第49話 告白
「おじいさま、戻りました」
「おぉ、帰ったか」
「何かあったのですか?」
「特に何かあったという訳ではないのだが。お前の顔が見たくなってな」
「そういうことですか。で、進み具合はどうです?」
「進めてはいるがのぅ。オークションに参加したものが多いのだ。あの場で拘束したのが33名だったが、今回いなかったものの前回参加したというのも2人いただろ。参加した者のリストは作ったのだが国中に散っておるからのぅ、拘束が進まんのだ」
「どれぐらいになったんです?」
「全部で50程じゃ。その内拘束したのは39じゃ」
「残りは11ですか。手伝います?」
「手伝って欲しいんじゃが、行ったことのない処には行けんのだろ」
「多分大丈夫だと思いますけど。ちょっと試してからですけどね」
「手伝ってくれるのであれば助かる」
「女性の保護の方は進んでいるんですか?」
「そっちはなかなか進んでいないのだ。オークションは10数回開かれていたようで、実際何人が売られたのかもはっきりしないのだ」
「あれっ、薔薇から押収したリストにあったと思いますけど。奴らこまめに付けてたみたいだから」
「そんなものあったか?もう一度調べさせるか」
「ちょっと待ってください。あっその資料、まだ私が持ってました。すみません」
「見せてくれ。ふむ。うん、これでだいぶ捗るな」
「保護した人ってどうするんです?全部で500名ぐらいになりますよね」
「そうなんだ。頭の痛いとこでな。それだけの人を収容する施設がないのだ」
「あの2人、サウムハルト侯爵とミルデュース子爵はどうです?」
「ラフィンドルはともかくローレンスは分かっていたようだな」
「やはり2人とも死罪ですか」
「それは免れんな。更に両家とも奪爵の処分も下されよう」
「奪爵ということは平民になるということですね」
「その通りじゃ。その上、向こう10年にわたって監察が付く。残された者たちが反乱を起こすことがあるのでな」
「王都にある屋敷とかは」
「売りに出されるじゃろ。罪が罪だけに多額の罰金と賠償金を請求されるからな。領主邸は彼らの財産ではないからのぅ。屋敷を手放すしかないのだ。王都の屋敷は罰金の代わりの物納されると思うぞ。あ奴らの屋敷は貴族街にある。平民となった者が入れる場所ではないのだ。どうだミーア、そこへ越してこんか」
「おじいさまに建てていただいたお屋敷を手放すわけにはいきません。それにあのお屋敷の設備って王都一のものって多いですよね」
「それもそうじゃな。いわく付きのとこへ越してこいなどと言った儂がバカじゃった」
「おじいさま、こういうのはどうですか。クロラントとかベルンハルドといったある程度大きな街の郊外に保護した女性を収容する施設を作るんです。全員が入れるような大きな施設です。女性たちは暴行を受けてたものも多いと思いますので、施設の仲は女性だけにします。周辺の警備は男性でも構いませんが。500人からが暮らすといえば一つの街ですよね。なので、物を作ったり、売ったり、買ったり。食べたり遊んだり、とにかく街の暮らしを作るんです。そうして普通に暮らせるようになって、外の街で暮らしたいという人が出てくれば出してあげればいいと思います。戻ってくるのであれば入れてあげればいいと思います。今回の事件は大きいものでしたけど、小さな事件はこれからも起こると思います。そう言う被害にあった人たちの施設を作るのは如何でしょう」
「いい考えではあるが、それだけの金をどうするのだ」
「罰金の一部を廻してもらうのではどうでしょう」
「足らんと思うが」
「それなら50人からいる貴族に出させればいいのです。降爵の処分や領地替えぐらいはするおつもりなのでしょ。『金を出したら処分の減免を検討する』とでも言えばプライドの高い貴族の連中ですから出しますよ、きっと」
「それならできるかもしれんのぅ。次の時に言ってみよう」
「サウムハルト侯爵とお話しがしたいのですが大丈夫ですか?」
