第30話 お墓参り(前編)

大所帯です。こんなになるとは思っていませんでした。

メインはルーファイス伯父様と私。付き人の乗った馬車が1台、護衛の馬車が2台、荷物を載せた馬車が2台。他に騎馬の護衛が4騎。

馬車5台よ、5台。それに全部で30人以上。私はお母さんのお墓参りに行きたかっただけなのに。

一体、何がどうするとこうなるんでしょう。


「ミーアよ、先日の二人、ジャスティンとマリアンナだが、ミーアの執事とメイド長にするつもりだ。今回の旅にも随行させるので、何かあれば二人を頼るんだぞ」

冒険者じゃなく王族の一員なので、自分で全てをやってはいけないんだそうです。特に私は貴族としての教育を全く受けてませんからね。


私が生まれた村は、ベルンハルドから馬車で2日の所です。王都から片道5日、およそ2週間の旅です。

「ミーア、私たち王族とか貴族が他の町や村に行くときに、大人数で行くのはなぜかわかるか?」

「盗賊から守るためじゃないの?」

「昔はそうだった。だが、今ではほとんど襲われることはない。旗を掲げておるからな。

彼らを連れて行くのは、町や村にお金を落としてやるためなんだよ。小さな町や村での経済など僅かだからな。私たちが訪れた時にお金を落としてあげるんだ。買うものといっても殆どが水や食料だけどな。

そして更に塩などの物資を配給することもある。場合によっては麦などもな。

一見無駄のようにも思えるが、国の為には大切なことなのだ」

「でもこんな大人数じゃ、小さな町や村じゃ泊まれるところなんてありませんよ」

「護衛や付き人は街中で野営だよ。多くの場合、野営の方が町の宿屋より快適だからね、虫もいないし。私たちは客人として、町長や代官の所に泊まることが多いけどな」


さすがにこの間サミリアから王都に戻るときのような盗賊イベントは起きません。あの時はホントにたまたまだったんです。たまたま、運悪く。運が悪かったのは盗賊さんたちですよ。何せ私に関わったばっかりに命を落とすわ、金を巻き上げられるわ。私は悪もんじゃないですからね。至って温厚な一市民、じゃなかった一王族です。


でもね、バカな盗賊は出てこなくても、襲い掛かってくる魔物はいるのね。さっきもゴブリンが3匹、茂みから飛び出そうとしてたの。私にはばれてるんだけどね。

『パシュッ!パシュッ!パシュッ!』

哀れ、ゴブリンたちの最期です。

「ミーア、一体何をやったんだ?」

「ルーファイス伯父様、ゴブリンがいたので仕留めときました」

「仕留めたって、動いてる馬車の中からか?」

「ええ。伯父様はおじいさまより、私の事聞いていらっしゃるんですよね」

「一応は聞いてはいるが………その前に伯父様は止めてくれよ。ルイスおじさんでいいぞ」

「おじさん、分かったわ。それでさっきのは、【精密射撃】ってやつよ。まぁ今じゃあ目標さえ決めれば、逃げようが隠れようが命中しますけどね。倒したければ急所に、捕獲したければ動けなくなるところにあたるのよ。凄いでしょ」

「父さんが言うのも分かるな。ミーアは簡単にやってるけど、ホントなんだな」


おじいさまが伯父様にどんな話をしたのかは知りませんが、まぁ一応は分かってもらえたようです。

「この旅の途中でも見せてあげるから、楽しみにしてね」


盗賊も出ない、魔物も殆ど出てこない、助けを求める人もいない。

そんなこと言ってると、フラグが立つって?

ホントないんだって。むしろフラグが立ってほしいわ。そうすりゃイベント発生するでしょ。


ただただ進んで、時々休む。休まないと馬が疲れちゃうからね。休憩中に私たちも体伸ばしたりしてリフレッシュね。

そしてまた進む。村があればまた休憩。村は半日に1つぐらいあるわね。村って言ってもちょっと大きな集落って感じのとこもあるけど。だから私たちが着くと大騒ぎになっちゃうの。小さな村に王族一行が来るんだもの、大騒ぎにならない訳がない。必死でおもてなしをしようとするけど、丁重にお断りして、休憩だけさせてもらって出発ね。水と飼葉と食料のお金はちゃんと払ってね。いくつかの村では塩を置いていったの。やっぱり小さな村じゃ足りないみたいね。


