第26話 黒い噂(side 金色の月光)
シャルフィーを迎えた俺たち『金色の月光』は、今や王都でも指折りのパーティーとして活躍している。
「ローデさん、皆さん。ちょっとお話が」
「どうした、シャル」
仕事明け、いつもの酒場のいつもの席で俺たちはいつものように飲んでいた。
「まさかパーティーを抜けるとか言うんじゃないだろうな」
「そんなことありませんって。俺だってここ気に入ってるんですから」
「よかったぜ。急に改まったからびっくりしちまったじゃねぇか」
「すいません。で、話なんですが……」
「何だ?」
「この間、チョットした知り合いの貴族から、一度皆さんと合ってみたいというお話を貰ったんです」
「知り合いの貴族?」
「ええ、昔何度か仕事をしたってだけですけどね」
「そういうことか」
「で、皆様も貴族の方とお近づきになりたいと言ってたので、いい機会かなと思いまして」
「そうだな。俺たちも貴族の後ろ盾が欲しいと思うときもあるからな。懇意にしてくれる貴族がいるってだけでだいぶ違うしな」
「ねぇ、その貴族ってなんて方なの?」
「サウムハルト侯爵様です」
「侯爵!上級貴族じゃないですか」
「所領もお持ちですが、侯爵様は財務局のナンバー2、実質この国のお金を握ってる方なんです」
「そんなすごい方が私たちに?」
「ええ。試験の時の評判、どこにも所属していないAランクパーティーということで注目されたそうです」
思っても見ないことだった。この国の最上位にあたる貴族から声がかかったのだ。
「この話受けてみようと思うんだが、どうだ」
「もちろん、俺は大賛成だぜ」
「私も、いい話だと思うわ」
「異議なし」
「ということだ。シャル、この話進めてもらえないか」
「わかった。向こうも忙しい方だからいつとは言えないが、まぁ早いうちに会えるようにしてみるさ」
**********
「よく来てくれた、『金色の月光』の諸君。私がローレンス・サウムハルトだ」
「お声をかけていただき、ありがとうございます。私はこのパーティーのリーダーを務めています、ローデヴェイクと言います。よろしくお願いします」
「俺、じゃなかった、私は剣士のディートヘルムと言います」
「私はカチェリーナと言います。騎士をしています」
「セリーヌ、です。ヒーラーです」
「お久しぶりです。シャルフィーです」
「まぁそう硬くならずに。座りなさい」
「君たちの噂はよく聞いているよ。特にあの昇格試験の時の評判はね。そんな君たちとこうして会えて、私は嬉しいよ」
「身に余るお言葉、恐縮です」
「そうでもないんだぞ。実際、多くの貴族たちが君たちと接触しようとしているからな。シャルフィー以外の君たち4人でずっとやってたようで、なかなか接点が見つからなかったのだよ。そんなときシャルフィーがメンバーに加わったと聞いてな、まぁ何度か仕事をしただけではあったが、チャンスと思い声をかけたという訳だ」
「そうだったのですか。私たちも貴族の方と接点を作りたいと思っていたところでしたので、ありがたいお話でした」
「では、お互いに利のある話…、ということだな」
「侯爵様は国のお仕事もされてると伺いましたが…」
「おぅ、財務局というところでな。おかげで私はここを離れることが出来ん。領地の方は息子たちが見ているのでいいのだが、妻がな、向こうとこっちを行ったり来たりするもんだから、心配でな」
「奥様想いなんですね。羨ましいです」
「ところでどうかね。サウムハルト家の専属にならんか」
「専属ですか……?専属って?」
「専属って言うのはな、指名依頼をウチからのだけにしてもらうって事だ。そのための契約になる。その他の依頼については自由にしてもらって構わない」
「それでは余り私たちに得がないように思うのですが」
「契約といっただろ。当然契約金は払うし、月の手当も支給する。Bランクで金貨2枚、Aランクで5枚が相場だが、7枚を約束しよう。契約金は3か月分で、毎年契約を行う。もちろん私からの依頼は別途依頼料を支払うがな。これでどうだ」
「今すぐお返事をしなければいけないでしょうか」
「できれば早くお願いしたいなぁ。これほどのパーティーを他の貴族にとられるのは困るんでな」
「それでは、明日の返事でよろしいでしょうか。一度みんなと相談したいので」
「構わんぞ。いい返事を待っているからな」
**********
「さっきの話、どうする?」
「ローデはどう思ってるのさ」
「俺はちょっと悩んでる。いい話ではあるが、他の貴族との接点を絶たれるのはなぁ」
「私はいいと思うけどなぁ。今まで通りダンジョンにも行けるし、指名依頼じゃなければ受けてもいいんでしょ。それが貴族の護衛であっても」
「俺もカッチェと同じだ」
「私も侯爵様がこのような話をするとは思っていませんでしたから少し驚いていますが、専属はいいと思います。よくわからないところからの指名も受けなければならないことを考えると、専属という理由で断れますから。侯爵様はいいお人ですし」
「よし分かった。専属の件、受けることにしよう。侯爵様からの指名依頼となると、多くは侯爵夫人の護衛になると思うしな」
**********
「そうか専属になってくれるのか。それはよかった」
翌日、俺たちは再び侯爵邸を訪れ、専属契約の返事をした。
「1泊や2泊ぐらいなら構わんが、それ以上ここを空けるときは一言頼むぞ。こちらが依頼を出す手前もあるんでな」
「承知しております」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ミーアという女は上手く追放できたようだな」
「はい。ところでローレンス様、なぜあの女に拘るんですか?」
「私の勘だ。だが、私の勘は必ず的中する。あの女は私に災いを及ぼす」
「あの女ですが、ナジャフ公爵が探してましたぜ」
「ナジャフが?なんでお前がそんなことを知ってるんだ」
「ちょいと訳ありでね、ナジャフ公爵に近づいていたんですよ。そん時にその女の身柄を押さえろって言われたもので」
「で?」
「連中に頼みましたよ、薔薇のね。奴らの得意分野だからね。ただ公爵の頼みだ、傷もんにでもされたらこっちの首が飛びかねないからね、そこだけは注意しましたがね」
「薔薇か………、まぁいい。ところで、ナジャフが探してたって方が気になるな」
「そうですかねぇ?人探しぐらいあるんじゃないっすか。ところで奴ら、どうするんっすか?もう落としたんでしょ」
「護衛をやってもらうさ。あっちのな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ローレンスの噂、聞いてるか?」
「あぁ、カネの横領ってやつだろ」
「そうなんだが、それだけじゃないらしい。今、軍部が極秘に調査しているらしいんだ」
「何やったんだ」
「なんでも奴隷に関わってるらしいんだと。あくまで噂レベルだがな」
「軍が動いているって事は違法奴隷って事じゃないのか。だったらまずいだろ」
「まずいどころじゃないぞ。大スキャンダルだ」
「どっから流れたんだ」
「ミルデュースの野郎だ」
「ローレンスの子飼いか」
**********
さぁ、いろいろと展開が忙しくなって参りました。
ミーア追放の元締めがローレンス・サウムハルト。
ラフィンドル・ミルデュースはローレンスの子飼いとのこと。
ラフィンドルは薔薇の園との繋がりもある。
そして、『金色の月光』はサウムハルトの専属に。
ローレンスには黒い噂も付いている。
そしてミーアは、彼らが暗躍する王都へ。
彼らの運命やいかに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます