第9話 Aランク昇格試験(パート1)(side 金色の月光)
俺たちはミーアを追放してすぐに王都へ向かった。
あーあ、ついに『追放』って言っちゃったよ。まあ、それはホントなんだから、どうでもいいんだけどね。
王都に行くのはもちろん、俺たちのパーティー『金色の月光』のAランク昇格試験の為である。
王都まで3日、着いてから試験までさらに3日ある。今の俺たちの実力からすれば何の問題もない。
「なあ、Aランク試験、すぐ受けるんだろ」
「1か月後に受けようと思ってるんだが」
「何言ってんだよ、ローデ。さっさと受けちまおうぜ」
「いや、Aランク試験がどういうものかも分からずに突っ込むのは愚策だろ。情報を集めて、準備して、そして一発で決める。これが俺たちのスタイルだ」
「そうよね、まあディートは突っ込むだけの能筋野郎だからね。あんまり早いと嫌われるぞ」
「ひでぇ言い方だな。カッチェだって似たようなもんだろ」
「私は違うよ。ちゃんと頭使ってるもん」
「頭使うって、頭突きか」
「ひっどーい」
試験を受けるのは1か月後に決まった。だが、3日後の試験も無駄にはしない。Aランク昇格試験がどういうものなのか、この目で確かめる。
翌日、俺たちを乗せた馬車は王都の門をくぐった。
俺たち『金色の月光』にとって初めての王都だ。
「でかいなぁ。さすが王都だ。ベルンハルドとは比べ物にならないな」
「ホント凄いわね、建物も多いし、人もいっぱい」
「ねえ、田舎もんってバカにされそうだからやめてよ」
「そうだな、余計なトラブルに巻き込まれるのは不味いからな。とりあえずギルドに行こうか」
王都には2つのギルドがある。1つは他の街のギルドと同じ依頼を取り扱う『冒険者ギルド王都支部』、そしてもう一つが王国の全てのギルドを統括している『冒険者ギルド本部』である。
昇格試験はギルド本部で行われる。
王都支部は王都の表玄関でもある南門の近くにある。王都にはほかに2つの門、西門と東門があり、それぞれの近くにも出張所がある。
一方ギルド本部は王宮の近く、役所や教会、商業ギルドや生産者ギルドの本部のある近くにある。近くには上級貴族の豪邸も立ち並んでいる。
『金色の月光』の一行は、ベルンハルドでもらった昇格試験受験資格証明書を提出した。
「Aランク昇格試験の受験者の方ですね。えーと、3日後に試験がありますが皆さんどうされますか?」
「その次の試験にしたいと思っています」
「その次と言いますと、一月後の試験でいいですか?」
「はい、それでお願いします」
「では、登録しておきますね。昇格試験は初めてですか?」
「はい」
「それではAランク昇格試験について説明しますね」
Aランク昇格試験は王国騎士団の訓練でも使われるダンジョンで行われる。
3日間かけて行われ、3日目の昼12時までに5階フロアボスの前に集まる事。その後、集合したパーティー全体でフロアボスを攻略して終了となる。単に強さだけでなく、パーティー間の連携や判断力、行動などを総合的に判断して合格が決められる。ボスのレイドに間に合わなかったり、地上に戻った場合は不合格となる。
パーティーに一人試験監督員が同行する。監督員はそのパーティーの護衛対象となる。
これがAランク昇格試験の概要だった。
ディートが考えていた、力を見せつければ済むといったものとはだいぶ様相が違っていた。
「1か月後の試験で正解だったな。しっかりと対策を取っておかないとひどいことになりかねない」
「そうだな。俺の考えてたのとはだいぶ違ってたからな」
「ディートの事だから、Aランクぐらいの魔物を倒してドロップ品でも持ち帰ればOK程度にしか考えてなかったんじゃないの」
「………」
「やっぱりそうだったんだ」
1回の昇格試験を受けるパーティーは大体10ぐらいだそうだ。途中失格が1~2チームあるらしい。
最終的に昇格するのは2~3チームらしい。結構狭き門だ。
「パーティー内に護衛対象がいるって言うのは、俺たちにとってはプラス材料だな。なんせミーアがいたからな。ミーアと監督員が入れ替わったと考えれば、俺たちはいつも通りの戦い方をすればいいって事になる」
