第24話 秘密の公開(後編)

「少し休憩しましょうか」

「そうじゃな。少し疲れたわい」

「でも今までのは前半戦、まだ丸々後半戦が残ってますからね。ハーフタイムの休憩、しっかり取っておいてくださいね」

「「「「……………」」」」



「さっきお話しした【多重処理】と【マルチセンス】は私の反則技その1です」

「その1って事は、その2があるのか」

「その3まであります。では、反則技その2の発表です。そのスキルは【気配察知】でした」

「でした?」

「そうなんです。もとは何かいるなっていうのが分かる程度のスキルでした。それが今では、なんと5つのスキルに分化したのです。

元々の【気配察知】は『あっちに魔物がいるかも』とか、『誰かに見られてるかも』っていう感じが分かるスキルでした。その感じがだんだん鋭くなって、『あの角の先に魔物がいる』とか、『あの人が私を見ている』とか、『あそこに罠が仕掛けられている』とはっきりとわかるようになったんです。これだけでも反則技です。魔物がいることが分かれば前もって準備しておくことができます。不意打ちも防げます。罠が分かれば回避することもできます。人に見られてることが分かれば護衛任務の時に盗賊を先に見つけることができます。

冒険者の依頼っていろんなのがあります。オークの肉が欲しいとかフォレストウルフの皮が欲しいとか。普通は探し回るんです。情報を頼りにすることもあります。『あっちにオークが出たよ』みたいな話を聞いて、行ってみるとか。でも情報が古いと空振りになることも多いし。とにかく闇雲に探すしか見つける方法はありません。私は魔物がいるということは解りましたから、その魔物が何かが分かればもっと便利になるだろうなって思ったんです。思ったから練習しました。思っただけ、考えただけでできるようになるのは、一部のいっちまったイカレタ天才だけです。で、そんなことをやってるうちに発現したのが【探索】でした。

探索のいいところは『魔物を探す』とすればあっちにゴブリンがいるとかそっちにオークがいるとかが分かります。だたそのゴブリンはただのゴブリンなのかゴブリンメイジなのかはわかりません。でもゴブリンは見つけられます。そこで『ゴブリンを探す』とすれば今度はゴブリンが見つかります。種族を分けて。ただ、今度はオークやウルフは分かりません。みんなまとめてその他の魔物になってしまいます。まぁ、今では【多重処理】を使ってるんで、大丈夫なんですけどね。

これは魔物だけじゃなくって、獣やもちろん人も、植物や罠なんかも探せます。魔物や獣、植物なんかは、それらが出している生命エネルギーを探しています。罠は多分設置した人の残留思念って言うのですか、そんなのを探しているんだと思います。

ここまでいいですか?」

「分かんなかったら、もう一度教えてくれるんじゃろ」

「そうですね。今は私の能力って言うか、秘密をお話ししているわけですからね、王族の一員となるための条件としてですけど。ただ、今の私を隠すのは皆様に失礼に当たるので、洗いざらいお話ししているだけです。ここまででその2は半分ぐらいです」

「わかった、続けてくれ」


「【探索】ができるようになった私が、次にできるようになったのが【魔力探索】でした。【探索】は上手く気配を消している人を探すのは難しいことがあったんです。いますよね、諜報員みたいな人。潜入して、情報を仕入れる人って、気配を殺すことが上手い人もいるんです。そんな人も自然に漏れている魔力までは抑えられないんで、その魔力を探せればやっぱり何かあるかはわかります。魔力発動型の罠も同じです。それから魔法を使おうとしていると、【魔力探索】では一発でばれます。

この【魔力探索】の特化型のスキルが【追跡】です。生き物から漏れ出た魔力って2~3日は留まるって言われています。それに、生き物の魔力のパターンって全部違うんです。だから探したい人の魔力パターンが分かれば追いかけることができるんです。これは人探しや猫を探してほしいって言う依頼の時に役に立ちました」

「「………………」」

「暫くはこの【気配察知】系のスキルは、【気配察知】、【探索】、【魔力探索】、【追跡】の4つだったんですけど、【多重処理】が発現した時に【探索】が【マルチ探索|(オートマッピング)】に変化しました。

