第32話 俺たちの仕事(side 金色の月光)

「おい、あれミーアじゃないか?」

俺とカッチェは中央マーケットをブラついていた。今日は仕事休みの日だ。

一瞬目に入った人影は王都に来る前までパーティーにいた仲間、ミーアのように見えた。

「えっ?」

しかしその人影は雑踏に紛れてしまっていた。


俺たち『金色の月光』はサウムハルト侯爵の専属となった。まだ仕事は受けていないが。


「ローデさん、サウムハルト侯爵様がお呼びでしたよ」

ギルドに行くと受付の人が教えてくれた。俺たちは侯爵の下に向かった。

「諸君、よく来てくれた。私からの依頼だ。3日後、私の領地『クロラント』に向けて馬車隊が出る。それの護衛をお願いしたい」

「3日後ですね。承知しました。もう少し詳しくお聞かせいただけないでしょうか。クロラントですか、詳しくないもので。勉強不足で申し訳ございません」

「構わんよ。クロラントはここから南東の方にある、この国で5番目ぐらいの街だ。馬車で5日ほどの距離になるかな。そこへ向かう商隊の護衛だ。ロレント商会の荷物だ。商会主は私なのだがな。

護衛といっても大したことをする訳じゃない。盗賊の連中は私の商隊には手を出さないことになっている。サウムハルト侯爵家の旗を掲げ、この剣を持っていればな。なので魔物の対処になる。襲ってくるものだけ片付けてくれればよい。

始めは勝手も分からんだろうから慣れたものを1人付ける。仕事の内容をしっかりと覚えてくれな。

商隊は月に1度、毎月1日にここを出る。途中の村で1泊ずつし、3日目のアルンドの街で2泊してもらう。馬を休ませるためだからな。馬の事は御者に任せ置いて構わない。荷物についてもそうだ。君たちは道中の魔物から護る事、それに専念してくれればよい。クロラントで3泊したのち同じ行程で戻ってくる。いいかな」

「2週間ということですね」

「そうじゃ。で、報酬が1回につき金貨10枚。いいな」

「はい。ところでクロラントの街はどういうところなのでしょう」

「東の辺境に近い交易の街だ。王都と東の辺境、南の港町の間、街道が分かれるところがクロラントだ。ここには東の帝国の商人も多くいる」

「東の帝国って、いつ戦争なってもおかしくない、あの帝国ですか?」

「戦争は国同士がやることだ。戦争と商売は別だ。戦争中であろうと商売は続くものなんだよ」

「そういうものなんですね。それでは3日後、護衛任務に出発します」

「3日後の朝7時に王都の南門に来てくれ。頼んだぞ」


初めての侯爵様の仕事で少し緊張気味であったが、言われた通り何もない道中だった。馬車10台の商隊に護衛が6人、一見少ないようにも感じるが盗賊の襲撃がないとわかっていれば大したことはない。もし襲撃にあったとしても、俺たちの力なら何ら問題はない。

道中さえ気を付けていれば、食事や宿の手配は同行の商人がやってくれる。本当に楽な護衛だ。


「兄ちゃんたちはこの護衛は初めてか」

案内役として同行している冒険者は、専属ではないらしい。

「ええ、専属としてこれから毎月やります」

「専属かよ。ってこたぁ、俺も次の仕事探さなきゃいけねぇってことか」

「悪りぃな」

「気にすんなって。この商隊、アルンドの街で他の馬車が合流することがあるんだ。アルンドを出発する時に商人に確認しとけ」

「ああ、分かった」


アルンドを抜けてクロラントの街に入った。今回は馬車の合流はなかった。

「俺はここまでだ。片道分しか金もらってないからな。じゃあな、達者でな」

「おう、ありがとな」


クロラントの街は活気のある街だった。さすが交易の街、王都のもの、東のもの、南のもの、帝国のもの、何でもそろった。

俺たちの仕事はここで仕入れたものを王都に送り届けるまでだ。

帰りの荷物はロレント商会で準備をしている。


俺たちは領主邸に挨拶に行った。出迎えてくれたのは侯爵夫人とこの町を治めている侯爵の長男だ。夫人も俺たちと一緒に王都へ行くそうだ。


ギルドにも顔を出しておく。まぁ冒険者だからな。これから毎月、これぐらいの日にここへ来るんだ。顔を売っといても損はない。

宿は俺たちで選んだ。いくつか紹介してくれた中からだが。ここに着くまで村で3泊、町で2泊。決して快適な宿ではない。更にこの後帰りも同じだ。特に何も起こらない護衛といっても、仕事は仕事だ。それなりに疲れもする。俺たちは紹介されたととこの中で少しいいところにした。こんなところでケチってもしょうがない。Aランクパーティーとして恥ずかしくない選択をしたまでだ。

十分に満足できる宿だった。俺たちはここをこの町の常宿とすることにした。

「悪いが俺たちは毎月6日に来て3泊する。その3泊を今の部屋で過ごしたいのだが構わないか。金は前金で払う」

「一部屋1泊銀貨10枚になります。3部屋で3泊となりますと銀貨90枚になりますがよろしいでしょうか」

「ではこれが今回分と、こっちが来月分な。おつりの銀貨10枚は食事を少し良くしてくれればいい」

そう言って金貨2枚を払った。


3日後、侯爵夫人を伴った商隊は王都へ向けて出発した。予定通りの皇帝で王都に戻った。

「ご苦労だったな。どうだった」

「はい、特に問題はありませんでした。帰りの護衛は我々だけでしたし」

「では、来月から頼めるな」

「そのつもりです。お任せください」



「楽な護衛ね。月の半分王都を離れるわけだけど、悪い仕事じゃぁないわね」

「物足りないぐらいだぜ。まぁ楽なら楽に越したことないからな」

「ちょっとよろしいでしょうか。こんな時に申し上げにくいのですが、田舎の親父に帰ってくるように言われまして、すいません、勝手なこととわかってはいますが、次の護衛の後抜けさせてもらえないでしょうか」

