第31話 お墓参り(後編)
「急な訪問で、失礼する」
伯父様ったら立派だこと(笑)。そんなするから、村長がアワアワしてる。
「このような小さな村、村といっても集落のようなものですが、私たちの村へお越しいただき、大変恐縮です」
「堅苦しい挨拶などよい。村長だな、話があるのだが構わないか」
『構わないか』なんて言ってるけど、『話をするから場所を用意しろ』っていうのと同じでしょ。まぁ、向こうも絶対に断れないんだけどね。
「狭く汚いところではありますが、私の家へどうぞお越しください」
私はまだ馬車の中にいます。マルチさんのライブ中継で楽しんでいます。
「改めまして、シャルドット村へようこそおいでいただきました。私は村長をやっておりますトームスと言います」
「ルーファイス・ヘンネルベリ、この国の第2王子だ」
「王子さま、御自らお越しになるとは。私ども、悪いことなど行っておりませんが……」
「分かっている。そのようなこと出来たわけではない。この娘を存じているか?」
私の登場です。村長と合うのも3年ぶりです。
「お久しぶりです、村長」
「ん?ミーアか。お帰り、というか、一体どういうことなんだ」
すぐに分かってしまいました。変装してるわけじゃないんでそうですよね。って、成長期に変わらない私って一体………
「私から改めて説明しますね。こちら、ルーファイス王子は私の伯父になります」
「王子様がミーアちゃんの伯父さん?」
「そうです。私のお母さんがルーファイス伯父様の妹だったんです」
「エヴァさんが王女様……」
「ミーアの言った通りだ。エヴァンジェリンは私の同じ母の妹だ。今回はミーアが墓参りに行くということで私が同行することにしたのだ」
「ミーアちゃん、…様は、姫様だったのですか」
「私がここで暮らしてた時は知らなかったよ。お母さん何も話してくれなかったから」
私はおじさんと一緒にお父さんとお母さんのお墓参りをしました。『クローディス、エヴァンジェリン ここに眠る』と書かれた小さな墓石です。
『お母さん、私強くなったよ。もう大丈夫だよ。心配しなくていいから。
私ね、家族ができたの。おじいさまやおばあさま、伯父様や伯母様たち。みんな優しくしてくれる。
お母さんの秘密も教えてもらったよ。お母さんって王女様だったんだね。
色々考えたんだけど、私、これから王族として生きてくことにしたわ。チョット型破りだけどね。
お父さんと仲良くしてね』
村長の家に戻った私たちは、ソーラス叔父さんを呼びました。
「ミーアか。何しに戻ってきた」
「やめろ、ソーラス。静かにしてこっちに来るんだ」
村長は慌てて叔父さんをなだめます。これ以上の狼藉は不敬罪にあたりますからね。
「ソーラス叔父さん、ご無沙汰してます。今日はお墓参りに来ました」
「墓参りが済んだんなら、さっさと帰れよ」
「そういう訳にはいきません。ね、伯父様」
「伯父様?誰なんだこいつは」
「おい、ソーラス。いい加減にしろ。こちらはルーファイス・ヘンネルベリ第2王子だ。
王子様、この者の無礼は知らなかった故のもの。どうか寛大なご措置をお願いいたします」
「知らぬのなら致し方ないな。この場での言葉には十分気を付けなされよ。私やミーアが許したにしても、近衛の兵たちが不敬罪で告発すればどうなるか、分かるな」
「って事は何か、ミーアは王族なのか?」
「そう言ってるんですよ、ソーラス叔父さん」
「じゃあ、うちも王族との縁が………」
「ソーラス。ミーアの父クローディスの弟。クローディスと共にこの村で生まれ育つ。今から11年前、この辺りを襲った流行り病で、クローディスは我が妹エヴァンジェリンと共にこの世を去った。一人残されたミーアの面倒を見るとことなったが、その扱いは粗雑で、とても親代わりと呼べるようなものではなかった。成人後は家にも入れず、労働力を搾取する扱いを続けてきたことは調べにより明白。街に出るときは、厄介払いができたとばかりに喜んだ。相違あるか?」
「王子様、滅相もありません。私はミーアの親の代わりとして、一生懸命育ててきました。決してそのような扱いをしたことは………」
