいましたけどね。何を作るか、オリハルコンのグラスでいいか。
次の日私のお土産と国王のお土産を持ってルイスおじさんの所に行きました。確認のためですね。全部作った後での作り直しは嫌ですから。紋章の位置や飾りなどいくつか直すところがありましたが、OKが出たので量産開始です。何と国王様の注文が500個。後でしっかりお金貰わないと割に合いませんって。私のも同じぐらい作っとこっかな。
この前はあんなに時間かかったのに、錬金術がスキルになったら早い事早い事。私のが1日、国王のが1日、箱が1日。箱が一番大変だったのは内緒ね。だって木がないんだもん。まさか庭の木を切る訳にはいかないでしょ。森に木を採りに行って帰ってきて加工ですよ。大変とは言っても魔法でチョイですけどね。最近魔法使って移動ばっかりしてるから、確実に運動不足ですね。
500個纏めてルイスおじさんのところに持ってた時にはびっくりしてたって言うか呆れてましたね。あの固くて加工が難しいと言われているオリハルコンをグラスの形にして紋章を入れて飾りまで入れたものを500個。しかも全く同じ。どんな優れた職人だってできないってさ。いやこれ職人技じゃないから。ただの錬金術だし。創造術も使ってるのかもしれないけどね。もしそうだとしたらマネできないかもね。
リオ伯父様も喜んでくれてよかったです。これがなかったらミーアに完全に負けてたなんて言い出すぐらいですから。別に勝負した訳じゃないんですけど。
ルイスおじさんに耳打ちしましたよ、オリハルコン40キロ使ったって。暫く考えてたけど後で相談したいって。まいっか、貸しにしといてあげよっかな。でもちょっと待って、貸しはいっぱいあるけど返してもらえる見込みってないよね。
これで一応パーティーの準備は終わりっ。っていうか暫くパーティーはゴメンです。
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