第52話 解散(side 金色の月光)

明けましておめでとうございます。

今年もミーア共々よろしくお願いいたします。


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「ローデヴェイク、ディートヘルム、カチェリーナ、セリーヌ、以上4名揃っているな」

ついにこの日が来た。俺たち『金色の月光』に対する処分が言い渡される。といっても俺たちには納得できるものではない。冒険者として貴族の商隊の護衛に着いただけだ。その商隊が運んでいたものに問題があったにしても、俺たちはその中身を知らされてなかったわけだし。それについては何度も説明した。俺も、ディートも、カッチェもだ。後半は護衛に同行しなかったセリーヌも説明してくれた。


俺たちが護衛をした商隊が運んでいたものが奴隷だと知ったのは、クロラントで拘束された後の話だ。話によるとアルンドの街で合流した馬車に奴隷がいたそうだ。俺たちが護衛した中でアルンドで合流したのは確か5回。その5回で実に65人もの奴隷が運ばれたというのだ。


サウムハルト侯爵は俺たちのことを、「手足のように自由に扱える冒険者。Aランクという箔もある。適当に金を与えておけば尻尾を振ってついてくる田舎者」といってたそうだ。

田舎者というのはしょうがない。ベルンハルドもそれなりの街ではあるが、王都にいる人から見れば所詮は田舎街。物価も生活水準もみな違う。そんな街にさらに小さな村から出てきた俺たちだからな。

だからこそ俺たちは頑張った。全ての冒険者の目標でもあるAランクパーティーを目指して。まだ駆け出しのころ先輩パーティーによって鍛えられた。クエストにも恵まれたし、狩りも上手くいった。必死に頑張った結果Aランクパーティーになることができた。侯爵はBランクの頃から俺たちに目を付けていたそうだが。

俺たちはAランクとして恥ずかしくないように行動してきたつもりだ。ランクが上がれば稼げる金も違うということを、Bランクやそれ以下のパーティーに見せてやりたかった。そこに付け込まれたのか。侯爵は専属契約料や月の手当、破格の護衛料ととにかく金を積んだ。何も知らない俺たちはそれが当たり前だと思っていたもの確かだ。侯爵の手の内で遊ばれていた。

結果として俺たちは侯爵の犬になっていたのだった。唯一セリーヌを除いて。


「これよりお前たちに、今回の事件についての処分を言い渡す」

「ちょっと待ってください。もう一度考え直してはくれませんか。俺たちはただ、言われたとおりに護衛の任務をこなしていただけなんです」

「その護衛が奴隷輸送でなければよかったのだが、知らなかったとはいえ奴隷輸送の護衛であったことに間違いはない」

「そうではありますが………」

「ローデヴェイク、ランドルで勤労刑2年を申し渡す。続いてディートヘルム、お前はカルシュクで勤労刑3年だ。最後にカチェリーナ、トルスコで勤労刑6カ月を申し渡す。働きによっては軽減されることもあるからな。間違っても逃げたり盗賊落ちすんじゃねぇぞ。逃げたら鉱山送り、盗賊落ちしたら討伐対象だからな。セリーヌについては厳重注意処分とする。『金色の月光』については罰金として金貨200枚を支払う事。以上がこの事件に関する処分になる。続いてギルドからの処分になる」

「これだけじゃなく、更にギルドからも処分されるのか」

「この処分はまだましな方なんだぞ。お前たちの前に護衛をやってたやつらは全員鉱山送りだ。お前たちだってそれぞれ3年、5年、1年が妥当と言われていたんだぞ。それをセリーヌが必死になって減刑のお願いに来て、ミルランディア姫の口添えもあってこうなったんだ。お前たちはミルランディア姫とセリーヌに感謝するんだな」

「セリーヌ。ミーアも助けてくれたのか」

「ディート、ミーアは知ってたよ、私たちのパーティーから追い出されたこと」

「ミーア、そんな俺たちを……」


「次はギルドの処分だ。いくらAランクパーティーといっても国の事件に関わった奴らをそのまんまにしておくわけにはいかねぇんだ。今までの事例に従って決めさせてもらった。本日をもって『金色の月光』は解散とする。これはギルドとしての命令だ。ローデヴェイク、ディートヘルム、カチェリーナ、以上3名については5年間の冒険者資格の停止と1ランクの降格。セリーヌについては1年間の冒険者資格の停止とする。なお、お前たち4人のうち、3名以上が同じパーティーに属することを禁止する」

