第54話 スカウト

町の外の交流区はラファーネさんと一緒に作りました。ラファーネさんやる気満々です。目がキラキラしてました。

宿屋は1件、リーズナブルな価格で止まれる部屋と少し広めの部屋の2タイプ。観光に来る町じゃないからねぇ。リゾート用の部屋なんて用意しなくていいのよ。リゾートを楽しみたいんだったらここじゃなくってミシャルね。

食堂は5軒。1つは普通の食堂。これは町営の食堂です。残りの4軒は町の人たちができるようにって。原則として1カ月で交代。じゃないといろんな人ができないからね。数少ない出会いの場なんだから。ここで出会って恋が芽吹くなんてことがあったら素敵じゃん。

同じように店舗は10軒ほど用意しました。店は偏らないようにしてくださいね、ラファーネさん。

あと酒場も2件ほど作りました。

そして何故かラファーネさんが絶対に譲らなかった娼館。女の人に男の人とナニさせるところだよ。どうしてそんなところを作りたかったのかなぁ。まぁ私が口を出すことじゃないからね。少し高級な作りにしましたよ。どうせ作るんならね。


交流区が出来上がるといよいよ受け入れの開始です。今の所保護した女性は300人余り。新生活と社会復帰を目指して頑張ってもらいましょう。後伯父様方、他の被害者の保護もお願いしますね。


セリーヌもこの仕事をやってくれることになりました。向こうの治療院の院長に相談したら、是非やりなさいって言われたんだって。セリーヌをこっちの院長にしちゃおうかな。そこはラファーネさんに決めてもらおうっと。

「ここが治療院?王都のと全然違う」

「いろいろ試してみたかったからね。上の小さい部屋は重い病気やけがで帰せない人用ね。治ったら帰ってもらうんだけど。あとはあの広い部屋は弱った体を特訓するためのものだよ」

「お金は、治療費はどうするの?」

「ラファーネさんが決めることだけど、多分かなり安いと思うよ。ただにはしないと思うけど。セリーヌの給金は別にちゃんと払われるから大丈夫だよ、院長」

「えっ!私が院長?無理だって」

「だってセリーヌ1人しかいないんだよ。もう院長でいいじゃん」

「ふぇ~」

結局セリーヌはファシール治療院の院長になったそうです。


**********


「ルキール財務卿よ、いくつになった」

「58になりました」

「そうか、いい歳だな。そろそろ隠居しないか」

「ローレンスの件ですね」

「悪いな。あれだけの事件じゃ。貴族も50人から関わっていた。関係者は処分したが、我々は無関係って事にはならんだろう」

「奴の監督が不十分だったことは否めません」

「悪いが被ってはくれぬか」

「御意に」

「私も財務卿の更迭と共に国王の座を降りることにした」

「国王様それは」

「いいのだ。50人からの貴族が、王族に忠誠を誓ったはずの貴族がだ、先代が決めた決まりを破ったのだ。これは紛れもなく私の力不足だ。この国を一つにまとめるためにも私がここにいてはいけないのだ」

「………」

「この後の会議の席でこの話をする。ルキールは今日付で更迭、私は一月後に譲位する。いいな。全部終わったらゆっくり酒でも飲もうじゃないか」


会議は大荒れでした。そりゃそうですよ国王がいきなり譲位するっていうんですから。私?私は会議になんて出てませんよ。まぁチョット覗いたけど、しっかりと。

一月後というのは辺境伯をはじめ地方の貴族に周知させるため。早馬を飛ばせば大体のところは1週間もあれば着くからね。今回は私の出番はないかな。

あと、私に叙爵の話があるみたい。王族から貴族に格下げ、と思ったらリオ伯父様もルイス伯父様もグラン伯父様もみんな公爵なんだって。いわゆる王族公爵ってやつ。普通は男の人しかならないんだけど、私は特例だって。まぁいろいろやらかしたからねぇ。