それまでは、「そっちの方にこれぐらいの距離の所にいる」って感じだったんです。

変化した時から後は、頭の中に小さな地図が浮かんでくるようになりました。で、その地図に探索の結果が重なるようになったんです。迷宮ならそのフロアの地図が、街中なら道路や建物、公園などが分かります。行ったことのある町ではお店の種類や名前なんかもわかります。家の中の様子も分かります。全部地図として頭の中に浮かんでくるからです。これが【(オートマッピング)】の部分だと思うんです。で何が【マルチ(なんでも)】なのかと言うと、【魔力探索】や【追跡】の軌跡なども地図に表示されるようになりました。多分そこが【マルチ(なんでも)】なんだと思います。

でも、それだけじゃ完全ではありませんでした。人がいることは分かっても、その人が悪意を持っているの好意を持っているのかはわかりませんでした。それが元で『薔薇の園』の連中に捕まっちゃったんですけど。

だから感情を読み取って判断する練習を重ねた結果、新スキル【索敵】が誕生しました。まぁ、敵意を持っている人を探すから【索敵】なんだけど、実際には好意を持ってる人も分かりますし、その悪意や好意が誰に向かっているかもわかります。

更に【マルチセンス】が発現したタイミングで、【マルチ探索|(オートマッピング)】が【探索】と【マルチマップ】に分かれました。地図の部分と探す部分がそれぞれ独立したって感じです。【マルチマップ】はかなり広い範囲をカバーするようになったのと、【マルチセンス】の視覚と同調するようにもなってます。だから視覚を飛ばして見たところを地図化するなんてこともできます。

なのでこの5つ、【探索】、【魔力探索】、【追跡】、【索敵】、【マルチマップ】が反則技その2です」

「確かに反則技ですね。これらがあれば敵の情報など筒抜け。敵がさりげなく近づいてきても敵意でわかってしまうのだから、すぐに洗いざらい調べられるし、先ほどの【マルチセンス】で覗けば、企みなど一目瞭然って事ですな」

「それだけではない、安全なところから情報を探せるということは、絶対にしっぽを掴まれない斥候と言うことだ。それを一人で何人分もこなすミーアと言ったら………」



「えー、以上で私の持つスキルは全てになります。で、お待ちかねの反則技その3です」

「その3はスキルではないのか」

「はい、今のとこまだスキル化してません。この反則技その3は魔法です。

この魔法を習得するにあたった経緯から簡単に説明します。

私が冒険者パーティーを抜け、ソロで活動し始めの頃です。いつものように薬草摘みとゴブリン退治を行っていたのですが、そこに大きな猪が現れました。倒すのは簡単でした。クロスボウでズドン、これだけです。ところがこの後に大問題があったのです。この大きな猪を運ぶことができないのです。牙とか取れるものを取って、血抜きして、魔物除けを置いて、大急ぎでギルドに戻りました。台車を借りるためです。台車をもって猪の所にとんぼ返りして、台車に積んでやっとの思いでギルドに戻りました。他の冒険者は大きな獲物をどうするのか聞いたら、荷物持ちを雇うことが多いそうなんです。でも私は戦い方が特別ですから、秘密を守るためにも荷物持ちを雇う訳にはいかなかったんです。いろいろ聞いてみるとマジックバックなるものがあると。でもとても高くて、手の出る代物ではないことも。あと空間魔法なるものがあって、魔法の力で空間を広げたり別の場所と繋げることもできるとも。

ただこの魔法、特性を持つ人で1000人に1人、使えるとなると5000人に1人。ダメ元で空間魔法について調べました。自分の魔法特性なんて知りません。ただ、水魔法もできたんだからこれもできるんじゃないかって、そんな軽い気持ちで。調べたところ、空間魔法は時間魔法とセットで扱われることが多いようでした。ただ、時間魔法も空間魔法と同じぐらいレアで、特性を持つ人も同等のレアです。

いま、王都ってどれぐらいの人が住んでるんですか?」

「そうじゃな、6~7000人ってところじゃないかの」

「王都中を探しても適正持ちが6~7人、使えるとなると1人か2人ってとこでしょう。空間魔法と時間魔法の両方が使えるとなると0でしょう。でも私はその両方、【時空魔法】を使えます。これが私の反則技その3です」

