第45話 クロラントの攻防(後編)
「盗賊団『薔薇の園』の掃討作戦は、一人の負傷者も出すことなく完了いたしました」
「ミルランディアよ、もうちょっと頻繁に連絡を貰えんかのぅ。ここじゃと状況が何もわからない中でただ待つだけなので、皆不安なのじゃ」
「それじゃぁ連絡用のお人形、置いときますね」
煽情的な娼婦のお姉様、どこにでもいそうな町娘、怪しげな老婆、ドジッ娘メイド、私のコピー。5体用意しました。
「どれにします?」
「ミルランディアそっくりのがいいかのぅ」
「私が帰って来た時に間違えたら承知しませんけど、いいんですか」
「でも何で普通のがいないんじゃ」
「ただの連絡係ですよ。どんなんだっていいじゃないですか。このグラマーなお姉さんにします?」
「いや、この町娘風のでいい」
じゃぁこの娘を連絡係として置いときますね」
「それから、薔薇のアジトを捜索していた時に、こんなものを見つけたんです」
書類の束をテーブルに広げました。
「これは、今迄に攫った人の名前と出身、買った人の名前に金額まで。決定的な証拠じゃな。他にもいろいろあるのか。分かった、これはこっちで調べさせよう」
「お願いしますね。これよりもっと大量の書類が侯爵と子爵の家から見つかるでしょう。店もありますね。それも持ってくるんで調べてください」
「儂の親衛隊はどうするのじゃ」
「大公様の親衛隊と私の護衛部隊はそろそろ送り込もうと思います。直前に急に増えても怪しまれますから。旅人を装ってください。怪しまれないことが大切です。武器は強襲の1時間前にこことここ、あとここに置きますので、受け取ってください。軽鎧に盾、剣、槍、弓、こん棒などを入れておきますから、適当に使いやすいものを使ってやってください」
「ミルランディアの親衛隊はどうするんじゃ」
「私のは亜空間経由で送ります。ただの動く人形ですから亜空間に送ることもできるんです。50体ぐらい送ればいいかなって思ってますけどどうでしょう」
「どれぐらいの強さの者を送るんだ」
「ルーファイス王子はご存知と思います。あの時の模擬戦のメンバーに後衛で魔法使い兼弓士を加えた、1個小隊5体のチームとして10チーム、10個小隊を送ります」
「どれぐらいの強さなんだ」
「えー、あの時は確か…、大柄の戦士と盾持ちのタンク、機動性に特化した軽戦士にかなり腕の立つ剣士の4人で、一線級の近衛兵10人と組織的にやって、なんとか勝てたという感じです。近衛兵は10人で魔法有り、一方姫の方は4人で魔法なしでしたから、実質的には惨敗です。それに後衛の魔法使いが加わるのですから。姫の親衛隊は近衛兵の訓練を手伝ってもらっています。強さについては申し分ありません」
「それが10個。1箇所にか。全部で200体、姫は大丈夫なのか」
「それぐらいなら問題ありません。まぁ1000を超えるとちょっときつくなるかもしれませんが」
**********(side 金色の月光)
「セリーヌ、今回の仕事はどうするんだ」
「ごめんなさい」
「そうか、まぁいい。今度気晴らしにダンジョンでも行こうな」
「うん、待ってる」
今回の護衛もセリーヌ抜きの3人だ。まぁ問題ないだろう。
「妻もクロラントに戻るし、いい機会だから私も一度帰ろうと思う。皆と一緒の旅を楽しみにしているぞ」
今回の商隊には奥様と侯爵様ご自身も加わるそうです。
「向こうで1週間ぐらいゆっくりしてから戻るので、それまでクロラントにいてくれないか。クロラントにいる間は私の客人として領主邸に泊まるといい。食事もいいものを出すぞ」
「よろしいのでしょうか。ならそのお言葉に甘えさせていただきます」
「セリーヌ、帰りが少し遅くなるけど心配しないで。侯爵様と一緒だから。今回ね、侯爵様も一緒に行くんだって。1週間ぐらいゆっくりしてから帰るんで、帰りの護衛もあるの。だから向こうにチョットだけ長くいることになるの。大丈夫だから、ねっ」
今回のキャラバンも何もない平和な旅だった。いつもと同じようにアルンドで2泊して、アルンドでは2台の馬車が合流してクロラントへ向かう。侯爵夫妻が同行するとあって緊張したが、無事クロラントに入った。
「なんかずいぶん人が多いですね」
「そうだな、近くこのクロラントで大きなオークションが開かれるからな。交易の街クロラントでは時々あるんだ」
「それでですか。貴族の方やお金持ち風の人が多いのは。俺たちも見てみたいですね」
「構わんぞ、これが案内状だ。これを見せれば入れてくれる」
「ありがとうございます」