「でも、ミーアがいたら逆に厳しかったかもな。ホント助かったぜ。ミーアが抜けてくれて」
「あの、3日後の試験って見学すること出来ますか?」
「大丈夫です。問題ありません。試験の前日に説明会があります。朝9時にギルドに集まって試験についての説明、先ほどのとあまり変わりませんが、それから監督員の配置が発表されます。そのあと実際にダンジョンに向かい、1時間ぐらい入ってみます。そしてギルドに戻って解散、という流れです。受験するパーティーは必ず参加しなければなりませんが、受験資格のあるパーティーでしたら下見ということで参加される方もいます。受検者や参加者の護衛としておうとのAランクパーティー3チームが同行しますので、ご安心ください。装備はしっかりとして来てくださいね」
俺たちはギルドで紹介してもらった宿屋に向かった。王都はさすがに物価が高い。二人部屋で1泊銀貨6枚、この部屋を2部屋、40日分借りることとした。朝食は別料金とのことだったが、朝食代込みで金貨5枚にまけてもらった。ベルンハルドの1.5倍ぐらいした。
部屋はさすがにいいものだった。ベルンハルドの『小鳥の止まり木』とは大違いだ。部屋には風呂もついていた。ベルンハルドのこのクラスの宿屋と比べれば1.2倍ぐらいかな。
俺とディート、カッチェとセリーヌに分かれて部屋を使う。途中からディートの奴がカッチェの所に行くようになったので、部屋は俺とセリーヌ、ディートとカッチェになった。何をしてたかは秘密だ。まあ大人だし。
説明会の日、支度を整えてギルドへ向かった。今回受験するチームは9つ、見学のチームが俺たちを含めて3チームの計12チームだ。
ギルドの大会議室で試験の説明を受ける。ぶっちゃけこの前聞いた話と大差ない。多少詳しくはなっているが。
新たな情報としては、試験中に倒した魔物のドロップ品はそれぞれのチームのものとなること。1階から4階のフロアボス戦は各チーム単独で行うこと。これぐらいか。
あと、ダンジョンのフロアマップが渡された。罠の位置とかは書かれていないが、マッピングを考えれば大分助かる。とは言え、5階まで丸2日で降りるとなると結構な強行軍で行かなければならない。
説明会、質疑応答の後、一行は試験会場となるダンジョンに移動した。
ダンジョンは王都の西門から出て2時間ぐらいの所、森の中を進んだ先に会った。ただこの森、普通に魔物が襲ってくる。今日は護衛チームが相手をしているので直接戦闘をすることはないが、実際の試験の時は自分たちで相手ををしなければならない。
試験本番の時はこのダンジョンの入り口に朝9時に集合とのことだ。遅刻は即失格、ここに来ることも試験ということだ。明日の受験チームの幾つかも、この近くで野営するらしい。
ダンジョンの中は真っ暗だった。ダンジョンによってはヒカリゴケが生えてて少し明るかったり、開放型だったり、魔力光で照らされていたりと明るいものもあるが、ここはそうではないらしい。昇格試験3度目というチームの人が言うには、5階までこれと同じ、ずっと暗いそうだ。
1時間程度の探索で俺たちはへとへとになっていた。出てくる魔物も大して強い訳ではない。ジャイアントバット、ケイブアント、ダークスパイダー、ポイズンスライム。何れも単体ではBランク、Cランクの魔物だ。ただ群れてくることもあるので注意しなければならず、ましてダンジョンが暗く、発見が遅れることもある。
上手く対応しなければ痛手を負うことになりそうだ。
「結構準備が必要だな」
「ああ、そのようだな。でも幸い時間は取ったし、俺たちなら対応できるでしょう」
「ミーアがいたら上手く避けて進めたのかな。あの娘、妙に感が良かったから」
「いない人のことを言ってもしょうがないし、今、出来ることをちゃんとやろうよ」
今回の説明会で俺たちは非常に多くの情報を得ることができた。そして、俺たちに足りないものも分かった。準備さえ整えば大丈夫だろう。慢心するわけではないが、臆病風に吹かれていては本来の力を発揮することはできない。
俺たちの試験は既に始まった。合格を目指して突き進むだけだ。
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