「「「「…………」」」」

「だから私はマジックバックを持っています」

ポケットからマジックバックを引っ張り出しました。このバックは空間を広げたタイプのものです。

「どこから出したんじゃ」

「あー、すみません。説明してませんでした。私が使える空間魔法っていくつかあって、その中でマジックバックに応用できるのが、空間を拡張することと、亜空間を固定してそこと繋げることなんです。このバックは亜空間に置いてあったもので、私のポケットを亜空間と繋げてあったのでそこから取り出したということです。このバックも空間を広げるタイプのマジックバックになってます。でもこれ、他の人は使えないんです。広げた空間を保つために常に魔力が必要だからです。亜空間を固定するのにも魔力が必要になりますし、亜空間と繋いでおくにも魔力が必要となります。この魔力は空間魔法のための魔力なので、他の人ではだめなのです。公爵様、軍では使えませんよ。

亜空間と繋ぐって言いましたが、亜空間だけじゃなくってこの世界のどこかと繋ぐこともできます。どこかって言っても場所が分かってないとだめですけどね。それじゃあ、ちょいと悪戯をして………」

バックの中から大きな鍋を取り出したの。いい香りがしているわ、魚介の濃厚な出汁にトマトの酸味が加わった。


「これは?」

「厨房から借りてきました。お夕食のスープです」

丁度そこへさっきの料理長が慌ててと煮込んできたの。

「旦那様、大変です。お夕食のスープの鍋が……」

「これの事か?美味そうにできておるのう。夕食を楽しみにしておるぞ」

「へっ??????」

そりゃビックリするよね。突然鍋が消えたと思ったら、食堂にあるんだもの。


「これが空間魔法です。そして時間魔法を使って亜空間の時間を止めています。温かい食べ物を入れれば、取り出した時もホカホカです。ねっ、反則技でしょ」

「反則技と言うより、神の所業と言った方がいいかもしれぬな」

「ミーアちゃんは神様なのですか?」

「おばあちゃん、ミーアは普通の人間で、普通の女の子ですよ」



「それでは先ほどの模擬戦の種明かしです。公爵様との戦いで使ったのが時間魔法の『クイック』です。これは私の時間を早く進むようにするものです。公爵様の時は10倍にしました。つまり公爵様の時間で1秒と私の時間10秒が同じなのです。だから公爵様が剣を振り上げている間に後ろに回って剣を突き付けて、『動くな!』と注意することができたのです。周りまら見れば私がすごい速さで動いたように見えたかもしれませんが、こういうカラクリがあったんです。ちなみに私の速さは人並みです。

次に護衛さんと戦った時に使ったのが空間魔法の『ジャンプ』です。これは見えている場所に空間移動する魔法です。これで護衛さんを翻弄してました。見てる人からはパッと消えてパッと現れる、何とも不思議な現象だったでしょう。で、最後に護衛さんの動きを完全に止める『ストップ』、これで槍を奪って放り投げ、剣を拝借して突きつけて、お終い。これが種明かしです」

「うーむ、これなら全て納得できるな。儂が一太刀も振るえなかった理由がそのようなものだったとは」

「私も同感です。向かっていくと急に居なくなり、後ろや横から攻められる。挙句、自分の剣で止めを刺されたとは…」


「あと、時間魔法では『クイック』の反対、『スロー』があります。まだ使ったことはないんですけど、野営の時に便利そうです。1時間の休憩の時に時間の進みを10分の1にすれば10時間休めることになります。30分寝てるように見えて、実は5時間寝てましたってね。

空間魔法では『ワープ』が使えます。今いるところとマークしたところを繋ぐゲートを開く魔法で、閉じるまでは行き来ができます。だから盗賊団のアジトから逃げることはできたんですけど、私を攫った目的が分からなかったので止めておいたんです。ちなみにゲートを潜れるのは私だけでなく、誰でも通れます。

空間を繋げる魔法と【マルチマップ】と【マルチセンス】を使って、マップ上の地点に感覚を飛ばすこともできます。

で、この【時空魔法】がスキル化しそうな感じです。

これで全部です。どう?凄いでしょ」



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