「資格の停止って」

「その通りだ。5年間は冒険者として活動できねぇって事だ。依頼も受けられねぇし、パーティーへの加入もできねぇ。ついていくのは勝手だが、トラブルに巻き込まれたってギルドは関与しねぇ。5年たてばローデヴェイクはB、ディートヘルムとカチェリーナはCランクで冒険者に戻れるがな」

「5年か、長いな。復帰してもこんな過去持ちの俺らを拾ってくれるパーティーなんてないだろうな。引退か。そういう運命なのかな」

「俺はいい。俺はいいから、カッチェの停止期間を短くしてやってくれねぇか。こいつはただ俺についてきただけだったんだ。俺の冒険者資格は剥奪しても構わねぇから、こいつの、カッチェの停止期間を1年、せめて3年にしてやってくれよ」

「ディート、いいって。私は何もしないでただ一緒にいた。セリーヌとは違う。セリーヌはおかしいって忠告くもしてくれたし、護衛からも抜けた。私たちは忠告も聞かずに護衛に着いた。私もみんなと一緒。だから私だけが特別扱いされるのはダメなんだよ」



「これで終わりだな、俺たち『金色の月光』も。不甲斐ないリーダーで申し訳ない。俺は5年たったら28だ。ブランクがあってその年じゃ実質引退だよ。刑が終わったらどこかでなんとか暮らすとするさ」

「俺だって似たようなもんさ。カルシュクは貧しい町で治安も悪いと噂に聞いたことがある。そんな町での3年だ。無事に済めばいいが」

「私だけすごく短くって申し訳ない思いでいっぱいだけど、ディート、待ってるから」

「ローデ、あなたは?」

「俺はダメさ。ミーアに気持ちを伝えることもできず、整理も付けずにセリーヌと。ゴメン」

「私はローデの気持ち知ってた。ミーアに対しても。私に対しても。寂しそうなローデ見るの辛かった」

「カッチェ、お前俺のこと忘れて結婚したっていいんだぞ」

「馬鹿ッ!待ってるって言ってんだから、ちゃんと私のとこに帰ってきなさいよ」

「私もローデの事待つ」

「待たないでくれ。俺には君たちに合わせる顔がないんだ。セリーヌは俺たち程の罪じゃない。1年の停止期間って言っても、治療院で仕事をしていればすぐだ。お前はお前で幸せになるんだ」

「それがローデの優しさなのね」

「罰金の200枚なんだが、今パーティーの金は100枚を切るぐらいしかない。あと100枚ぐらいを用立てる必要があるんだが」

「私たちのおうちを売るしかないんじゃない」

「しょうがないか。住む人もいないしな。セリーヌ、手続きを進めてくれないか」


**********


「ミーア、来てくれてありがとう」

「どうかしたの?」

「昨日ね、私たちの処分が伝えられたの。ミーアのおかげでだいぶ軽くなった」

「私は特に何もしてないよ。周りが気を遣ったかな」

「でね、お金貸してほしいんだけど」

「どれぐらい?」

「200って言いたいけど、パーティー解散だし、ローデが今あるパーティーのお金全部罰金に当てるって言ってた。でも100枚ぐらいしかなくって、家も売ることにしたの。でも足りないの」

「どれぐらい?」

「12枚」

「じゃぁこれだけあれば足りるね」

金貨22枚を出したの。ローデがくれた10枚とカッチェとセリーヌがくれた5枚、ローデが払ってくれた宿屋代ね。

「こんなに要らないよ」

「ううん、これは私を助けてくれたローデとカッチェとセリーヌからもらったお金だから。困っているなら返さなきゃ」

「ホントにありがとう」


「でもこれでホントにみんなバラバラなんだ。ミーアと別れて1年ぐらいだよ。たった1年で……」

「セリーヌならいつでも私のとこに来ていいからね。お茶飲みに来なよ」

「うん。カッチェはディートの事待ってるっていうし、ローデは一人でどっか行っちゃうんだって。私一人になっちゃった」

「一人じゃないよ、私がいるから」


「ねぇセリーヌ、私のとこで仕事しない?今すぐじゃないんだけど回復魔法使いを探してるんだ」

「これ以上ミーアに迷惑かけるのはちょっと」

「私の所で働くって事じゃないんだ。今ね、この間の事件で被害にあった人たちのために施設を作ってるの。出来るのはまだしばらく先になりそうなんだけど、そこに作る治療院で働いてみないかなって」

「私はその人を傷つけた側だよ。そんな私がやるのはよくない」

「そんなことはないよ。傷つけたのは売り買いした人。セリーヌたちはそのとばっちりを喰っただけだから。だから大丈夫」

「考えてみる。治療院の院長にも相談する」



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