第44話 クロラントの攻防(前編)
「ジャスティン、暫く家開けるから。王宮にいるわ。何かあったら王宮まで知らせて頂戴」
「お泊まりも王宮で」
「そのつもりよ。フュールに私の食事は用意しなくていいといっておいてね」
王宮の会議室に集まったのはこの国の中枢を担うそうそうたるメンバーです。私ですか?場違い感満載です。
国王様、大公様、リオンハイム王太子、ルーファイス王子、サミラージュ宰相、ナジャフ公爵、騎士団総長、魔法騎士団総長、第1騎士団団長、第1魔法騎士団団長、そして私。ね、違和感あるでしょ。
こんなとこ敵に狙われたら大事よ。国が傾いちゃうかもね。
「ミルランディア、始めてくれ」
「初めての人もいるので、概要からお話しします。現在この国のあるところで、この国では認められていない奴隷の売買が行われようと準備が進められています。実は3か月前にもこの情報は掴んでいました。ただこの時は十分な準備が出来ず、下手に手を出して逃げられても困るので、情報を集めるにとどめました。前回奴隷オークションに参加した者たちのリストはそこにあります」
「こんなに多くの者が関わっているのか」
「今のところ分かっている情報は、主催がローレンス・サウムハルト侯爵で準備などを取り仕切っているのがラフィンドル・ミルデュース子爵、人攫いをして奴隷にしているのが盗賊団『薔薇の園』。『薔薇の園』は他の盗賊団から奴隷となる人を集めているようです。リストにある伯爵7名、子爵9名、男爵7名、商会長7名は買いに来た人たちです。売り出される奴隷はすべて女性。AランクやAグループと呼ばれているのは貴族の血が入った女性たち。妾の娘とかが多いようです。お嬢様もいらっしゃるようですが。平民として暮らしている元貴族の娘なんかも狙われているようです。Bランクは平民ですね。ただ
「これほどの情報を集める力があるというのに、なぜ今まで手をこまねいているのだ。奴隷売買は死罪まである重罪だぞ。証拠を付く付けて締め上げればよかろう」
「皆さま同じ反応なのですね。今、『証拠』とおっしゃられましたが、何があるのですか?」
「奴隷を買ったのだから、それが証拠だろう」
「でも買った方は『新しい使用人だ』と言いますよ」
「買われた方から聞けばいいじゃないか」
「自分たちは使用人だと思い込まされています。オークションの場だって新しいご主人様に拾ってもらうためにアピールする場所ぐらいにしか思ってません。自分は奴隷じゃないと思ってる彼女たちに、『お前たちは奴隷だ』なんていったって協力してくれるはずがありません。それにサウムハルト侯爵はオークションを『困っている女性たちを新しい主人と引き合わせる場を設けているだけ』と言い切るぐらいですからね。中途半端な証拠じゃ丸め込まれて逃げられるのがオチです」
「……………」
「知に長けた連中ですが、絶対に逃げられないタイミングもあります。オークションを行ってる最中、つまり現行犯です。オークションの最中に同時に踏み込みます」
「同時とは」
「会場内はもちろんのこと、逃げ出したものを捕らえるために周辺の警戒。会場はクロラントという街にあります。その町はサウムハルト侯爵家の領地でもありますので領主邸というか侯爵邸、この件に大きくかかわっているのがローレンス侯爵が経営しているロレント商会、私たちの動きを邪魔しようとするであろう街の衛兵。更には王都のサウムハルト侯爵邸とミルデュース子爵邸、子爵が治めている町の領主邸もですね」
「そんなにか」
「はい。特にサウムハルト侯爵とミルデュース子爵に関わる者は全て取り押さえる必要があるかと思います」
「盗賊団はどうするのだ」