叙爵はリオ伯父様が国王に即位してからになるらしいけど、知らなかったことにして聞いたらビックリしようっと。


国王の譲位と私の叙爵でこの事件は全て終わるって事らしいです。長かったなぁ、1年以上だよ。そのうち半分はファシールの町づくりだったけど。

あと個人的なことなんですけど、私20歳になりました。パチパチパチ。おめでと―、ミーアちゃん。

相変わらず小さいし体つきもあんまり女性っぽくなってない気がするけど。小さいって背だよ、胸じゃないからね。少しは大きくなって、るかもしれないんだから。


**********


「ねぇジャスティン、トルスコってどこか知ってる?」

「確か北の山脈の麓にある小さな町だったと思います」

「じゃぁサフィアの家の方?」

「そうですね。ドルア伯爵の町はトルスコの少し先だったと思います」

久しぶりの旅の行き先は決まりました。サフィアの実家に挨拶に行きます。

「じゃぁジャスティン、サフィア連れてドルア伯爵の所に挨拶に行ってくるね」

「ミルランディア様、そんな急に。最近もパーティーやお茶会の誘いが数多く来てるのですよ。ファシールも終わったのですから、少しはそちらの方へも出てはいかがですか」

「えー、だって貴族のご婦人とかいっぱいいるんでしょ」

「それはそうですよ、貴族のパーティーなのですから。少し顔を出すだけでいいのでお願いしますよ」

「分かったわよ。じゃぁパーティー2件とお茶会1件だけよ」

「ありがとうございます。では早速ですが、本日2時からのお茶会と夜のパーティーをお願いします」

「早速過ぎませんかねぇ、ジャスティン」

「あまりダラダラとするよりはいいかと」


お茶会の話ってはっきり言って苦手です。恋バナばっかりなんだもん。恋なんかしたことないし、「どこどこのだれだれがステキ」なんて言われても興味ないし。私も姫やってるし、それなりに場数…は踏んでないか。話を合わせることぐらいはしますよ。でもね服の話とかは好きよ。ちょと前に買った可愛い服着てったら、いろいろ聞かれたよ。ほら『ミル薬局』の周りっていろんな服の店が集まってるからね。


パーティーの方は新ルキール侯爵のパーティーでした。当主が隠居を発表して爵位を息子に譲ったそうで、そのお披露目とのことです。ジャスティンの奴め謀ったな。

「急な招待をお受けいただきありがとうございます」

「こちらこそルキール財務卿にはお世話になりましたので」

私が会場に着いたのは開始予定時刻の5分前。私も王族の一員ですから行けばみんなが集まってしまいます。あまり早く着き過ぎると大騒ぎになってしまうので、ギリギリに着くようにしています。

『パーティーは女の戦場』とはよく言ったものです。みんなドレスやアクセサリー、化粧でしのぎを削っています。もっとほかのことに情熱を燃やせばいいのに、ってこれに情熱をかけてるんだっけ。旦那の稼ぎや婚約者のプレゼントを自慢する会なのでしょうね。私のアクセサリーはもちろん薔薇、ではなく今回はいろいろと自分で作ってみました。宝石って土の中から集めると結構な量になるのよね。それでペンダントを作ったり髪飾りにも適当にちりばめてみました。指輪はしませんでした。だって私に贈ってくれる人なんていないんだからしょうがないじゃん。ペンダントは注目されましたねぇ。あのサイズの石はなかなかない、っていうか私も見たことありませんから。さすがは錬金術様様ですね。

新しいルキール侯爵に挨拶して、引退した前侯爵様と歓談して。ファシールを見たことに感動したそうです。綺麗に整備された町並みを地上と上空から見たことに。ファシールの話で盛り上がってたんですけど、あんまり独占しちゃ悪いからね。そこら辺は大人になりました。

他にもいろいろな大臣が見えていたので、一通り挨拶を済ませました。あとはどこぞのお嬢様方と適当に話を合わせ、近寄ってくるボンボンどもを軽くあしらったり煙に巻いたりしながら適当に時間を潰してから帰りましたとさ。

