第34話 お屋敷完成(後編)

「では、お屋敷の方をご案内いたします」

「ちょっと待って。は後にするわ。先に他を見せてほしいんだけど…」

「承知いたしました。馬車を用意しますので、少々お待ち下さい」


私の家ですよ。私の家の中にあるものを見に行くのに、馬車で行くんですよ。おじいさま、おばあさまがいるからと言ってしまえばそれまでですけど、馬車って一体どういうことなんでしょうねぇ。



「こちらが護衛の詰め所になります。この詰め所がここ正門の他、通用門と裏門にあります。他にお屋敷の塀際に5か所、簡易なものがあります。お屋敷への不審者の侵入は、ここでしっかりと防ぎます。後この塀ですが、お屋敷の周りをぐるりと囲んでありますので、簡単には敵の侵入を許すことはありません。対魔障壁も組み込まれていますので、魔法による壁の破壊にも万全です」

って、私ったらそんなに狙われてるの?


「護衛の宿舎は3か所に分散してあります。1つは正門とお屋敷の真ん中あたり、もう一つは裏門とお屋敷との中程、そしてお屋敷のそばにあります」

「3つって言いましたけど、一体何人の護衛の方が住めるんですか?」

「お屋敷の傍は20部屋、その他は40部屋ぐらい準備してあります。そんなに護衛の方はいませんが、まぁ余裕のある設計といったところですね」

一度、おじいさまたちにお話を聞かないといけないようですね。



「こちらが通用門になります」

立派な門ですよ、正門には劣りますが。比較の対象を正門にするからおかしくなるんですね。隣の男爵家のお屋敷の正門よりは数段立派です。男爵様、涙もんですね。無駄に見栄っ張りだったミルデュース子爵の家の門といい勝負ですね。

「詰所のチェックを受けた後お屋敷に向かうのですが、ここからは地下に降りることになります。こちらのスロープで下におります」

馬車の通行に不便がないような坂道が地下へと続いています。

「地下に降りたところにも詰め所がございます。この詰め所は万が一敵の侵入を許した場合の関の働きをいたします。そのまま進みますと、お屋敷の地下2階に着きます。ここにも詰め所がございます。通用門、並びに専用通路につきましては以上になります」

「こんな通用口って、普通じゃないですよね」

「王宮は専用の通用門と専用通路ができておるぞ。まぁ地下ではないがな」

王宮レベルかいっ!



「それではお屋敷の庭園をご案内いたします」

馬車に揺られてのんびり見て回ります。なんてことはありません。だって、眩暈がだんだん酷くなってくるんですもの。馬車に酔ったわけではありませんから。

正門からは建物が直接見えないように木々で遮られています。その林の間を抜けると芝生が広がっています。

「こちらのお庭ではガーデンパーティーを開くこともできます。今は建っておりませんが、あちらに野外ステージを組み立てることができます」

そうですか。そうなのですね。余程パーティー好きの方がいらっしゃるようで。私ですか?私は『金色の月光』というパーティーを辞めてからは、縁のないものですけど。そのパーティーじゃない。そうですね。


「こちらの奥、林の中に先ほど言いました護衛の宿舎がございます。ではまずそちらへ」

木々に囲まれるようにその建物はありました。2階建の集合住宅で、コの字型をしています。1階に20室、2枚に21室だそうです。中を見せてもらったところ、部屋が2つ、台所兼食堂、風呂、トイレといった感じです。結婚しても住めそうな感じです。


再び馬車に揺られながら散策します。小路沿いには池があったりします。いくつかの東屋も建っていて、お茶会も開けるようです。

花の庭園もありました。どの季節でも楽しめるようにと作られているそうです。季節ごとにいろんな花が見られるのですね。庭師さんご苦労様です。


裏門に向けては林というより森といった感じです。道は整備されていますが、正門側と比べると少し暗い感じもします。

「ここはもともとの状態からあまり手を入れていないエリアになります。王都の自然を楽しむことができる場所となっています」

この先に先ほどのような護衛の方の宿舎があるそうです。

裏門は正門の反対側で、こっちも大きな道に面しています。なので、通用門としての機能と、私や家族の人が出入りできるようになっています。通用門としての機能は表と一緒ですね。