「エヴァンジェリンは私の妹でそして王族の一員だ。そんな妹が王宮を出たとなれば、監視役が付かぬわけがないだろう。もちろんエヴァには秘密ではあったが。ミーアもしかりだ。王宮で暮らしてはいなくともミーアも王族の一員であることに変わりはない。ミーアについても秘密裏に監視は続けられていたのだ。その監視役からの報告であるぞ」
「………」
「ソーラス、誠なのか」
「そんなつもりはなかったんだ。うちみたいな貧しい家で、食べるものも碌にない、そんなところに転がり込んできたんだ。うちの子たちだって碌に飯も食えねぇ、そうなるのはしょうがねぇじゃないか」
「まぁ、ミーアに手を出さず、最低限の面倒だけは見たことについては感謝する。そこでソーラスよ、私たちはエヴァンジェリンとクローディスの墓を王都へ移すのだが、何かあるかな」
「兄さんのもですか」
「エヴァと一緒に暮らし、エヴァと一緒にこの世を去った二人を、今更引き裂くつもりなのか」
「………」
「無論、礼はする。それとも国王の命令書の方がいいかな」
「分かりましたよ。好きにしてください」
「快諾していただき感謝する。ではこれをお納めに」
そういうと金貨5枚と銀貨500枚、合計で金貨10枚分のお金を、テーブルの上に並べた。
「エヴァは王籍を抜けていないし、クローディスと正式な婚姻を結んでもいない。それはエヴァが王宮を出るときの約束で、そして妹はちゃんと守った。従ってソーラス、貴様と王族の間には何の繋がりもない。つまらぬ欲を出すと身を亡ぼすことになるぞ」
「でもまぁ、叔父さんって事には変わりないですけどね。でももう会うこともないんでしょうね。今までありがとうございました。お体に気を付けて。さようなら」
あー、清々した。はっきり言ってあの叔父さん嫌いだったのよね。何もしてないのに目の敵にするんだから。でも叔母さんはもっと嫌だったな。成人してから家を追い出したのも叔母さんだったしね。だからお墓参りにもこれなかったんだけどね。まぁこれで一応終わりかな。
「村長のご協力、感謝します。エヴァンジェリンとクローディスの墓は、王都にある王家の墓地に移されることになります。こちらの村の方にも商隊のキャラバンが立ち寄るように言っておきましょう」
「王子様、お心遣いありがとうございます。小さな村ゆえ商隊が来ることも少なく、皆疲れております。村の皆に少しでも明るい話が出来そうで何よりです。
ミーアちゃん、いや姫様。ソーラスの事もあるでしょうがまた来てくださいね。この村は姫様の故郷なのですから」
「そうですね。近くに来ることがあれば寄らせていただきますね」
気のせいか、社交辞令も上手くなってきたようです。
一応、立ち寄った村や町にはマーキングをしています。殆どが一度も使うことのないマーカーになるんでしょうけど。
何かあったら、すぐに駆けつけられるかもしれないじゃないですか、私がいたらですけど。
もしここで何かがあったとすると、ベルンハルドに知らせに行くのに2日。頑張れば1日かな。ギルドの特別便で王都までが1日。何かあってから私の所に連絡が届くまで2日以上かかるって事よね。2日も経ってたらどうなってるでしょう。助けを求めるほどの一大事で、この村の力ぐらいだと………、手遅れですね。
この世界何が不便かって言うと、とにかく情報の伝達が遅い事。何か事件が起きて、それが伝わるのに4~5日経ってるのは当たり前。何せ情報を運ぶのが人なんだから、人や馬より早くはできないんだよね。
鳥も試したことがあったんだって。でもダメだったみたい。あいつら言うこと聞けないばかりか、魔物のえさになっちゃって使い物にならなかったんだって。
何か画期的な技術が発明されて、馬よりずーっと早い乗り物でもできれば変わるんでしょうけど、無理みたいね。最近、自称天才になったばっかりの私が言うんだから多分間違いはないと思うよ。私が出来そうにないんだから、他の人ができるかって言うんだよ。
私だけが使える高速情報伝達手段って言うのはあるんだよ。空間魔法のゲート、送りたい先と繋いで手紙をピロッと置けばあら不思議、あっと言う間に伝えることができました。ネッ!
