第11話 Aランク昇格試験(パート3)(side 金色の月光)

予定通り、8時にはボスの攻略を始めることができた。十分に休息をとっていたので、体は軽い。


俺がゴーレムの足元を乱して、前の2人がたたく。ゴーレムの身体は非常に硬く剣で切ることはできないが、関節は比較的脆い。関節を狙い手足をバラバラにしていくのだが、ゴーレムの修復能力はかなり高かった。

切り飛ばした腕や足も時間がたつと直っていく。ゴーレムの核を破壊して完全に動きを止めなければだめだ。


「核は頭の中にある。首を刎ねて核を潰すんだ!」


2体のゴーレムは完全に沈黙した。ゴーレムは厳密には魔物でないため魔石を持たない。核は破壊してしまっているが、破片は魔道具の核として利用できる。


核のかけらを回収して4階へと続く長い階段を降りた。今までの3階分ぐらいの長い階段だ。

つまり、4階の天井は今まで以上に高いということだ。おそらく10メートル以上ある。



「ねぇ、このダンジョンって、一体どうなってんの。こんなの普通のパーティーじゃ攻略なんてできないわよね。4階でオーガにトロル、ギガンテスにサイクロプスって、異常よ、異常!」

「このフロアがカッチェにとって非常につらいのは分かる。力馬鹿に相対する盾役だからな。ペースを落とすのもいいが、とりあえず安全地帯を目指そう」

「そうね、一休みしないと持たないわ」

「オーガが可愛く見えるし、俺たちが小人族かと勘違いするフロアだもんな」

「でも、こいつら魔法を使ってこないだけまだましかもしれない。これで魔法でも使ってこようもんなら………」

「やめてよ、考えただけでもぞっとするわ」

「そう、こいつら、魔法に弱いから」


巨人族フロアとも呼べる4階を進んでいく。上空からの攻撃がないだけまだ余裕はあるが、当たれば大ダメージ確定の攻撃だ。先制されないよう慎重に進まざるを得ない。


安全地帯で小休止をとる。まだ昼過ぎ。時間的にはだいぶ余裕がある。



**********



「私たち、結構なペースで降りて来たわよね」

4階のフロアボスを撃破し、今日の予定地点である5階の安全地帯で野営の準備を始めていた。


「そうだな、1階のフロアボスは4番手ぐらいだったと思うけど、2階のフロアボスは恐らく一番乗りだっただろう。3階は分かんないな。もしかすると2番手かも知れない。4階はトップだろう」

「3階も一抜けじゃない?」

「俺ら安全地帯で野営しただろ。ボス部屋の前に野営の跡があったんだよ。比較的新しい奴がな。

夜ついて、少し休んでから攻略して降りてったパーティーだろう」

「5階のボス部屋前、集合場所に一番乗りできないのかなぁ」

「ディート、目的をはき違えるなよ。一番乗りすることがいい訳じゃない。万全な状態で迎えることに意味があるんだ。ボス部屋前で野営しないで、わざわざ安全地帯を選んでる。こっちの方が安全度は高いからな」

「へいへい、ローデにお任せしますよ」

「ディートも前線で体張ってんだ。ケアして休めとけよ」


野営の時の食事の準備はセリーヌがやってくれている。以前はミーアがやっていたのだが。

移動の時は前線組のディートとカッチェがメイン、ローデはパーティー全体をいつも気にかけている。セリーヌもパーティーの状態を見てはいるが、他のメンバーよりは負担が少ない。支援職ではないが支援職の居ない今のパーティーの中では自然と役割分担が固まっていった。

まあ、ローデとカッチェが食事を作るとまあ何とか食べられるって程度、ディートに至っては堅パンと干し肉がそのまま並んでって感じだから、セリーヌに回ってくるのも自然だった。ミーアには劣ったが、彼らと比べたら何倍、いや何十倍もましなのだから。


「よぉし、明日は最終日だ。最後の調整、抜かるなよ。夜の監視は昨日と同じでいいな」

「カッチェ、この後マッサージしてくんねーかな」

「いいわよ。終わったら私もしてね」

「ローデ、後片付け手伝ってほしいんだけど」



**********



集合場所である5階のボス部屋の前に着いたのは朝9時になる少し前。どうやら一番乗りのようだった。

「おはようございます。『金色の月光』、到着しました」

「おっ、ずいぶんと早いじゃないか。素材集めに行ってきてもいいんだぞ」

扉の前には監督員が5名待機していた。

「いいえ。我々の目的はこの試験を通過してAランクパーティーになる事です。試験通過のために素材の回収は必要なかったと記憶していますが」

「それはそうだが、回収しておけば後で役に立つものもあるぞ」

「それならば尚更行けませんね。万が一それで負傷でもしようものなら目も当てられない。依頼を確実にこなすためには、自分たちの些細な欲求など捨て置く。これが我々のポリシーです」

「そうか。それは立派なことだ。この件についてはもう何も言うまい」


武器の点検、装備の点検をしながら次のパーティーが来るのを待つ。

1時間ぐらい過ぎただろうか、2番目のパーティーが到着した。

「お前らずいぶんと早いな」

「まあな。それよりアイツ、前衛の奴か?怪我してるようだが」

「ああ、問題ない。時間はあるから十分回復はできる」


11時までに2チーム、11時半までにさらに2チームが合流した。

「ちょっといいか。レイドでボス部屋に入る前にミーティングをしておきたい。各パーティーのリーダーに集まって欲しいんだが」

「ミーティング?そんなの必要ねえよ。皆でタコ殴りにすればいいだけだろ」

「それじゃダメなんだ。連携が乱れたらこっちが危なくなる。だから事前に他のパーティーの事も知っておく必要があるし、ボスの情報についても共有しておく必要があるんだ。だから悪いが集まってくれ」

