第41話 お披露目

豪奢なドレスに身を包んだ私は、王宮の控室にいます。一体何時だと思ってるんですか。4時ですよ4時。まだ真っ暗です。みんなまだぐっすり寝ています。そんな時間だというのにもう着替えさせられたんです。

王宮に着いたのは日付の変わった12時。明日は早いから王宮に泊まれって言うのかと思ったら、すぐに着付けです。

お風呂に入れられて。入ってじゃないんです。入れられたんです。王宮勤めの何人もの侍女の方々によって。服を脱がされ、隅々まで洗われて。自分でできるって、赤ちゃんじゃないんだから。言いましたよ、はっきりとね。でも聞く耳を持たない悪意のない仕事に忠実な人には、何の効果もありませんでした。

その後全身マッサージを受けて今に至っているということです。


今日の私は大変なんだから、あんまり疲れさせないでよねっ!


「1時間ほど休憩されたのちに朝のお食事になります。その後、国王様との面会になります。続いて宰相、軍務大臣、財務大臣、内務大臣、外務大臣、司法大臣、経済大臣、文部大臣、農政大臣、商務大臣、近衛大臣、教皇、近衛兵長、騎士団総長、魔法騎士団総長、警備局長、王立魔法研究所所長、王立高等専門学院学長、商業ギルド長、冒険者ギルド長、職人ギルド長との面会になります」

「ねぇ、纏めてじゃダメなの」

「ダメです。御一方づつ受けていただきます」

「どれぐらい掛かるのぉ」

「3時間ぐらいと思います」

「その間にお手洗いに行きたくなったら」

「私にお伝えください。お手伝いいたします」

「って事は、また脱がされて用が終わった後着せられるって事ね」

「休憩を挟んで10時より謁見の間で式典が行われます。その後昼食をとっていただき、12時よりパレードになります。時間はおよそ2時間を予定しております。パレード終了後、外国からのお客様との面会を行います。4時ごろには終わると思いますので、それを以って宮殿での式典は終わりになります。その後ミルランディア姫にはご自宅の方にお戻りになり、夕刻6時からのパーティーとなります」

「解った、今日の私がどうなるのかは解りましたので、少し休ませてください。横になっちゃダメですよね。やっぱり、はい。座ったままでいいから、朝の用意が出来たら声かけて」


今日は死ねそうですね。真面目にこのスケジュールをこなしたら、絶対に倒れます。それだけは自信があります。完徹ですよ完徹。なので30倍のスロウをかけて寝ることにします。これなら15分ぐらい寝れば私の時間で8時間近く寝られることになりますからね。おやすみなさい。




「ふぅー、これで終わりよね」

「そうです。今の方で午前中の面会は全て終わりました」

「今何時」

「9時半になります」

「あと30分かぁ。お手洗間に合うかなぁ」

「行かれるんでしたら早くお願いいたします」

「じゃぁ、先にお手洗行くよ。ヨロシク」




「この度皆を呼んだのは、先代の国王クリストフ大公のお嬢様、今は亡きエヴァンジェリン様の忘れ形見であるミルランディア姫が王宮に戻られた。ヘンネルベリ家に新しい一員を迎えたことを皆にお披露目しよう」

私は言われたとおりに国王様とおじいさまの間に立ちます。あの広い謁見の間が集まった貴族でいっぱいです。200人近くいると思われます。中には見たことのある顔もあります。ラフィンドル・ミルデュース子爵やジョルジュ・サルディス男爵の顔もあります。

「ミルランディア、挨拶をなさい」

「お初にお目にかかる方が多いと思います。この度は私事に遠路お運び頂き、ありがとうございます。私はミルランディア・ヘンネルベリと言います。以後、お見知りおきをお願いいたします。

私の母、エヴァンジェリンは、私が7歳の時に流行り病で他界しました。その後私は冒険者などとして暮らしておりましたが、アンドレア・ナジャフ公爵を通じておじいさまでありますクリストフ前国王と会う運びとなりました。そこで母の事、私の事を聞かされ、そして王都に来ることとなりました。

私は冒険者上がりで貴族としての教えは受けていませんが、私なりにこの国の為力を尽くしていきます。ここに列席の皆さま、どうぞよろしくお願いいたします」


あの後、何人かのお客様からご挨拶を頂いて、謁見の間での式典は何事もなく終わりました。


「ねぇ、ドレス脱いじゃダメなの?」

「姫様、今日が我慢してください。お客様が多く見えていらっしゃるのですから」

「むーっ」

ご飯だよ、お昼の。それなのにこんなドレス着てたんじゃ食べられないって。食べるんだけど、食べた気がしないってやつ。


「パレードですが、姫様の安全を考えて儀装用の馬車に乗っていただきます」

「えっ!それじゃぁみんなから見えないじゃん」

「仕方ありません。姫様の安全の方が大事です」

「私の事は大丈夫だから、みんなからちゃんと見える馬車にして。そうしなきゃパレードじゃないじゃん」

「でも、街の民にはいろいろな思いを持っているものがいます。必ずしもいい思い出はない者も」

「何も起こさせないから安心して。それにそうならないために近衛っているんでしょ」

「そうではありますが」

「いい、絶対よ。もし箱の中に入れなんて言おうものなら、上に乗るからね」


パレードルートを確認します。王宮を出て大通りをまっすぐ正門の方へ向かいます。噴水広場でターンして戻ってくる。それだけです。片道1時間。貴族街は少し早めに、その後は歩くぐらいの速さです。

