第25話 私の価値

「『スキル化する』っていったいどういうことなんだ?」

「魔法がスキル化するとどうなるかご存じありませんか。これはまぁ、私が勉強してきたことなんですけど、魔法は魔法使いじゃなくても使うことができます。じゃあジョブの『魔法使い』って何かと言うと、いろんな魔法がジャンジャン使えるって訳じゃなくって、魔法を使うときに唱える呪文を最適化できたり、魔力を効率的に使えるといった、魔法を使うことに特化した職業なんです。

じゃあどうやって魔法を使うかと言うと、使える魔法の種類はその人その人が持つ魔法特性と合ったものと言うことになります。火属性の魔法を使おうとしても火の魔法特性を持っていなければ使えないということです。一般的には1つから3つの特性を持っていると言われています。あっ、私は除いて下さいね、一般的な人に当てはまらないと言われてますから。

火属性だの水属性だのと言った4大属性の魔法は特性があればほぼ使えます。特性があって使えない人の方がレアです。時空魔法だとさっきも話した通り、特性持ちで1000人に1人、この時点でかなりレアです。その上、特性持ちの中で使えるのが5人に1人と言った狭き門なのです。

特性持ちで使える人が、その属性の魔法全てを使えるわけではありません。火属性魔法を使う人でもファイヤーアローは使えてもファイヤーボールは使えないとか、ファイヤーストームは使えてもファイヤーバレットが使えないなど人によって様々です。これが『一般的な魔法を使う』と言うことになります。

じゃあ、魔法がスキル化するとどうなるかと言うと、その属性の魔法が全て使えるようになります。ですから私は水魔法は全て使えます」


「そうだったのか。それでは時空魔法がスキル化すれば、姫様は全ての時空魔法の使い手と言うことなのか」

「そういうことなのでしょうけど、この魔法には一つ大きな問題があるんです。それはこの魔法の使い手があまりに少ないということ。4大属性の魔法は使える人が多いですから研究も進んでいます。でも時空魔法は使い手が極端に少ない。だから研究も進んでいないんです。本の数も他と比べると少なかったです。ベルンハルドの図書館で2~3冊でしたから。でもスキル化すれば呪文とその効果がなんとなくわかるんで、後は試してみればいいかなって思ってますけど」


「なんか私に聞きたいことってありますか?」

「姫様はやはり軍には………」

「無理でしょうねぇ。まず、おじいさま、おばあさまを説得するのが難しいと思いますけど。それだけじゃないんです。私は他人と戦ったことがないんです。模擬戦はありますよ。でも命のやり取りをする戦いはしたことがありません。冒険者の時にパーティーで護衛を受けたことは何度もあります。その中で盗賊に襲われたことも何度かありました。それでも私は戦いませんでした。戦えない私を護りながらの戦闘に私たちのパーティーは慣れていたからです。今でこそそこそこ戦えるようにはなってきましたが、人とは無理だと思います。だから私はこれだけのスキルで自分を護っているんだと思ってるんです」


「ミーアはこれから先どうしたいのじゃ」

「私はこれからも冒険者を続けたいです。それしか知りませんから。でももうパーティーに参加することはないと思います。迷宮に行くことも、強い魔物とあえて戦うこともないです。薬の材料となる薬草を摘んで、それだけだとあまりお金にならないから少しゴブリンを倒して。そんなのが続けられたらいいかなって」

「ベルンハルドには何かあるのか?」

「何かって言われると………。ただ、住み慣れた街だし、それなりに知人もいるからなぁ。それに他の街の事あんまり知らないから」

「それなら儂らやナジャフのいる王都でも変わらんだろう」

「いやぁ、前の国王様や公爵様と知り合いなんてことになると、それだけで大騒ぎになるかと。王族の一員になることはいいとしても、お披露目のパーティーがあって、そうしたらお姫様扱いになっちゃうんじゃないですか」

