第7話 私の疑問

今日も私はギルドに顔を出します。ギルドは私のような日々のお仕事を斡旋してくれる、ありがたいところです。

相談事も受けてくれます。色恋沙汰はダメでしょうけど。朝とか夕方とか、とにかく忙しい時に行っても邪険にされます。


ギルドの朝の喧騒が去ったこと、ゆっくりめの朝にギルドを訪れます。

受付のエレンさんも一段落したようです。


「おや?ミーアちゃん、朝からどうしたの?パーティーに入りたくなった?」

そうです、私は朝からギルドに行くことはほとんどありません。私のお仕事は常設依頼、つまりは「薬草採ってきたよー」、「ゴブリン狩ってきたよー」っていう事後報告型のお仕事です。

だから、私が朝からギルドにいることが珍しかったのでしょう。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」

エレンさんは、お仕事仲間で隣で受付をしている人に声をかけてから、私のところに来てくれました。

そういえばギルドの受付の方たちって、エレンさんもそうですけど、みんな美人さん揃いです。男の冒険者の人たちがウットリとしたり、鼻の下を伸ばしているのも分かります。私も同じですから。

女の人に惚れるって、アンタは同性愛者なのかって?

いいえ、決してそのようなことはございません。(キッパリ!)綺麗なもの、美しいものが好きなだけです。

どうせ私なんか、チビで…凸凹も少なくって……可愛くもない…………

ええいっ!!私の手の届かない世界の話です。目の保養だからいいんです!!


ギルドの中にある酒場に来ました。この酒場、年中無休24時間営業です。だから、いつも誰かしら飲んでますし、酔っぱらって寝てる人もいます。

そんな酒場の奥のテーブルに座ります。ここに着くまで、何人かの冒険者と思わしき方に声をかけられましたが、エレンさんがキッと睨むと大人しくなってしまいました。エレンさん、強すぎです。

朝っぱらからお酒は飲みません。お茶を頼みました。


「で、何?」

「私がやってるお仕事のことなんですけど」

「薬草?ゴブリン?」

「薬草です。薬草採りのお仕事ですけど、あれ、あんまりやってる人見ないんです。どうしてかなって」

「それかぁ。確かにミーアみたいにいっぱい持ってきてくれる人はいないわね。大体4~5束ってとことかな。それに買取安いじゃない。子供のおこずかい程度なのよ。だからねぇ……」

子供のおこずかい程度のお仕事で、日々の生活を賄っている私って一体……

「でも、回復薬とか傷薬の材料だよね。薬草なかったら困んないの?」

「冒険者の人たちは大変みたい。ダンジョンに潜ったり、森の奥まで行く人たちは特に」

困るんなら採ってこようよ、常設依頼なんだからさ。何もダンジョン行ったり森の奥で狩りしたりするだけが冒険者じゃないよね。私を見習いなさい。薬草とゴブリンだけで生活できるんだから。

「それに薬の効き目は薬草の鮮度と作ってからの時間によるからねぇ。だから他所の街から薬草や薬を買ってるのよ。アンタのいたパーティー、なんだったっけ、……あっ、そうそう、『金色の月光』ではどうしてたの?」

「前のパーティーの時は私が作ってたよ。それから、薬の効き目に薬草の鮮度なんて関係ないよ」

「そうかぁ、あいつらずいぶんと楽してたんだな。って、さらっと凄いこと言ってるんですけど」

「鮮度の事?」

「そうそう。だって生産者ギルドの薬剤部門の連中、いちいち文句付けるのよ。鮮度が悪いだの、こっちが折れてるだのって。そういって買いたたいてくるんだから。嫌になっちゃう」

