第10話 Aランク昇格試験(パート2)(side 金色の月光)

この1カ月、俺たちはとても充実した時間を過ごすことができた。

試験のために必要なものの調達、戦闘の感を鈍らせないための依頼の消化、試験のダンジョンの情報の収集など。

ダンジョンの情報は前回の試験で昇格を果たしたチームから直接聞くことができた。各フロアのボスの情報、攻略時間の配分、各フロアにある安全地帯の場所などだ。特に役に立ったのは、暗闇のダンジョンの中で敵の魔物より先に見つける方法。これを教えてもらったのは大きかった。ちょっとした工夫だったが、さすがベテランチーム、目の付け所が違った。


依頼の方はというと、さすがに王都のギルドである。とにかく報酬がいい。朝、少し出遅れても、それなりの報酬の依頼が残っていた。おかげで滞在費の半分近くを稼ぐことができた。


前回の試験はというと、昇格できたチームは2チームだけだった。

今回、試験を受けるのは、俺たちを含む前回の説明会で見学した3チームと、前の試験で昇格できなかったチームのうち5チーム、他に3チームの計11チームだ。


説明会も終わり、いよいよ明日は試験の本番だ。

俺たちは野営ではなく、当日朝に移動することを選んだ。今の力なら森にいる魔物など大したことはない。気を張ったまま野営して夜を明かすより、ゆっくりと休んだ方が何倍もいい。どのみちダンジョンの中で2泊するんだ。

明日の朝は早い。集合時間は9時、移動は1時間半から2時間、余裕を見て6時に出発することになった。

夕飯を食べた後、最後の荷物チェックとミーティングを行う。みんなの緊張の度合いが高まっている。話を早めに切り上げ、それぞれの部屋に戻った。俺の部屋にはセリーヌが、カッチェの部屋にはディートが当たり前のように入っていく。もう2週間もこの状態が続いている。

緊張と興奮と不安で眠れない。こんなことは初めてだ。

いつも無口なセリーヌも同じようだった。珍しく彼女の方から俺の方に近寄ってきた。彼女の小さな手は少し冷たく、そして震えていた。俺は彼女をそっと抱きしめ、そして眠りについた。

隣の部屋で起きていることは容易に想像することはできたが、明日に影響を残さなければ問題ない。



朝6時、ダンジョンの入り口、昇格試験の集合場所に向けて進みだす。4人とも気合が入っている。

森の中を進む。時折魔物が現れるが、ディートの剣がやすやすと切り裂いていく。

集合場所に付いたのは8時少し前だった。俺たちは8チーム目の到着だった。そのうち6チームは前乗りの野営組だったが。

さすがに遅れてくるものはいない。8時半にはすべてのチームが集合した。

さあ、始まりだ。



真っ暗なダンジョンの中を俺たちは進んでいく。先頭はカッチェ、盾を構え松明をもって進む。

2番手はセリーヌ、そのすぐ後ろに監督員と俺が続く。殿はディート、後ろからの不意打ちに備えている。

ミーアがいたころからのフォーメーションだ。明かりはカッチェの持つ松明と俺が作る魔法光。魔法光は少し暗めにして付けている、足元が見える程度に。明かりで魔物に気づかれるのを防ぐためだ。

教えてもらったやり方を使って進む。こちらからの先制はできないが、不意打ちを喰らうこともない。


1階と2階には罠はない。一応注意はしているが、情報通りないのだろう。1つも現れなかった。

1階のフロアボスはヘルハウンド3匹。Bランクの魔物だ。いつもの通りカッチェとディートが前に出る。カッチェが抑え込んで隙ができたところをディートが切る。俺は援護で魔法を撃ちながら隙を作っていく。

監督員の護衛はセリーヌに任せる。俺たちの攻略フォーメーションだ。


3匹のヘルハウンドを事も無げに始末する。ディートとカッチェが掠り傷を負ったが、大した怪我ではない。

順調だ。順調すぎて、足元を掬われないか不安になるぐらいだ。

ヘルハウンドのドロップを回収して2階に降りる。

今日のうちにできれば3階中央にある安全地帯まで進みたい。安全地帯があることは調査済だ。


2階のフロアボスはオークジェネラルとハイオーク2匹。マジでこのダンジョン、冒険者を殺しにかかってるとしか思えない。オークジェネラルがフロアボスに出てくるなんて、ベルンハルドのダンジョンだと15階ぐらいだ。しかもハイオークを2匹も連れていやがる。

