第23話 秘密の公開(前編)

「私のジョブが【毒使い】って事は知ってるよね」

「ああ、知っておるとも」

「ジョブについては秘密にしなくってもいいんだ。知ってる人ずいぶんいるしね。ただ、王族や貴族っぽくないとはわかっているけど」

「そんな事なぞ、王族にだっていろんなジョブの者がいる。儂は【騎士】だったが、儂の弟、今の国王は【商人】じゃ。全体的に【騎士】や【剣士】、【魔法使い】は多いが、それは王族に限ったことじゃないからのう。だから、ジョブについては気にせんでよい」

「そうなんですね。分かりました。それじゃあ、私のスキルについてお話します」

「スキルがもう発現しておるのか」

「はい。ただ、このスキルがちょっと問題でして………。秘密にしていただきたいのはスキルの事なんです」

「ふむ……」

「ギルドの人に聞いたところ、ジョブに関するものが熟達によって1つか2つ発現するものだって言ってました」

「それで間違いないと思います」

「じゃあ驚かないで聞いて下さいね。私はジョブに由来するスキルが3つあります。1つ目は【創毒】というものです。これは私が考えた毒を作り出すスキルです。2つ目は【毒無効】ってスキルです。このスキル、初めは【毒耐性】だったんですけど、そのうち全ての毒が効かなくなるようになって、スキルが変わりました。こんなこともあり得ないって言われましたけど。3つ目は【創薬】です。これも元は【創薬(毒)】でした。毒草から解毒薬を作ったり、もちろん毒薬も作れます。毒も薬も大して変わらないって事に気づいたら、解毒薬だけじゃなく、回復薬や治療薬も作れるようになりました。そうしているうちに【(毒)】がなくなったんです。あっ、もう1つあったんだ。最近発現したやつだったから忘れてたや。【毒感知】ってやつです。これはスキルになる前からジョブの一環としてなんとなく使えてたやつなんですけど、毒があるかどうかが分かるってものです。水や食べ物に混ざっているもの、魔物や動物の牙や爪などにあるもの、武器に塗られているものなどが分かります。毒だから大概は有害なんだけど、気にしなくっていいレベルのものも多いです。特に空中に漂ってる毒は気にしなくても平気なものが多いです。これは冒険してるときにはすごく便利でした。飲める水かどうかも分かったし、魔物の攻撃に気を付けることもできましたから。それからこの間盗賊団に捕まった時にも。私って【毒無効】があるから、食べ物とかに毒が混ざっていてもすぐ解毒しちゃうんです。この間捕まった時も一度食事に毒が混じっていました。睡眠毒でした。毒の効力で眠くなってしまうやつです。弱かったので大して効き目はなかったと思いますけど。だけどそれを知らないで解毒しちゃったら、なんかおかしいって思われちゃいますよね。だから眠くなったフリをするために役立ったんです。寝なくても怪しまれる、寝ちゃったら何をされるかわかんないじゃ怖いですからね。即効性の致死性の毒の時も有効だと思います。だって毒で死ななかったら別の方法で殺しに来るわけでしょ。切り殺すとか、焼き殺すとか。毒には無敵でも他のはちょっとねぇ。だから毒の種類を知ることは大切なのです」

「そうか、スキルが4つか。それは他人には言えんな」


「いえいえ、まだこれは序の口です。次はジョブと関連しないスキルです」

「ジョブと関連しないスキル?そんなものが発現しておるのか」

「1つ目は【料理】です。私お料理上手なんですよ。今度ご馳走しますね。それから【水魔法】。魔法使い系のスキルだと思いますけど、【料理】もそうでしたけど、繰り返しやっていたらスキル化しました。あと【精密射撃】ってやつもですね。護衛さんとの模擬戦の最後で槍を投げたやつ、あの槍、木に刺さりましたよね。あれ、木をめがけて投げたんですけど、そうそう当たるもんじゃありません。でもスキルが補正してくれてちゃんと幹に刺さるんです」

「でも姫様は私との模擬戦で水魔法を使わなかったではないですか」

「魔法はいっぱい使いました。それは後でお話しします。元々【精密射撃】はクロスボウで狙いをつけるところから始まりました。私の戦闘スタイル、話しましたよね。アウトレンジから弓でバンバンって。今では発射した矢が目標を追尾するようになってます」