「それではお屋敷の方に戻りましょうか」

いよいよ本命の登場です。ラスボスの前に中ボスがいますけど。


お墓参りから帰って1カ月、沢山作った板ガラスの使い道が分かりました。屋敷と並んでいくつかの建物群があります。その一つがガラス張りの建物でした。

「あれ何?」

「あちらはミーア様に作っていただいたガラスをふんだんに使いました温室となっております。中は常に暖かく、まるで南の国のようです。中ではその南の国で採れる果物をはじめ、花や野菜などを一年と通じて育てております。ご覧になられますか?」

「今はいいわ」

「左様でございますか。お庭と一風変わった感じが楽しめますので、またの機会にでもぜひご覧になっていただければと思います。

真ん中の建物が執事とメイドの宿舎になります。20部屋ほど用意してありまして、護衛の方のよりは少し広い作りとなっております。あと、各フロアに談話室も用意してございます。奥はその他の使用人の宿舎となります。広さ的には護衛の方のものと同じぐらいになっています」


とても立派な建物たちです。奥の使用人宿舎は30部屋ぐらいはあるでしょう。それが2棟建ってます。

執事とメイドの部屋を見せてもらいました。寝室には大きなクローゼットが付いています。書斎向けの部屋や、何にでも使えそうな部屋もあります。もちろんキッチンのついた食事室もありますし、ゆったりできる居間もあります。

「私もこんなお部屋に住むことができるのですね」

「いえ、マリアンナ様のお部屋はあちらの本邸に用意いたしてございます」

「えぇ、私はここに住めないの」

「執事長の方とメイド長、ミーア様専属のお付きの方などは本邸に部屋の用意をしてございます」

「私も本邸なのか。他の仲間たちと私だけ違うというのもなぁ」

「なら、こっちにもジャスティンとマリアンナの部屋を用意したら。どうせ部屋は余るんだから。そうですよね、おじいさま。それともこれは伯父様かな」

「「…………」」

「まぁいいわ、後でお話聞かせて頂けるようなので。私もずっと家にいる訳じゃないですからね。外泊もあるから、そういう時はこっちの方が休まるでしょうし」

「お気遣いありがとうございます」

「こちらの宿舎と本邸との間も地下で繋がっております。あとミーア様の馬車と馬はこの先にございます」

馬も飼ってるのね。なんと4頭もいるんだって。それと馬車も2台、1台は王都内で使う豪奢なもの、もう1台は旅用の少し大き目なものでした。



「伯父様、私の家の使用人って、どれぐらいになるの?」

「そうだな。執事が3名、メイドが7名、料理人は10人、庭師が10人、厩務員兼御者が3名、近衛警護が5名、屋敷の警護が50名、その他雑用係が10名ぐらいかな」

「全部で100名って事ですか。前に30人ぐらいって聞いてたんですけど」

「まぁ、これだけのお屋敷だからしょうがないねぇ」

「しょうがないって……。その人たちの給金稼がなきゃいけない私の身にもなってよ」

「給金は国から支払われるのだから問題はなかろう。彼らはミーアが集めた使用人ではなく、国でミーアの使用人になるべく集められた者たちだからな」



中ボスもかなりの強敵でした。宿舎が3棟、うち1棟は高級宿舎。全部で80部屋。更に厩に温室と。しかもそれらは地下で連携を取っているとのこと。なかなかの強敵でした。ラスボスが恐ろしいです。

「では、地下からお屋敷に入っていきましょうか」

使用人の皆さんが通る通路で家に入ります。

「こちらがお屋敷の地下1階になります。この階にあるものとしては、第一に厨房ですね。ここで仕事をするおよそ100名の食事を含め、ミーア様やご家族様のお食事も全てこちらでお作りいたします。さあ、どうぞ」