「薬剤部門ってお薬の専門家だよね。知らないなんてことないと思うんだけど」

「今度確認してみるわ。あいつらふざけたこと言ってたら………」

「生産者ギルドかぁ………」

「何?気になるの?でもミーアじゃ大変だと思うよ」

「どうして?」

「あそこの連中、師弟関係が五月蠅くって。やれ師匠が誰だの、弟子の癖にってあーだのこーだのって」

「ふーん。創ることが好きだからってだけじゃダメなんだ」

「誰の師匠にもついていない、ぽっと出の奴なんて、彼らの憂さ晴らしのいいターゲットよ。ミーアも気を付けなさいね」

「はーい、分かりました」

私が疑問に思った薬草採りの事が、なんだか大事になってしまいそうです。面倒なことは嫌なので、これ以上は知らないことにします。


「で、そんだけ?」

「いや、もう一つ」



荷物の運搬について尋ねました。やっぱり冒険者の悩みの種なんだそうです。

ある人は小さな荷車を常に持っているとか。

荷物持ち専用の人を雇うパーティーもあるそうです。ジョブでそういう人ポーターっていうのもあるみたい。その人たちのスキルは大概【力持ち】らしいけど。


それと、マジックバックもあるそうです。何年か前に王都のオークションに出品されたようで、そんなに大きくはない(5メートルの立方体ぐらい)もので、金貨6000枚だったそうです。なんでもこのバック、ダンジョンから見つかったようで、その後ダンジョンに潜る冒険者が増えたことはいうまでもありません。


魔法もあるそうです。これはいい話を聞けました。頑張ればなんとかなるかもしれない、モチベーションが上がります。

でも、適性の条件が非常に厳しいようで、空間魔法っていうのですが、これの適性のある人が大体1000人に1人、使える人となると5000人に1人といった具合だそうです。

でも0じゃないので、やってみる価値はありそうです。


「ミーア、何考えてるの。やればできるってもんじゃないんだからね」

「でも、繰り返し努力と鍛錬を重ねることで、スキルって身に付くもんじゃないの?」

「何言ってんのよ。そもそもスキルっていうのは………」


そもそもスキルって、ジョブから派生したものが身に付くかもって程度の者らしいです。

私でいうと、ジョブが毒使いだから、派生して得たスキルは、【創毒】と【毒耐性】と【創薬(毒)】。【創薬(毒)】も怪しいって言ってたけど。

3つも身に付くなんてことも普通じゃないらしい。せいぜい2つ。

あと、スキルが変化するっていうのもないっぽい。私でいうと【毒耐性】が【毒無効】に変わったってことね。


私がジョブ関連で3つもスキルがあるって事だけで十分レアだって事なんだけど、【探索】と【料理】はもっと問題っぽい。

「料理って、たくさん考えてたくさん作っていればそのうち身に付くもんじゃないの?」

「そんなわけないじゃん。料理人ってジョブの人が得られるスキルの一つなんだから。そんな誰もが持ってるようなスキルじゃないから」

「へー、そうなんだ」

「街の食堂にも、料理のスキル持ちなんてまずいないわよ。王宮や上級貴族の料理人として囲われてるか、超一流のレストランにいるかってとこね。アンタもスキル持ちってばれたら大変なことになるからね」

「分かりました、気を付けます」

「それから探索だっけ、あれも危険よ」

「あれは言わないようにしてる。冒険者の技ってことで」

「今はそうでしょうけど、パーティーの時はどうだったの」

「探索できるって言ってなかったと思う。多分。言ってないよな。どうだったかな…

危なくないように道は選んでたけど。あと、あれって【気配察知】から進化したもんだよ」

「そもそもスキル化すること自体がおかしいって言ってるの。スキルの進化なんて論外だわ」


どうやら、私のスキルって普通とちょっと違うらしいです。

ちょっと?かなりの間違いじゃないかって?

どっちでもいいです。特殊ってことは確からしいから。


「何かいるって感の働く人はいるわよ。それを鍛えてスキル化したなんてアンタぐらいのものよ。

それが進化して探索になった。何かがいるかもって感じていたのが、鍛錬してたら探せるようになりました。

それに魔力も探せる。魔力を探せるってどういうことだかわかる?」

「?」

「魔力を探すって、魔力のパターンを探すって事よね。魔力のパターンって人によってすべて違うのよ。だから魔力を探せるって事は人を探せるって事と同じなの。

それに追跡ができるって言ってたわよね。魔力って少しずつ漏れてるの。3日もすれば消えちゃうみたいだけどね。追跡するってことはその魔力の残りを追いかけるって事よね」

エレンさん、一方的に捲し立てます。小さな声で。


「まあいいわ。アンタが変だってことはよく分かったから」

変だなんて失礼しちゃいます。

「あんたが悪い道に入らないことを望むわ」

「私は何のとりえのない地味な冒険者ですから、大丈夫ですよ」

「見る人から見れば、涎の垂れるようなスキル持ちだってことを、もっと自覚しなさい」

「…………はい」


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