第47話 休息

「姫様、そろそろ帰りませんか」

「何言ってんのジャスティン。ここに来てまだ3日よ。まだ休んだうちに入らないわよ」

「溜まっているかもしれない仕事があるかと思うと心配で…」

「あなたねぇ、初めの頃は貴方が全部取り仕切っていたのは知ってたわ。私もあなたに任せておけば大丈夫だと思っていたから、任せっきりにしちゃったけど。でもパーティーの前あたりからあなた一人で全部なんてやってなかったでしょ。部下に仕事を割り振って、任せてたじゃないの。最後に報告だけさせて、悪かったところは次から直すようにって。それでいいのよ。それに最近の貴方の仕事って私の指示の割り振りと、私のスケジュール管理じゃなかった」

「それはそうなのですが…」

「私が休んでるんだから指示なんてある訳ないでしょ。それに私に休めって言ったのは、国王様やおじいさまたちよ。今の私のスケジュールは休暇、期間は未定、おじいさまたちからの緊急以外の仕事はしない。これが今の私がやる事。じゃぁ、貴方がやることは?」

「姫様と一緒に休むこと、ですか?」

「分かってんならそうしなさいよ」

「………そうします」

「仕事のこと考えるんじゃないわよ。思う存分リフレッシュして、戻ったらまたいつものに戻りましょうね」


ったくジャスティンったら。仕事のしすぎで中毒になってんじゃないの。仕事しすぎて死んじゃったらどうするのよ。

休み方まで教えてあげなきゃいけないのかしら。そう言えば屋敷で働いている人たちもあまり休んでなかったわね。今度順番に休みをあげないといけないわね。


**********


「サフィア、港に行かない?」

「行きます、行きます。エレンお姉様にも声かけます?」

サフィア…、アナタ『エレンお姉様』って…。

「そういえばエレンはどうしたの?」

「まだお休みになっています。昨日のお酒のせいでしょうか」

また深酒したのね。その後アンタが何かした訳じゃないわよね。

「休ませてあげましょう。いつも気を張って仕事してるんですもの、たまにはいいわよ」

「じゃぁ姫様と二人ですね。楽しみです」

「外に出たら『姫様』はダメよ。いい、私は『ミーア』だからね」

「はい。ミーアお姉ちゃん」

うーん、癖になりそうです。


「おじさん、久しぶり。お魚ある?」

「いらっしゃい。おっ?前に来たお嬢ちゃんたちだね。今日もお使いかな?」

お使いって…、おじさん。

「ま、まぁそんなとこなんだけど、それより魚ある?」

「うーん、ここんとこ水揚げが少ないけど、覗いてくか?」

「うん、見せて」

確かに前に来た時より少ないですね。

「どれが買えるの?」

「ここにあるものはみんないいぞ。最近値段上がってるけど、大丈夫か?」

「そっちは平気。じゃぁみんな貰うね」


他に4件のお魚屋さんを廻ったけど、みんな似たようなもんだった。

「サフィア、なんか変じゃない?」

「そうですかぁ。今は獲れない季節なんじゃないかと思いますよ。それよりあれ、食べましょうよ」

サフィアが指さした先にあったのは、魚を上げたものをパンにはさんだものだ。平たく言えばフィッシュ・バーガーね。

「お姉ちゃん、もう一つダメ?」

「1個にしときなさいよ。他で食べられなくなっちゃうわよ」

「それは困るけど、やっぱ欲しいなぁ」

「お土産で持って帰って、後で食べればいいじゃない」

「うーん、でもこのサクサクが……」

「大丈夫だから、チョット待ってて」

追加で20個買ってきましたよ。そんなに食べるのかって?まさか、そんなに食べたらさすがに太っちゃうからね。私たちのおかわり分ももちろんあるけど、別荘にいる3人の分と、フュールたち料理人の人たちにも食べさせたいからね。私の食生活の向上と充実は、最優先事項です。