ルートにはすでにたくさんの人が集まっています。さて、監視と私設の護衛隊でも派遣しますか。

今回の護衛隊は蜘蛛型です。ルート上に200匹ぐらいばらまきます。人型だとジャマでしょ。蜘蛛型なら気づかれないうちに対処できるからね。パレードを見渡せる大きな建物にも送り込んでおきます。遠くから矢や魔法で狙われるかもしれないからね。もちろん貴族街にもです。貴族は国のために働くいいやつばかりって訳じゃないから。サウムハルト侯爵やミルデュース子爵のようなのもいるからね。


パレードでのトラブルはありませんでした。襲撃の心配も杞憂に終わりました。

パレードの見物人の中に『金色の月光』のメンバーがいました。みんな目丸くしちゃって。ディートなんて口まで開いてた。カッチェとセリーヌは『ミーア』って大声で叫んで手降ってたから、私も手を振ってあげたよ。今度会う時が楽しみだね。




「姫様おかえりなさいませ。お疲れのところ大変でしょうが、パーティーの方、お願いいたします」

「ジャスティン、今の状況を教えて」

「はい。王宮の楽団は既に準備が整っております。お酒、お料理の準備も終わっています。既に100名ほどのお客様がお見えになられており、パーティーには出ないけど挨拶だけしたいという方が10名ほどお待ちになっています。如何いたしますか」

「そうね、私の控室からは入れる談話室を、そういった方の専用にして。そこで挨拶するから。あとそうね、軽いお酒と子供たち向けの飲み物を出してあげて。ピンク色の葡萄酒があったわよね。あれ出していいわ。マリアンナとサフィアは」

「控室でお待ちです」

「じゃぁ私も準備始めるからよろしく」




「ジャスティン、マリアンナ、サフィア、フュール、お疲れ様。今日はありがとね、朝早くから。みんなのおかげで無事終わったよ」

「姫様も大変だったでしょう。寝てないんじゃないですか」

「15分ぐらい寝たよ。身体もそうだけど精神的に疲れたね。おじいさまたちは?」

「今日はもうお帰りになりました」

「フュール、まだ料理残ってる?」

「魚はほとんど残っていませんが、お肉などは」

「じゃぁ全部出しちゃおう。屋敷にいる人全員集めて。今日はもう門締めちゃっていいから」

「警備を緩めて問題ないでしょうか。今日パーティーが行われたことは知れ渡っています。パーティーの後に警備は弛めば、狙いやすいと考えるのでは」

「大丈夫、大丈夫。第一この屋敷に侵入できると思って。高い壁に侵入者検知の結界。入れたとしてもすぐにばれるわよ」

「だた、侵入者があったとわかっても動けなければ………」

「心配性だなぁ。じゃぁパレードの時に使った蜘蛛型の護衛隊を屋敷の庭中にバラ蒔いておくよ。それならいいでしょ」

「分かりました。それでは姫様お願いいたします」

「警備の人全員だからねぇ。詰所の人もだよ。ヨロシクね」


そう言えば大事な人たちを忘れていました。『ミル薬局』の店員さんです。この人たち屋敷の人と関わり合いが薄いから、知らない人も多いのよね。この機会にちゃんと紹介しとかなきゃ。


「えー皆さん、今日はお疲れ様でした。皆さんの働きのおかげで無事にパーティーを執り行うことができました。残り物で申し訳ありませんが、皆さんで楽しみましょう。お酒はいっぱいありますから、今日はたくさん飲んでいいですよ。準備はいいですかぁ。じゃぁジャスティン、乾杯やって」

「それでは。『乾杯!』」

「「「「「乾杯!」」」」」


「エレン、今日は飲んでいいよ」

「えっ、いいんですか?」

「構わないわよ、は。私たちの家だしね。サフィアもいるから安心でしょ」

「…サフィアちゃんですか。そ、そうですね」

「今日はエレンお姉様と一緒でいいんですか?嬉しいです」

サフィアちゃんったら、ヤバい街道驀進中です。あのエレンを凌駕する資質、本物ですね。そんな2人が私付きだなんて。




「おじいさま、おばあさま、おはようございます」

「ミーアか、今日は早いな」

「そうでもないですよ。もう太陽もあんなに高くなってますから」

パーティーの翌日、私はおじいさまのお屋敷に来ています。

「昨日は大変だったじゃろ」

「そうですね。大変ではありましたけど、屋敷のみんなが頑張ってくれましたから」

「ところで、ローレンスとラフィンドルはどうだった。儂も見てられなかったもんでな」

「お二人とも特に変わった様子はありませんでした。親しい貴族の方と歓談されていたようですが。さすがにあの場で例の件について話すことなどできないでしょうし。後、ミルデュース子爵様は驚かれてましたよ。薔薇の園から連れ出した娘が、王族の姫だったと知って。あの時はラルフさんに圧倒されてましたけどね」

「前回のオークションから一月半、そろそろ次の動きを起こす頃じゃ。大変じゃろうが、また頼むぞ」

「はい、任せてください。次で決着をつけるつもりです」



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