俺は上位の火魔法の一つ、ファイヤーストームでハイオークに襲い掛かる。同時にカッチェはオークジェネラルを抑えにかかり、ディートはもう1匹のハイオークに襲い掛かる。

「カッチェ、援護する」

俺はオークジェネラルにファイヤーバレット5つを叩き込む。ファイヤーストームの中からハイオークが立ち上がる。全身が焼けただれている。

「これで終わりだ!ファイヤーボール!!」

直径50センチほどの火の玉が飛んでいき、目標にあたると同時に爆ぜた。ハイオークと共に。

「ディート、そいつは俺が代わる。ディートはカッチェの方に行ってくれ」

「了解!大分削っておいたから」


「カッチェ、大丈夫?」

「平気よ、問題ない」

「ちょっと待っててね。えーと、ハイヒール!それから、ディフェンスアーップ!」

カッチェの身体からオークジェネラルから受けた傷が消えていく。傷の癒えた身体に再び力が漲っていく。カッチェの盾が一瞬強く光り、攻撃を防いでいく。

「ありがとうセリーヌ、助かったわ」


そこへディートが参戦した。

「カッチェ!いつもの頼む」

「わかったわ」

カッチェは盾でオークジェネラルを押し込んでいく。ディートの狙いは足だ。狙いに気づかれないように剣で打ち合う。カッチェの押し込みで大きく揺らいだ。この大きな隙をディートは逃さない。素早く後ろに回り込んで足の筋を切り裂く。右足、そして左足と。

オークジェネラルは倒れた。死んではいないが、立ち上がることはできない。カッチェは槍で敵の攻撃が届かないところから切りかかる。オークジェネラルの手から剣が落ちた。ディートは素早く近づいてオークジェネラルの首を刎ねた。

時を同じくしてもう1匹のハイオークは地面から生えてきた土の槍に貫かれて倒れた。


完勝だった。味方に大きなダメージもなく、倒し切った。

ドロップを回収して休憩をとる。ここまでかなりのハイペースで来ているので、休むことも大切だ。

今の時間が午後の2時ごろ。潜り始めておよそ5時間。予定より少し早い。

「今日はこの後どうする?3階のボス部屋前までは行けそうだけど」

「いや、止めておこう。予定通り3階の安全地帯で野営をしよう。思ったより疲れがたまってそうだからな。それに、これ以上進むと監督員が付いてこれなくなりそうだ」

「安全地帯ってここでいいのよね」

「ああ、一応確認は取るが、安全地帯であればそこで泊まる。もし違ったらボス部屋の前まで行く。ボス攻略は明日だ。いいな」

「「「おぅ!」」」



3階の安全地帯は情報通りだった。安全地帯に着いたのは5時ごろ。少し早いが野営の準備を始める。

ダンジョンの中は暗く、時間の感覚が狂いやすいので、確認は欠かさない。気が付くと無理をしてしまうので注意を払う。


安全地帯での野営ではあるが、念には念を入れる。野営場の周りに魔物の忌避剤をまき、魔物が近づいてくるのを察知するための罠を張る。休む時には結界も張る。


「ミーティングを始めるから、みんな集まってくれ。監督員さんもお願いできるか」

夕食後、俺たちパーティー恒例のミーティングを行う。

「今日の行程につてはほぼ予定通りだ。何か気づいたことはあるか」

「フロアボスの情報については事前に聞いた通りだったが、実際に遭遇すると結構厄介なものだな」

「それは言えるわね。オークたちは魔法を使わなかったからあの程度だったけど、魔法を使う相手だと戦略を変える必要はありそうね」

「3階はゴーレム、4階はオーガだったか。ゴーレムは魔法無効のものが2体か。俺は完全に戦力外だな」

「そんなことないです。火は効かないかもしれないけど、足元に穴でも作って転ばせたりできたら、カッチェ、ディートはだいぶ楽なはず」

「了解、じゃ、俺はその線で行くわ。4階はオーガが3体だったな」

「うん、赤と青と黒の3体。赤は火の魔法、青は水の魔法、黒は雷の魔法を使うって」

「じゃあ、黒は俺がやる。カッチェが青を抑えてる間にディートは赤を頼む。セリーヌはいつも通りな」

「「「了解」」」

「ところで監督員さん、今日のペースはどうだった?」

「特に問題はありません。皆さんの護衛がしっかりしていますから、安心してついてこられました」

「それじゃあ、明日の野営は5階の安全地帯を目標とする。明日の1発目がゴーレムだから、準備をしっかりしとくように。ではこれでミーティング終わり」

「夜の警戒はどうする?」

「3交代でやろう。最初はカッチェとセリーヌ、お願い。次は俺がやる。最後はディート、お前がやれ。

明日朝8ごろ時にはボス攻略を始めたいから、7時ぐらいには出発する。日付が変わるころまでカッチェ達、3時ごろからディートで行くぞ」

「「「わかった」」」

「監督員さんはゆっくり休んでください。

今朝は早かったしずっと気を張っていたから、結構疲れてるはずだ。みんなちゃんと休むんだぞ」


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