第42話 異変(side 金色の月光)
「今度
「ったくディートはいつまでたっても子供なんだから」
「いいじゃねぇかよ。王族のパレードって言う話だから綺麗だと思うぜ。カッチェは興味ないのかよ」
「興味はあるよ。でもそんなの見たら欲しくなっちゃうよ。ディート買ってくれる」
「ちょ、ちょ待て。なんでそんな話になるんだよ。『パレード見に行こうぜ』って言ってるだけなんだぜ」
「分かってるわよ、そんなこと。みんなで行こうよ。ね、ローデ」
王都ってこんなに人がいたのかってぐらい混みあっていた。俺たちは早めに場所取りをしたからいい位置を確保できたが、時間を追うごとに人は増えていく。30分遅かったらこんな場所は取れなかった。今の時間は8時、パレードまでまだ4時間もある。
近衛兵がひっきりなしに見回りをしている。国王が変わるという話は聞いていないから、主役は王族の誰かなのだろう。誰かの婚約披露かな。
パレードルートに集まる人々は熱気を帯びてきた。
パレードが始まった。儀装用の制服に身を包んだ近衛兵の隊列が通り過ぎる。その凛々しい姿に沿道の女性たちはウットリと見とれていた。
「カッコいいわねぇ」
「うん、ステキ」
鼓笛隊が続き、その後ろには馬に乗った騎兵隊が続いた。
パレードが来る方から歓声が大きくなってきた。いよいよ本命がやってくる。
「来たっ!来たわよ」
「ホント、女の人、お姫様みたい」
「ホントだ、ドレスが見えた。どんなお姫様だろうね」
「ちょっと、おいローデ、あれって…」
「あれミーアじゃないか」
「えっ?ミーア」
「やっぱり。でもなんでアイツが」
「ミーアっ、ミーアっ、ミーアっ!!」
「あっ、手振ってくれた。キャー!!」
「あーあ、行っちゃった」
「帰るか」
「まだいる。だってもう1回ここ通もん」
「ハイハイ、女の子には敵いませんからねぇ」
「ったくディートは」
パレードも終わり、街中の騒動も一段落した。俺たちは行きつけの食堂でテーブルを囲んでいた。
「ミーアって、アイツ何もんなんだ」
「『アイツ』なんて言ったら捕まっちゃうよ」
「そっか。じゃぁなんて言やいいんだ?姫様?あの人?なんか背中がムズムズすんな」
「ミーアちゃんお姫様だったんだね。私たちには何も言わなかったけど」
「クロラントで、会った時も、何も言って、なかった」
「でもさ、王族って事だよな。俺たちそんな人とパーティー組んでたんだぜ。自慢できんじゃね」
「よく言うわよ。あの娘を追放した張本人が」
「しょうがなかったんだよ。俺にもいろいろあってさ」
「こんなことなら、もっと仲良くしとけばとかったなぁ」
「私、仲良し、だから」
「ミーアの言ってた親戚ってそういうことだったのね」
「もうミーアの話は終わりだ。ミーアは昔のパーティーの仲間だけど、今はもうパーティーのメンバーじゃない。それにここにはもう戻っては来ない。それより次の仕事だ」
「そのことだけど、ローデ、悪いけど次の護衛、私行かない。ダメ?」
「どうしたんだ、セリーヌ。お前らしくもない」
「大分前から考えていた。やっぱり私、この仕事できない」
「うーん、分かった。侯爵様には話しておく。まぁ3人でもなんとかなるしな。でもセリーヌ、お前の分の取り分は無しだぞ」
「分かってる。私の我が儘だから」
「おいローデ、侯爵様になんて言うんだよ」
「具合が悪くて同行できない、とでも言っておけば大丈夫だ」
「ふんっ、カッチェも行かないなんて言い出さないよな」
「私は行くよ。ディートの事見てないと心配だからね。何するかわかんないから」
「ホントは俺の傍はなれたくないんだろ。素直になれよ」
「ったく、ディートったら」
「惚気るのはいいけど、仕事の時はちゃんとしろよな。セリーヌ、俺たちがクロラントへ行ってる間、お前どうするんだ」
「教会の治療院で仕事してる。前にやった時、また来てくれって言われた」
「ミーアほどじゃないが、お前もあまり戦闘力がある方じゃないからな。気を付けろよ」
「王都の街中。大丈夫」
「サウムハルト侯爵様、準備できました」
「おぅ、今回もよろしく頼むな。おや?一人足りないようだが」
「セリーヌは少し具合が悪いので、今回は休ませることにしました。戦力的に落ちることは殆どないので、問題ありません」
「ならいいんだが。大事な荷物だ。よろしく頼むぞ」
「はいっ!」
今回で通算7回目、いつもの道、いつもの馬車、いつものメンバー、今回セリーヌはいないが。慣れも出てきて多少のゆるみもあるが、キャラバンは何の障害もなく進んでいく。途中アルンドの街で馬車が合流するのもいつも通りだ。
いつものように護衛を行い、いつものようにクロラントの街に入る。これまでの護衛で盗賊と出会ったのは1回だけだ。それも俺たちがサウムハルト侯爵の関係者だと分かるとすぐに引いた。魔物も数匹のゴブリンやウルフが時折襲ってくるけど、敵にもならない彼らを一蹴するのは何の造作もない。
「ねぇ、セリーヌどうして来ないって言いだしたんだろう。やっぱりこの間のお金の事、まだ気にしてるのかなぁ」
「だとしたら、どうすればいいかなぁ。セリーヌの中に引っかかってるものを取るには」
「一度、この護衛のお仕事、お休みしてみる?」
「ちょっと待てよ。こんなおいしい仕事放り出すなんて本気かよ」
「1回だけよ。みんなでダンジョンにでも行ってみない」
「そうだな、考えてみようか。次は奥様が町に戻るから抜けられないとしても、その先なら。話をしてみるか」
**********
「セリーヌちゃん、こっち手伝ってくれる」
