第51話 処分

あの後面白くなっていろいろやってみました。その中でも特に面白かったのは【浮遊】です。私自身を亜空間に移して、現実空間から切り離さないで亜空間だけ動かすんです。地面にもぐったり壁をすり抜けたりはできないんだけど、邪魔がないところだと自由に動けるんだよ。もちろん浮くことだってできちゃう。浮いたまんまで現実空間に戻るとおっこっちゃうけどね。水の中には潜れるっぽい。もちろんそのまま戻れば溺れるけど。

マップの移動も慣れてきたし、そろそろお披露目してもいいよね。おじいさまかエレンかサフィアか。初めは無難なところでエレンにしとこっと。


「おじいさま、事件にかかわった貴族の確保ってどうなりました?」

「あれっきりじゃ。まだ9人残っておる」

「お手伝いできるようになりましたけど」

「それならルーファイスを呼ぼう」

伯父様と第1騎士団長、何人かの騎士団の人たちと一緒に、文字通り国中を飛び回りましたよ。9人確保するのに1週間、こんなものでしょうね。これで処分が進みそうです。



今日は久しぶりに全員顔を合わせての会議です。主だったものの処分が決まるそうです。

事前の話の通り、サウムハルト侯爵とミルデュース子爵は死罪だそうです。薔薇のボスも。サウムハルト侯爵の長男も死罪になりました。オークションを開くにあたって便宜を図ったり、会場の護衛を集めたりといろいろやってたそうです。この両家は奪爵の上10年の監視付きになります。領地の街には住めないでしょうね。噂も広がっているでしょうし、今までのやり方に不満を持っている人も多そうですから。ロラント商会の主だった者たちも死罪です。会場の警護についていた者は鉱山送りか勤労刑だそうです。オークションを開いた側に重い処分になりました。


『金色の月光』のメンバーは、ローデが勤労刑2年、ディートが勤労刑3年、カッチェは勤労刑6か月が決まりました。セリーヌは注意です。実質無罪ですね。パーティーには罰金として金貨200枚が決まりました。

思っていたよりギルドの処分が厳しかったです。パーティーの解散命令に加えて再結成の禁止。3人の冒険者資格の停止の期間が5年となりました。セリーヌも1年の資格停止です。冒険者としての活動は実質できなくなったことになります。


オークションに参加して女性たちを買っていった貴族の方は、大部分の伯爵は降爵処分になりました。上級貴族として責任ある立場の者たちですからねぇ、仕方ないところでしょう。子爵の中にも降爵処分を受けた人もいましたし、ほとんどの人が領地替えになっています。かなりの額の罰金もませられたうえ、処分減免のために払う金と合わせて、かなり厳しそうですね。

伯爵の中に1人、死罪になった人がいました。その人は買ってきた女性を次々と嬲り殺していたそうです。被害にあった女性は7名になったそうです。当主が死罪で家は男爵に降爵、領地剥奪という厳しい処分です。


商会は上級貴族との取引停止、罰金などが主な処分でしたが、違法に娼館を開いていたところも多く、違法娼館の廃業命令と、追加で多額の税金を課せられることになりました。商売活動の処分はギルドの方で課せられ、資格停止が5年から10年だそうです。こちらも実質廃業ということでしょうね。


被害女性の保護は芳しくありません。奴隷同然の扱いをしておきながら、使用人だといい、女性の方もおびえて口をつぐんでしまう始末です。決定的な証拠がいくつもありますので、少しずつですが進んではいるようです。



それより問題なのはこの人たちを預かる場所です。

「大公様、施設の建設はどうなっています?」

「場所はミシャルのそばの森に決まったが、開発はこれからじゃ」

「これからって………」

「規模が規模だからな。設計が進まんのじゃ」

「保護される人が増えてるんですよ。その人たちを預かるとこも決まっていない。さらに施設の建設も進んでいないで、一体どうするのです」

「それはこちらでもわかっておる。ただ、何とかするとしか言えないのだ」

「それでは明日お時間をお作りください。ミシャルの現場を見に行きます」

「それは儂ではなく、ルーファイス王子に行かせよう。よいな」

「構いませんが、何故です?」

「儂はこの件についてルーファイスに譲ろうと考えておる。儂のような年寄りが表に立つのではなく、これからの者がやることで、この先のこの国を作っていって欲しいのじゃ」

「それでは大公様の功績が…」

「今更功績など、もうよい。それより少しでも早く終わらせることじゃ。ミーアも手伝ってやってくれ」



「ミーア。お前の魔法では一度行ったところじゃないと行けないんじゃなかったか?」

「ワープの魔法ではそうですけど、これから使う魔法はちょっと違いますから。驚かないでくださいね」

【空間転送(改)】を使って、施設を造る予定の森の前に移動しました。

「これは?」

「空間魔法に【空間転送】っていうのがあるんですけど、それを私の【マルチマップ】に対応させたかったんです。ところがどんなにやってもできなくって、いろいろやってたら全然違う方法でそれっぽくできたんです。なので今はワープとは別にこの方法でも移動することができるんです。それじゃぁ現場を見てみましょうか」