広いです。それだけではありません。壁も床もテーブルも全て白で統一されていて、とても清潔感があります。地下にある厨房ですが、火を扱うところを含めて換気もしっかりと出来ているようです。

「料理人の方が10名と言ってましたけど、広すぎません?」

「ここの料理人は10名ですが、パーティーなどで多くの食事が必要となる場合、他から料理人を応援で頼むことがあります。その場合でもスムースに料理ができるよう、20名でも余裕が出るような設計になっております」

「そういうことね」

厨房と繋がって、大食堂があります。100人ぐらいが一度に食事をとれそうな所です。ここは使用人の方が使う食堂なんだそうです。

「護衛の方の宿舎ともつながっているのですか?」

「ええ。宿舎2棟と正門、通用門、裏門の各詰め所ともつながっております」

なんかまるで秘密基地ですね。上は普通の庭園なのに、地下でいろいろなところと繋がっていて、見えないように移動ができるなんて。


「では地下2階にご案内いたします。地下2階は主に倉庫となっております。御用の方もこちらへ来ます」

あったのは食材用の大型倉庫が4つ、うち一つは凍らないまでもかなり温度の低い部屋、そしてもう一つは物が凍るほどの室温の低い部屋です。新鮮なお肉やお魚をこの部屋で保存しておけば、新鮮なまま長持ちしますね。

あとはなぜか2つもある大型の宝物庫に大型から小型までの倉庫が多数。とにかく多いんですよ。誰が管理するんですかね。私じゃ管理しきれませんからねぇ。

あと、招かれざるお客様専用のお部屋も2つほど用意されていました。もちろん完全防音仕様です。6㎡ぐらいの部屋に水道とトイレが付いていました。入口は鉄格子の外側に鉄の扉です。対魔障壁も施されているそうです。床には魔力吸収の魔法陣が設置されていて、中で魔法を使おうとすると自動的に魔力を吸収するそうです。まぁこの部屋は使いませんね。

ちなみにこの小部屋、各詰め所に4つずつあるそうです。



まあ地下なのでこんなもんでしょうね。華やかでないことぐらいは想像できましたからね。地下が華やかなのはどこぞの異世界の地下街ぐらいなものでしょう。

華やかじゃないけど、度肝は抜かれましたよ。使用人の方たちはここを中心に動くという、とても機能性に優れた設計になってたから。

これだけでも十分ラスボスですよ。あんなに大きな低温倉庫を2つも備えるところなんて、他じゃありませんからねぇ。



2階吹き抜けの玄関ホールは天上がガラス張りになっています。応接室も大証揃えて合って、お客様の人数によって使い分けるそうです。小でもかなり広いんですけどね。あと、大食堂。30人ぐらいで食事が出来そうです。小食堂もあります。執事長やメイド長なんかが使うと言ってましたが、私もそこを使うと思います。きっと。絶対に。一人で大食堂なんてやだもん。


2階は客間と執事長、メイド長のお部屋です。特に執事長とメイド長のお部屋は豪華です。宿舎の1.5倍ぐらいの広さの部屋に大きなベッドを備えた寝室、くつろぎの部屋、執務室があり、トイレだけでなく専用の大きなお風呂もあります。

「この部屋を私が使っていいのですか?」

「そう言ったでしょ。ここがマリアンナの部屋、反対側がジャスティンの部屋になるから。なんかあったら言ってね、直せるところは直すから」

「ミーア様、私はミーア様に一生付いていきます」

「あと、マリアンナの部屋の隣が私付きのメイドの部屋だって。ジャスティンの部屋の隣はこっちに常駐する近衛の護衛の部屋だって」

客間も家族用3つ、2人用6つ、1人用が4つあります。一体何人のお客様をお迎えするのでしょうか。


3階は私関連の部屋でした。私のプライベートルームに執務室、本や資料を集めた書斎、将来の旦那様のお部屋、子供たちのお部屋が4つ。

一体、私に何人子供を産ませる気なの?

