第46話 一夜明けて

げっ!ヤバい。

うら若き女性、じゃない姫様の使う言葉じゃありません。うら若き女性も使っちゃいけませんけど。

そんなこと気にしてる場合じゃないんだって。とにかくヤバいのよ。

何がかって?説明してもらわなきゃ分かんないって?それもそうよね。私一人で慌ててても、そりゃぁ伝わらないわよね。

で、何がヤバいかって言うと、そう、皆様の予想通りスキルです。


えー、大方の予想通りではありますが、【人形遣い】が【ドールマスター】になりました。パチパチパチ。

何が変わったかって言うと、命令の受け口を自在に埋め込めるようになったって事。それだけって思うかもしれないけど、抗うものも制御できちゃうって事よ。時間を止めて好き勝手することは今でもできちゃうけど、相手を操ってあんなことやこんなこともできちゃうんだから。あと、受け口を通じてその人と意思の疎通ができるようになった。これって離れたところから私の思いを伝えることができるって事よね。思念交換テレパシーみたいなものじゃないかしら。そっちはそっちで研究したいけどね。まぁそんなもんです。


これだけだったらよかったんですけどねぇ。

錬金人形を作り続けた結果、ドールメーカーじゃなく、【錬金術】が正式にスキル化しました。また妙なスキルです。やってることは前と変わんないんですけど。材料揃えて『エイッ!ヤーッ!』やると、キュルキュルってなってポンッと出来上がる。変わんないね。実際はこんな感じなんだけど、細かく言うと『分離』『合成』『生成』『分解』『結合』『精製』『抽出』『攪拌』『成形』などの細かな操作をするのが錬金術なんだって。そんなことを人形造りで沢山やったんだから、まぁスキル化するわよね。

タダね、問題はもう一つ。見慣れないスキル【創造術】って言うのが増えたの。何かって言うとイメージしたものを作れるって事みたい。これもお人形さんの結果ね。ただこの【創造術】って錬金術の上位スキルなんだって。【錬金術】を身に付けてる人はいるけど、【創造術】はほとんどいない。だからヤバいのよ。


もう、何かするたんびにこれだからねぇ。諦めてますけど。


で、本命です。そうなんです、終わりじゃなかったんです。神様サービス良すぎです。

【時空魔法】がスキル化しました。ヒュー、ドンドン!

不思議なんですよね、魔法体系的には空間魔法と時間魔法なんですよ。属性的にも時間と空間です。なのにスキルは【時空魔法】。ね、変でしょ。

あの空間を繋げた時にアイテムのリストが見られるようになった時に何かあるって感じはしてました。

で、魔法のスキル化です。そうです。系列魔法全てが使えるようになるという、あれです。ただでさえヤバいやつだというのに、よりによって時空魔法ですよ。研究したくても研究できないと言われているあの魔法群。時間魔法と空間魔法のツートップです。

幾つかの魔法を紹介するね。みんなすごいんだから。

最初は、『亜空烈断』。これは今の空間に亜空間を重ねて、その亜空間をずらすことで今の空間にあるものを切断するって言う大技。戦争向きだね、使うことはないかな。応用ききそうだけどね。

次のは『空間転送』。これはある空間を別の場所に移動させるって魔法。『ジャンプ』みたいなんだけど、ジャンプの対象って私なんだよね。これの対象は範囲だから、まぁエリアジャンプみたいなもんかな。『ワープ』はゲートを開きっぱなしにできるんだけど、これはすぐ移動しちゃうから。ワープと違うのはマークしていないところにも行けるって事。試してないけどマルチマップで指定したところにも行ける気がする。

次は時間魔法行くね。えぇと、『時間停止』。時間魔法ってヤバいのが多いけど、これもその一つ。これってこの世界の時間を止める魔法だって。ね、ヤバいでしょ。魔法をかけた本人は動けるよ。あと指定した人ね。「この人は動いていいよ」ってやった人は止まった時間の中でも動ける。最初は2~3分ぐらいみたいだけど、使いこなしていけば1時間ぐらいは止められるっぽい。時間が止まった世界で自由な私は好き勝手やる。もう無敵確定だね。

まだまだいっぱいあるけど、最後にチョーヤバいの紹介するね。『巻き戻し』。時間を戻すことができるんだって。これも最初は数分みたいね。でもやり直すことができる魔法。今の記憶を持っているのは魔法を使う本人、つまり私だけ。他の人は巻き戻ったところまで記憶も戻る。未来を知って動くって事がどういうことか解るよね。首を刎ねられて死んだ人がいたとします。私じゃないよ。私が死んじゃったら巻き戻せないからね。そこで巻き戻せばまだ生きている。そのままにすればまた刎ねられちゃうけど、私は未来を知っているから刎ねられないようにすることだってできちゃう。ね、ヤバさマックスでしょ。