「いつもの宿はキャンセルしておけな。じゃぁ後で領主邸に来なさい、待っておるからな」
**********
「商隊の馬車がクロラントに入りました。アルンドで合流した馬車には予定通り、いや予定より多いな、20人がいます。A5、B7、C8です」
「Bが7ということはどこかで2調達したって事か」
「そうなりますね。で、トータルAが11、Bが11、Cが13の35です」
「かなりの数だな。引き続き監視を頼むぞ」
いよいよメインディッシュが近づいてきました。奴隷オークションが始まるのは夜の7時、終わるのが10時過ぎ。突入は9時半を予定しています。
現在の時刻は午後6時、会場の建物に人が集まってきます。あのリストにあった人たちです。顔を確認すると作りっぱなしにしてあったあの人形を指さしてだれがきたか教えます。教えてるのは連絡用の娘ね。
私はというと、最終確認のためにおじいさまの親衛隊と私の護衛部隊の所に行ってます。時間合わせですね。作戦開始時刻9時半というのを確認します。
今日のオークション参加者は33名。前回より増えています。前回見なかった顔は5名です。新たに5体の人形を作ります。手慣れたものですね、ちゃっちゃと出来ます。
「拘束した人たちはどうやって王都まで連れてきます?魔法で連れてきちゃいますか?」
「いや、罪人として連行しよう」
「じゃぁ檻付きの馬車用意しといてください。オークションの参加者が33にあの2人、領主邸にいる人も全員ですか?」
「いや、家族と重鎮だけでいい」
「商会の関係者は」
「幹部と、後は護衛だな」
「護衛もですか?」
「ああ、彼女たちの運搬を手助けしたのだからな」
「そうですか」
「どうした、何かあるのか」
「いや、知り合いだったもので。昔のパーティーなんです」
「辛いかもしれんが割り切ってもらえんか」
「そうですね。いくら知り合いといっても悪事に加担したのですから閥は受けなければなりませんね。罪を償えばいいだけですよね」
「そうじゃな、関わり方次第じゃが罪が軽くなることもあるようだしな」
「会場付近の護衛などを含めると全部で100ってところでしょうか」
「それぐらいになってしまうな。10人収容の馬車を10台用意しておく」
「もう1台お願いします。ミルデュース子爵の所からの移送もありますので」
「そちらへ回す騎士1個中隊も準備させておこう」
「そろそろ時間です。この作戦の最後を締めてきます」
突入の時間です。中ではAランクの娘のセリで盛り上がってます。
親衛隊200体を各拠点に送ります。
さぁ、祭りの始まりです。
「突入しろ!第4大隊は周囲に展開、逃げてきたやつを捕らえるんだ。第2大隊は会場内に突入せよ。第3大隊は建物を制圧しろ。魔法大体の半分は第2大隊とともに突入、残りは第3大隊と共に建物の制圧に回れ!急げっ!」
「うわぁ、何もんだ」
「大人しく投降しろ。ここは我々が完全に包囲した。無駄な抵抗は死ぬだけだ」
会場の中はてんやわんやです。でも出入り口を固めた魔法隊と会場内の制圧に向かった騎士隊の動きは素早く、参加者の身柄は程なく全員押さえられました。
「サウムハルト侯爵とミルデュース子爵が見当たりません!」
「私が行きます。エレン!」
「私も行こう。第一中隊長と副長、私についてこい」
2人は隠し通路の先にある、これまた隠し部屋に身を潜めています。
「一体何が起きたんだ」
「チラッとしか見えませんでしたが、騎士団が乗り込んできたようです」
「そんな者たちがこの街に入ったという報告はなかったぞ」
「あの手慣れた動きは間違いありません。あれだけの練度となると恐らくは王都の……」
「第1か」
「はい」
「それにしても何でここが分かったのだ。内通者でもいるのか」
「内通者の線は薄いと思います」
「内通者でないとなると、薔薇か」
「可能性はないとは言い切れませんが、時間的に難しいのでは。今回奴らは、ぎりぎりまで集めてそれを送ってきてます。集めてる最中に発覚したら送れないでしょうから、あれを送った後ということとなると、あれだけの部隊を動かすには時間が足りません」
「とにかくここから逃げるぞ」
「今出るのは難しいのでは」
「出てしまえばなんとでもなる。今ここで捕らえられるのは絶対に拙い。地下通路から下水道に出られる。そこを進めば街中に出られる」
「こっちです。急がないと動き出しそうです」
「分かった。って、行き止まりじゃないか」
「ここをこうすると……」
「隠し通路か。よく分かったな」