「ちぇっ、面どくせーな。こっちはちょっとでも休んでおきたいっていうのによ」


レイドのパーティーリーダーは『金色の月光』が務めることとなった。早くに到着して準備が整っていること、目立った負傷者もいない事、何よりローデのリーダーシップが群を抜いていたからだった。

どのパーティーも消耗が激しい、特に最後に合流した2チームの度合いが酷い。残り時間で何とか回復して戦線に立てるものもいるが、何名かは自分を護る事が精一杯という状態であった。

この試験では仲間の回復を他のパーティーにしてもらうことが禁止されている。回復力に余裕がある俺たちも、他のパーティーの回復はできない。


5階のフロアボスであり、この試験の最終関門であるレッドドラゴンについて情報を共有する。

「ちょっと待て。なんでお前ら、ボスがレッドドラゴンだって知ってるんだ。お前ら昇格試験初めてなんだろ」

「事前に調査しておくことは冒険者の基本だ。この試験は月に1回行われている。前に受験した人から聞き取りを行うぐらい、当たり前のことじゃないのか」

「そうはいっても、俺たち未だ全員Bランクパーティーなんだぞ」

「だからどうした。Aランクになるためにここにいるんじゃないのか。少なくとも俺たちはそのつもりだ。Aランクに上がれば、いざドラゴンが現れて、討伐するとなれば主力になることは間違いない。場合に寄っちゃBランクのパーティーを指導しなければならない時もあるだろう。少なくとも、今それに向き合おうとしないパーティーは資格すらないんじゃないのか」

「そうだな、こいつの言う通りだ。口は悪いがな。今ならレイドを抜けても構わないぞ。入ってから足の引っ張り合いだけは避けなければならないからな」

「分かったよ、お前らの言うとおりにするよ」


レイドリーダーの件、各パーティーの構成、レッドドラゴンの攻略ポイントと注意点などの情報の共有が一通り終わった。

いよいよ残り15分でレイド戦だ。


「ディート、カッチェ、セリーヌ。ちょっと聞いてくれ。このレイド戦、俺たちがレイドのパーティーリーダーで、俺がこのレイド戦全体のリーダーを務めることになった。ディートとカッチェはいつも通り。セリーヌはバフを切らさないように気を付けるんだ。ブレスはセリーヌの対魔魔法である程度は防げる。

弱点は例の鱗だが、無理に狙う必要はない。まずは機動力を削ぐんだ。止めなんて他のパーティーに譲ったってかまわない。目的をはき違えなければそれでいいからな。それじゃ、行くぞ!!」

「「「おぅ!!」」」


集合時間の5分前、このタイミングで合流してきたチームがあった。素材の回収を行いながら降りてきたらしい。パーティー全体が満身創痍、とても戦える状態ではなかったが、レイドには参加するという。



「7チームか。実質6、いや4チームってとこか。少々厳しい戦いになりそうだな」

レイド戦が始まった。


「風魔法が使える者は上から押さえつける風でドラゴンを上げるな。

水魔法隊は口元に水の粒を集めろ。ブレスの効果を少しでも弱めるんだ。

火魔法隊はとにかくぶつけろ。あれだけ的がデカいんだ、外すことはない。どんどんいけ!

盾持ちは前に出ろ。魔法部隊を護るんだ。

剣持ち、槍持ちは少し下がってろ。降りてきてからが勝負だからな。しっぽの動きに注意しろ。

ヒーラーは回復の準備、バフかけられる奴は忘れるんじゃないぞ。

どんどん行くぞ!!」

「「「「「おぅ!!!!!」」」」」


統率の採れたパーティーの動きで、ドラゴンはまともに動けない。

「ブレス来るぞ!盾持ちは守れ!回避できるものは回避だ!」


ブレスが俺たちを薙ぎ払う。

「ヒーラーは回復!戦えない奴は邪魔だ!下がれっ!!」


「右!、しっぽが行くぞっ!気を付けろっ!」


初めの頃は殆どダメージが通らなかったドラゴンも、次第に傷つき空中に上がる力もなくなっていた。

俺たちの断続的な攻撃で、ついにドラゴンを仕留めた。最後の止めはカッチェの一突きだった。


ドラゴンは素材の宝庫である。魔石、鱗、角、牙、爪、目玉、血、肝臓、皮、肉など、捨てるところはほとんどない。それをレイドに参加したチームで分配する。功績に応じて分けるのだが、出来るだけ不満が出ないよう分ける。ドラゴンの討伐が全て終わった。


「フロアボスの攻略、完了しました」

「そうだな。見事であった。これより地上に帰還する。全員、魔法陣の上に乗れ」

俺たちの乗った魔法陣が光り、地上に転送された。


「本日の試験は以上で終了とする。休息が必要なものはあの小屋を使っても構わない。中は安全だ。小屋で休息をとったにしても結果には影響しないので、安心して使ってもらって構わない。結果は3日後に発表する。ギルド本部に12時に来るように。以上、解散!」


俺たちのAランク昇格試験が終わった。




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