「ないとは言えんな。儂はミーアの事を自由にさせるが、他の者が気を回すだろうからな。護衛を付けたり、チョットした移動でも馬車を回したりと」

「その堅苦しさが嫌なんですよね。冒険者気質が抜けてないと言われればそれまでなんですけど。

…………………

じゃあ、私の許せるところを言いますので、それを基にしませんか。私も折れるところは折れますから」

「そうじゃな。このままミーアと離ればなれになる方が何かと大変そうじゃからな」



「おじいさまたちは私に王都に来てほしいんですよね。ならば、私は王都での暮らします。ベルンハルドには挨拶に行きますけど。でも貴族街や王宮に住むのは嫌です。一般の住宅街がいいです。一般の住宅地であればどこでも構いません。おじいさまたちが選んでくれて結構です。あんまり大きな家にしないでくださいね。

護衛はいらないといっても無駄でしょうから、まぁいてもいいです。でも家の中まで入ってくるのは嫌なので、外をお願いしたいです。あと、外出する時についてくるのは止めませんけど、私、『ワープ』や『ジャンプ』使いますよ。

どうせ使用人も何人も寄越すのでしょうけど、執事とかメイドとか料理人とかいりませんから。そもそもお家でお仕事する訳じゃないし、ってか私の仕事って冒険者だから、執事さんなんていらないでしょ。それに私、【料理】のスキル持ちです。自分の食事の支度ぐらい自分でしますし、外で食べるのも好きですから。それに私に毒見役なんていりませんからね。

メイドさんもいいです。自分のことぐらい自分でやります。朝も自分で起きます。食事の支度は自分でしますし、外出の時も自分でしますから。

家の事を面倒見てくれる人ぐらいですかね。お掃除とか家の修繕をしてくれる人。お庭があるんならお庭を見てくれる人かな。

ってか、私、稼ぎがないからやっぱり雇うことなんてできません。

あと、馬車はいりませんからね」


「ミーアがここまで言ってくれたんだからのう、出来るだけそれに沿わせるかのう。護衛は全部で20人ぐらいになると思ってくれ。2人一組で3交代で6人、それが3組とあと少しだからな。馬車は普段では必要ないかもしれんが、王宮に行くときには必要なものじゃ。小さいものを用意しておこう。メイドは要らんと言っておったが、パーティーのドレスは着れるのか?声のかかるパーティー全てに出る必要はないがある程度は出ん事には行かぬからのう。そういう意味での面倒を見るメイドは必要なのじゃ。メイドがいれば家の中の片づけなどはすべてやってくれるからの。4人ぐらいはいるじゃろう。庭師に厩務、これだけの人がいれば当然料理人も必要じゃ。そしてそれらの使用人を管理し、ミーアの予定を調整する者も必要となる。全部で30人ぐらいかのう」

「さ、30人ですか?そんなに沢山。それに、そんなにお給金払えませんって」

「金の心配はせんでいい、王族に支給されるもので賄うのでな。それに30人程度の使用人は少ない方だぞ。地方の街の領主、男爵ぐらいでも50人ぐらいは雇ってる。うちも王都の屋敷で100人じゃきかぬの。何人いるかよくわからんけどな。ナジャフよ。お前のとこはどれくらいいるんか」

「うちは150ぐらいだと思います」

「30というのは少ない方じゃ。護衛が20いるから、実際には10程度ということじゃろ」

「そうなんですね、分かりました。人を選ぶのは私じゃできないんで、おじいさま、お願いします。公爵様も一枚噛む気満々ですけど、よろしくお願いしますね」

「あとで公爵様にお願いに行こうと思ってたところだったんだが、その前に姫様からお許しを頂いた。任せてください」

「お任せいたしますけど、私の秘密の事、ちゃんとしてくださいね」


「屋敷はいくつか押さえておこう。その中でミーアが気に入ったものを使えばよい。まぁ一月ぐらいはかかると思うが、その間はベルンハルドにおるんじゃろ」

「お世話になった人たちに挨拶をしとかなきゃいけないですからね」



「ところでミーア、自分の価値をどう考えておるのだ。聞かせてはもらえんか」

「私も非常に気になります、姫様」

「えーっ、どうって、んー、チョット変わったスキルを持った普通の女の子かな。あっ、でもエレンさんにはアンタは普通じゃないって言われてたし、私のスキルを欲しがる冒険者も多いって言われたこともあるから、そこそこって感じかな」

