第35話 4者協議
「ミーアよ、この屋敷での新しい生活はどうじゃ」
今日もおじいさまとルイス伯父様は私の家に来ています。といっても私が呼びに行くんですけどね。
「はい、少しづつですけど慣れてきました。皆とっても良くしてくれますから」
「そうか、それなら大丈夫じゃな」
「何が大丈夫なのですか?」
「パーティーじゃよ。ヘンネルベリ王室に新たな一員が加わったことを、内外に知らせるためのな」
「パ、パーティーですか。急にそんなことを言われても…」
「そんな急でもないだろ。ミーアも薄々感じてたのだろ」
「まぁそうですね。遅かれ早かれお披露目はあるんだろうなとは思っていました」
「お披露目は王宮で行い、パーティーはここで行う。新しい成人王族だからな、国王の名で行う必要があるでな」
「そうなんですね」
「まぁ、早くても3カ月ぐらい後の話じゃ」
「そんな先なんですか?」
「そうじゃろう。知らせをもっていくにも、遠いところだと1月近くかかるところもある。隣国にも知らせは出すのでな。知らせを受けるまで1月、準備に1月、来るのに1月。少なくとも3月はかかるということだ」
「準備って、ただ来るだけじゃないんですか?」
「貴族など見栄の張り合いじゃ。王族のパーティーに別のパーティーで着たドレスを着る訳にはいかぬものなのだよ。特に伯爵、子爵辺りはな。それに手ぶらで来るわけにもいかぬのでな。土産の準備も大変なのじゃよ」
「ということは、お返しも用意しないといけないですね。何がいいでしょう」
「あまり気にせんでもいいと思うぞ。儂らは銀の食器辺りが多いな」
「それではガラスのティーセットとミスリルのティースプーンにいたします。2つペアで用意するでよろしいでしょうか」
「それでいいぞ。工房を紹介しようか?」
「大丈夫です。ティーセットもティースプーンもそれを入れる箱も、すべて私が作れますから」
「ところで伯父様、何か大事なお話があるとか」
「そうじゃルイス、一体何なのじゃ」
「父上、ミーア。シャルドットから持ち帰った妹の品の中から見つかった者なのだが、なんとミーアには正式な名前があったのだ」
「えっ?私ミーアじゃないの?」
「エヴァからは何も聞かされていなかったのか?」
「はい、お父様もお母様も私の事はミーアとしか呼びませんでしたから。それより、おじいさまも知らなかったのですか」
「儂もそれは初耳じゃ。見張りからもそんな話は上がってこなかったからの」
「今となっては推測でしかありませんが、恐らくミーアの成人の時に話をするのではなかったかと」
「それでそれで、私の名前って何なの?」
「ミーアの正しい名前は『ミルランディア』と言うそうだ。エヴァンジェリンが付けた名前だ」
「『ミルランディア』………」
「ミルランディア・ヘンネルベリ、これがミーアの正しい名前だ」
大スクープです。なんと、私にホントの名前がありました。ミーアは通称だったのです。おじいさまも知らなかった事実を、ルイス伯父様が見つけました。
「お披露目とパーティーは3月後にしようかのぅ」
「ドレスやアクセサリーは間に合うでしょうし、パーティーのお料理も私も手伝うから大丈夫じゃないかな」
「ミーアも料理を作るのか?」
「だって私のパーティーですよ。【料理】のスキル持ちの私が腕を振るわないでどうするんですか」
「ではその予定を国王様と宰相様にお伝えしておきます」
「ところでアンドレアは王宮にいるのか?」
「如何いたしました?父上」
「妙な話を小耳にはさんだものでな。アンドレアと話をしておいた方がいいと思ってな」
「では王宮の方に行きますか」
「いや、こちらへ呼ぼう。ここの方が聞かれる心配がない。ミーアよ手伝ってくれんか」
「大公様、何でございますか」
「堅苦しい言葉は要らん。で話なのだが、奴隷のオークションが開かれるという話を聞いたのだ。アンドレアは何か聞いているか?」
「それかどうかわかりませんが、近々オークションが開催されるという話を耳にしたことはございます」
「ルイスの所にはどうだ」
「いえ、私の所にはそのような話は何も……」
「そうか。アンドレアはどんな話だ」
「久しぶりの開催なので、目玉を多く用意してあるといった感じです」
「おじいさまはどこでその話を?」
「儂の所の密偵からの情報じゃ。『オークションが開かれる』と言うのと『薔薇の園が動き出した』と言うことだな。この2つから奴隷オークションではないかと推測したのだ」
「でも誰が開くかわかんないんでしょ。誰の所に案内が来てるのかも」
「案内の来ている奴のいくつかは目星が付いておる。引き続きそいつらからの情報収集を行う」
「私にも教えて。私もマルチさんで情報収集するから」
「いいのかミーア。大事件になるかもしれないのだぞ。そんなものに首を突っ込んでしまって」
「だって、おじいさまもルイスおじさんも公爵様も、みんな困るんでしょ。それに、私はそこいらの密偵よりは数段優秀よ。情報を持って帰ってくる時間もいらないし」
「そうだな。ミーアの【探索】は優秀すぎるからな。だからわしは余り頼りたくないという思いもあるのだ」
「でも今はそんなこと言ってる場合じゃないんでしょ」
「それではミーアにも頼むとするか。ではまた来週、ここで整理を行おう」
事件です。久しぶりに【名探偵ミーア】の登場です。今回は名探偵と言うよりはスパイといった感じですけど。
