第43話 商品集め

「おじいさま、サウムハルト侯爵に動きがありました」

「侯爵というより侯爵の商隊なのですが、アルンドの街で合流した馬車に例のモノとみられる女性がいました」

「アジトは分かるか」

「分かりません」

「いつ頃分かるか」

「今の商隊がクロラントから戻ってくるのが4~5日先ですから、それから追いかけます」

「ミーアが攫われたとこか?」

「違うと思いますよ。あそこからアルンドだと1週間ぐらいかかりますから」

「人数はどうなんじゃ」

「15人ぐらいいます」

「ミーアの話だと来月と言ってたんじゃろ」

「そうですね。あの時3か月後って言ってましたから。もう2カ月たったので、来月かと思いますよ」

「引き続き監視を続けてくれないか」

「分かりました」


「ローレンスの奴め、次は尻尾を掴んでやるからな」


**********


「ねぇジャスティン、お隣の男爵、えーと、なんて言ったっけ」

「ストラビン男爵様ですか」

「そうそう、そのストラビン男爵ってこの間来てたっけ」

「はい、お見えになられていました」

「じゃぁ挨拶はいいね。反対は何とかって言う商会長だっけ」

「ラヴァン商会の商会長、ジョルジーヌ・ラヴァン様です」

「ちょっとそっちに挨拶に行くんで、一緒に来て」

「ラヴァン商会なら御用聞きが来ますが」

「御用聞きじゃダメなのよ、商会長じゃなきゃ」


せっかくお隣さんになったんだからねぇ、挨拶ぐらいしておかなきゃ。

「この間のティーセット、まだあるよね」

「はい。お持ちになりますか?」

「持ってって。引っ越しの挨拶だから」


すっ飛んできましたよ、商会長さん。姫自ら挨拶に来るなんて、そりゃ大事件だからね。とはいえ、私は穏やかにあいさつしましたよ。

それからメアリーって女の子が出てきたの。これがまたかわいい子でさぁ、エレンを連れてこないでよかったよ。『遊びに来てもいいよ』って言ったら喜んでた。お花畑と森しかないんだけどね。あっ、プールもあるか。

お隣さん同士仲良くやっていけそうです。こういうの大事だからね。


**********


「おじいさま、ちょっと」

「ん?またサウムハルトか」

「はい。ミルデュース子爵との話です。商品が足りないといってました。Aが4、Bが6だそうです」

「AだのBだのって言うのは何だ」

「Aは貴族の血を引いたもの、Bは平民みたいです。で、賞品のリストって言うのをミルデュース子爵に渡してました」

「中は見えたのか?」

「いいえ、開けませんでしたから。ただ急がせるといってましたから薔薇が動くのではないかと」

「見ていくしかないのか」

「おじいさま、こちらから仕掛けてみては如何でしょう」

「ダメじゃ、お前を危険な目には合わせられん」

「私じゃないですよ。お人形さんです。彼らに囮をやってもらうのです」

「どうするのじゃ」

「貴族の娘4人を作ります。名前は適当でいいです。ありそうな名前を付けておけば。男爵の娘ぐらいの設定がいいかもしれないです。妻の娘だと噂になった時困るから、妾の子がいいですね。護衛兼御者の女性冒険者4名。1台の馬車に乗せて王都を出発させます」