そう言えばフローラ伯母様もいたね。



「ねぇ、約束の数こなしたから行っていいわよね」

「そうですね、気を付けて行ってきてください。エレンさんは?」

「エレンは今回はお留守番」

「馬車で行きますよね」

「そうよ。まさか歩いてきたなんて言ったら何言われるかわかんないし」

「御者はどうするんです?」

「人形にやらせるわ。練習していたから上手くなったわよ」


そうだルイスおじさんにも言っとかなきゃね、チョット旅に出るって。


「それじゃ行ってくるね、4~5日で帰ってくるから」

「ミーア様、私を置いてかないでくださいよ」

「エレンは今回はお休み。マリアンナの言うこと聞くのよ。お酒飲み過ぎちゃダメだからね」

「ミルランディア様、エレンの事はお任せください」

「うぅぅ……」


馬車は軽快に進んでいきます。今回は余計なイベントなしで行きます。

「ねぇサフィア、ドルア伯爵の街ってなんていうの?」

「ラルリアって言います」

「サフィアって12ぐらいの時に王都に来たって言ってたわよね。それから帰ったことあるの?」

「いいえ。王都に来てから5年ぐらいたちますけど一度も帰ったことなくて」

「じゃぁ久しぶりの里帰りだね」

「そうなんですよ。お父様とは時々王都で会うんですけど、お母様とはホント久しぶりで」

「じゃぁいっぱい甘えればいいじゃん」

「そうしたいです」

「よし、そろそろいいかな。少し移動するよ」

まわりに誰もいないことを確認して、トルスコの街へ移動です。この日のためにトルスコの周りの詳しい地図を作ったのですから。

【空間転送(改)】って便利ですわ。行ったことないとこでも行けるんですから。

「今日はトルスコで泊まるよ」

「トルスコですか?あそこ何もない所ですよ」

「いいの。チョット用事があるから」


トルスコの傍まで一気に移動した私たちはそのまま町に入ります。今日の泊まりは領主邸です。

「これはミルランディア姫様、ようこそおいでいただきました。何もない町ですけどゆっくりしていってください」

「丁寧にありがとう。気づかいはいいからね。ところで今この町に勤労刑で来てる人がいるでしょ。どこにいるか教えてくれない」

「はぁ、カチェリーナという娘のことですか」

「そうよ」

「今でしたら南の畑にいると思いますが」

「ありがとう。ちょっと行ってくるから」

「あっ、案内を………」

「いらないわ」


南の畑ね。何やってるのかな。

暫くぶらぶら歩いていると南の畑で開墾しているカッチェの姿が見えてきました。

「カッチェ、久しぶり」

「どうしたのミーア、こんなとこで」

「ちょっとカッチェに話があってね。ここの暮らしはどう」

「どうもこうも、私罪人だし」

「でももう少しで終わるんでしょ」

「そうだけど」

「終わったらさぁ、私のとこで働かない?」

「ミーアのとこ?」

「そう。今、町で警備の仕事ができる女性を探してるんだ。カッチェだったら条件合うし、どうかなって」

「それどこ?」

「ファシールっていう新しい町。この間の事件で被害にあった人がいたでしょ、その人たちのための施設なんだけど」

「でも私、加害者側だよ」

「みんな普通に戻って欲しいの。だからお願い」

「うん。じゃぁ考えとくね」

「カッチェはディートの事待ってるんでしょ」

「そのつもりなんだけど、ディートはどうなのかな」

「えっ?カッチェとディートってあんなに仲いいじゃん。付き合ってるんじゃないの?」

「私はディートのこと好きだよ。ディートも私のこと好きって言ってくれる。でも…」

「でも?」

「時々ね、遠い目をするんだ。誰かを追いかけてる目。私が傍にいても。女の勘って言うのかな」

「とりあえずディートを待つ間だけでもいいからさ。給金は冒険者の時ほどは払えないけど」

「私はもう冒険者には戻れないから、仕事があるだけでも幸せなのかも」

「ヨロシクね。セリーヌもいるから」

「セリーヌも?」

「うん。町の治療院で働いてるよ」

「そうなんだ。ミーアには何から何まで全部お世話になっちゃったね」


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