次は何やろうかなぁ。

そんなこといいから、さっさとやることやっちゃいなさいって。

しょうがない。


**********


「国王様、大公様、皆様。昨日の作戦、無事終わりました。容疑者と関係者の身柄は、誰一人逃すことなく全て押さえることができました。騎士団はまだ2個大隊と1個中隊が作戦行動中ですけど、概ね成功とみていいと思います」

「ミルランディアもご苦労だったな。其方の働きがなければこの闇はまだ続いていた。この国の全てを代表するものとして、あらためて感謝する。追って褒美を与えることとなろう」

「ありがとうございます。ただまだ終わったわけではございません。終わったのは強襲作戦だけで、これからがある意味本番といえると思います。30近いもしくはそれ以上の貴族が絡んでいます。侯爵から男爵まで、伯爵もかなりいるようです。取潰しや降爵、奪爵などの処分もあるでしょう。責任問題も出てきます。どれ一つとっても時間のかかる問題ですが、早くやらなければなりません。証拠が固まれば公開できることも多いと思います。証拠固め、急ぎましょう」

「そうじゃな。皆の者、もうひと頑張りじゃ。よろしく頼むぞ」

「姫様は少しお休みになってください。お披露目のパーティーが終わってからの1月半の間、働きっぱなしではありませんか。ここまで姫様にしていただいただけでも十分すぎます。この先はそれこそ私たちの仕事です。お任せいただけないでしょうか」

「お言葉に甘えるとするわ。私もちょっと疲れちゃったからね。少しのんびりしてきます」

「どこかへ出かけるのか?」

「うーん、ニールかなぁ。あそこのお魚美味しいし、また仕入れときたいし」

「気を付けて行ってきなさい。薔薇の園が壊滅して盗賊団にも動きがあるようだ。道中気を付けるのだぞ」

「道中なんかないって。マークがあるからワープでゲート開いてポンッだから」

「まぁそれもそうじゃな。だが、気を付けるに越したことはないぞ」

「分かりました。あっそうだ、連絡用のお人形さん置いとくね。何かあったらこれに言えば私に伝わるから」


**********


とりあえず自宅にご帰還です。

「姫様、おかえりなさいませ」

「えぇ、ただいま」

「お休みになられますか?」

「いいわ。それよりマリアンナとサフィアとエレンを呼んで頂戴」

「分かりました」


「姫様、どうなされました?」

「いやね、これからまたニールに行こうと思ってるんだけど、みんなも一緒にどうかなって思って。家の事なら少しぐらいジャスティンやマリアンナがいなくってもできるでしょ」

「姫様がいらっしゃらないとなれば、私たちがいなくっても大丈夫よね」

「じゃぁ決まりね。出発は明日。荷物はなくっていいからね。向こうで調達するから」


**********


「やっぱいいわねぇ」

「私もここ、好きです。暖かいし、お魚美味しいし」

「うんうん、じゃぁ何か食べに行こうか」


今回の目的は仕入れじゃありません。観光というよりはのんびりすることです。

「ねぇ、チョット思ったんだけどさぁ、こっちに別荘買っちゃおうか」

「別荘ですか。いいと思いますよ。姫様もここが好きなようですし」

「じゃぁ決まりっ。早速物件見に行こうよ」


いい物件?ありましたよ。中心からはちょっと外れてるけど、まぁ許容範囲内で、小高い丘の上にあるおうち。お庭も広いからいろいろ遊べそう。何とかって言う伯爵の別荘だったそうなんだけど、売りに出されたんだって。元々伯爵の別荘だけあって寝室は広いし沢山あるし設備も整ってる。ちょっと高かったけど私には問題ないからね。だってほら、薔薇の皆さんが私のためにせっせと集めてくださったんですもの。

いくらかだって?500よ。金貨500枚でした。ここら辺の相場だと100から200ってとこらしいけど、広さと設備と立地条件がいいからねぇ。即金ですよ即金。いつもニコニコ現金払いってやつです。金貨500枚積んだら数えるの大変そうだったから、白金貨5枚、サッと出しました。目丸くしてたけどね。


ニールの拠点をゲットしました。これでいつでものんびりできます。

「ねぇ、ちょっと考えたんだけど聞いてくれる?お屋敷の壁に扉を付けて、こっちにも扉を付けるの。そしていつもそこを繋いでおけば、ねっ、いいアイディアでしょ」

「姫様、安全上の問題があるのでダメです」

「ブーっ、けちっ。じゃぁこっちの家の安全性が十分だったらいいって事?」

「そうですね。私たちが安全だと判断できればいいでしょう」

「じゃぁ次の目標はそこね。目指せ『隣の部屋はリゾート別荘』計画!」


何の目標なのでしょうか。安全対策だなんて。安全対策ってもしかして、んっ、あれのこと?魔法や普通の攻撃に対して自動的に障壁を展開したり結界を張ったりするっていうアレ?


ま、好きにさせてあげましょう。ミーアはこうしてる時が一番幸せそうなんだから。



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