「それを狙わせるというのか」

「そうです。奴ら、商品となる女が足りないって言ってますから、きっと食いつくはずです」

「護衛は殺されてしまうんじゃないか?」

「そうならないようにかわいい女の子にします。こっちも商品になるようなのをね。Bだと思いますけど」

「それでミーアは大丈夫なのか?」

「私はここに居るんですよ。安全です」

「そうじゃなくてだな、気持ちというか、心というか。前に売られた女性を追跡していて、気分が悪くなったことがあったじゃろ。それは大丈夫かということじゃ」

「多分平気だと思います。今度はこっちが仕掛ける方ですから」

「いつやるのじゃ」

「薔薇が動き出してからですから、4~5日経ってからですね。馬2頭と馬車を用意してほしいんですけど」


**********


「動いているのか」

「はい。ただ、Aは簡単には集まらないと……。Bは多めに集めておけと言ってあります」

「街道もこまめに見張るように言っておけ」

「急がせてますから、そのようにしてるかと」

「他の準備は大丈夫なんだろうな」

「通知は届けました。会場は確保してあります。前に送った分は地下で保管してあります」

「問題は数か……」


**********


「侯爵や子爵、薔薇が焦り始めました。今なら囮に食いつくと思いますけど」

「本当に大丈夫なんだな」

「はい。囮にする人形はこれです」

12歳から18歳ぐらいのドレスを着た娘が4人、18歳ぐらいの駆け出し風の女性冒険者4名を作った。ラルファス男爵の娘たちとその護衛ということで。もちろんラルファス男爵なんていませんけど。

「これは本当に人形なのか?」

「ただのお人形です。このままじゃ動くこともできません」

「見れば見るほど本物じゃな」

「本物のように作りましたからね。これでよければ動くようにしますけど」

「じゃぁ、始めてくれ」


囮作戦の開始です。薔薇の活動範囲は大体わかっています。王都からベルンハルドへ向けて馬車を動かします。

早速餌に食いついてきました。よっぽど焦ってたんでしょうね。

「おいっ、止まれ」

馬車を静かに止めます。

「金目の物を置いていきやがれ」

「アンタたち何よ。こっちは貴族よ。痛い目にあいたくなかったら去りなさい」

「ほぉ、威勢のいい姉ちゃんだこと。貴族の女ならこっちも用があるんだ。それに姉ちゃんたち、足が震えてんぞ。そんなんじゃ人は切れねぇよ。悪いことは言わねぇ、降参しな。降参すりゃ命だけは助けてやる」

「でもお嬢様たちが……」

「安心しな、お嬢ちゃんたちにも手は出さねぇ。大事な商品だからな。お前たちにも手は出さねぇでおいてやるよ、結構綺麗な姉ちゃんたちだしな」

「うぅ、お嬢様、申し訳ありません」

「大丈夫きっとお父様が助けに来てくださいますわ」

「いいか、余計な抵抗したら叩き切るからな。大人しくしてろよ」

お人形さんたちは後ろ手に縛られ、乗ってきた馬車で運ばれていきました。予定通りです。なんて馬鹿なのでしょう。


「お前たち、貴族って言ったな。どこの家だ」

「ラルファス男爵家の娘です」

「そうか、それはいい拾いもんをしたな」


「降りろっ!」

馬車は洞穴の前で止まりました。馬車から降ろされたお人形さんたちは、そのまま奥の部屋に連れていかれました。

「身体検査をするから、着ているものを全て脱げっ!早くしろっ!」

「嫌です。男の人の前で脱ぐなんて」

「お前らが脱がねぇんだったら、俺たちが脱がせてやってもいいんだぜ」

下衆な笑いをする下っ端です。強気にふるまって見せる護衛の一人に近づいていきました。

「さぁ、どうする」

「わ、分かりましたから、離れてください」

「最初から素直にすりゃいいんだよ」

恥ずかしそうにしながら脱いでいきます。

「お前たちもだ、早くしろっ!」

全員、生まれたままの姿です。

「なんでこんな目に」

「お前たちは大事な商品だからな。それに俺たちは約束は守ってるぜ。命は助けてやってるし、手も出しちゃいねぇ」

「で、でも」

「うるせぇな、お前たちが逃げ出せなくするためなんだよ。大人しくしてろっ!お前らは として売るに出されるんだ。その前にな、『主には逆らってはならない』ということを教え込んでやらなきゃならねぇんでな。お前たちはこの先ずーっと支配され続けるんだ。抗うなんて気は棄てて、従順になる方がお前たちのためだ」

結局そのままAグループとBグループに分けられて雑居房に入れられました。Aグループに入れられた姫様もどきは泣いているふりを、Bグループに入れられた初心者冒険者もどきは恨めしそうな目を向けています。

このままクロラントへ送られれば仕込みは完了です。

盗賊さんから言質、頂きました。言ってましたよね、『奴隷』って。これで関係者は単なる人身売買の罪ではなく、奴隷売買の罪になります。どっちも死罪が適用されるほどの重罪ですけど、奴隷売買だと家の取潰しや一族の連座まで適用される超重罪だからね。