「『薔薇の園』は事前に潰します。でもまだ手を出すタイミングではありません。侯爵が今一番気にしているのは数です。少し前に掴んだ情報ではAとBがかなり足りないようでした。一応補充はさせましたが。侯爵としては商品である彼女たちが無事にクロラントに届くことが第一です。なので、ここ(『薔薇の園』のアジト)を急襲するのはコッチ(奴隷が集められる拠点)に移送した後になります」
「そんなまどろっこしいことしてないで早く潰してしまえば、女たちを助けられるじゃないか。直ぐにでも向かうべきだ」
「騎士団長、最後まで話を聞きなさい。貴様の部隊がこの作戦の最大の戦力になるのだぞ。その長がそんなことでどうする。我々が一致団結して立ち向かわなければならぬ敵なのだ。そもそも貴様らはこのような事態が起きていたことさえ知らなかったではないか」
「申し訳ございません」
「とにかく今は侯爵たちに気づかれることなくオークションを開かせることが重要です。なのでアジトを叩くのは移送の後、コッチの集めてるとこはアルンドへ立った後になるわ。アジトも集めてるとこも洞穴よ。中に攫われた人がいるかもしれないから気を付けてね。いきなり大型の魔法をバンバン打ち込んじゃダメよ」
「総長、どれぐらいの規模を考えておる」
「盗賊団の方は騎士団2個中隊、いや3個中隊、魔法騎士団1個中隊を考えています」
「総長、それだけを出すとなれば、兵站部隊1個中隊も必要です」
「全部で5個中隊か、かなりだなぁ。盗賊団相手に気づかれずにできるのか」
「部隊の派兵、4個中隊については私がお手伝いします。兵站部隊は不要です。即戦闘ができるよう準備をお願いします」
「姫様は何をなさるのですか」
「私の魔法で、王宮の訓練場とアジトを繋ぎます。ゲートを潜ればアジトの目前、即戦闘となります」
「そんなことができるのですか」
「この力を使うのは今回だけですからね。この国のスキャンダルを潰すため、そして被害者を救うためです。戦争では絶対に使いませんから」
「もったいない……」
「馬鹿言っちゃいけない。元々この件は私と大公様、ルーファイス王子、ミルランディア姫の4人でやっていたものなのだ。もっと言えば姫1人のお力でケリをつけられるのだ。ただそれだと後にしこりを残すこともあるかと思い、騎士団を招聘したのだ。姫が全ての力を使えば、騎士団など壊滅だ。この国さえひっくり返る。姫のお力はそういうものなのだ」
「オークション会場への急襲について話してもいいですか?第1騎士団と第1魔法騎士団の皆さんは会場の強襲にあたってください。私も参加します。ロレント商会は私の護衛を当てます。クロラントの衛兵はおじいさま、じゃなかった大公様の親衛隊でお願いします。王都の屋敷と領主邸は私の親衛隊に当たらせます」
「姫の部隊が多すぎやしないか」
「私の親衛隊といっても、私が操る人形部隊です。ご心配なく。それにこのお人形さんの親衛隊、疲れることもないし、凄く強いですから。それより大公様の方は大丈夫ですか?」
「存分に使ってやってくれ」
「で、騎士団長お二方は現地に入られますか?」
「もちろん行く。第1騎士団は1個大隊、場合によっては2個大隊の投入を考える」
「私も入ります。第一魔法騎士団も1個大隊の投入をお約束します」
「私も行きますね。現地での指示は私しか出せないと思うので」
「姫様の護衛は如何いたします」
「とっても優秀なのがいるから。彼女を連れて行くから大丈夫よ。それに聞いたでしょ、私は強いんだから」
「姫、過信は禁物ですぞ」
「他の人は、作戦が始まったらここで待機ね。国王様と宰相様は普段通りにしていてください。感づかれてはマズいので。何かあったら知らせに行きますね」
