第28話 ベルンハルドの別れ

『終わったーっ!あ~、疲れた』


内輪のお披露目パーティーは、無事終わりました。ってか、『お城』で『内輪』のパーティーなんだから、無事じゃなきゃおかしいんだって。


でも疲れたぁ。気疲れってやつなのかなぁ。冒険者じゃ味わえない感じだよね、少なくとも今までの私じゃ。味わいたくなかったけど。


みんな優しくしてくれたなぁ。おじいさまやおばあさま、あっおばあさま3人いるんだっけ、フランシェスカおばあさまのことね、フランシェスカおばあさまだけじゃなくってジュリアーナおばあさまもペイトロッテおばあさまも可愛がってくれるのはいいんだけど、『こっちにいらっしゃい』、『こっちにいらっしゃい』とひっきりなし。私ね、感覚はいくつも作れるんだけど、分身はできないんだ。だからずいぶん連れまわされた。



【分身】ってスキル身に付けようとしてるんじゃないかって?しないわよ。化けもんじゃあるまいし。

えっ、十分化けもんだって?大きなお世話よっ!

実体化ができないと思うのよね。感覚はいくつもできるし、思考や感情はコッチで纏めてやればいいことだから問題ないけど、ってそれだけでも大問題なんだけど、体が作れないでしょ。

できるじゃないかって?ふむふむ、体を作っているものはこの世界のどこにでもあるものだから、作りたいとこでそれを集めればいいじゃないかって。

ってさぁ、どっから仕入れた知識か知らないけど、私に余計なもの吹き込まないでくれる?試したくなっちゃうじゃない。


しかもこれって【錬金術】だよね。それも禁忌の『命の創造』。

えっ、命じゃないからセーフ?命じゃないの?ただの感覚器?ちゃんと説明し………、そっか。

分身体だから命は要らないんだ、命があるのは私だけだもんね。私そっくりなゴーレムでいいって事か。

何?理解が早くて助かるって?いやぁ、もっとに褒めてくれてもいいのよ。どんどん褒めなさい。最近誰かさんのせいでブっ飛んだ天才になりかけてんだから。

【錬金術】って使い手って少ないよね。1000人に1人ぐらい?

私には素質がある?薬やポーションを作れるんだから、【錬金術】も使えるようになるはずだって?

私はさぁ、最初に解毒薬が作れるようになったのよ。ジョブの助けを借りてね。で、毒も薬も同じだってわかったら普通の薬も作れるようになったわけ。いろんな薬をね。その中にポーションもあるって事。だから【錬金術】は関係ないんだって。

えっ、それこそが【錬金術】だって?ちゃんと勉強すれば私ならものにできるって?そうかなぁ。

ほらそこっ、もっと私を盛り上げなさいよ。貴方だって『ミーア化物化計画』の一員なんでしょ、どうせ。

よしっ、暇になったら【錬金術】でも調べるか。って暇かぁ。


方向性は決まったな。【錬金術】を習得して私とそっくりなゴーレムを作る。

胸は少し盛ってもいいよね?(はぁ?)

ダメ?(いい訳ないじゃん)

分かりました。(素直でよろしい)

それを幾つも自然に動かせるように特訓する。すると私の分身が出来上がる。


でも使わないよ。なぜか?って、そんなの決まってんじゃん。

私はね、スキル使っていろんなところを見聞きできるよ。でもそれは、そこに私の跡が絶対に残らないからできるんだよ。もし、私ってばれたら怖いでしょ。

これがだよ、分身を作るって事は自分の姿をさらすって事だよ。私だってばれるじゃん。だ・か・ら、使わないの。


別の人のゴーレムを作って悪さしちゃえば、って私悪い事には使いたくないよ。ちょっと興味は出てきたけど。



そんな話をしてたんじゃないって!パーティーの話だよ、パーティーの。ふぅ、やっと戻ってきた。

おばあさまたちが口を揃えて言ったのが、『エヴァンジェリンによく似てる』だって。私はそんなこと思ったこともなかったけどね。お母さんって凄く素敵な女性だったから、7歳の私には。でも悪い気はしなかったよ。

伯父様や伯母様たちもそう、『エヴァの小さいころにそっくり』って、私もう小さくないからね。背丈はちっちゃいし、胸もまだ小さいけど………、私だって淑女レディーなんだから。…きっと。………たぶん。


ルーファイス伯父様が『私の養女にならないか』って言ってくれたの。幼女じゃなくって養女よ。娘にしたいって。

お父さんとお母さんが死んじゃってからは家族って言うのがなかったから、とっても嬉しかったの。一応叔父さんが面倒見ててくれたんだけど、邪魔者みたいだったからねぇ。

でもおじいさまが少し待つように言って終わっちゃった。今となっては簡単に誰かの所で世話になる訳にはいかなくなっちゃったからねぇ。

私の住む家はおじいさまが探してくれるって言うから、ルイスおじさんと一緒に住むことはないけど。でも素敵なおじさんだったなぁ。

ん?ルイスおじさんってリオおじさんと一緒に王宮に住んでるんだよね。絶対一緒に住めないや。だって『自由剥奪』、『完全お姫様扱い』決定だもんね。外には簡単に出られるけど、急に居なくなっちゃったらびっくりするでしょ。お城の中大騒ぎになっちゃうって。そんなときのために分身を置いておけばいいじゃんって?………ダメダメ。ったく、危うく流されるところだったわよ。




