第22話 私の実力
「ところで皆さん、今までの話って全部皆さんで作り上げたってことはないでしょうね」
「ミーアよ、なぜそのようなことを?」
「あまりに出来過ぎていますし、それに確かな証拠が何一つありませんもの」
「………そうじゃのう。儂の話にミーアが盗賊に攫われたという事実、その間に出てきたナジャフ公爵。確かに証拠は何もないのう」
「みんなで口裏を合わせて、私を騙しているとも考えられるのです」
「それではこれを其方に授けよう」
おじいさまが私に差し出したものは、龍の紋章が刻印がされた立派な金のメダルでした。私だってこの紋章ぐらいは知っています。この国ヘンネルベリ王国の紋章です。
「た、大公様、それは…」
「王族のみが持つことができるメダルだ。これはミーアのために持ってきたのだ」
こんな大変なものを私のために持ってきたおじいさま。おじいさまたちは本気のようです。
「疑うようなことをしてごめんなさい。これでも私、冒険者としていろんな場面に立ち会ってきました。騙されそうになったことも何度もあります。なのでちょっと心配になってしまったんです。本当にごめんなさい」
「まぁそうじゃな。普通の娘なら疑ってもおかしくないことじゃ。貴族同士ならもっと酷い駆け引きもあるからのう」
「で、公爵様、力試しの件、如何なさいます?やるのであれば私も全力で行きたいと思いますが」
「いいでしょう。胸をお貸ししますとも、姫様」
「姫じゃないんだけど………。命のやり取りをする訳じゃないから、刃を潰した木剣でいいかしら。それとも公爵様は何かお使いになりたいものございます?」
「構わんよ、それで」
「公爵様もそのお召し物では動きずらいでしょう。私もこのドレスではちょっと。動きやすい服に着替えたら、お庭で始めましょう」
そういえば私の動きやすい服って、ここに来る時に着ていた町娘風のしかないんだった。捕まってた時に着てたのって、ラルフさんが持ってるんだしな。ま、いっか。全力でやる訳じゃないし。さっきは全力って言ったけど、全力出したらヤバいもんね。
「姫様、そのお召し物でよろしいのですか?」
「ええ、構わないわ。だって、これしか持ってないもの。準備はよろしいかしら。まぁ、公爵様は一太刀も振るうことはできないでしょうけど」
「両者ともよろしいかな。それでは……始めっ!」
二人とも構えたまま、相手の出方を伺っています。
「公爵様、左側から来ようとしてますね」
「っ!何故それをっ!」
「バレバレですよ。それじゃあ、そろそろ行きますね。クイック!」
加速の魔法を使います。公爵様相手なら10倍で十分です。
素早く後ろに回り込んで、木剣を首筋に当てます。
「動かないでくださいね。動くと怪我をしますよ。ブレイク!」
目の前にいた私を急に見失い、気が付いたら首筋に剣が。
公爵様は目を大きく見開いたまま口をパクパクさせていた。
「ま、参った」
私の完勝です。言った通り、一太刀も振るわせませんでしたよ。
「言ったでしょ、私は強いって」
見ていた人たちも何が起きたか理解できていないようです。
おじいさまは目を輝かせて私を見ています。
おばあさまは手を叩いて喜んでいます。
ラルフさんは何が起こったのかをもう一度思い出そうとしてるようでした。
「公爵様、私にやらせていただけないでしょうか」
「儂は構わんが、姫様が何と言うか」
「私なら構わないわよ。まだ何もしてないのと同じだから」
「それでは姫様、お相手をお願いいたします」
公爵様の護衛で、強さはトップクラスって言ってましたっけ。あっ、護衛長だそうです。立派な鎧を付けていますが、まあ飾りでしょうね。式典用とか。あんな鎧着てちゃ、戦えません。重いわ、動きに制約は出るわで。
『1対1の模擬戦です。最高の強さで戦えるように準備をお願いします』と言いました。もちろん魔法を使うのなら使って構わないとも。私も使いますからね。
公爵様との戦いを見て、私がスピードに特化した戦い方をすると思ったのでしょう。あながち間違いではありませんが、私自身のスピードは大したことありません。私の速さに対応できるようにスピード重視の軽装で整えてきました。腕には小さな丸い盾を付けています。武器は短い槍と腰に短剣を装備しています。戦い慣れているようですね、特に対人戦。
私は本来のスタイルではありませんが、これは仕方ありません。私のスタイルはアウトレンジから一方的にボコるものですから。模擬戦みたく、向かい合ってさあ始めましょうって言うんじゃないからね。
そういえば私がエレンさんから教わったのって、クロスボウの他は木の杖で殴る事と、ナイフを少しって感じだったはず。あまりにクロスボウが強すぎるんで、他があまり上手くなっていない。
ヤバい、これはヤバすぎる。なんてことはありませんから。チョットだけ焦ったふりをしてみました。
「本当にそれでいいのか?」
「ええ、構わないわ。本来の私のスタイルは遠くから矢を一方的に射掛けて終わらせるっていうものだから。さすがにここじゃ弓は使えないしね」