人形遣いとマルチさんの相性良すぎです。私が見ていてもあの8人、本物と間違えるぐらい。劇団、作れそうです。人形劇になるかな。「監督」・「脚本」・「演出」ミーアで。


「おじいさま、無事に捕虜になりました。思った通りですけど、やっぱりひん剥かれました。ただ、手は出されていません」

「そうか。じゃぁしばらくはそっちは様子見じゃな」


「あと、アルンドの人攫いたちのアジトも分かりました。いろんなところから集めてるみたいです。ここも薔薇の拠点の一つです」

「中の様子はどうなんじゃ」

「今はCグループの雑居房に5人ぐらいいるだけです。AとBがいないというのは本当のようです」

「ではそこに移される可能性もあるということじゃな」

「高いと思うよ。残りの時間からしてあと1日か2日といった感じじゃないかな。薔薇のアジトからは2~3日ぐらいかかりそうだし」

「薔薇のアジトにはどれぐらいいるんじゃ」

「Aグループはさっきの4人、Bグループは4人のほか1人。Cグループは結構いるな、7~8人はいるんじゃないかな」

「Bの1人を攫う可能性はまだあるということじゃな」

「そうだね、0じゃないね。私ちょっとマーケット行ってくるね」

「一人で行くんじゃないぞ。ジャスティンでいいから連れていけ」

「エレンじゃダメ」

「ダメじゃ。いくら強くても、女性だけは危険じゃ」

「わかった。ジャスティンと行ってくるね」


「姫様、どちらへ行かれるんですか」

「ちょっとマーケットへ。聞き込みと注文を聞きに」

「お供します」

ジャスティンを連れてマーケットに着いた私は、妙な話を聞いた。人がいなくなったというのだ。衛兵を捕まえて詳しい話を聞いた。

「ラヴァン商会の会長の娘の姿が見えなくなったというのです」

「それはいつから?」

「昨日だそうです」

「その話はどうして?」

「会長が警備隊に駆け込んできたんです。『娘が帰ってこない』と」

「ジャスティン、商会長さんの所に行くよ」


「姫様、お越しいただいたのはありがたいのですが、今ちょっと手が………」

「分かってます。お嬢さん、メアリーちゃんでしたっけ、いなくなったって聞いたので、来たんです。私がお嬢さんを探します」

「姫様がですか?いえ、そんな」

「時間がありません。お嬢さんがよく使っているものを持ってきてくれませんか」

「分かりました。ちょっとお待ちください」

「ジャスティン、馬の用意をしておいて。2頭ね。私とエレンで行くわ」

「危険すぎます。大公様の言われたことをお忘れで」

「私たち2人の方が小回りが利く。それに外でなら私の力も出せるしね。だから準備ヨロシク。正門の前で待たせておいて」


「これがメアリーがいつも抱いていた人形ですが、これで何かわかるのでしょうか」

人形を調べると…、バッチリです。メアリーの魔力パターンがしっかりと残されていました。

「これで大丈夫です。あと、メアリーちゃんがいなくなったところは分かりますか?」

「あの日はお店に来てまして、『遊びに行ってくる』と言って出掛けたので、近くの公園だと思います」

マルチさんを公園に飛ばして探索をはじめます。昨日の事なので、少し弱くなってるかも。慎重に探しました。マルチさん5つでの探索です。

ようやく痕跡を見つけることができました。公園ではなく、途中で発見しました。

「ジョルジーヌさん、メアリーちゃんの痕跡を見つけました。必ず連れてきますから待っててください」

「姫様だけが頼りです。よろしくお願いします」


「おじいさま、大変なことになりました。お隣のラヴァンさんの所のメアリーちゃんが攫われました。追跡は始めていますので追いつけます。小回りを利かせたいので、エレンと行きます」

「ダメだといっても行くのじゃろう。とにかく気を付けるのじゃぞ」

「分かってます」


「エレン、行くよっ!付いて来て」

エレンを連れて追跡開始です。先行したマルチさんとの関係から、薔薇のアジトに向かっているようです。

「薔薇のアジトに先回りする。そこから逆に追い立てるから。武器はいつもの剣でいいの」

「はい。槍もお願いします」

「じゃぁ行くよ。ワープ」

薔薇のアジトからちょっと離れたところにワープします。アジトの目の前じゃばれちゃうからね。で、追跡中のマルチさんはというと……、いました、いました。こっちに向かっています。