まぁいいや、その内その内。
帰りもイベントっぽいイベントは起きません。フラグも立たなきゃ、サプライズも起きません。伯父様と世間話をする程度です。でもわざわざここに書くことのものじゃないですからねぇ。
「ルイスおじさん、近衛の兵隊さんってやっぱり強いの?」
「ああ強いぞ。兵士の中でも強さと礼儀に優れた、最高クラスの者たちだ。全ての兵の憧れといってもいいんだぞ」
「じゃあ、私、戦ってみたいんだけど、ダメ?ナジャフ公爵様の護衛長の人には勝ったよ、一方的にね」
「それでもミーアが戦うのは認められないな」
「私じゃなきゃいいのね。戦うのは私のお人形たち、動かすのは私だけど。離れたところから動かすからいいでしょ。それと、お人形だから遠慮なく叩き切っていいわよ。それならどう?」
「それならいいかもな、兵士たちの息抜きにもなるだろうし」
やったーっ!イベントの作成に成功です。ベルンハルドのギルドの修練場を借りることにします。
私が使う武器は木の剣、危ないから刃のついていないものね。お人形さんは壊れたら消えちゃうけど、兵隊さんは大怪我したら大変だもんね。兵隊さんたちは使い慣れた装備でお願いしてあります。
どうなるか全く分かんないの。わたしのお人形さんの強さがどれくらいか全然分かんないから。もしかしたらヘボヘボ、もしかしたらスーパーマン。ヘボだったら鍛えなおしてあげるから覚悟しときなさいね、お人形さんたち。
ギルドの修練場は大盛り上がり、の訳ありません。ギャラリーなどいません。完全貸し切りです。ギルドの職員も見学不可です。
「お願いしますね」
「姫様、お願いいたします。胸をお借りいたします」
へんっ、どうせ胸なんかありませんよ。その胸を借りるなど太てぇ野郎です。絶対ボコにしてやります。
物理的な胸じゃないって。そんなことは分かってますって。ただ言ってみたかっただけです。
「では、あなたの相手はこれでどうかしら?」
ちっちゃくって胸もない、くびれもない女の子。そうです、私そっくりのお人形です。苦節4日何とか作り上げることができたのです。でも悔しいです。私の理想から、その理想の部分を取り除いた結果がこれだったのですから。
「姫様、これは勘弁してもらえませんか。いくら人形だとわかっていても、これと戦うのは無理です」
「しょうがないわねぇ。誰かこれと戦いたい人います?」
誰も名乗りを上げません。ヘタレどもの集団ですか。そうでないことは分かっているんですけどね。
「じゃあこの人形欲しい人」
一斉に手が上がります。こんな私のコピーのような人形を手元に置いて、何するつもりですか。
壊しました。目の前からフッと消えます。何と言うことでしょう、周りからため息が聞こえるではありませんか。
「貴方たち、覚えときなさいよ」
「「「「「……………」」」」」
私が作ったのは大男です。身長が2m近くある筋骨隆々のやつです。脳みそまで筋肉のような筋肉ダルマです。脳みそはありませんけど。
ジャンプをしてみたりダッシュしたりパンチを撃ってみたりします。うん、いい動きが出来そうです。
あれっ?兵隊さん青い顔してるけどどうしたんですか?
「あのぅ、自分、止めていいですか?」
「いい訳ないだろーっ!」「ちゃんと看取ってやるから、倒されて来いっ!」
お仲間は冷たいようです。
「魔法も使っていいですよ」
人形の指先からウォーターショットを撃ってみます。少し外して撃ってみましたが、あら不思議、的に命中、粉々です。
魔法もスキルも完璧かぁ。そうよねぇ、私が操ってんだから。
結果ですか?言わなくても分かるじゃないですか。ボコですよボコ。怪我させると悪いから剣の持ち手の所で鳩尾をドンっ!
小さなうめき声を上げたと思ったら崩れ落ちちゃいました。可哀想に、この人帰ったらしごかれるんだろうな。
3対1でも勝てました。このお人形さん、全く疲れを知らないので、持久戦にはメッチャ強そうです。
最後にやったのは10対4。さすがにこの規模になると迫力が違いますね。私の方は今まで戦い続けてるパワー重視の大柄の剣士に、大盾持ちのタンク、動き回って攪乱する軽剣士にバランスの整った剣士の4体です。後衛部隊がいないのは演習だからね。
流石に部隊編成で来られると敵いませんね。今までの戦いを見て研究したのでしょうか、大男は囲まれて敗れました。4人ほど道連れにしましたが。軽剣士は足を狙われて、タンクは多方からの同時攻撃を捌ききれずに4人を引き連れて敗れました。最後の剣士は惜しいところまで行ったんですよ。1人倒して1対1。最後は私の剣の経験のなさが露呈して敗れ去りました。
「ミーアの兵は強いなぁ。近衛がこんなになるとは思わなかったぞ」
「私もお人形さんの特徴が分かってよかったです」
「時々で構わないから、近衛の訓練に顔を出してはもらえんか」
「私も試したいことがあるので構わないですけど、近衛の訓練ってお王宮ですよね」
「そうだが、それが?」
「王宮って言うとちょっと緊張しちゃって」
「気にすることはないぞ。自由にして構わないからな。ミーアの部屋もできているから、そこにゲートを開いても構わないぞ」
それは不味いっしょ。いきなり王宮の中に入るような事しちゃ。
「私の部屋ですか。それは楽しみですね」
模擬戦で倒れた兵隊さんたちには、私特性のポーションを上げました。もうすっかり元気です。
そんなこんなで、一行は王都に戻ってきました。イベントのない平和な旅でした。
お墓も移し終えて、おじいさまたちもお母さんのお墓参りをしたそうです。
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