「姫様、それは全くの見当違いでございます。姫様はこの国でお守りすべく方です。王族の姫であるということを差し引いたとしてもです。

私はこの国の国軍を預かる身でありますが、姫様お一人で兵士にして3万、全体で見ると7万ほどの力となりうるのです。

この国も今は大きな戦争は起きていませんが、隣国にはきな臭い動きを見せているところもあります。我が国の兵士は全部でおよそ10万、戦争ともなればその半数が動くでしょう。

そうなるとまずは兵站です。兵站というのは兵士の水や食料、矢や武器の予備などですが、5万の兵の分となるとそれだけでもほぼ同数の人員が必要となります。矢や武器は兵士に必要なものですが、水や食料はそれを運ぶ人の分も必要になるからです。しかも戦いが長引けば長引くほどその量は増えていく。姫様一人でそのすべてを賄うことはできないでしょうけど、少なく見積もっても4万の要員を減らすことはできます。

次に偵察、斥候の部隊ですがおよそ半分は削減できると思います。偵察、斥候の部隊は特殊な訓練を積んだ部隊なので、数は多くないのですが一人前になるまでに時間がかかる。更に最前線に配置されるため消耗も激しいのです。さらに諜報となるとさらに少なくなるため、それをカバーできる姫様のお力は計り知れないのです。

次に司令部としては、敵の配置や動向が詳しくわかる、常に先手を打てるというのは戦いにおいて非常に有意義なことです。これだけでも兵士1万以上の価値はあります。味方の兵に損害が出ないことが一番なのです。

更に姫様の能力をお使いになれば、敵の兵站を奪うこともできましょう。先ほどのスープと同様に敵の陣から水や食料、武器などを奪うこともできるでしょう。

兵站が奪われれば敵は戦うことができなくなり、撤退するしかありません。それだけではありません。撤退するにも食料は必要です。敵の軍も数万の兵を抱えている。その他の要員まで含めると10万近いでしょう。それだけの人が碌に食料もない状態で撤退するとなれば疲弊度は計り知れません。戦争には非常に多くの金がかかります。人員の確保、兵士の訓練、兵站の準備と。それを戦わずして勝ち、更に敵に精神的に大ダメージを与えることができるのですから。

軍として少なく見積もってもそれぐらいはあります。さらに姫様として前線に赴かれれば、前線の兵たちの士気は非常に高くなることでしょう。

敵に回れば非常に厄介ではありますが、味方にいればこれほど心強い方はいません。

そういうお方なのですよ、姫様は」

「ミーアを足の速い舞台に同行させ、有利な陣を敷いたのちに本体をワープの門で送り込む。敵陣の背後に回り込んで兵士を送り、挟撃するなど戦術の幅の広がるしな。

ナジャフがこれほどの人材に惚れるのは分かる。だが、やらんぞ」


「そんな風に言われるなんて思ってなかったです。ベルンハルドでは一日に銀貨5~6枚を稼ぐ程度でしたから。それを兵士3万人の価値なんて言われてもピンと来ないです」

「ミーアさえおれば戦争には負けないのだから、ナジャフよりは上じゃな。

それだけではないぞ。ナジャフは戦争のことしか言わなかったが、流通にだって計り知れないものがある。一度行ったところには『ワープ』ですぐに行けるのだろう」

「マークさえしておけばいつでも行けます」

「いろいろな町に行ってマークをしておけば、どこへでもすぐに行ける。荷物は亜空間にでも入れておけば安心だしな。盗賊の心配もしなくて済む。荷物の重さや量も気にしないで済む。新鮮な魚だって運べるわけだ。これをすれば商売でもミーアは大金持ちだぞ」


「姫様のお力が計り知れないものであることは分かっていただけたでしょうか。私たちは姫様の秘密を全力でお護りします。姫様がそのお力をこの国のためにお使いにならなかったとしても、十分に守られる価値があるということを承知いただきたいのです」



なんだかすごい話になってしまいましたが、私は私です。姫になっても冒険者だし、王族になっても平民だったころの私と変わらないでしょう。軍に入るつもりはありませんけど、おじいさまやナジャフ様のお使いぐらいはしてもいいかな。



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