「エレン、行くよ」

慎重に森の中を進みます。何故慎重かって?だってここ、薔薇のホームだよ。罠一杯仕掛けてあるんだから。慎重にもなるって。

「アンタたち、止まんな」

「女が2人で何しに来た。俺たちの餌にでもなろうって言うのかい」

「いいから女の子を放しなさい。そうしないとアンタたちの命はないよ」

放しても命はないからね。

「ふざけやがって。殺っちまえっ!」

「エレン、任せていい?」

「お任せください」

「じゃぁ私は、メアリーちゃんの所に行ってくるから」

盗賊ですか?3人でエレンさんに襲い掛かったんですけど、鬼モードのエレンさん、マジ鬼だから。1個中隊でも敵わないね。瞬殺でした。

「こっちに来るな!この娘がどうなっても知らねぇぞ」

「傷つけたらボスがお前の首を刎ねる。傷つけなくてもお前は私に殺される。分かってるわよね。アナタが今何をすべきか。メアリーを放しなさい」

「この野郎、調子に乗りやがって」

毒殺決定です。致死毒など与えません。体中が猛烈に熱くなり次第に固まっていく、そういう毒をイメージしました。

「アナタにはこの毒を差し上げますわ。楽しんで頂戴っ」

「うわぁーーっ!!あ、熱い」

「いつまで耐えられますかね。私の予定ですと3分ですけど」

「うおぉーーっ!!助けてくれっ!」

「調子に乗った報いですわ」

メアリーちゃんのところに向かいます。縛られて麻袋に入れられていました。

「メアリーちゃん、メアリーちゃん。大丈夫」

「ん?あっ!姫様」

「大丈夫みたいね。怖かったでしょう」

「うん、もう駄目だと思った。お父様やお母様に会えないって」

「でももう大丈夫よ。悪い奴はやっつけちゃったから」

「ホント?姫様がやったの?」

「そうよ。だから安心して」


「エレン、そっちはどう?」

「もうとっくに終わってます。姫様が遊んでいる間に」

「遊んでなんかないからね。馬連れてきて」

「死体の始末は」

「いいよ、そこらへん放っといて。とにかくメアリーを返すのが先。薔薇はまだメアリーの事を知らない。攫えたことも、奪い返されたことも。今ならメアリーを攫えなかったことになるから」

「それではこのまま王都に帰るのですね」

「ワープで帰る。まだ何か動きそうだから」

「メアリーちゃんにワープの事、大丈夫ですか?」

「眠っててもらうわ」


「お父様―っ」

「おぉ、メアリー!」

「お父様、痛いです」

「ごめんごめん。心配したんだぞ」

「姫様が助けてくれたの。その後なんだか眠くなっちゃって、気が付いたら戻っていたのよ」

「緊張がほぐれたら眠くなったのでしょう。身体は大丈夫みたいですから」

「ありがとうございます。姫様は命の恩人です」

「困ったときはお互いさまでしょ。私、姫だけど冒険者だから」


「おじいさま、ただいま帰りました」

「おぉミーア、無事じゃったか」

「ええ、怪我一つしてません。あと、メアリーちゃんは無事奪還してきました」

「よくやった」

「メアリーちゃんをひん剥かせるわけにはいかないからね」

「薔薇はどうするつもりじゃ」

「もう容赦しません。潰します」

「いつやるつもりじゃ」

「サウムハルト侯爵の方もありますので、人質の移送の後にします」

「潰す件なのだが、第1騎士団と第1魔法騎士団にやらせてはもらえんだろうか。ミーアが潰したいというのも分かるが」

「なぜ騎士団に?」

「この件はヘンネルベリ王国にとって大事件なのだ。しかもかなりの数の貴族が絡んでおる。それを王族だけで潰したとなると、貴族たちの王族に対する感情や、国民の感情が悪くなる、王族による独裁になるんじゃないかとな。それを避けるためにも王国軍が出ていく必要があるのだ。分かってくれ」

「分かりました。4~5日で始めるんで、準備させといてください」



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