「王宮の牢に入れてあるので、用意しよう。でもなぜじゃ」
「私を『金色の月光』から追放するように言ったのは侯爵らしいんです。そしてそのパーティーを専属にした。その理由を聞きたいんです」
「一人で大丈夫か?」
「一人の方がいいです」
**********
「サウムハルト侯爵様、お久しぶりです」
「ミルランディア姫か。何の用だ。笑いにでも来たのか」
「お話があってきました。侯爵様ですよね、私を『金色の月光』から追放するように言ったのは」
「今更隠してもしょうがないからな。どのみち死罪は免れんだろうから。そうだ。お前を追放するように仕向けたのは私だ」
「なぜですか?私が姫だとご存じだったからですか?」
「私はお前が姫だということを知っていたさ。こう見えてもこの国の財務局のナンバー2、実質取り仕切っていたのはこの私だ。エヴァンジェリン王女に娘がいたことぐらい耳に入ってくる。
私は強くて生きのいい、そして自由に使える冒険者が欲しかった。理由は分かるな。奴らにやらせていた護衛だよ。私はギルドから情報を集めお前のいたパーティーに目を付けた。まだ若く勢いがある。Aランクもうかがえるパーティーだと直感した。しかしそこには一つ問題があった。お前の存在だ。大公がお前に監視を付けてたんでピンときたさ、お前がエヴァンジェリン様の娘だってね。彼女の娘を手駒にはできない。それと共にお前は私の障害になるとの直感もあった。だからあのパーティーを私のものにするためにお前を追放させたんだ」
「障害になると分かっていたのなら、殺してしまおうとは思わなかったのですか」
「殺すことなどできるはずがあるまい。お前はあのエヴァンジェリン様の娘なんだぞ。殺せるわけがないじゃないか」
「理由になっていませんが。なぜお母様の娘だから殺せないんですか」
「私が唯一愛した女性だからだ。叶わぬ恋ではあったが、私の生涯でただ一人愛した女性だったのだ、エヴァンジェリン様は」
「あなたには奥様がいらっしゃるではありませんか」
「貴族の結婚など全て政略だ。私があれと結婚したのも侯爵家とつながりを持ちたい伯爵が、是非にと無理やり寄越したのだ。結婚はした。それなりの生活もした。でも心の底から愛した訳ではなかったのだ。それはあれとて同じだ。
私が愛した女性はエヴァンジェリン様ただ一人。その人の娘を殺せるわけがない。十分すぎる理由だろ。それがたとえ私にとって大きな障害になろうとも」
「いろいろ聞かせてくれてありがとう。このような悪事に手を染めていないあなたと出会いたかったです」
「お前は最後まで私の最大の障害なのだな。この期に及んでエヴァンジェリン様の事を思い出させるとは」
「お母様は侯爵様も思いを知ってたんですか?」
「知らなかったと思う。私の心に秘めた想いだったからな。貴族に生まれた以上自由恋愛など叶わぬ夢だ」
「貴方が私の父だったら、この世界はどうなってたのでしょうね」
**********
「侯爵との話はどうだった」
「いろいろなことをお話ししていただきました。特にお母様のこと」
「エヴァのことか」
「侯爵はお母様のことが好きだったみたいです。そして私のことも知っていました」
「そうか。ミーアはもういいのか」
「はい。侯爵とお話しすることはもうないと思います」
「ラフィンドルとはどうする」
「ラフィンドル?あぁあのデブの子爵ですね。あの人はいいです。その代わり『金色の月光』について教えていただけません?」
「構わんが、どんなことじゃ」
「どのような処分になるかということです。侯爵から奴隷移送の警護ということは知らされてなかったようなので」
「知らされてなかったからといって無罪放免という訳にはいかぬだろう。相応の罰は受けてもらうことになる。だがまぁ勤労刑といったところじゃろう。長くて2~3年といったところじゃな。罰金と被害者への慰謝料の請求もあるだろう」
「重い罰ですね」