「おじいさま、ベルンハルドに行ってくるね。1週間ぐらいで帰ってくるから」

「気を付けるんじゃぞ」


ゲートを潜ればそこはベルンハルド。いやー、ホント便利な世界になりましたねぇ。って私だけ。


久しぶりのベルンハルドの冒険者ギルドです。何も変わっていませんが、やっぱ入りにくいですね。

「あのう、エレンさん?」

「ミーアじゃないの。どこ行ってたの?何してたの?何もなかった?いいから話を聞かせなさい。って言うことで、ここよろしく」

エレンさん、凄い勢いです。あっと言う間に受付を他の人に頼んで押し付けて、私の首根っこ引っ掴まえてギルドの尋問室へ一直線です。私、これから尋問されるのでしょうか。悪いことしてません。何の容疑もかけられていないはずなのに。


謎の盗賊団に拉致られたこと。アジトで3~4日独房暮らしをしていたこと。どこかの貴族が助けてくれたこと。心の傷をいやすために遠くの別荘で静養していたこと。そしてようやく戻ってこれたこと。

ホントにあった出来事をベースに、多少かなりの脚色を付けて話しました。

薔薇の園の事も言いません。ミルデュース子爵の事もナジャフ公爵の事も。もちろん王族の話なんでできるわけありません。


「ミーアの純潔は守られたって事でいいのね。あー良かった、ミーアの純潔は私が頂くんだから」

エレンさん、とんでもないことを言ってますよ。私をアブノーマルな世界に引きずり込もうとしてませんか。


「んで、ミーア、アンタこれからどうすんの?こっちで続けるの?」

「王都に私の親戚がいることが分かったの。それでね、王都に来なさいって言われてるんで、そうしようかなって思ってる。ここじゃあ仲間も家族もいないからね」

「『金色の月光』のことね。あいつらも王都に移ったみたいよ。なんでも新しいメンバーが入ったって噂よ」

「へぇ、頑張ってるんだ。そういえば変なこと聞いたな。盗賊団に拉致られてた時、『パーティーから追い出されたことにも気が付かん奴』だって私のこと言ってたのがいた。エレンさん、どう思う?」

「ぶっちゃけちゃうとありうるわね。おカネ渡して厄介払いする、よくある事よ。あからさまに『首っ!』ってやるとイメージガタ落ちになるしね。半端な金額だともっと寄越せってトラブルになるけど、ミーアは結構もらったって言ってたから、穏便に追放したかったんじゃないかなぁ。ランクアップのタイミングでもあったし、もっと別な何かの思惑があったのかもしれないけど」

「やっぱりそうなんだね。ちょっと情けなかったな、パーティー抜けた後もそんな人達を仲間だったなんて思ってた私が」

「どうする?復讐する?なんなら私が敵討ちしてもいいよ」

「復讐なんてしないわよ。それに敵だなんて、かたきだけどてきじゃないんだから、ほっといていいの」

「ッチ!残念!なんかあったら言ってね。キッチリ落とし前付けさせるから」

エレンさん、人格変わりました?って変わってませんでしたね。前から過激な人でした。


「すぐに王都に行っちゃうの?」

「ううん、1週間ぐらいこっちにいるよ」

「泊まるとこ決めてなかったら、あたしんちに来なよ」

ミーアさんの貞操の危機です。このままエレンさんに食べられてしまうのでしょうか。

「大丈夫、『小鳥の止まり木』に泊まるから」

「じゃあ、私も一緒に泊まるね。1週間休みとってくるから、ちょっと待ってて」

マ・ジ・デ・ス・カ。ミーアさんの貞操に緊急の警報が発令されましたよ。

「あのー、エレンさん、何考えてるんですか?」

「冗談ですよ。隅々まで味わいたいですけど、今は止めておきますね」

今だけじゃなく、ずっと止めてくださいね。オ・ネ・ガ・イ・シ・マ・ス。

「でも、ご飯ぐらいはいいわよね」


いやー、酷い目にあいました。エレンさん、まぁ、飲むわ、飲むわ。一体どこに消えてくんですかねぇ。

お酒が回ってきたら、もうそれは、触ってきたり、キスしてきたり。物心ついてからのファーストキスはエレンさんかも知れません。何せ『年齢=彼氏いない歴』ですから。

へべれけになったエレンさんを放っておけず、結局私の部屋に連れてきてしまいました。これじゃあまるで、私がお持ち帰りしたみたいじゃないですか。心外です。

エレンさんですか?ええ、今隣ではしたないカッコで寝てますよ。服は皺にならないように脱がせました。別に下心なんてありませんから。あくまで事務的にです。下着姿も窮屈そうだったので少し緩めてあげました。私、優しいですから。

で、私が寝るはずのベッドで寝ています。私もそこで一緒に寝ると襲われそうなので、仕方なく床で寝ることにしました。


これが1週間続いたかって?続くわけありませんよ。最初だけです。これはホントです。

エレンさん、あの夜の事何にも覚えてないんですって。かなり危ない人ですね。よーく言い聞かせておきました。


王都に比べれば小さいですが、それでもこの国の10指に入る街です。それに3年近く暮らした街です。それなりに知り合いもいます。挨拶して回るだけであっという間に1週間が過ぎてしまいました。


最後に『小鳥の止まり木』のおじさんとおばさんに挨拶です。『ここは貴女のうちなんだから、いつでも帰ってきていいんだからね』って。涙が出そうになりました。ってか泣いちゃいました。


『また来るねッ』ってエレンさんに言ったら、『王都まで3日もかかるのよ。チョクチョク来るなんて出来る訳ないんだから』って笑われました。一瞬なんですけど。

では、王都までの馬車の旅を楽し……まないで、人のいないところでゲートを開いて帰ります。



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