第27話 いざ、王都へ
「ねぇおばあさま、他のおばあさまたちや伯父様、伯母様たちの事、教えて下さいませんか」
「いいわよ。クリスと私はね、それはもう燃えるような恋をして、クリスったら私にね……」
「フランシェスカ、作り話はダメじゃぞ」
「ごめんなさいね、私も女ですからね、そういうお話も好きですから。
クリスと私が出会ったのは、クリスがまだ王子の頃、王宮のパーティーだったかしら。その時にはすでに2人の奥様がいらしたわ。ジュリアーナ様とペイトロッテ様ね。この国では何人も妻がいてもいいのは知ってるわよね。
そのパーティーの暫く後、私の父、侯爵なんだけど、がね、クリス様に私の事を是非ってお話をしたそうよ。その時はまだクリス様にはお子様がいらっしゃらなくてね、気にしてらっしゃったんですかねぇ、私も嫁ぐことになったの」
「それじゃぁおばあさまは子作りのために嫁いだんですか?」
「儂は子のために嫁にしたわけじゃないぞ。儂はフランの聡明さに惹かれたのだ。それに子のことは特に気にもしていなかったし、別に焦ってもいなかったからな。子は天からの授かりものだからな。時期が来れば授かると信じておったからな」
「ジュリィとペイト、私の3人はとても仲が良かったし、クリスは3人を同じように愛してくれたわ。私が嫁いですぐの頃だったかしらねぇ、ジュリィに子供ができたわ。フローランスよ、女の子ね。そうしたらすぐにペイトも。2人目も女の子だったの。マルティーヌね。クリスったら少し残念そうにしていたわ」
「そんなことはない。息子も必ず授かると信じておったし。それに娘たちが可愛くてかわいくて……」
「それから2年ぐらいして、またジュリィに子供ができたわ。今度は男の子。リオンハイムよ。次の国王ね。この時のクリスは嬉しくてうれしくて、一晩中はしゃいでたわ」
「そりゃ嬉しいだろう。儂にとっても王族にとっても待望の男の子だからな」
「リオが生まれてくる前に私も授かったの。貴女の母エヴァのお兄さんね。ルーファイスよ。その後2年ぐらいたってたかしらね、ペイトがアンジェリカと翌年にグランフェイムを生んだわ。その後5~6年たってエヴァンジェリンができたの」
「グランから随分と離れたからのう、エヴァは可愛かった。ジュリィとペイトだけじゃなく、フローラや、マリー、リオやルイスも可愛がっておったからのう」
「フローラはね、ナジャフさんの所に嫁いだのよ」
「えっ、公爵様はフローランス伯母様の旦那様なのです?」
「違う違う、フローラさんは儂の一番上の息子の所に嫁いだのだ。男の子2人と女の子がおるぞ」
「公爵様の所に行けば私のいとこに会えるってこと?会ってみたいなぁ」
「構わんぞ。王都で暮らしているからいつでも会いに来るがいい」
「アンジェはグラハム辺境伯様に嫁がれたわ。辺境伯様は長くお一人でね、たまたま王宮でアンジェと出会って猛アタックの末連れてっちゃったわ。今は2人で仲良くやってるわ。子供もできたって聞いたけど、詳しくは分からないの、何せ遠いでしょ」
「私が辺境伯様のところへ行ってゲートを開けば、お会いになれますよ」
「そうか、ミーアに合わせてもらえばよいのか。儂も楽しみが増えるのう」
「マリーの旦那様は王都警備部長の侯爵様ね。だから王都にいるわ」
「じゃあ、王都にいないのはアンジェリカ伯母様だけですか?」
「いいえ、グランが軍の東部方面軍軍司令として赴任しているわ。東部はアズラート帝国と接しているでしょ。だから大変なのよ」
「どうじゃ姫様、私と一緒に陣中見舞いに行ってみないか」
「これ、ナジャフ。ミーアを軍で使おうとするのではない」
「グランフェイム様にお会いになりたいかなと思いまして」
「それでは儂が出向こうかのう」
「大公様が動かれては大事になりますので、少しご遠慮いただきたいのですが」
「それはお主とて同じであろう。ははは……」
「ルーファイス伯父様は?」
「宰相の補佐をしているわ。ゆくゆくは宰相にでもなるのですかねぇ」
「いや、リオがアルベルトの補佐をしているように、ルイスには王族としてリオの補佐をしてもらう。万が一が起きた時でも、この国はこの国でなければならぬからの」
「国王様にはお子様はいらっしゃらないのですか?」
「アルには娘しかおらん。娘ばかり11人じゃ」
「で、ミーア、もう暫くしたら一度王都へ行くぞ」
「では私はベルンハルドに………」