「お姉ちゃんって凄いよねぇ」

「何が?」

「だって便利な魔法一杯使えるじゃないですか。いいなぁ、私もそういう魔法、使えたらいいのにな」

「サフィアは魔法使えるの?」

「使えますよ。いっぱい」

おっぱいじゃなくっていっぱいだそうです。おっぱいも私より立派だっていうのに。

「魔法がいっぱい使えるって…。そう言えば、私ってサフィアの事ほとんど知らないんだね。サフィアは私のこと着替えの時とかにさんざん見てるけど、私はサフィアのことは…、あっお風呂の時見たか。そうじゃないって。サフィアの能力のことだから」

「私もお姉ちゃんに話してませんでしたからね。話してもいいんですけど、ここではチョット。どこか2人っきりになれるとこに行きませんか?」

ん?この流れなんだ?サフィアはエレンを……。もしかして私まで……。

「お姉ちゃんどうかした?顔、赤いよ」

「な、なんでもない、なんでもない。そ、そうだよね、こんなとこでする話じゃないよね。ど、どこに行く?」

「???変なお姉ちゃん。向こうにいいとこがあったから、そこに行きましょ」

人通りの少ない通りに入っていきます。落ち着いたとか、静かな佇まいとか言うと響がいいですが、妖しいっていう感じがしない訳でもありません。そんな小路を進んでいきます。

サフィアちゃん、私をどんな世界に連れてってくれるのかな。お姉ちゃんって呼ばせているけど、私のこと分かってるよね。

「あった。ここだわ。一度来てみたかったんですよ。美味しく食べられる隠れ家的なとこって評判なんで」

やっぱり私、食べられちゃうのでしょうか。

「……ここは?」

「お魚料理の専門店です。他では食べられないようなお料理が食べられるんです。小さなお部屋で区切られているから、大事なお話もできるとこなんですって」

「そ、そうなのね」

「お姉ちゃんったら、何を想像してたの」


ホッとしたら急にお腹が空いちゃいましたよ。まったく、サフィアったら脅かすんだから。

脅かしちゃいないって?勝手に妄想膨らませて拗らせたのは私だって?そうですよ、私ですよ。

私ったらなんか溜まってるのかな。変な想像することあるし、盗賊さんたちに容赦なくなってきてるし。もっとこう、『キャーッ!怖いっ!』って震えてる女の子だったと思うんだけど。


「お姉ちゃん聞いて下さい。成人の儀の時にジョブが分かりますよね。私のジョブは【魔導士】なんです」

「魔導士?魔法使いの仲間?」

「魔法使い系のジョブの一番上だそうです。3つあって、魔法使い、魔術師、魔導士となっています」

「だから魔法が一杯使えるって言ったんだ。でも魔法って属性が合わないと使えないはずよね。魔導士って属性関係なしに使えるの?」

「そんなことないです。私だって私の適性に合わない属性の魔法は使えません。魔法使い系のジョブって魔法を効率よく使えるってご存知ですよね。お姉ちゃんだって魔法バンバン使てますから」

「私の魔法の使い方は特別だからね。あんまり参考にはならないよ。それに私魔法使いじゃないし」

「そうだったんですか。魔導士の話でしたね。魔導士っていうのは呪文詠唱省略、魔法即時発動などができます。あと魔力効率も魔法使いじゃない人が使う魔力の1割ぐらいですむんです」

「それ反則じゃん。あの長ったらしい呪文を唱える必要がなくって、魔力を魔法に展開する時間もかからないって事だよね。連続してバンバン使えるだけじゃなくって、相手が使ってきた魔法に合わせることもできるって事よね」