「この手の事件としては軽い方じゃ。会場の警護に当たっていた者やロラント商会のものなどはよくて鉱山送りだろうからな」
「勤労刑ってどういうものなんですか?」
「主なものは街中の清掃、下水道の清掃、汚物の処理、墓地の清掃などじゃ。派遣された町で罰の期間そういった仕事にあたる。住居は共同生活所があてがわれ、安いが賃金の支払いもある。罰の期間中は武器の携行は許されていないが、下水道や墓地など危険なところでの作業の場合は例外的に認められることもある。脱走すれば鉱山送りになるなど重罪が課せられるので、まぁ脱げだす奴はいない。そんなとこじゃな」
「思ってたより自由があるようなのですね」
「罪を償うというよりは、真っ当に生きろという戒めを与えるものに近いからな」
「少し安心しました。あと、今回と前回の護衛依頼を断ったメンバーがいるんですけど、その人はどうなりますか?」
「拘束もされていないようだし呼び出しや聴取に素直に応じるようであれば、注意ぐらいで済むのではないか」
「よかったぁ。あの人侯爵のこと疑ってたからなぁ。だから自分の取り分がなくなっても仕事には行かないって」
「それならお咎めなしかも知れんな。ただこれは国としての処分じゃ。これとは別に冒険者ギルドの処分もあろう」
「ギルドの処分って?」
「今までの例だとパーティー解散命令と冒険者資格の剥奪、及び停止じゃな。停止の期間は3~5年といったところじゃろ」
「『金色の月光』がなくなるってこと?」
「そうじゃな。やはり寂しいか」
「私がいたパーティーでしたからね。仲が良くって、それでいてみんな上を目指していた」
「だが解散するパーティーなどいくらでもある」
「冒険者資格の剥奪ってことは次に冒険者になるときはまたFランクからって事ですよね。その上3年ぐらいは冒険者にもなれないっていうと、実質引退っていうことですか」
「まぁギルドがどうするかわからんが、影響力のあるAランクパーティーじゃ。有耶無耶にはできまい」
**********
「セリーヌ、ちょっといいかなぁ」
「ミーア、私も話がある」
治療院にいたセリーヌを、この間のお店に引っ張っていっちゃった。治療院の人にはちゃんと断ったよ。
「話って何?」
「ローデたちのこと」
「やっぱりね。私の話もそのことなんだ。セリーヌはどこまで知ってるの?」
「サウムハルト侯爵様が、事件を起こして捕まったっていう事。あとそのことで、ローデたちも捕まったっていう事ぐらい」
「じゃぁほとんど知らないんだね。全部は話せないけど、大筋は話すね。
サウムハルト侯爵が事件を起こしたって言うのはホントの事。事件は奴隷売買。関わったのは貴族だけでもかなりの数。ローデたちの容疑は奴隷移送の警護に当たってたっていう事」
「じゃぁ、私も容疑者?」
「呼び出しに応じてちゃんと話をすれば、セリーヌは多分罪には問われないと思う。ただ3人は免れないかな」
「そう。奴隷売買に関わったってことは、死罪?鉱山?」
「そこまでではないみたい。多分勤労刑じゃないかって。罰金もあるって言ってた」
「勤労刑って?」
「どこかの街で働くって事。2~3年じゃないかって」
「みんなバラバラ?」
「多分そう。その間は生活できる程度のお金はもらえるって言ってた」
「じゃぁ冒険者続けられるの?」
「それは別みたい。冒険者資格についてはギルドなんだって。でも多分パーティーはダメね、解散命令が出るっぽい。あと、3人の冒険者資格も剥奪されそう。すぐに冒険者になることもできないかもって」
「じゃぁもうみんなと一緒に冒険できないの?」
「難しいかもしれないわね。勤労刑が2年だとしてもその間は冒険者のようなことはできない。資格停止期間が3年ならさらに1年冒険者にはなれないから、なれるのはその後。Fランクからね」
「私も?」
「セリーヌは国の処分がなければ多分何もないと思うよ。パーティー解散って言う罰を負うからねぇ」
「ローデたちは知ってるの?」
「まだ知らない。正式に決まったわけじゃないから」
