第55話 ラルリア
ラルリアに向けて出発です。
「こっからラルリアまでってどれぐらい?」
「この馬車なら1日かからないと思いますけど」
「早く着きたい?それとものんびり馬車の旅でも楽しむ?」
「できれば早く帰りたいなぁ。お母様の顔見たいし」
「じゃぁ今日も道中省略ね」
早いなぁ。トルスコ出て2時間かかってないよ、ラルリアまで。
「お母様、お父様、ただいま」
「あぁ、サフィアお嬢様。おかえりなさいませ」
「お父様とお母様は?」
「お二階にいらっしゃいます」
「ミルランディア様、こちらです」
あーあ、サフィアったらよっぽど嬉しかったのね。飛んで行っちゃったよ。それもそうか、12歳で実家を離れて5年ぐらい会ってないんだもんね。
「サフィア?サフィアじゃない、どうしたの?」
「お母様、お久しぶりです。お変わりないようで。今日はミルランディア様のお供で帰ってきました」
「お久しぶりですドルア伯爵、初めまして伯爵夫人。ミルランディア・ヘンネルベリです」
「姫様、ようこそおいでいただきました。何か御用でしょうか。サフィアが何か仕出かしたとか」
「いえいえ、サフィアには私も随分と助けてもらってます。サフィアにはずっとそばにいてほしいぐらいですよ。そう言えばサフィアのご両親に挨拶もしていなかったなと思いまして、今日こうして来たという訳です」
「それはご丁寧にありがとうございます。そう言っていただけると私たちも安心です。サフィア、これからもしっかりとお仕えするのですよ」
「分かっています。姫様はとてもお優しいですし、お屋敷でもマリアンナ様、エレン様とも仲良くさせていただいています」
へ―そうなんだ。もうあの3人デキちゃったのね。ってかマリアンナ、堕ちたのね。
「ところで姫様、姫様はこんなところにいて大丈夫なんですか?私は今日にでも王都に向けて出発しなければと思っているのですが」
「アルベルト国王のことですか?私も承知しています。参列しなければなりませんから」
「お父様、心配いりませんよ。私たちだって王都のお屋敷を出たのは一昨日ですよ。姫様の用事があったんでトルスコに1泊したけど、そこからだって2時間かかってないんだから」
「私はあまり使われていない魔法を使いますので、王都へはすぐに戻れます」
「ねぇ姫様、お父様と一緒に王都へ戻ってもいいわよね」
「構いませんよ、伯爵がいいと言われれば」
「よろしいのでしょうか。お邪魔でなければ」
「構いません、長い旅ではありませんから。出発は三日後にしましょう。サフィアはそれまでの間いっぱい甘えてらっしゃい」
「姫様、ホントの所サフィアはどうなんでしょうか」
「ホントに助かってます。行儀見習いから帰って来いって言われるのが怖いぐらいに」
「あの子のことはご存ですか?」
「ジョブとスキルのことは聞きました」
「魔導士で7つの適性を持つスペルマスター。男子だったらこれほど心強いものはありません。学校で魔法の勉強もさせましたが所詮は女子、どんなに力があっても発揮できる場面などまずありません。貴族の女子などただの政略のコマでしかありませんから、いいところへ嫁いでくれればと思い行儀見習いに出したのです」
「貴族の女子って、私もそうなんですけど」
「姫様申し訳ない。私もあの子がかわいくてね。4人兄弟の末っ子。姉2人はもう嫁いでしまっていますので、今いるのは息子とサフィアの2人なんです」
「息子さんがいらっしゃるならラルリアも安泰じゃないですか」
「そうでもないんですよ。息子は学はあるのですが武の方はからっきしで。このラルリアは北の地、冬はかなり厳しい生活になります。餓えた魔物も出てきますし人の心も荒みます。時には力で押さえつけることも必要なのです。ただ息子にはそれが出来ない。自分のことも守れない奴に当主は務まりません」
「それじゃあサフィアに婿でも取らすおつもりですか。同じ伯爵家でも家を継ぐことのできない4男5男ともなれば迎えることもできるでしょうし」
「正直それも考えました。それを含めての行儀見習いでした。でも今回帰ってきたサフィアを見て変わりました。サフィアは自由にさせてやろうと。息子には婚約者もいますし、妾でもいいからという人もいます。私もまだまだ隠居する歳でもありませんし、何とかしますよ」
「先だっての事件のことご存知です?」
「サウムハルト侯爵の事件ですか。ええ少しは」
「その事件で捕まった人の中に、侯爵に騙されたような人がいるんです。何も知らされずに商隊の護衛について、その商隊に被害にあった女性がいたため関係者として罰せられたと」
「それじゃぁその人は加害側ではなく被害者じゃないですか」
「そうなんですが、女性たちを品物として運ぶのを手伝ったという事実は曲がりませんからね。罰するしかなかったようです。護衛をやってたぐらいですから元は冒険者です。今は勤労刑を科せられていますが、あと1年半ぐらいでそれも終わります。一度会ってもらえないでしょうか」