「いや、ミーアも王都へ行くのだ。どうせミーアのことだ、ベルンハルドへはいつでも行けるのであろう」
「ベルンハルドやその傍に幾つかマークしてありますから」
「それなら一度王都へ行き、儂の所にマークを作ってからベルンハルドへ行けばすぐに戻ってこれるではないか」
「そうですね、わかりました」
「王都に着いたら早速顔合わせのパーティーを開くかのう」
「おじいさま、それは………」
「内輪だけのパーティーじゃ、心配せんでいい。儂ら4人に子供ら4人、子供たちの家族とアルと……、アンドレア、お前も来るか」
「是非ともお願いいたします、大公様」
ナジャフ公爵様って、アンドレア様って言うんですね。初めて知りました。
「せいぜい20名程度じゃ。パーティーというよりは会食といった感じかの」
「国王様も見えるのですか?」
「アルは儂の弟だしな。ミーアにとっても大叔父という訳だ。紹介しないわけにはいくまい」
「王宮でやるんですか?」
「これだけのメンツじゃ。警備も相当になるし付き人もかなりになるだろう。儂の屋敷でも問題はないと思うが、まぁ、王宮が無難じゃろ」
「私、ドレスもありませんし……」
「心配せんでも今大急ぎで作らせておる。王都へはそれが出来てからじゃ」
「いつ測ったんですか?」
「ほれ、フランシェスカとナジャフが着いた時に、ここにあったドレスに着替えさせてもらったじゃろ。その時に手伝ったメイドが測っていたのじゃ。儂のメイドたちは優秀だからのう」
おじいさまのメイド部隊って、スパイもするんですかねぇ。文字通り私が丸裸にされてしまいました。あそこのサイズもばれてしまいました。ハズカシー!!
「おじいさま、くれぐれも私の秘密の事、お願いしますね。あまり広げないでくださいよ」
「わかっておるわ。当面は誰にも知らせん。アルにもな。ナジャフもよいな」
王都へ向かう馬車列は先頭がナジャフ公爵の護衛長らの乗った馬車、次がナジャフ公爵とラルフさん、次が私たち、おじいさまとおばあさまと私、最後が旅の荷物を満載した、じゃなくって満載した風に擬装した護衛の乗った馬車の順でした。
荷物は私が持ちましたよ、亜空間にね。やっぱあれ便利だわ。いくらでも入るし、すぐに取り出せるし。
盗賊?襲ってくるわけないじゃないですか。私たちを襲撃する盗賊がいたら、そいつらは途轍もなく超スーパーな大馬鹿野郎か、自殺願望者だろうね。
ホントのところは、私たち一行は王族の旗を立てて進んでいます。この旗を立てている一行を盗賊は襲わないという暗黙の了解が成り立っています。王族だけでなく一部の貴族もこの慣例に乗っていますが。共通して言えることは、『盗賊団を一蹴できる程の、圧倒的な武力を持つ勢力』ということだそうです。
盗賊団だって命はってやってる稼業ですよ、わざわざ死にに行くような襲撃などしたくはありません。襲撃される側の貴族も同じです。盗賊団を殲滅できたとしてもある程度の被害は受けてしまいます。なので、わざわざリスクを負ってまで盗賊団を殲滅しに出向くことはありません。つまり、『襲ってこなけりゃ潰さないよ』って言うことです。
盗賊団にも縄張りがあります。盗賊団同士の協定みたいのがあるようで、侵さないのが決まりみたいです。弱くなっちゃったらその限りではないそうですが。
流れの盗賊団もいます。他人の縄張りで勝手に仕事をする奴らです。そいつらが襲撃すると、まぁ当然返り討ちに会いますね。リーダー格は捕らえられて、情報を吐かされます。その他は殲滅、死です。更に、そこを縄張りにしている盗賊団にも制裁が加わります。そいつらが手出しをしなくてもです。
だからなわばりを持つ盗賊団は、流れの盗賊団を監視し、下手なことをさせないようにしています。彼ら自身のためにですけど。
旗を掲げる一行は安全ではありますが、臨検と称して近づいてくることがあります。勝手に旗を掲げている商隊を襲うためなのでしょうか、証の提示を求めてきます。提示できないと襲っちゃうんでしょうね、怖い怖い。
「ねぇおじいさま、盗賊らしい人達がやってくるけど、どうする?12~3人いるみたい」
「放っといてよかろう。奴ら手出しはできんからの。もし武器に手をかけたら、その時はミーア、頼めるかな」
「全員殺っちゃっていいの?」
「何人かは残しておいてくれ。後でたっぷり話を聞かないとならんのでな」
「おいっ!そこの馬車、止まれっ!その旗の証を見せるんだ」
「貴様ら、この旗が何か知らぬのか」