「はい」
今日はローデたちと離れて教会に来ています。ここでけがをした人の治療を手伝っています。ここは治療院、魔法で怪我の治療をするところ。でもここは誰でも来られるところじゃない。治療するって言ってもたくさんお金を払わなきゃならない。つまりここはお金持ち専用。普通の人は街の薬屋で買う。でも特別な薬はとっても高い。直せるのはちょっとした切り傷や、熱、弱い毒ぐらい。ここではもうちょっとやってる。骨が折れたのぐらいなら直せるし、重い病気も治せる。お金次第で。
「疲れたでしょ、終わりにしていいわよ」
ここの治癒師の人はとても優しい。冒険者の私にも優しく声をかけてくれる。
「セリーヌちゃん、冒険者辞めたらここで一緒にお仕事しない」
「私、人と話すの苦手だし」
「平気よ。最近人が多いのは、みんなセリーヌちゃん目当てなんだよ。セリーヌちゃん可愛いから、天使みたいなんだってさ」
「考えておきます」
なぜかここで人気者らしい。といっても相手はけが人だが。でも私にはローデがいる。
「なんか気になる事でもあるのかい。そんな顔してるよ」
「大丈夫、なんでもない」
仕事が終わった後、中央マーケットに来た。私一人だから、食事は屋台で軽く済ませる。そのためにここへ来たのだが…
「セリーヌじゃん、一人?」
「あっ、ミーア。うん、一人だけど」
「他のみんなは?」
「仕事で、クロラントに行ってる」
「そうなんだ。ねぇ、ご飯一緒に食べない」
「いいの?」
「いいっていいって。ねっ、行こっ!」
突然声をかけてきたのはミーア、いやお姫様だった。
「その前に、ちょっと待っててね。こっちこっち」
連れてこられたのは小さな薬屋さん。
「ここは?」
「ここはね、私のお店。私が店番してるわけじゃないけどね。私は頼まれた薬を作るだけ。ちょっとそこで待ってて」
ミーアは店の人に一言二言言うと、上へあがっていきました。
とても繁盛しているお店には見えません。置いてある薬の種類も少なく、値段も安いというほどではありません。お店の看板が出ているわけでもありません。
「お待たせー、じゃぁ行こうか」
ミーアはマーケットの高級店が並ぶ一角に向かいました。ここのレストランは目が飛び出るほど高いだけでなく、普通の人だとまず入れてもくれません。
「ここでいい?」
お肉とデザートで有名なお店です。
「私そんなに、お金ない」
「気にしなくっていいから。私がご馳走してあげる」
通されたのは要人用のお部屋。そう言えばミーアってお姫様だったんだっけ。
出てきたお料理はみたこともない、食べたこともないものばかり。食べ方も分からないものもありました。
「ミーアって、お姫様だったんだね」
「うん、そうだったみたい。私もね、知らなかったんだ。お母さんがお姫様だったって事」
「いつ分かったの?みんなといた時?」
「パーティーを抜けてから3カ月ぐらいたったころかな。私を訪ねてきた人がいてね、その人が私のおじいさまに合わせてくれたの。お母さんのこともずっと見守っていたみたいだし、私の事もそうだったみたい。それでその後王都に来たんだ」
「じゃぁ大きなお屋敷の噂は」
「うん、私のお屋敷の事だと思う。実際とっても広いからね」
「私、パレードでミーアを見た時、ビックリしたよ」
「私だって。まさか来てるとは思わなかったから」
「ディートが行こうって言いだしたから」
「へぇ、ディートがねぇ。結構そういうの好きだったりして」
「お祭りみたいのは、好きみたい。私もカッチェも、行きたかったから」
「みんなで私の晴れ姿見てくれたんだね」
「はじめに気づいたのは、ディート」
「意外だな、ディートはカッチェの事しか見てないのかと思った」
「気づいたといっても、『あれっ?』って言う程度。ミーアだって気づいたのはローデ」
「ローデかぁ。相変わらず真面目なの?」
「うん。ローデは、ミーアが好きだった」
「そうだったの?私全然気づかなかった」
「ローデ、かわいそう。ミーアがいなくなった後、ローデかなり落ち込んだ。慰めてあげられるの、私しかいなかったから」
「それでセリーヌとローデがくっついたんだね」
「私はローデの事が、前から好きだった。でもローデは、今でもミーアの事、思い出してるみたい。でももう、絶対に叶わないってわかったみたい」
「セリーヌはどうしてみんなと一緒じゃないの」
「なんかちょっと、この仕事引っかかる」
「仕事って?」
「サウムハルト侯爵様の仕事。商隊の護衛の仕事なんだけど、報酬が良すぎる。何か変」
「悪くて文句言う人は多いけど、良すぎて違和感があるって言うのはセリーヌらしいね」
「2週間の護衛任務で金貨10枚。どう考えても多すぎる。それにこの仕事、とても簡単」
「簡単ってどういうこと」
「盗賊襲ってこない。出てくる魔物弱い。ゴブリン、ウルフぐらい」
「それで金貨10枚は破格だね」
「だから、侯爵様の仕事、やらなかった」
**********
「ローレンス様、少しご相談が」
「どうした、ラフィンドル」
「薔薇からの話で、薔薇が使っていたブラック・ボアってやつらが壊滅したそうです。それで商品が大幅に足りないと」
「どのくらい足りないんだ」
「Cはともかく、Aで4、Bで6ぐらいだそうです」
「目玉がなくなってしまうのはマズいな。しょうがない、ここにあるリストから調達するように伝えておけ」
「はっ、急がせます」
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