第29話 王都の拠点
「おじいさま、ただいまー」
「帰ったのか、ミーア。ベルンハルドはどうじゃった」
「変わってなかったよ。それにみんなにちゃんと挨拶してきた」
今はまだおじいさまのお屋敷に居候です。もう少ししたら私のおうちが決まるので、そうしたらお引越しです。何も荷物はないですけど。
「ミーアの屋敷じゃが少し時間がかかりそうじゃ。手頃な物件がなくてのう、新しく建てることにしたんじゃ」
おじいさま、何をおっしゃってるんですか。そんな贅沢は要りませんから。あと、さりげなく『屋敷』って言いましたよね。普通の家でいいんですよ。
「おじいさま、貴族街は嫌ですよ」
「大丈夫だ。ちゃんと普通の市民が住む区画に建てておる。貴族街ならいい物件もあったんじゃ。じゃが、ミーアの譲れぬところだったからな」
まあ、おじいさまの事ですから、超高級住宅街に建ててるんでしょうね。怖いです。
「一度、村に帰ろうと思ってます。お父さんとお母さんのお墓参り。色々報告しないといけないから」
「エヴァのお墓か。こっちに移すとするかのう」
「お父さんのは?」
「クローディスのも一緒に移してやるぞ。まさかここで引き裂いたら儂が向こうに行ったとき何言われるか分からんからの」
「私が持ってこようか?」
「いや、ルーファイスを同行させよう。向こうの村長にちゃんと話をせんといかんからな」
「って事は馬車。ルイスおじさんは次の次の王様。って事は護衛がいっぱい。う~~」
「そんな顔するもんじゃないぞ。たまには馬車の旅もいいものだ」
「此間したばっかじゃん」
「そうだったの。ただな、ルーファイスにもお前の事を知ってもらおうと思ってな。あいつはエヴァの母親の同じ兄だ。王族の中でもミーアに近い。王族の中で秘密を知っているものが儂とフランだけという訳にもいかんのだ。かと言って皆が知れば必ずどこかから綻ぶ。ルイスもエヴァの忘れ形見のミーアを気にかけてるようだしな」
「ルイスおじさまには行く途中でお話すればいいの?」
「行く前に儂の方から話しておく。出発は1週間後。いいな」
もう一つ気になってることがあるの。分かるわよね、そう、さっきおじいさまが話していた私のおうちの事。とんでもないことになってるのは簡単に想像つくんだけども、きっとそれの斜め上をいくに違いないわ。
「ねぇ、私のおうちの事なんだけど、見に行きたいんだけど、ダメ?」
「まだ何もできてないぞ。それでもいいのか?」
「うん、どんな所か知っておきたいから。それにおじいさまの事だから、平民が住んでるところとは言っても私の想像と全然違うと思うし。どんな人が住んでるのかぐらい知っといた方がいいかなって思ったから」
「では、案内させよう」
案内してくれたのは、私より10歳、いやもうチョッと上かな、って感じの男の人と、多分25歳ぐらいの女の人。男の人は背が高くてがっしりしていてイケメン。女の人も女性にしては背は高い方で女性が見てもほれぼれするようなスタイル、そしてやっぱり美人。それでいて二人とも仕事も完璧。世の中不公平よね、こんな人もいるんだもん。これでもし二人がお付き合いしてたら、爆発しちゃえって思うわよ。後で聞いたら、私の執事とメイド長になる人なんだって。
で、案内されたんだけども、馬車で行くのよ。信じられる。街中の移動に馬車よ。歩いたって2時間かそこいらの所へだよ。
「……………これ何?」
「お嬢様のお屋敷の建築現場ですけれども」
いやね、分かってたわよ。こんなことじゃないかって。敷地に入ってから馬車で5分ぐらい、歩いたら10分弱かな。そこに現場はありました。
「いや、ずいぶんと奥まったところにあるなって」
「そうですか?お屋敷の敷地は幅が1キロぐらい、奥に1.5キロぐらいだったと思います」
「よくこんな所が空いていましたね」
「ここは王族の所有する土地の一つです。このようなところは他に幾つもありますよ」
今は地面を掘ってました。掘るったって魔法でね、土魔法ってこうしてみると便利ね。そういえばローデも使ってたね、パッと落とし穴作ったり、ドーンと壁作ったり。
基礎のために掘ってるんじゃなくって、作ってるのは地下室。しかも今は地下2階部分。頭が痛くなってきました。
「お嬢様、お屋敷の設計図をご覧になりますか?」
止めておきました。この家は私だけが使う訳ではありません。執事やメイドさん、料理人やお庭や馬の面倒を見る人、それに護衛の人たち。皆が使う家です。だからみんなが使いやすくなるように建てているのでしょう。
「ここがお嬢様のお屋敷ですね。使用人の住まいはあの奥に建てる予定と聞いています」
「一緒に住まないんですか?」
「主と使用人が同じ屋根の下で寝食を共にすることはありません。いつでも駆けつけられるように近くにはいますが」
私が使う部屋なんて、私室としての寝室と食堂、お風呂とトイレぐらいなのになぁ。キッチンは使えるかなぁ。
「出来上がるのを楽しみにしていてくださいね」
「は、はい、そうですね。ところでここ、本当に貴族街じゃないんですよね」