「目標を追いかける矢を放つ弓兵か。そんな者に狙われたら逃げきれんではないか」

「私はさっきのような戦いには強いですけど、魔物が群れで襲ってくるのには弱いんです。だから自分が襲われないように弓を鍛えた結果がこれです」

「王国軍にいればこれほど心強いものはないな。近衛兵として国王様をお護りするのも……」

「ミーアを軍になど入れんからな。それにミーアは護る側ではない。護られる側じゃ」


「次いいですか。次は【多重処理】ってやつです。このスキルが発現した時、私もなんだかわかりませんでした。ただこのスキルのホントの価値が分かった時に、私の世界は変わったんです。これっていろんなことをいっぺんにできるスキルなんです。でも体は1つしかありませんし、腕も足も2本しかありません。身体を使うことは1つしかできないんですけど、考えることはいっぺんに幾つもできるようになりました。これって凄いんですよ。魔物と闘いながら夕ご飯の献立を考えることだってできちゃうんです。普通にやったら死んじゃいますからね、余計なこと考えていると。今のは極端ですけど、クロスボウで狙いを付けながら呪文の詠唱を2つか3つしておいて、同時に攻撃するとか。そんなことも簡単です」

「呪文を複数準備するだと」

「ええ。呪文の詠唱をそれぞれでやればいいだけなので。今なら10ぐらいは行けると思います。もっといけるかな。

とにかくこのスキルが使えるようになったことで、この先が大きく変わったんです」

「まだあるのか」


「【多重処理】をフル活用することでできたスキルが、【マルチセンス】です。これは感覚を多重化するスキルです」

「感覚を多重化する?」

「やってみましょうか。ちょっとお待ちくださいね。

…………………

……ん、今晩のサラダには大きなエビが入ってますね。スープのベースはトマトですか。貝の種類は分かりませんがたくさん入っていておいしそうです。

……それから……、公爵様のワインが少なくなっているから至急買いに行くようにと言われています」

「厨房から料理長を呼んでまいれ」


「で、どうなのだ」

「間違いございません。手頃なロブスターが手に入りましたのでサラダに、アサリが手に入りましたのでトマト仕立てのスープにしてございます。ワインにつきましては申し訳ございません、お夕食までには整えておきますので」

「このことを他の者に話したか?」

「いいえ。エビや買いが届いたのは2時間ほど前で、それから献立を決めましたので。ワインについてはつい先ほど分かったことなので、急いで買いに行かせました」

「わかった。下がっていいぞ」

料理長さん、いきなり呼ばれて夕食の献立聞かれて、ワインの事バラされて、なんだかチンプンカンプンのまま戻っていったの。ちょっとかわいそうだったかな。迷惑かけちゃったかもしれないね。ゴメンナサイ。


「ミーアよ、どういうことなのか。説明してはくれないか」

「はい、おじいさま。今のが【マルチセンス】の力です。物を見るという感覚と、音を聞くという感覚を多重化して、そして厨房に送ったんです。そこで見聞きしたものは私の頭の中に届きますから、それをそのままお話ししただけです」

「話しただけって……。つまりミーアは、ここに居ながら厨房を見ていたということか」

「そういってるじゃないですか。やろうと思えば6か所ぐらい同時にできますよ。さしずめ秘密基地の司令長官ってところですか」

「6か所もか。………うーむ、ナジャフよ、ダメだからな。軍に入れんぞ」

「分かっております、とても残念ではありますが…。で、大公様、後ほど少々お話を……」

「そこの偉いお二方、もし私の事ならば、私も交えてくださいね。

で【マルチセンス】ですが、よく使うのが今の視覚と聴覚です。見聞きできれば大抵の事は分かりますからね。触覚は試してみましたがとても変な感じだったんで使ってません。臭覚はいきなり変な臭いを嗅ぐのは嫌なので試してもいません。味覚は多分無理です。味覚は他の感覚と違って、ものを食べるっていう行動を伴うでしょ。だから感覚だけ分離することができないんです。出来てもやりませんけど。だって食べられもしないのに美味しさだけ伝わるなんてただの苦痛ですから」



おじいさまと公爵様は、それはそれはとても真剣に聞いてくださいます。それはそうでしょう、こんなとんでもない力の一端を知ってしまったのですから。でも少しお疲れ気味です。頭がパンクしそうなのでしょう。

どうやって守るのか、こんな私でも敵に回ったら怖いでしょうからね。そしてどうやってこの力を使っていくのか。きっとあの人たちの頭は、人生で一番仕事してると思います。でも多重化できてないから、次々と入ってくる情報を処理しきれずに、溢れちゃってるんでしょうね。


おばあさまは幸せそうです。こんなすごい孫娘がいたって事で。


ラルフさんは相変わらず寡黙です。渋さ、ダンディさを全開にしてます。女性はああいう紳士に惹かれるんだろうな。でもきっと後で公爵様とお話をするときのために、私のことを彼なりに分析してるんでしょうね。うーん、アブナイ感じの男の人、素敵すぎです。


護衛長さん、頑張って聞かなかったふりをしてますが、秘密をばらしたりしたら大変なことになりますよ。頭と胴体がサヨナラしちゃうかもしれませんよ。気を付けてくださいね。



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