今度はさっきの応用の【浮遊】で空に上がります。

「おぉ。これはっ」

「感動していなくっていいですから、ちゃんと見てください。どこら辺を施設にするのですか?」

「おぉ、そうだったな。あのあたりからそっちはあの岩の手前あたりで、………」

私とルイス伯父さんはああでもないこうでもないといろいろやりながら一応の範囲を決めてみました。

「これぐらいですか?」

決めた範囲に亜空間を重ねてわかるようにしてみました。

「これでどれくらいなんだ」

「多分アルンドの街の倍ぐらいだと思います」

「広すぎるか?」

「いいんじゃないですか。町だけじゃなく畑も作らなきゃいけませんし、森も必要ですから。むしろもう少し広くてもいいのではないでしょうか」

「それではあっちを少し広げて、あっそっちもな。あとは………」

結局アルンドの街の3倍ぐらいの広さで決まりました。

「ほかの人にも見せたほうがいいですか?」

「いや、いいだろう。お父様もああおっしゃっていたしな」

「じゃぁこれで外周の壁、作っちゃいますよ」

高さ10m、継ぎ目がなく少し外側に傾いて、侵入防止用の庇のついた壁が一気にできました。

「ミーアは土魔法も使えたのか?」

「いいえ、土魔法は使えないと思います。あれは【創造術】と【錬金術】で作ったものです」

「それにしても立派な壁ができたものだ。これなら陣地設営の時にも………」

「伯父様、戦争のお手伝いはしませんからね」

このあと、市街地の範囲の壁を作って帰りました。



「伯父様、あの施設の建設を進めるために、大至急木こりを集めてください。大体100人ぐらい。あと切った木を加工する人も。依頼書を作ってくれればいろいろな街のギルドで集めてきます。そのあと大工と土魔法使いを集めてください」

「分かった、手配しよう。ところで現場監督はミーアがやってくれるのか?」

「やりますよ。ほかの人じゃ進まないでしょうから。それに私なら立場もあるので進めやすいでしょうからね」

「悪いな、面倒なことばっかり押し付けるようで」

「それなら今度、麺の美味しいお洒落なお店教えて下さいね」


人集めに1週間、道を作るための伐採に1週間、道を作るのに2週間、その間にも伐採は続けています。住居を建てるのに1か月、商店街になる通りに店舗を建てるのに2~3週間、工房の建物に1~2週間、そのほかの施設や公園などを整備するのに1か月。町の方は大体4か月で形にしました。

住居はメゾネットタイプっていうの?2階建ての部屋で、それを10戸並べたのを1つにしたやつ。それをたくさん作ることにしたの。時間もないし施設だからね。お店の種類は食堂用とか野菜なんかを売るお店、服や雑貨、生活用品、それにカフェのようなお店が開けるような店舗をいくつも作ったよ。1つできればあとは創造術と錬金術を駆使して、ボンボンボンとやればいいだけだから、まぁ何とかなるよね。

職人さんも大活躍でね、大変そうだったけど給金に色付けたら喜んでたよ。土魔法使いさんも活躍してたね。もちろんうちのサフィアもね。錬金術師は私みたいな人がいなかったんで、私が頑張りましたよ。えっ?アンタのような人がいるわけないじゃないかって?ハイハイそうですね、どうせ私は特別ですよ。



施設の建築というか、町の開発というか、そんなことをやってる中、王都では今回の事件にかかわった人たちの処分が行われました。貴族の界隈では大騒ぎです。派閥争いも激しくなっていると聞きました。パーティーも頻繁に開かれているようです。箔をつけるために私も呼ばれているみたいですが、何せ私は現場監督、そこはジャスティンがうまくやってくれています。有能な執事で助かります。毎日帰ってるからね、その辺の情報は入ってきてますよ。


ナジャフ公爵とドルア伯爵のパーティーだけは断れませんでした。ドルア伯爵って誰かって?サフィアの実家ですよ。お世話になってるからねぇ、断るわけにいかないのですよ。

ドレスはどうしたのかって?あんまり持ってないのは確かだからねぇ。ちゃんと新作を用意しましたよ。まぁ仕立ててる時間がなかったので創造術を駆使してね。アクセサリーはいっぱいあるから問題なし。薔薇をはじめいろいろな盗賊団が私のために集めてくれたからね。私の為じゃないって?まぁそこはそこよ。

でもね、毎日のように現場監督として住居や店舗を建ながら町を飛び回っていればさぁ、お肌なんかボロボロですよ、特に手がね。土を使った錬金術で建ててるから手荒れが酷くって。さすがにパーティーの時は恥ずかしかったわ。今度肌荒れ用のお薬みたいの作んなきゃ。私専用だよ。こんなの外に出したら貴族のご婦人や令嬢界隈で大騒ぎになること間違いなしだからね。私の仕事が忙しくなっちゃう。『ミル薬局』は繁盛しなくてもいいの。


そう言えばジャスティンやマリアンナの実家の事知らないな。貴族だったらそれなりにお付き合いしないとまずいよね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る