「知ってるとも。ヘンネルベリ王室の旗だろう。だがな、その旗を勝手に掲げる連中もいるんだぜ。お前らみたいにな」
あーあ、奴ら剣を抜いちゃったよ。
「おじいさま、殺っちゃうけどいい?」
「はじめに話をしてきた男は生かしておいてくれ。後は構わん」
即効性の致死毒と麻痺毒が溶けた魔法の水が盗賊たちに襲い掛かります。一瞬ですよ、一瞬。盗賊たちは一人を除いてその場に転がり、残りの一人は動かない体に驚愕しています。
唯一ナジャフ公爵様は、この状況を理解していたみたいです。
「貴様らは触れてはならぬものに触れたのだ。その報いがこれだということは分かってるな。貴様の命などどうでもよい。だたし貴様らのボスには落とし前を付けてもらわねばならない。サッサと案内しろ。別に案内したくないのなら構わないぞ。貴様らのアジトなど掌握済みだ。貴様の首だけが帰ることになるがな」
ナジャフ公爵様、あなた堅気じゃなかったのですか?まさかあっち側の人だったとは……
公爵様と護衛長、そして私は盗賊さんに案内させてアジトに向かいます。途中、何人か襲ってこようとしていましたが、全て屍に変わり転がることになりました。
「命が惜しいのなら、大人しくするように言うんだな。敵意を向けた瞬間に死ぬぞ」
そりゃぁねぇ、殺意剥き出しでいる奴なんか、私にとっちゃいい的ですからね。
アジトにはまだ30人ぐらいいそうです。その中からボスらしい男が出てきました。
「何事だ!」
「ボス、すみません。下っ端の輩がこのお方の一行に剣を抜いちまいまして………」
「で、他の連中はどうした」
「俺以外は殺されました。俺も何が起きたかわかんないです。一瞬でみんな死んでしまったんで」
「で、このお方たちは」
「ヘンネルベリ王室のお方です」
「馬鹿野郎っ!あの旗には手を出すなって言っただろ」
「でも最近、あの旗上げてる連中が多いんで、調べて対処しろって言われたんすよ。だから………」
まぁこいつがどうなろうが知ったこっちゃありません。
「話の途中で悪いが、お頭さんよぅ、この落とし前どう付けてくれるんだ。まさか『部下が勝手にやったことだ。俺は知らねぇ』なんてことはないよな。盗賊たちを殺ったのは全部このお嬢様だ。おぉっと、絶対に敵意なんか向けるんじゃねぇぞ。このお嬢様は容赦ねぇからな。敵意を向けた途端にコロッ、死ぬぞ」
「なんだとこのや……」
わざわざ忠告してあげたのに向かってきた自殺志願者がいました。まぁ希望通り地獄へ送ってあげましたけど。
「わ、分かった。おいっ!お前ら引っ込んでろっ!……で、何がお望みで……」
ざっと見たところ、金貨で1万4~5千、宝石やら宝飾品なんかもため込んでるみたい。
「金貨1万枚。今回はこんなところで手を打ってあげるわ。ずいぶんとため込んでるみたいだしね」
「1万ですか、分かりました。すぐに用意します」
「いい、今回だけだからね、こんな優しい措置で済ましてあげるのは。次やったら分かってるでしょうね」
「お頭さんよぅ、儂らだって無益な殺生は望んでいねぇ。だが今回はそっちが先に手を出した。次はホントにねぇからな」
「命に代えてお約束いたします」
「別にアンタの命なんてどうだっていいんだよ。分かったらサッサとしろっ!」
殺ったのは盗賊15人ぐらい。結構いい収穫だったかな。
「姫さま?盗賊退治は平気なのですね」
「そういえばそうね。盗賊の人たちは悪い人だから出来るのかも。だって、何も悪いことしてない人たちを襲って、おカネやモノ、命まで奪う奴じゃない。ゴブリンと似たようなものよ。奴らだってお腹が空いたから襲う、子孫を残すために襲うだからね。盗賊とゴブリンは一緒。だから盗賊は人間のカッコしたゴブリンと思ってドーンってやっちゃうの」
「敵軍だって同じじゃないですか」
「侵略して略奪して襲うような兵は盗賊と同じかもしれないから、殺っちゃうかもしれないけど。でもそれが上からの命令だったら、ホントに悪いのは上の人。そういうところで軍隊は違うと思うの」
報酬として金貨1000枚だけもらったわ。後は侯爵様に預けておいたの。おじいさまに渡すもよし、公爵様が使うもよし、国に入れるもよし。後は好きにして。
イベントですか?これだけですよ。
そうしょっちゅうあっちゃ堪りませんからねぇ。基本、平和な国です。
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