ミーアのマルチさん、久しぶりに薔薇の園のアジトに降臨です。
お話を聞く前に、チョット宝物庫でも覗いてみましょうか。……おっ!もう貯まってますね。金貨に財宝ですか。私のためにわざわざ集めていただいてありがとうね。遠慮なく頂くからね。隣の部屋は…武器ですか。ちゃんと整理するようになったんですね。あの杖は何かよさげですね。調べてもらうとしましょうか。3つ目の部屋は魔道具っぽいですね。使い道が分かんないので、一応みんな貰っておきましょう。
それでは情報収集の始まりです。
**********(side 薔薇の園 with ミーア)
「おい、Aを15なんてあるか?」
「いや、この間3出しちまったもんで、今は14かな」
「出せるのか」
「出しちまってもいいんだが、その次の時には間に合わなくなるぞ」
「そうか。ラフィ殿には10で勘弁してもらおう」
ん?ラフィ殿?薔薇の園とラフィと言うことは、ラフィンドル・ミルデュース子爵と言うことですね。分かりました。こっちにもマルチを送りましょう。
「モノの確認をしとかなきゃならねぇからな。1つずつ俺んとこ持って来い」
さあ何が出るのでしょうか。宝石、アクセサリ、宝剣。あるいは大きな魔石か。それともやはり人なのか。
持ってこられたのは、やっぱり人でした。これで奴隷オークション確定ですね。次の話し合いの時に発表です。
私が入れられてたのは独房でしたが、どうやら雑居房に入れられていた人見たいです。見たところ、歳は15ぐらいの女性です。身に付けているのは手枷だけ、上から下まで他には何も身に付けていません。可哀想なので見たくはありませんが、これも仕事です。色々と見させてもらいます。胸の大きさとか体つきとか……違うってば。そんなの見るんじゃないって。でも、負けた………
「よし、次。どんどん持って来い」
歳の頃12~22ぐらいの女性ばかりです。可愛らしいというか、美しいというか、そんな女性ばかりです。もしあのまま捕まっていたとしても、私はあの中には入れそうもありません。それぐらいの自覚はあります。あの幼いつるぺたな女の子にまけると思うとちょっと爵ですが。
全部で14人。これがさっき言ってたAと言うやつでしょうか。
次々とやってくるのはみんな女性です。ってか雑居房には女性しかいないんか。マルチさん、お願い。
雑居房に入れられていたのはやはり女性だけです。さっきの女性たちは1つの部屋に纏めて入れられています。
おっ!ボスの部屋で動きがあるようです。
「こいつはAに出来ないのか」
「こいつ村なんすよ。なんでも食い扶持減らしに売りに出されてっていう」
「それじゃあAは無理か」
「そうですねぇ。間違いなくBの中では上玉ですけど」
Bグループも15人ぐらいいました。歳も同じぐらい、顔だちも整っている
最後のCグループは10人程。明らかに前のグループと違うのは、みんな暴行を受けた跡があるんです。殴られた跡じゃないですよ、あっちの跡です。って言うかこの
女性の敵め、いつか叩き潰してやっから、首洗って待ってろよ。まだもうちょっと潰さないけどね。裏が取れないと困るからね。さすがにラフィンドル・ミルデュース子爵の単独犯ってことはないだろうから。あのキモデブに、こんなことやる度胸なんてないに決まってますから。
お宝は…、もう少ししたら頂くことにします。今がたつかせるとまずそうだからね。
**********
「情報は集まったか?」
「私の所には、相変わらず何も集まってはきません」
「私の所も進展在りませんねぇ」
「儂の所もじゃ。密偵からの報告も全然上がってこないからのぅ。ミーアの方はどうじゃ」
「私の方は大漁です。奴隷オークションであることはほぼ間違いないですね。私が調べたのは盗賊団『薔薇の園』ですが、そこで攫われた人たちの検査をしてました」
「攫われた人?それだけでも大ごとだぞ」
「そうなんですけど、今ここを潰しても、元を叩かなければしょうがないのでもう少し放っておきます。今そこには40人ぐらいいます。あそこのボスや幹部の連中の話の中に、『ラフィ殿』と言うのが出てきました。それはラフィンドル・ミルデュース子爵の事ではないでしょうか。あのキモデブ、『薔薇の園』の幹部連中と面識があったようですから。今どこにいるか知りませんし、知りたくもありませんが、次はそっちにも監視を付けてみようと思います」
「ラフィンドルか。黒幕はローレンスなのか」
「ローレンスには、国の金の使い込みの疑惑もかけられています。そっちは今、軍の情報部が内偵を続けているところです」
「ローレンスと言うのは?」
「ローレンス・サウムハルト。侯爵で財務局のナンバー2、実質国の財務を取り仕切っている男だ。ミーア、悪いがこっちも見張ってもらえんか」
****************************
さぁ、展開が早くなって参りました。
パーティーの開催は決まる、ミーアのホントの名前が分かる、人身売買の実態が明るみになる………
さぁこの先どの様になるのでしょうか。
サウムハルト侯爵も登場です。『金色の月光』との関係はどうなるのでしょうか。
次回、お楽しみに!
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