第15話 暇です。

久しぶりに頭を使ったら、なんだか眠くなってきてしまいました。

これだけは言っておきます。スープの眠り毒が効いたわけではありません。

あんな毒、飲んだ瞬間解毒されちゃいました。

だからこの眠気は、純粋に生理現象によるものです。


もう、考え事をするネタもありません。

考え事?妄想じゃないかって?

考え事です。

妄想ならいくらでもできます。あんなムフフなことや、こんなムフフなこと。

今はそんな事しません。宿のベッドでゆっくりするからいいんです。


うとうとと、睡魔がやってきました。こんな時は大人しく睡魔にやられちゃうと楽なんです。

が、しかし、通路の方からガヤガヤとやかましい声と、何人かの足音が近づいてきたのです。

あー、五月蠅いな。こっちは眠たいんだから静かにしてくださいよ。

盗賊さんたちにこっちの事情は関係ありません。


「おい、女。大人しくしているか」

話しかけてきたのは薬草採りの途中で私を襲った男です。

あの時は私の事を名前で呼んでいたのに、今は女です。

私の名前、忘れてしまったんでしょうか。忘れたんでしょうね。バカみたいな顔してますから。きっとバカなんでしょう。


一方的に話しかけられても、私はそれに応える義務も義理もありません。だからスルーです。

「もう暫くしたらお迎えが来る。そん時まで静かにしてろよ。逃げ出そうなんてすんじゃねぇぞ」


普通に考えて逃げられるわけないじゃないですか。

鉄格子のはまった洞窟の独房。武器も何も持ってない丸腰の女の子。通路の先には武器を持った見張り。

詰みです。これじゃあ逃げ出せません、普通の人なら。

でも私は普通じゃないから逃げられます。ワープの魔法を使って。

でもあえて逃げません。逃げちゃうと敵が何を考えているのか分かんなくなっちゃいますからね。

だからきっちり相手の罠に嵌ってあげて、策略を研究して、反撃の準備をします。

ちゃんと反撃しますよ。普通の女の子に普通じゃないことをしたんですから、その落とし前はきっちりとね。


私の所に来た盗賊の中に、一人ヤバい感じの奴がいました。ボスでしょうか、オーラが違います。

そんな時はこれ、魔力パターンを覚えておく。後で役に立つかもしれませんから。


余りに五月蠅いので、手をヒラヒラ降って追い返します。

団体さん、帰ってくれたようで静かになりました。でも、眠気はすっかり冷めてしまいました。


多分、今はもう夜です。襲われたのは昼過ぎ、気を失っていたのは2~3時間ってとこでしょう。もうちょっとかな。

お宝の譲渡を受けたり、腹ごしらえをしたり、推理ショーを開いたりと結構いろんなことをやりました。この何にもない独房の中で。

とすると、今は8時から9時って感じかな。夜ですね。適当に考え事をしてから寝るとします。

どうせやる事なんか何もないのですから。


『もう暫くしたらお迎えが来る』って言ってました。すぐに来るのなら『もうすぐ』って言うでしょう。明日くるってわかってたら『明日』っていうでしょう。それを『もう暫く』って言ったって事は、2~3日はかかると見た方が良いでしょう。


私を攫った盗賊団は、私を独房に入れた後、すぐに報告に向かったでしょう。この世界の情報の伝達は、とにかく走るです。人が走る、馬が走る。とにかく走って情報を届けるしかありません。

恐らく早馬を使ったのではないでしょうか。

なんせ、生ものです。鮮度が大事です。

どこまで行ったか知りませんが、恐らく明日には私を捕らえたということが伝わるはずです。

『私を捕らえろ』と命令した輩ですから、引き取る準備を何もしていないことはないでしょう。

明日中に出立して明明後日にはこちらに着くでしょう。そして引き渡される。


明明後日ならもう暫くでも問題ありません。もしかしたらもう1日ぐらいは伸びるかもしれませんから。

後3~4日の辛抱です。そうすれば私を攫った首謀者?黒幕?Xの正体が分かります。


そうと決まれば休んで体調を整えます。冒険者としての基本です。依頼を受ける前にしっかりと準備をしておく。

今回は依頼じゃありませんが、勝手に私を主役にして舞台に引きずり上げた、あまりに身勝手な脚本家の面を拝むって言う大きなイベントです。準備は怠りません。


明日から暇です。もう譲ってもらえるお宝もないようですし。とりあえず3日、暇つぶしを考えましょう。

それでは皆さん、おやすみなさい。



**********



おはようございます。多分朝です。

洞窟の中は薄暗くって、時間の感覚が狂ってきます。


顔を洗うところはありませんが、私には水魔法があります。

幸い、見張りの人からは見えないところにいます。遠慮なく魔法を使って顔を洗います。

本当は身体も拭きたいのですが、今はできないことになってます。

後でタオルをもらうとしましょうか。

下着は洗うことにしました。同じ下着を洗濯もせずにずっと着けてるのは気持ち悪いですから。

乾くまで下着なしになりますが、襲われる心配はまずないので大丈夫でしょう。


「ねぇ、お腹空いた。朝ごはんまだ~。ねぇってば~。昨日よりマシなもん持ってこなかったら、承知しないからね」

昨日の食べ物よりはましなものが出てきました。

パンは柔らかい白パンが2つ、肉は腸詰を茹でたもの、なんとスープには毒の代わりに具が入っていました。野菜だけでしたが。味もついていました。ただしょっぱいだけの塩味でしたけど。野菜くずでも、しっかり煮込んで灰汁取して濾したりすれば、美味しいスープになります。努力不足です。

それにしても格段の進歩です。やればできるんなら、最初からやってください。


食べ終わるとやることのない時間の始まりです。

1日中妄想なんてしてたら、膨らみすぎて爆発しそうなんで止めておきます。

何をしましょうか。スキルの特訓でもしていましょうか。

【ミーア化物化計画】始動かって、それしかないのならそれでいいですよ。

見た目が化物にならなきゃいいです。もうちょっといい感じにはなりたいですけど。


ターゲットのスキルは【探索】です。やっぱこれしかないでしょ。

1つは探索の派生スキル【索敵】を身に付けること。敵意の有無を判断することです。

もう一つは【マルチアイ】。ミニマップの上でまるでそこで見てるかのようなスキル。これってば、多重処理が進化すればいろんなところを一編に見れるようになるかも。


【索敵】は簡単でした。こんな簡単にできるんだったら、もっと早くにやっとくんでした。

魔力探索は自然にあふれ出てくる魔力を探すものです。

索敵はあふれ出てくる感情を捕まえて、解析したのです。好感や悪意、それがどこに向かっているかもわかります。それをミニマップの上に表示したら、ハイ完成です。

スキル【索敵】が発現しました。


あと残ってる探索は鉱物探索ぐらいでしょうか。土の中に埋まってるものを探すって奴です。

だから止めなさいって。本当に取り返しのつかないことになっちゃうわよ。

もうスキルについては開き直ることにしたんです。他の人にできない、私だけの特技なら、思いっきり使いこなしてやるんです。

『目指せ!検索マスター!』です。



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