第14話 首謀者【X】

「ねぇ、チョット、聞こえてる?私、お腹空いたんですけど」

「……………」

反応がありません。屍なのでしょうか。

「ねぇ!聞こえてんでしょ!!」

「五月蠅いな、分かったから静かにしてろ。今、食いもん持ってってやっから」


暫くすると食事らしきものが運ばれてきました。

堅パンに干し肉ひとかけら、野菜くずがほんの少し浮かんでいる薄味のスープです。

冒険者の野営メニューでしょうか。『金色の月光』ではもっとずっといいものを食べてましたけど。私が作ってましたから。

「ほらっ、さっさと食え」


衆人環視の中で食事をするような奇特な性癖の持ち主ではもちろんありません。

「そんな見られてたら食べられないわよ。終わったらそこに置いとくから、あっち行ってて」


運ばれてきた食べ物をチェックします。毒が混じってたら怖いじゃないですか。

まぁ、私に毒は効かないのですけどね。でも効いたフリしなくちゃいけない時もありますから。

パンとお肉は何も混じっていません。美味しくはなさそうですが。

スープには毒が混じっていました。眠ってしまうものみたいです。でも効き目は薄いみたい。余程弱っているか子供じゃないと効かないと思います。


スープを飲んでいる最中に急に眠ってしまったら、そっちの方が不自然ですね。相手さんだって大して効かない毒を仕込んだってこと解ってるはずです。

なら、食べ終えて片付けたらなんだか眠くなってきたので、横になったら寝ちゃった。

このストーリーで行きましょう。私ってば、脚本家になれるでしょうか。お芝居の本を書くのもいいですね。お芝居、観たことありませんけど。


やっぱり不味いです。パンやお肉をスープに浸して柔らかくしようとしても、やっぱり堅いです。顎の鍛錬なのでしょうか。

スープもただのお湯と変わりません。せめて干し肉と一緒に煮てくれればいいのに。



乾草の上に横になります。眠くなったわけじゃありませんよ。眠くなったフリ、寝たフリをするためです。

今迄に起こったことを整理します。



まずこの事件には首謀者がいます。盗賊たちは首謀者ではありません。だって、私の名前は知っていましたが、私の事は知りませんでしたから。恐らく首謀者から話を聞いただけだと思われます。


毎度毎度首謀者では長ったらしいので、これからはXと呼ぶことにします。

なんか推理ものっぽくなってきました。

もしかしたら私は名探偵かもしれません。

【名探偵ミーア】

かっこいいかもしれません。


でこのX、私が傷つけられることをよく思ってません。

私が傷つけられて、自棄を起こされたら困るのでしょう。

私に何かをさせたいのかもしれません。その時に怪我をしていたら困るのでしょう。

だから盗賊たちは私に手を出してこないのです。あの荒くれ者たちがです。考えられません。

だとすると、私を攫った盗賊たち、私を監視している盗賊たちはこの盗賊団の幹部クラスって事になるでしょう。勝手な事したら胴体と頭が永遠に離れてしまうことを知っている。ボスの勅命で動くような。

Xはボスに対する圧倒的脅威者ということになります。

これだけの盗賊団を圧倒できる者。貴族でしょうか。

貴族だとしても男爵や子爵のような下っ端のペーペー貴族ではないはずです。彼らは盗賊に脅される側ですから。

ということで、Xは上級貴族という線が濃くなってきました。


食事についてもそうです。私がお腹が空いたと言ったら、用意されました。

パンに肉、毒入りでしたがスープもです。

攫われた人たちの食事なんてパンの一片程度です。


つまりは、こんな待遇ではありますが、私は客人ということになります。

Xの手のものが私を引き取りに来るまでの間は安全ということでしょう。無茶なことさえしなければ。



では、何故Xは私を攫ったのでしょう。


人攫い、誘拐でまず思いつくのは身代金の要求です。

Xは私の事を知っています。私の家族の事も、恐らく。


身代金の線はなんだか薄そうです。だって、私の身代金を払ってくれそうな人がいないからです。

父も母もすでに亡くなっています。兄弟はいません。一応面倒を見てくれた叔父さんはいますが、私の事を煩わしく思っていました。私のために身代金を払ってくれるとは思えません。

私には身寄りがないのです。だから身代金を取れないのです。


私がパーティーを辞める時にもらった金貨100枚が狙い?