「冒険者ですから。これぐらい見抜けなきゃやってられませんよ」
「先を急ごう」
「この奥にいます」
「この奥って………。隠し扉か」
「そうです。団長が開けますか?」
「いいのか?」
「構いませんよ。結果が良ければ何でもいいんです」
「では開けるぞ。お前たち、突入の準備をしておけ」
「急いでっ!奥に抜ける通路があるみたい。逃げられる前に身柄を押さえるわよ」
2人の身柄を確保して、オークション会場での捕り物劇は終わった。
オークションにかけられていた女性33人も全員保護された。
「後はよろしく。私はもうひと仕事してきますから」
**********
領主邸を強襲した私の親衛隊、10
「サウムハルト侯爵夫人、お久しぶりです。パーティーの時にお越しいただいて、ありがとうございました」
「あぁ、ミルランディア姫様。これは一体」
「今ここで詳しくはお話しできませんが、侯爵様が事件を起こしました。誠に遺憾ではありますが、ご家族様の身柄も拘束させていただきます」
「夫は、侯爵は何をしたのでしょうか」
「ここでお話しすることはできません」
「私たちはどうなるのですか?」
「どのようになるかはわかりませんが、王都へ送られます。侯爵様のご家族全員と執事長及びこの街の管理を行って来た役人たちですね。後、ロレント商会の者も送られると思います」
「何をするんだ、俺たちはここに泊めてもらってるだけだぞ」
ローデの叫び声が聞こえました。気が重いけど行くしかありません。これが私のけじめです。
「久しぶりですね。このあいだ会ったのもこの街でしたね」
「ミーア、助けてくれよ。何が何だか分かんないんだ。いきなり入ってきたと思ったら急に押さえつけられて」
「ローデ、いやローデヴェイク。今の私はミーアではありません。ミルランディア・ヘンネルベリです。今回、この町を舞台にして引き起こされたこの国の大事件を解決するために私は来ました。あなたたちが何を知っているかは知りませんけど、貴方たちは犯人側の関係者で、この事件に関わった犯罪者なのです」
「何言ってんだよ、ミーア。俺たちはただ………」
「ディートヘルム。ミルランディア姫とお呼びしなさい」
「ミルランディア、姫。俺たちは商隊の護衛でここに来ただけなんだぜ」
「その商隊が問題なのです。これ以上お話しすることはできません。釈明は王都での取り調べで行ってください」
「姫様、助けてください」
「口添えはできるかもしれませんが、ディートヘルム、貴方は分かっていますよね。そしてローデヴェイク、貴方も」
「……………」
「ディート、ねぇ、貴方何か知ってるの?」
「……………」
「逃げても無駄です。今この街に入っているのは王都の守護隊である第1騎士団です。あなたたちが逃げ出せば国中のギルドに通達が回ります。大人しくしていた方が身のためだと思いますよ。それではまた」
「「「ミーアっ!!」」」
辛いです。辛すぎます、こんな役回り。特にカッチェ、彼女が何も知らないっていうのは本当だって分かってるんです。本当に何も知らずにただついていってるだけなのですから。でも彼女だけ甘やかすわけにはいきません。責任は平等に追わなければなりません。
王都の2つの屋敷には騎士団の総長2人に行ってもらいました。強襲でバタバタしたそうですが、程なくいうことを聞いたそうです。
ミルデュース子爵の街の屋敷にも私が行きましたよ。かなり激しい抵抗を見せたようでしたけど、大きなたんこぶと痣を幾つも作って大人しくなってました。
でもここでちょっとした誤算がありました。あのデブ、すんげぇ大家族だったのね。何と奥さんだけで10人、子供が23人。どれだけ好きもんだっちゅうの。追加の馬車3台、慌てて用意しましたよ。護送にあたる1個中隊と共に送り届けて、こっちは終わりです。じゃなかった、まだ家宅捜索が住んでなかったんだ。証拠書類を押収しないといけないからね。っていうか、わんさか出てきやがった。大事に取っといてくれたから、私たちとしちゃぁ助かるんだけどね。証拠を分析する皆さん、頑張ってください。
クロラントのサウムハルト邸、王都のサウムハルト邸、ミルデュース邸の家宅捜索も終わり、作戦は終了です。護送部隊の護衛にあたる第4大隊とクロラントの治安維持のための第3大隊を残して、撤収です。私の親衛隊はもうお役御免なので消しました。
あーあ、疲れた!報告は明日でいいよね。
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