一応木の杖を持ちました。手ぶらでもよかったんですけど、それじゃあ余りにねぇ。
「それでは、ミーアの第2回戦、始めっ!」
護衛長さんは合図とともに突っ込んできます。先手必勝ってとこですか。
彼の槍による猛攻をさばきながら、
「ジャンプ!」
彼の後ろに回り込みます。回り込むというよりは空間移動です。
護衛長さんは目の前から私が急にいなくなって、バランスを崩してしまいました。私はその隙を逃さずに、木の杖を振り下ろします。
『バコッ!』
護衛長さんは前に倒れました。でもさすが戦い慣れてるというか、すぐに立ち上がります。戦いの最中に倒れこんでいて起き上がんなかったら、いい的ですからね。
それから数度同じような攻撃を繰り広げます。後ろだけでなく、横からだったり槍の間合いの内側正面で木の杖に突っ込んでくるようにした時もありました。
護衛長さんも少しずつ私の動きに慣れてきて、派手に倒れることはなくなってきました。
「そろそろ終わりにしましょうか」
私に向かってくるところに、「ストップ!」、彼の時間を止めました。
槍を取り上げて遠くの木に投げ(当然刺さります。精密射撃の補正ですが)、腰の短剣をチョット借りました。
「下手に抵抗しないで!怪我じゃ済まなくなるから!ブレイク!」
「私の強さ、分かっていただけたでしょうか。これが私の本当の強さです」
私と戦った護衛長さんは跪いて呆然としています。
「それに貴方、なぜ魔法を使わなかったのです」
「使っていたさ、私にとっての最強の魔法をな。確かに火の魔法も使えはするが、先ほどの姫様の戦いを見て、私の魔法じゃ姫様の足止めにもならないことぐらいは分かったさ。だからこそ私は自分の身体を最大限強化する魔法を使うことにしたんだ」
「それでは一度お部屋に戻りましょうか。私からもお話しすることが沢山ございますので」
応接室ではなく、全員で食堂に行きました。もちろん護衛長さんも一緒です。あっ、戦わなかった護衛さんたちは出て行っちゃいました。安全だと思ったんでしょうね。
貴族の食堂って言うと、長ーいテーブルをイメージしたんですけど、席に着いたのは円卓でした。長いテーブルももちろんありましたよ。
「おじいさま、私強かったでしょ」
「そうじゃな、ミーアはホントに強い。ビックリしたぞ」
「ねっ。言った通りなんだから。公爵様、満足いただけたでしょうか」
「ま、満足も何も……………」
「うふっ!じゃあ後で種明かししますね。それより、お茶、頂きません?冷めちゃいますよ。それに私、チョットお腹空いちゃったかも」
「それじゃあ、おやつにでもしようか。何か持ってきてくれるかな。簡単なものでいいぞ、夜が入らなくなっても困るからのう」
前の国王夫妻に公爵様。公爵様の執事の方に護衛の方たち。そんな中に平民の私。違和感しかありません。
「ミーアよ、今さらではあるが、其方は王族の一員なのだ。そのことを受け入れてほしいのじゃ」
「急に王族って言われても実感もないですし…。それに貴族の方たちなら、小さいころから厳しいしつけや教育を受けてきたんでしょ。私はそんなの受けてませんし、おじいさまには言いましたけど、こんな貴族の常識の欠片も持たないお転婆な私が、おじいさまたちの傍にいたらご迷惑をかけるんじゃないかと…」
「貴族の作法など気にすることはない。少しづつ身に付けて行けばいいことだ。無理する必要などない」
「それに、お母様のお兄様方やお姉様方が私の事をどう思われるか」
「それも心配には及ばん。既にミーアの事は知らせておる。皆、ミーアに会いたがっておったぞ」
「そうよミーアちゃん、貴女が心配することなんて何もないわ。私たちと一緒に、ねっ」
「一緒に住むかどうかはもう少し考えさせてください。王族の一員と言うことについては、まぁ、受け入れて頂けるのであれば私が言うことではありませんね。一部には受け入れて頂けない方たちもいるかとは思いますが、それは仕方ない事でしょうから。でも、王族の一員になるって事は、私も政略の一部になるって事ですか?それだったら嫌だなぁ。お母さんみたいに飛び出したりはしないと思うけど、っていうか、既に出てるんだけど、お母さんの気持ちもなんとなくわかるかも」
「ミーアにそのようなことは望んでおらんよ。それこそ貴族としての常識やしつけ、教育を受けてきたものの責務だからな。ミーアにはたくさんの従兄弟もおる。彼らがすることじゃ」
「では一度、他のおばあさま方や伯父様、伯母様たちとお会いいたします。あっ、ちょっと待って。私が王族に入ることについて、一つだけ約束してほしいことがあるんだけど、いいかな」
「なんじゃ?」
「うん。これから話すことを秘密にしてほしいんだ。でないと、私、狙われちゃうかもしれないから」
「狙われる?そんな大事なことなのか?」
「うん。だからおじいさま、おばあさまだけじゃなくって、公爵様たちにも。お願い」
「よかろう。ナジャフもいいな」
「承知いたしました」
「じゃあ話すね、私の秘密」
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