「総大将はミルランディアでいいな」
「総大将は大公様でお願いします」
「分かった。では改めて。これより本作戦を開始する。皆の者、心して当たれ」
**********(side 薔薇の園)
「おいお前ら、表にある馬車に乗るんだ」
「お願いです。着るものをください」
「お前らにそんなものは必要ねぇ。サッサとするんだっ!」
「どこにに行くんですか」
「お前らは知らんでいい」
演技力付いてきましたねぇ。君たちはもう立派な女優さんですよ。
アジトから移送されたのは、Aが4名、Bが5名の計9名でした。Cの11人は残されたままです。Cは増えてたんですね。確かこの間は7~8人だったはずですから。
馬車は森の中を進んでいきます。この調子だと3日ぐらいで向こうのアジトに到着しそうです。
『明日、作戦のその1を開始しましょうかね』
**********
「薔薇の園のアジトから移送が始まりました。3日ぐらいで向こうのアジトに到着しそうです。なので明日、メインのアジトを強襲します」
「騎士団の準備はできておるか」
「第1騎士団3個中隊、第1魔法騎士団1個中隊の出撃準備、整っております」
ではでは、私の最終準備を始めると致しますか。何をするのかって?決まってるじゃないですか、お宝のゲットです。
「おぉ、ありますあります。こんなにたくさん襲ったって事ですね。ホンマモンの悪党ですから、容赦なく、遠慮なく頂きます。
マジックバックを取り出して、コッチは亜空間、ソッチは宝部屋に繋ぎます。そう言えば最近、部屋と繋いだ時に部屋の中にあるものの一覧が出るようになったんだよね。金貨何枚、白金貨何枚、ダイヤ何個、ルビー何個みたいに。前はこんなのなかったから、って事は進化したって事?まいっか、便利になったわけだから。
先ずお金とか宝石の類ね。これを根こそぎ頂いてっと。
これだけの作戦を計画・立案・実行するとなるといろいろかかるのよ、経費が。って嘘です、ごめんなさい。経費なんかほとんどかかっていません。情報収集も分析もみんなマルチさん。お人形さんの演技、演技指導もマルチさん。全部マルチさんですからねぇ。マルチさんは私だから、マルチさんの働きの分、私が受け取っておきます。うーん、さもそれっぽく言ってみたけど言い訳っぽいですね。分かりました、素直に言います。私が欲しいんです。これでいいでしょっ。
お隣の武器庫に、さらにその先の道具部屋。魔道具もいっぱい貯まってるし業物の武器もあります。それらもゲットです。
悪党が集めたお宝を根こそぎ持ってくって、私が本物の悪党じゃないかって?前に言ったわよね、善人から奪うのが悪党、悪党の者を奪ってもそれは悪党じゃない。『薔薇の園』は悪党、薔薇は私のために集めてるようなもんだから、私が貰ったってかまわない。悪党の者を私が横取りするんだから、私はセーフだよね。
ボス部屋を覗くと、ラッキー誰もいません。
早速奥の宝部屋に繋ぐと、現金は少なめですが、宝石や魔道具がいっぱいです。宝石なんかみんな大きいの。凄い価値がありそうね。とりあえずここもゲット、ゲット。よし、全部なくなったね。
あれっ?何かリストに残ってる。『書類』だって?
そんなものは見当たりません。でもリストにはある。リストが間違ってるとは思えません。ということは、隠し部屋か。でもどうやって探そう。
怪しそうなところを探ってみますが見つかりません。でもボスが隠すような書類です。きっと何か重要なことがかかれてるに違いありません。
「ド・コ・ニ・ア・ル・ノ」
無意識に指先でリストの書類と書かれたところを叩いていました。するとボーっと明るく光るところがありました。
こんなの今までなかったよね。ここにあるのかな?