3日目、予定通りベルンハルドに着きました。今日の宿はいつもの『小鳥の止まり木』ではなく、領主邸。立派なお部屋に通されました。

『小鳥の止まり木』には顔を出しましたよ、伯父様と一緒に。『小鳥の止まり木』の親父さんったら腰ぬかしちゃって、大変だったの。ごめんなさい、色々と隠していて。

おばさんは『もう泊まりに来てくれないのね』って言って悲しそうな寂しそうな顔をしてたけど、『一人の時はお邪魔しますよ』って言ったら嬉しそうだった。領主の館でもいいんだろうけど、やっぱこっちの方が落ち着くしね。


ギルドはもっと大騒ぎ。やっぱ王族って特別だわー。

だって、あのエレンさんが畏まっちゃうんだよ。へべれけになって絡んできたエレンさんが。

伯父様と私とギルドマスターとエレンさんで話しているときに、伯父様がエレンさんに私のところで働かないかって言ってました。伯父様が言うって事は決定事項なんですけどね。私の秘密を知ってる人を近くに置いときたいって言うのは分かります。分かるんですけど、貞操の危機警報がまた発令しそうで怖いです。

エレンさんは1カ月ぐらいで王都に来ることになりました。まだこっちでのお仕事も残ってるからね。

『待っててね、私のミーア』って、やっぱりやばい人かもしれませんね。


そんなこんなで出発です。まぁ、また帰りにもよるんですけどね。

同じ旅路が続きます。イベントなど当然なし、と思ったら、森からイノシシが一頭飛び出してきました。冷静に弓でパシュンです。

野生のイノシシは美味しく食べられますので、護衛の方たちが頂きます。とは言っても結構なサイズですので、半分は次の宿泊する村にあげました。

突然の大口のお客さんにイノシシのお土産付き。村が盛り上がらない訳がありません。村長だかコメツキバッタだかわかりません。ずーっとペコペコしていましたよ。


特に大きなイベントもなく、目的の村、私の生まれ育った、そしてお母さんの眠る村に到着しました。

イベントはなかったけど収穫はありました。ほら、あの錬金術ってやつ。それを勉強してました。だって、やることないんですもの。伯父様と二人っきりでしょ、話すことなんてすぐ尽きちゃうわよ。私の事も一通り全部話しましたし、伯父様のお仕事のことやこの国の事、王族の事もいろいろと聞きました。でもそれって、1日もあれば終わっちゃうのよね。むしろ1日じゃ多過ぎ。半日でもおつりがくるわ。ということで時間はいっぱいあったんです。

周囲の警戒はマルチさんがやってくれるし、なので、錬金術の本を読んでました。何もしないでいると違う妄想しちゃいますからね。


仕組みはなんとなくわかったつもり。材料揃えて『エイッ!ヤーッ!』やると、キュルキュルってなってポンッと出来上がる。何言ってるかわかんないって。まぁ、そんなもんなのよ。だから命は作れない。核があればゴーレムは作れそう。でもどうやって動かすのかは分からない。今度調べよっと。

私が作りたいのはヒトとそっくりな人形。動かすのは私だから命じゃないし、勝手に動かすわけでもないのでゴーレムでもない。操り人形なのです。

それっぽいものはできるようになってるんです。いきなりヒトは難しそうだったから、初めはスライムにしてみました。思いのほか出来のいいスライム人形(?)ができました。触感もそっくりです。繰り返し練習しているうちにヒトも作れるようになりました。やっぱ私って天才です。

私の作った錬金人形、『壊れろっ!』ってやると、スッと消えるんです。良かったです。ドロドロに溶けたり、爆散したらどうしようかと思いました。だって、自分とそっくりの人形を消すときに、爆散したらやじゃないですか。

何故か私の人形だけできないんです。私そっくりにならないんです。体つきも違えば顔も違う。自分を見つめるって難しいです。


見る、聞くはマルチさんでもできたんですが、あっマルチさんって【マルチセンス】の事ね、この人形喋るんです。私が言いたいことを喋るんです。人形と私が会話するって、一人芝居みたいなもんですけど。ということは、人形いっぱい作って動かせば、一人劇団ができるってこと?面白そうですね、やらないけど。フラグじゃないよ。このフラグは折るからね。

私そっくりな人形ができれば、アリバイ野郎の完成です。他人そっくりの人形だったら冤罪野郎です。悪いことに使うことしか頭に浮かばない私がかわいそうです。


作れるようになったのは人形だけじゃありません。

ポーションも作れますし、岩の中から鉄だけを取り出すこともできます。ミスリルも取り出せました。

砂からガラスも作れました。帰ったらおじいさまに見せてあげようっと。


伯父様?ええ、呆れてました。それはもう、壮絶に頭抱えて。

『自重はどっかに置いてきちゃいました』って言ったら笑ってました。乾いてましたけど。


さてと、この旅最大のイベント、『お墓参り』をするとしますかね。


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