「カッチェのことなんだけど、軽くしてあげてほしい。カッチェはディートについてっただけ。ディートはお調子者だから、カッチェが押さえてた」
「私が決める訳じゃないからできるかどうか分かんないけど、話はしておくね」
「ありがとう。それから私、ミーアに謝らなきゃならないことがある」
「私に?謝る?」
「私、ミーアがパーティーから追放されること、知ってた。でも止められなかった。ごめんなさい」
「それはもう終わったことだから」
「ううん、そうじゃない。ディートが追い出そうって言うのを知ってた。ディートが変な人と会ってたのも」
「変な人?」
「うん。ちょっと太った人。いい服着てたから多分貴族」
「もしかしてそいつって、ちょっとチビで頭の薄くなったデブのオヤジ?」
「そんな感じの人」
こんなとこにも出てきましたか、ラフィンドル・ミルデュース子爵め。アイツがディートを誑かしたのか。
「ディートが夜コソコソ出かけるのは知っていた。だから後を付けたことがある。その時ミーアを追放しろって言われててお金も貰ってた。その後ホントにミーアが追放された。私は知ってたのに止められなかった。ローデやカッチェに相談すればよかった。だからそれをしなかった私も悪い」
「私ね、後になってからだけど自分が追放されたってこと知ったの。私に言ったのはディートに接触していたミルデュース子爵よ。聞いた時は悔しかったわよ。ローデやディートのことも恨んだし」
「ローデはミーアの事追放したくはなかった。だからディートに押し切られたとき、ミーアに渡すお金にローデは貯金から出したの。ディートはその貴族から貰った100枚を出しただけだけど、ローデは10枚、私とカッチェは5枚。それに小鳥の止まり木の宿代を払ったのもローデ」
「そうか。だからローデは必死で私を説得したのね。喧嘩別れにはしたくなかったから」
「あの時のローデの気持ちは多分本物。ミーアのことを護りたくても護れなくなるっていう事」
「セリーヌはこの先どうするの?」
「処分が出ないと分かんないけど、多分ここにいる。カッチェの事待っていたいから。仕事なら治療院でするから」
「ローデたちはどうするの?」
「多分あの2人は私と顔合わせたくないと思う。ローデは責任感強いし、ディートはこの件の中心だから。あの2人は村にも戻らない。多分2人でどこかの町で暮らしていく。その中にカッチェは入れない」
「行くとこなかったら私のとこ来てもいいからね」
「そこまで甘えられない」
「私の屋敷分かるよね。何かあったら相談に来ていいからね」
**********
「俺たちどうしてこんなになっちゃったのかな」
「ミーアか。仲間を大切にしなかったからその報いか」
「ローデ、ゴメン。俺が悪かったんだな。仲間に相談しないで突っ走っちまったから」
「俺もお前のこと止められなかったしな。同罪だよ」
「あんな奴の口車の乗らなけりゃ、こんなことには…」
「誰だそれ」
「ミルデュース子爵っていう貴族さ。Bランクになって少しした頃から接触してた。そのうち話そうとは思ってたんだ。貴族とのつながりを持ちたいって言ってたからな」
「そんなことを黙ってたなんて」
「はじめは世間話程度だったんだよ。勢いづいてた頃だったから俺も調子に乗っちまってよ。そのうちミーアを追放するって話になっちまって断れなくなっちまったんだ。金も渡されちまったしな。ホント馬鹿だったよ」
「そういう意味じゃ俺も変わらねぇな。ディートがしてたことも知らなかったし、セリーヌの話も聞かなかった。最低のリーダーだな」
「セリーヌ、大丈夫かなぁ」
「俺たちじゃどうすることもできないからな。祈るしかないさ。お前が心配しなきゃいけないのはカッチェだろ」
「カッチェには悪いことをした。もう合わせる顔なんかねぇよ。幸せになってくれることを祈るだけさ」
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