「そうですよ。貴族の方も住んではいらっしゃいますけど、平民の方も住んでいます。お隣は確かラヴァン商会長のお屋敷だったと覚えています」
お隣っていったって、家から20分近くかかるんだよ。既に近所じゃないよね。
「反対の隣は男爵邸と聞いておりますが、詳しくはちょっと………」
「おじいさま……」
「どうじゃった、気に入ってもらえそうか」
「ええ、凄かったです。私が想像していたのよりずっと。それにしても、なんであんなに立派なのを建てるんですか?」
「ミーアの屋敷だからのう。それだけではない。ミーアはこの国、ヘンネルベリ王国にとって、最重要人なのだからな。それに見合った規模と質が必要なのじゃ」
「ふー、納得できないこともありますけど、分かりました。あの家からお隣まで20分以上かかりますよね。あのお庭で迷子になれますよね。お買い物とか不便ですよね。なので、城下の町にゲート用の小さな家を買います。これは私が買います。いいですよね」
「ダメといっても買うのじゃろ」
「はい。私がそこに住むわけじゃありませんから。住むのはさっきのおうちです。ただ、城下の町の家も誰も住んでる風がないのに私が出入りしていると変に思う人も出てくるかもしれないので、誰かに住んでもらおうと思ってます。そこに住む人はおじいさまにお任せいたします。そうすれば安心でしょ」
そうと決まれば家探しです。条件としては中央マーケットのそば、もしくは中。3階建くらいの目立たない家。お店でもいいね。チョッとした薬を扱う小さな店。そのための薬なら作りますよ。私も仕事もしないでプラプラする訳にはいきませんから。別に売れなくってもいいんですからね。
おじいさまにお話ししたら、それならいいって。OK貰いました。
あくる日、商業ギルドに行きました。昨日の3人で。
中央マーケットにお店を出したいということ、扱うのは薬ということなどをお話ししました。
はっきり言ってひどい扱いでした。やれギルドランクがどうの、税金がどうの、中央マーケットじゃなくって違うとこでやったらどうかとか、とにかく人の話を聞こうとしません。一人で来なくてよかったです。
でもその後は面白かったですよ。私についてきた男の人、執事になる人ね、その人が、『お嬢様、例のモノをお見せになっては如何でしょう』って言うのよ。初め何のことかわかんなかったけど、指で丸を作ってくれたから思い出せたわ。おじいさまに頂いたあのメダルのことだって。
メダルを出したらね、ギルドの人ったら青い顔してすっ飛んでったわ。すぐに応接室が用意されてギルド長まで出てきたの。『すみません』、『申し訳ございません』しか言わないのよ。さっきの勢いはどうしたのかしら。
商店の許可証はすぐに作ってくれたわ。ランクの事もなんか言ってたけど、そんなの別にどうでもいい。だって真剣に商売したいわけじゃないからね。私がホントに欲しいのは、ゲートが開ける部屋だから。でもきっと、国内のどの街でもお店が開けるようになってるんじゃないかな。
不動産屋って言うか、ギルドの不動産部門も紹介してもらったんだけど……。私の希望に沿った物件を選んでもらうんだけど、どれも私の希望に沿ってないの。気を使っていい物件を紹介してくれてるんだろうけどね。
埒が明かないから街の不動産屋を紹介してって言ったら大慌てで違う物件持ってきたの。探せばあるんじゃん。
3つピックアップして、いざ内覧へ。そりゃさすがに資料だけじゃ決められないですからね。周りにどんなお店があるのかとか、雰囲気も大事だからね。
いい物件がありました。人通りがそれなりにあるところで、築5~6年ぐらいの小さなお店。近くに薬屋はない。服屋が多かったな。オーダーメイド専門店や変わったデザインが多くある店、普段着からオシャレ着まで何でも揃いそう。小物やアクセサリーのお店も何件かあったし、靴屋もね。靴屋には冒険者向けのごついのからパーティーに履いていくキラキラしたものまで置いてあったの。他には雑貨屋に食品店、お茶屋、レストランなどなど。
どうしてこんなに新しい物件が空いてたのか聞いてみたら、前のお店は手狭になって大きなお店に移ったんだそうです。潰れたんじゃなくてよかったです。
お店は3階建です。周りもみんな3階建です。1階が店舗と居住部分の水回り、厨房、風呂、トイレね。2階は居住スペースで、3階はいくつかの倉庫。3階の倉庫の1室をゲート部屋にします。
お店の名前は『ミル薬局』。不定期開店のお店です
お代はちゃんと払いましたよ。金貨80枚。確か資料には95枚って書いてあったんだけど、少し安くしてくれました。でもね、初め50枚って言って来たから、『変に気を回さないでください』って言ってこの値段になりました。
この拠点の事はおじいさまとおばあさまも楽しみにしてるみたい。どこへ行くにも護衛がぞろぞろついてくる人だからね、やっぱり窮屈だったみたい。私が付いていれば安心だから、お忍びで王都デートができるよ。
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