「姫様がそこまで気にかけてるということはお知合いですか?」
「まぁ昔いたパーティーのメンバーって言うかリーダーです。私はそのパーティーから追い出されたんですけどね」
「分かりました、会ってみましょう。会って本人と話をして、力を見てからです」
「ありがとう伯爵。彼の名前はローデヴェイク、今はランドルの町で勤労刑についています」
サフィアはお母さんに甘えてたなぁ。私もお母さんがいたらあんなに甘えるのかなぁ。
あんなにデレデレのサフィアを見たのは初めてです。
サフィアのお兄さんにも会いましたよ。とても賢そうな人でした。話し始めたら止まらなくなるぐらい。ほら、私も力はないけど…おいっ誰だっ!学もないなんて言った奴は。ちょっとこっちへ来なさい、お姉さんが優しくシバいてあげるから。
確かにあれはノッてくると止まらないタイプだね。私もそうっぽいからなんとなくわかる。力も私と同じぐらいかもしれない。私の全力じゃないよ。魔法とスキル全開で戦ったら、国軍が壊滅しちゃうからね。
「サフィア、帰るわよ」
「お母様も一緒に行きましょうよ。お父様と一緒に戻ればいいじゃないですか」
「ダメよサフィア、あなたにはお仕事があるのでしょう。戻ったらまたしっかりとお仕えしなきゃ」
「サフィア、またすぐに来られるんだから。早くしないと置いてくわよ。歩いて帰ってくるの」
「待ってください姫様」
サフィアの夢のような3日間はあっという間に過ぎて行ったようだ。今日は王都に戻る日。ぶっちゃけそろそろ戻らないと準備がいろいろあるからねぇ。
「伯爵、準備はよろしいですか」
「できているぞ。こんなにいて大丈夫か」
「問題ありませんよ。それでは王都へ行きましょう。いろいろとお世話になりました。ワープ!」
私の屋敷に直接行こうとも思ったけど、やっぱちゃんと正門から入った方がいいからね、正門近くの人目のない所にゲートを繋ぎました。
「さぁ王都へ着きましたよ」
「着いたって、えっ!あっ!わっ!」
驚き過ぎでしょ。ワープでこんなリアクション初めてです。浮遊使ったらどうなるんでしょうか。
「さぁ行きましょう。私はまっすぐ戻るけどサフィアはどうするの」
「王都の家に行ってから戻ります」
「明日からはいつのも生活よ」
ジャスティンにも戻ったこと伝えたし、マリアンヌにもサフィアのこと伝えた。エレン蕩けてたなぁ、マリアンヌと何があったんだろう。
戻ったら王宮に顔を出すようにって言われたな。ルイスおじさんかな。チョット行ってこなきゃ。
急ぎじゃない時はちゃんと馬車で行きますよ。立派な馬もいるし厩務の方たちのお仕事もあるからね。
「ルーファイス伯父様。ミルランディアです」
「戻ったか。入りなさい」
「何のご用件でしょうか」
「アルベルト国王のことは知ってるな」
「はい。譲位されてリオンハイム伯父様が国王に即位されると」
「そうだ、その一連の式典にミーアにも出てもらう。分かってるな」
「承知してます」
「その中でミーアが公爵に叙爵されることになった」
「王族から貴族になるのですか?」
「そうではない。王族公爵となるのだ。私もリオもグランもみな王族公爵だ。女性でなるのは初めてかもしれないがな。そもそも女性貴族自体ほとんどいないからな。所作はジャスティンに聞いておきなさい」
「分かりました。式典の時のドレスは?」
「お披露目の時のものになる。あれが正装だからな。一度合わせておきなさい。あと詳しいことはジャスティンに伝えてあるからな」
「そういえばミーア、『金色の月光』の面倒を見てるそうだな」
「はい、彼らは罪人とはいえ半分はサウムハルト侯爵に騙されたところもあります。元は悪くない人たちですからちゃんと罪を償えば普通の生活に戻れるはずなんです。でもみんな冒険者しか知りませんからもし仮に冒険者に戻るとしても数年先になります。その間の手伝いぐらいはと思いまして」
「ミーアが直接雇うのか」
「いいえ、セリーヌはファシールの町の治療院で既に働いています。ラファーネさんの下でです。カチェリーナもファシールの町で警護に就くと思いますが、ラファーネさん次第です。ローデヴェイクはドルア伯爵のラルリアの町に行くかもしれません。私は斡旋しかしませんので」
「その方がいい。ところでもう一人いたな」
「ディートヘルムですよね。彼は私との関係を避けています。パ-ティーから追放したという後ろめたさがあるようなので。彼は罰も一番多いですから、何かするにしてもまだ時間はあります」
はっきり言ってディートはどうするか悩んでる。私が行っても多分聞かないだろうし、私の影が見えただけで拒否しそう。でもディートだけほっとくっていうのも気が引ける。うーむ面倒な奴め。
国王の交代と私の叙爵まで1週間とチョットです。
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