「お子様のお部屋の数は足りませんでした?」

「どうしてそうなるのかなぁ。まだ結婚もしていないって言うのに。後からじゃ増やせないって言うのは分かるけどさぁ」

あと旦那様のお部屋に比べて私のお部屋の広い事。4倍ぐらいありそうです。特にベッドルーム、何ですか私のこのベッドは。とても寝心地のよさそうなベッドなんだけど、何この5人で寝ても余裕のありそうな大きさは。私にここで何をしろとおっしゃるのですか。そうですね、だから子供部屋が4部屋もあるんですね。ってそうじゃないですからね。

寝室の奥に約束してあった小部屋も用意されています。この小部屋こそワープの拠点です。

部屋の内風呂もゆったりできそうです。これだけは冒険者じゃ絶対に味わえない優雅なひと時です。

「おじいさま、私も何かお仕事をするのでしょうか」

「ミーアの仕事は特にはないぞ。ルイスに言えば何かやらせてもらえるだろうがな」

あの書斎に缶詰めにされることはないようなのでほっとしました。


1階にはもちろんお茶会用の部屋も完備です。そのお部屋は何とガラス張りのお部屋です。贅沢にガラスを使ってますね。提供元は私だからね。そりゃいくらでも使えるよね。

あと気になったのは、外の眺めが楽しめる大浴場と、開放感たっぷりの外にあるお風呂。外から見えないように柵で囲まれてるけどね。ここのお風呂は気持ちいいだろうなぁ。

それからプール。池じゃないんだよ。水遊びしたり泳いだりするプール。暑いときには気持ちいいだろうな。えっ?淑女はそんな破廉恥な事しないって?いいの、だって私は(元)冒険者なんだから。誰だ!(元)なんて付けたのは。現役の冒険者|(のつもり)なんだからね。ほらそこ、余計な言葉入れないの。



「どうでしょう、このお屋敷は。私の一世一代の設計です。お気に入り頂ければと思います」

「いろいろ思うところはありますけど、ありがとうね。気に入ったわ。あなたは一生懸命自分のお仕事をしただけですから。おじいさまやおばあさま、伯父様や他の人の注文を、よくここまで纏められましたね」

「お言葉ありがとうございます。あと、このお屋敷にはもう一つ防犯用として、魔力感知の結界が張られています。これは登録された魔力以外に反応するもので、反応があると反応のあったおよその場所を詰め所と近衛護衛に知らせが届く仕組みとなってます。この結界が5重に張り巡らされていますので、外部からの人の侵入はまず不可能と思います」


「ところでおじいさま、この家、あぁもう屋敷でいいや、このお屋敷に何人が住むのですか?」

「ミーアにジャスティン執事長とマリアンナメイド長、ミーア付きのメイドサフィアとミーアの護衛としてエレンかな」

「えっ?エレンさんって、あのエレンさんですか?」

「ベルンハルドのギルドにいたエレンじゃ」

「………うぅ。ところでサフィアさんっていうのは?」

「今年16になるドルア伯爵の3女だ。行儀見習いとして預かることになった。ミーアと年も近いし、仲良くできると思ってな」

「この4人には、私の事話してもいいんですか?エレンさんは少し知ってますけど」

「構わんだろう。皆ミーアのための者だからな」

少し気が楽になりました。秘密のまま暮らすのは大変ですからね。


とんでもない自宅が完成しました。私の考えていたものとは大違いですが、まぁこの立場を受け入れると決めたのですから仕方ありません。皆の期待に添うように、王族として立派にならなきゃね。



数日後、100人の出迎えを受けて、私はこのお屋敷に引っ越してきました。元々荷物なんてほとんどない私です。わずか荷物も亜空間に入れてあるので、身一つでの引っ越しとなりました。

いよいよ新生活の始まりです。


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