第20話 新メンバー(side 金色の月光)

俺たち『金色の月光』がAランクに昇格して1カ月、いくつかの依頼をこなしながらまだ王都にいた。


「俺たちの拠点についてなんだが、どうする?」

「どうするって?」

「このまま王都に移すか、ベルンハルドに戻るか」

「ベルンハルドか、悪くはなかったんだが、ここと比べるとなぁ」

「そうなのよねぇ、一度王都で暮らしちゃうとどうしてもねぇ」

「セリーヌはどうする」

「私はローデたちに合わせる」

「Aランクになって1カ月、王都でも依頼をこなしてきたが、さすがに稼ぎは比べ物にならないな。

だから俺もこっちでやっていってもいいかなって考えてた」

「なら決まりだな。俺たちはこっちで活動する。いくら王都が広いからと言ったって、ここで活動しているAランクパーティーはそんなに多くない。俺たちでも十分行けるって事だ」

「だったら、私たちの家が欲しいわね。いつまでも宿屋暮らしってわけにもいかないし」

「そうだな。じゃぁ物件探しに行くか」


さすがに王都の物件はお値段の張るものが多い。とはいうものの、今までの蓄えとAランクになってからの報酬で贅沢さえしなければ十分賄えるものだった。

俺たちは全ての冒険者の夢、『Aランクになって王都に家を買う』を実現した。


「やっぱ自分たちの家っていいねぇ」

「勝手に飯の支度はされないけど、まぁそんなものは外に行けばいいだけの話だしな」

「掃除は、みんなで、やろうね。私たちの、家なんだから」

「でも、もっともっと稼いで、家の事やってくれる人を雇ってもいいな」

「よしっ、じゃぁ、頑張るぞ!」

「ディート、あっちばっかり頑張っちゃ、ダメだからね」


「俺たちの5人目のメンバーなんだが、そろそろ募集かけてみないか」

「支援職の人の事よね。いいんじゃない」

「じゃあギルドでメンバー募集をしよう。とりあえず1カ月、いいメンバーが見つかったらその場で終わり。いなかったら、しばらく置いてもう一度かな」



**********



「侯爵様、例の『金色の月光』がパーティーメンバーの募集を始めました。如何致しましょう」

「何を求めている」

「はい、支援職のようです。罠や魔物の気配が分かる者、自分の身は自分で守れる者、その他パーティーの仕事を行える者、だそうです」

「レベル的にはBランク以上か。レンジャーがいたな、Aランクの」

「ステファンですか」

「そうだ、そいつだ。あと密偵のシャルフィー、こいつらを当てろ。1カ月でサウムハルトの専属にするぞ」



「ステファン、シャルフィー、二人に話がある。1カ月ぐらい前にAランクになったパーティー『金色の月光』と言うのがあってな、そのパーティーが支援職を募集している。お前たち二人のどちらかがそのパーティーに加入してほしいのだ。その後サウムハルトの専属にするから、そうしたらお前たちはパーティーを抜けてもらって構わない。よろしく頼む」

「「了解です」」



**********



「いい人いないね」

「そうだな。俺たちの条件見て来るやつが、シーフばっかだからな。さすがにシーフはちょっとなぁ」

「ひとり来たレンジャーもCランクだったし。今日はいい人来てくれるといいんだけどなぁ」


ギルドにパーティーメンバーの募集を出して1週間、面接をした中にめぼしい人材はいなかった。

ギルドに確認したところ、今日は2人いるらしい。


「今日も来てるね。えーと、AランクのレンジャーとBランクの密偵だって。今日は期待できそうだね」

「でも、そんな好人材、訳ありなんじゃねーの」

「話をしてみないことにはわからないからな。とにかく話をしてみよう」




「俺はステファン。元は田舎町のBランクパーティーで冒険者をやっていた。Aランクに上がれるほどでもなかったし、結局パーティーは解散しちまったんで、こっちに出てきて活動している。冒険者レベルはAだ。ジョブはレンジャーなんで、森の中での探索なんかはそちらの希望に合うと思う」