調べてみるとやっぱりありました。隠し扉です。開け方なんか知りませんが、マルチさんを送り込むことぐらいはできます。ということは空間もつなげられる。
非常にヤバい書類でした。今まで攫った人の一覧。買っていった人の名前まで書かれています。私の名前もありました。なになに、私を買ったのはナジャフ公爵になっています。謝礼を渡して身柄を引き取った、代金を払って商品を受け取った。捕らえように寄っちゃぁ同じかもしれませんね。さらにこれから攫う候補の一覧もあります。メアリーの名前もありました。やっぱり狙われていたんだね。
そうか、このリストはオークションに参加した人の弱みを握るためのものなんだ。薔薇が大っぴらに悪事を働いても、こいつらが何もしないので、やりたい放題だったって事なのね。
そしたらボスの部屋にも何かあるのかな。早速繋いでみます。目ぼしいものはさっさと頂いて、リストと睨めっこしてみると、ありますねぇ書類。なんだか分かんないけど、とりあえずいただいておきます。後で確かめればいいからね。
頂くものは全て頂いたし、あとは明日の作戦の確認です。雑居房にCが11人、独房には誰もいません。騎士団2個中隊と魔法騎士団2個小隊を突入させて、残りは周辺の哨戒。入口付近の雑魚部屋の制圧は……、魔法をぶち込んでいいや。バンバンぶち込んだ後なら騎士隊2個小隊ぐらいで完全制圧できるでしょ。その後先に進んでいって、牢屋の入り口のことろで一度陣を張る。独房の方は誰もいないと思うけど一応確認させて、雑居房を制圧する。捕まっている11人を保護してから進攻再開っと。幹部部屋、食堂を制圧して、最後ボス部屋を制圧してお終いっと。やっぱ最後はボス部屋じゃないとね、締まらないからね。
終わった後1週間ぐらいは騎士1個中隊で引き続き哨戒だな。外に出てる下っ端が戻ってくるかもしれないからね。
「姫様、準備が整いました」
「それじゃぁ、さっき話した通りにやるよ。いいね」
「「「「「おぅ」」」」」
「じゃぁ行ってきます。ワープ」
私に続いて騎士隊、魔法隊がゲートを潜ります。みんな恐る恐るだね。でも目的の場所が目の前に見えた時は興奮してたね。
「それでは突入します。騎士団長は突入組を纏めて指揮して。哨戒組の指揮は魔法団長お願い。私も突入するからエレン、ヨロシクね。目標は全員解放、完全制圧、死傷者0。いいねっ!突撃っ!」
流石は騎士団の中の超エリート集団。誰もが憧れる第1騎士団の面々です。無駄のない動き、圧倒的な力量。盗賊がまるでゴブリンのようです。魔法隊の威力も半端じゃありません。1個小隊で火魔法と風魔法を使ったら、大部屋がまっ黒焦げですよ。壁も天井も、中にいた盗賊たちも。騎士隊の制圧は要りませんでした。後は予定通りです。完全殲滅をしたかったんですが、騎士団がそれをやっちゃうといろいろ問題があるらしくって、命乞いをしてきた者たちは捕らえて縛り上げてました。鉱山送りにでもするのでしょうか。そう言えば鉱山も人手不足って言ってたような気がします。幹部クラスは全員賞金首ですからね、騎士団が捕らえたんじゃ賞金は出ないかもしれないですけど、ギルドに連絡ぐらいはしないといけないからね。
「お久しぶりね、『薔薇の園』のボスさん」
「お、お前は」
「そう。前にチョットお世話になったわ。覚えててくれた?」
「あの時の女か。なんでお前がここにいる」
「ヤダわ。知らない仲じゃないんだから挨拶ぐらいって思うのは普通じゃない」
「これはお前がやったのか」
「そうよ。私を攫ったからって言うのが直接の理由じゃないんだけどね。私を怒らせたってとこかな。悪いのはあの貴族だから。アンタたちはそのとばっちりを受けたってとこよ。ただ、私の友達に手を出したって事は絶対に許さないけどね」
「俺たちはミルデュースに言われてやっただけだ」
「でも、紛れもなく盗賊でしょ。悪もんだよね」
「人攫いだって全部アイツの指示さ」
「でも直接手を下したのはアンタたち」
「……………」
「悪いことに手を染めず、一生懸命生きている人たちから金品を巻き上げるのもアンタたち。その上命まで奪って」
「……………」
「今すぐここで殺すって事もできるけど、一連の事件の首謀者の一人って事で後でお仲間と一緒にしてあげるから」
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