この線も薄そうです。

この盗賊団には金貨数万枚がありました。今は私が貰っちゃいましたけど。

このお金の一部には、Xから払われたものもあるでしょう。これだけの盗賊団です。いくらXが盗賊団にとって脅威者であったとしても、半端な金で動くとは思えません。恐らく金貨数百枚が動いているでしょう。

だとすると私の持ってる金貨100枚なんて彼らからするとはした金。そんなものを狙う必要がないのです。



誰かに恨まれてる?

この人畜無害な私がですか?

『金色の月光』の時もそんな仕事はしたことないです。

気づかないうちに恨まれるような事しちゃったかもしれませんけど、そんなのは誰にでもある事なので、私だけがピックアップされるのは不公平です。

なので恨みということなないと思います。



お金や怨恨の線じゃないとすればやはりスキルでしょうか。

私のスキルは異常だとエレンさんが言っていました。


まず目を付けられるとしたら【探索】でしょうか。

このスキルは非常に便利です。先ほども使いましたが、ほとんどの事が手に取るようにわかるんです。

何か動こうとするとき、このスキルがあればかなり優位に立てます。

でも、多分このスキルがある事言ってません。『金色の月光』のメンバーにもです。

パーティーで探索した時は、「多分こっち」とか「あっちは危ない気がする」って感じだったから。

知っているのはエレンさんだけ。でも、エレンさんは私を売るような人じゃないと信じてますから。

ということで、この線はない。


だとすると【料理】。

これはないなぁ。流れの料理人を探す上級貴族X。ない、ない。

これだけの財力と裏社会とのつながりを持つ上級貴族Xが、お抱えの料理人を持っていないはずがない。

それに、私の料理は他人に食べさせたことはない。パーティーの仲間だけだ。

それゆえ私が料理のスキル持ちだなんてこと誰も知らないはずだ。

エレンさんを除いて。


やっぱり、エレンさんが怪しいのかな。黒幕Xの内通者だったら嫌だな。


後は【水魔法】。

スキルが発現したことも誰にも言ってないし、そもそも水魔法なんて魔法職の人を当たればいくらでもいる。

ジョブ【毒使い】の水魔法を所望する奇特な奴なんていやしない。


【精密射撃】や【多重処理】はこの前発現したばっかだしな。そもそもこれらは補助スキルで、何かをするときに裏で勝手に発動するんだよな。他の人に恩恵ないし。


って事は、後から発現したスキルじゃなさそうって事か。



スキルじゃないとすると、【空間魔法】と【時間魔法】か。

確かにこれらだったら私が攫われる理由になります。

適性者が1000人に1人程度で、使えるなるとさらに減って5000人に1人。

これだけでレア。レアって言うよりスーパーレアだね。

そんなスーパーレア系な魔法を2種類。そんな私はウルトラレアって事。

いえ、きっとさらに上位のスーパーウルトラレアでしょう、私ってば。

空間魔法はこの世界の戦争を一変させるだけの力がある。重い兵装や大量の兵站を気にすることなく前線に着くことができるし、ワープを使えばいきなり兵隊を呼び出すことだってできてしまう。

危険すぎる。

でも、時空魔法が使えるって事は誰一人として知らないはず。エレンさんにも言ってない。これを使うところは誰にも見せていない。

だから私が時空魔法の使い手だってばれてる可能性はほぼ0。ないんです。

誰も知らない情報で人攫いをするなんてことありません。もしあったとしたら、この世界の人みんな攫われちゃいます。

時空魔法って事は、ハイっ!消えました。



すると、やっぱりジョブ系か。私のジョブ【毒使い】は知られているからなぁ。

だけど毒使いに何をさせたいんだろう。

【毒耐性】、いや今は【毒無効】だっけ。これはないですね。だってこれ、私にしか意味ないから。

だとしたら【創毒】か【創薬】かぁ。

薬を作らせる、または解毒剤を作らせる。そのために攫った。

理屈は通る。でもなんか引っかかる。

そうか、薬を作らせるんならわざわざ危険を冒してまで人攫いをすることなんてないんだ。

薬を作ってって依頼すればいいだけだから。


ということは、Xは私に毒を作らせたい。表にできないような代物を作らせたいのだろう。

情報が漏れないように攫って、さらに

きっとその毒薬は人を殺すためのものに違いない。政敵かなにかを排除するために。

うん、そうだ。そうに違いない。


よしっ、これでXの思惑は分かった。


「首謀者【X】よ。貴様の企みは、この名探偵ミーアが全て解き明かした。観念して私を開放せよ」


って、Xって誰?



**********


Xはサウムハルト侯爵(『金色の月光』に接触しようとした貴族様)ではありません。

Xの登場はもう少し先になります。

期待しないでお待ちください。


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