「なんで俺たちの募集に応じたんだ?」

「勢いのあるAランクパーティーって事もある。それに俺自身、ソロだときつくってな。そこに丁度俺向きの募集があったって事さ」

「戦力としては?」

「こっち来てからはソロでやってたからなぁ。それなりには戦えるぜ。それに以前はパーティーにもいた。パーティーの仕事って言うのも分かってると思ってくれてOKだ」

「話をいろいろ聞かせてくれてありがとう。パーティーに加入するかどうかは後で連絡するでいいかな」

「了解した。いい返事を待ってるぜ」


「ねぇ、あのステファンって人、どう思った?」

「どうもこうも、いいんじゃね。とりあえずキープしたけど、もうあいつでいいんじゃないかなぁ」

「私もあの人でいいと思うよ」

「私、もう一人も、気になる」

「それじゃあ第1候補がステファンで、もう一人と比べて決める。募集は今日で終わりでいいかな」



「はじめまして。私はシャルフィーと言います。冒険者レベルはBで、ジョブは密偵です。密偵って言ってよくわかんないと思うけど、一口に言えば情報収集のスペシャリストって事です。調べられるものなら何でも調べてきます。罠だろうが近くにいる魔物だろうが、別のパーティーの情報だろうが、何でもです。

私の仕事は見つからずに行うものだから、パーティーの戦力の底上げにはならないかもしれないけど、私を気にせずに戦ってくれて構いません。無論、私が敵の真ん中にいたとしてもです」

「俺たちの火力だって相当なものがあるんだぞ。そんな攻撃の中でも大丈夫なのか?」

「密偵と言うのはそういう特殊なジョブなんです」

「なら、今までどうしてお一人で?」

「サポートメンバーとして参加していました。正式メンバーではないので待遇の面で揉めることもありまして、今回こちらでメンバーを募集しているとのことで是非ともと思いまして」

「分かりました。パーティーへの加入については後ほど連絡させていただきます」

「よろしくお願いいたします」


「悩むな、シャルフィーも悪くない」

「そうかなぁ、俺はステファンがいいと思うぜ。だってよ、単純に火力が3つから4つに増えるんだぜ」

「俺だってそれぐらいは分かってるさ。それでもシャルフィーに惹かれるところがあるんだよな」

「私はシャルフィーの方がいいかな。私たちの戦い方のスタイルを変えないでいいって言うのは大きいよ。ステファンだと火力は増えるけど、戦い方も変わっちゃう。私たちが冒険者になってからずっとこのスタイルでやって来たから、今更変えるのは………」

「でもよ、護衛任務だったらどうすんだよ。3つと4つじゃ全然違うぜ」

「私たちだけでの、護衛なら、対象は一人、多くても二人。それなら、襲撃される前に、敵の情報が、分かった方が、ずっとまし。ローデの魔法で、襲撃される前に、終わらせられる。私も、シャルフィーの方が、いい」

「ちょっと待ってよ。シャルフィーが加わるとなると、俺の負担が増えないか?」

「増えないだろ。っていうか、変わんないよ。先手を打てる確率が上がる分だけ、プラスかな」

「そこだよ。先手が打てるって事は、俺たち前衛が戦うことが多くなるって事だろ」

「一概にそうとも言えないだろう。先手が打てるって事は、遠距離からの魔法攻撃で一掃できることもあるから、むしろ俺とかセリーヌの方が負担は増えるかもな。それに先手が打てるって事は、無理に戦わなくても済むって事でもあるんだぞ」

「あーっ、もうみんなシャルフィーで決まってんのかよ。じゃあ、俺も快く迎えるさ」



**********



「私の勝ちのようですね」

「あぁ、おめでとう、シャル。この後、しっかり頼むよ」

「なんでも私を選んだ理由が、今までのスタイルを変えなくていいからだったとか」

「それじゃぁ俺に勝ち目なんてなかったって事か」

「そうでもないみたいですよ。私が行かなかったら貴方で決まりだったそうですから」


「とにかく、彼らを私のところに引き入れる最初のステップは上手くいった。次のステップは追って連絡する。彼らの動きについては、逐次報告を頼むぞ」



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