「そうですね、訓練次第でできるようになるって言ってました。でもお姉ちゃんだって呪文唱えてないじゃないですか。それにバンバン撃ってますし」

「それはね、前もって呪文を唱えておいてあるから、いつでも使えるんだ。バンバン使うのはそういう状態のものを幾つも用意しておけるからで、手順は普通の人と一緒よ」

「でも私は、お姉ちゃんが得意な動けなくする霧の魔法なんて使えないわよ」

「あれはね、水にマヒの毒を溶かして、それを霧にしてばら撒いてるだけだから」

「そうだったのね。てっきりそういう水系の魔法があるのかと思ってました、私の知らない」

「サフィアも水系の魔法が使えるんだ」

「私の特性は、基本4属性、火と水と風と土。それに属性上位の氷と雷。後は回復です」

「………魔導士にしてその属性。サフィアも私と同じ側の人って事ね」

「お姉ちゃんとは違いますから。私は正常範囲です。チョット範囲が広いかもしれないけど」

「でもそんなすごい魔導士だったら、お父様の伯爵様も喜んだでしょう」

「父も母もとても喜んでました。最高の魔導士だって。それで12歳の時に王都に来て、3年間魔法の勉強をしてました」

「王立の魔法研究所?」

「そこじゃないけどそんな感じのとこです」

「じゃぁ魔法のスペシャリストだね。スキルはあるの?」

「勉強をしているときにスキルが現れました。【スペルマスター】です」

「何それ。【火魔法】とか【土魔法】っていうんじゃないんだ」

「はい。【スペルマスター】って適性のある系列の魔法は全て使えるってものみたいです」

「じゃぁ何、サフィアは7系列の魔法全部使えるってこと?」

「そうですけど。でも使えるだけです。的に向かって撃ったことしかないんです。魔物とか敵とかには一切。だからこの間の時も何もできなかったんです」

「じゃぁ魔法の研究者みたいなんだね。実戦ができれば凄い戦力だわ。あっ、それじゃぁナジャフさんと一緒だわ、フフッ。それだけの素質があって、それでいて私側の人。もう決まりね」

「違いますって、私のは正常進化です」

「じゃぁサフィアは、私のこと異常だって思ってるって事ね」

「そうじゃないですけど…。苛めないでくださいよ」

「ごめんごめん。そんなつもりはなかったのよ。仲間ができたと思ったらつい嬉しくなっちゃってね」

「………」


「ところでお姉ちゃんって魔法適正って調べたことあるんですか?」

「ないよ。魔法使い系のジョブじゃなかったし、1年ぐらい前までは魔法なんて使えなかったし」

「今度調べてもらいましょうよ」

「えー、やだよ。だってさ、時間魔法や空間魔法が使えてるじゃん。って事は少なくとも適正はあるって事だよね。そんなことが分かってごらん、大騒ぎになるに決まってるじゃん」

「それもそうですね。大騒ぎになって、解剖されちゃうかもしれませんからね」

「か、解剖はやだな」

「私なら優しく調べてあげますから、お任せいただけません?」

「遠慮させていただきます」

「それは残念。私とエレン姉様の仲にミーア姉様も入ってもらいたかったのに。しょうがない、先にマリアンナ姉様に入ってもらって、その後で改めてミーア姉様に入ってもらうことにしますわ」

あぁ、マリアンナも狙われているのね。でもマリアンナってわりと硬いから、少しぐらいくだけてみるのも悪くないわよね。3人で攻められたら私の陥落は間違いなさそう。あぁついに私の世界が広がってしまうのね。



次の日もお魚を買いに行きましたが、やっぱり水揚げは少ないそうです。

魚のフライサンドはみんなで美味しく食べました。サフィアはびっくりしてました。出来立てが出てきたんで。

私も魚フライサンド作ってみました。久々に【料理】スキル全開です。【創造術】の効果も相まって、同じようなものを作ったつもりだったのにだいぶ変わったもの、いい方にかなり進化したっていう意味ですよ、になりました。評判は上々、味のバランスも絶妙な感じに落ち着いて、歩きながらチョット軽い感じで食べられるもののはずだったのが、王宮の軽食で出てきそうなものになってしまったのはナイショです。


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