「親父さんに言われたのか。帰れる家があるってのはいいなぁ。そういうことなら構わないさ、な」

「まあしょうがねぇな。まぁ、アンタのおかげで侯爵様とも知り合えたわけだし」

「ありがとうございます。あとひと月は一緒なんで、よろしくお願いします」

「また、探すの?」

「暫くはこの体制で行こうと思ってる。ダンジョンとか特別な仕事の時にはサポートメンバーを入れるさ。『金色の月光』はこのメンバーだ」



次の月の護衛も難なく済ませた。シャルフィーはここで俺たちのパーティーを辞めた。

「ねぇ、何か、変」

「セリーヌ、一体何が変なんだ」

「お金」

「ちゃんと管理されてるし、問題ないぞ」

「そうじゃない。私たち、侯爵様から、お金、貰い過ぎ」

「そうかぁ、そんなことないと思うぞ。なんたって俺たちはAランクなんだから」

「ディート、アンタはちょっと黙ってて。考えても見なかったけど、そうかも知れないわね。月に7枚に護衛で10枚。バラバラに貰ってたから気にしなかったけど、月に17枚は確かに多いわね」

「そう。ベルンハルドの時は、一人で、月に、1枚でも、暮らせてた。ここは、高いけど、2枚あれば、暮らせる。だから、何か、変」

「俺たちは、Bランク以下のパーティーの目標なんだよ。その目標って言うのは、ガツガツしてちゃダメなんだ、優雅にしてないと。トップになれば俺たちみたいになれる。だからあいつらは頑張れるんだ」

「でも、やっぱり、おかしい。裏で、きっと、何か、ある」

「セリーヌがそこまで言うんなら、俺も少し気を付けるよ。金蔓の機嫌を損ねないようにな」


**********


「あいつらの様子はどうだ、ラフィンドル」

「はい、ローレンス様。2回護衛に出ていますが、問題はありません。ただ、シャルフィーって奴ですか、あの新しく加わった奴ですが、、何やらパーティーを抜けたそうなのですが」

「なら次に一度混ぜてみるとするか。それと、シャルフィーの事は気にしなくていい」

「承知いたしました。で、いかほどに」

「そうだな、Aを2、Cを3で手配しておけ」

「薔薇に伝えます」


**********


「今回の仕事だが、アルンドで馬車が合流する。同行の商人に確認してから出発するように」

「承知いたしました」


「今回で3度目の仕事だ。慣れてきたところが危ない。気入れていくぞ」

俺たち4人はいつものように仕事を始める。初めの2日は何もなかったが、3日目に少し変わったことが起きた。


「おいっ、そこの商隊、止まれっ!」

街道を進む俺たちの横から、盗賊団が近づいてきた。

「俺たちはここいらを根城にする盗賊団だが、お前らは…、その旗を見る限り『サウムハルト侯爵家』のもので間違いないか」

「あぁ、そうだ。分かってんなら通せ!」

「おぉっと、チョット待ちな。最近なぁ、勝手に旗ぁ揚げて行く奴もいてなぁ、俺たちも迷惑してんだよ。んでよぅ、オメエらがちゃんとした奴なのか証拠を見せてもらわねぇと通すわけにはいかねぇんだよ。解ったらさっさと証拠を見せろっ!」

俺はサウムハルト侯爵家の紋章が飾られた短剣を見せた。

「これが証拠だ、問題なかろう」

「お、おぅ、悪かったな。俺たちもこれで飯食ってんだ。勘弁してくれな。行っていいぞ」

「オメエら、真っ当に生き直せよ」

「ヘンっ!」


「盗賊のあの話、ホントだったんだね。この旗と短剣、凄いね」

「それだけ力のある家って事なんだろ、俺たちが仕えているところは」

「あんな奴ら、俺たちに係ればチョイだけどな」

「ああ。だが無駄な戦いはしないに越したことはない。もうすぐアルンドだ。気締めていくぞ」


アルンドで2泊している間に、言われてた馬車が合流したようだった。馬車は2台、積み荷は家畜だと言っていた。

その後は何も起こらずに、今回の仕事も無事に終わった。



「お疲れさん。報告をしてくれ」

「はい、特に大きな問題はありませんでしたが、アルンドの街の少し手前で盗賊団に止められました。旗と短剣で何も起きませんでしたけど。盗賊団の臨検だと思われます。あと、合流した馬車は2台、いずれも家畜だと言ってました」

「盗賊は災難だったな」

「いえ、向こうも何もせずに引きましたので、無駄な争いを起こすことはありませんでした」

「無事で何より、ご苦労だった」


**********


「そろそろやらねぇといかんな」

「ローレンス様、知らせを出しましょうか」

「2月後に開くとしよう。ここの連中に出しておいてくれ。商品だが、久しぶりなので少し多めに用意しよう。Aを15、Bを10、Cを5、追加で頼む」

「承知いたしました。ただ、Aの15は数がそろうかどうか……」

「早く確認しておけ。必要なら調達する」

「分かりました」


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