第6話 私の日常
私はしがない冒険者です。
冒険者ってその日暮らしの人も多いです。私もその一人です。
殆どの冒険者は定職を持っていませんから、日雇い労働者みたいなものなんです。
ですから、今日の分の稼ぎを得るために仕事に行きます。今日もいつも通り薬草の採集とゴブリン狩りです。
えっ?ほかの依頼はやらないのかって?
やりませんよ。一人だと危ないですからね。いいお金になる依頼はそれこそ仲間と一緒にやらないと危ないのです。仲間と一緒だと、やっぱり稼ぎは減ります。
毎日のように薬草を採ってますが、薬草がなくなる感じはありません。減らないように採ってるってことはあるんですけど。私の他に薬草採りに出てきている人も見かけません。初心者冒険者の人たちはどうしているんでしょうか。一度エレンさんに聞いてみましょう。
今日も森の周りで薬草採取です。毎日少しずつ場所を変えています。今日の所はちょっとハズレです。
いい草があまりありません。
そのくせ奴は多いのです、そうゴブリンが。まだお昼前だというのに既に6匹倒しました。この分だと今日は10匹ぐらいいっちゃいそうです。
そんなこんなで薬草採りながらゴブリン退治をしていたら、森の奥で反応がありました。『ボア』ってなってたから、多分猪でしょう。大きさは分かりませんが、1匹だけのようです。
クロスボウを構えて、よーく狙って、撃つ。一連の動作でイノシシは倒れました。私の勝ちです。
この猪は魔物ではありませんでした。ただの獣です。
でも、デカい。私よりずっと大きいです。多分2メートル以上あるでしょう。
当然、そんなものは持って帰れません。かと言って捨てるのはもったいない。猪のお肉は美味しいし、高く売れるんです。
私は思い出しました。ギルドで荷車を貸してくれることを。
大急ぎでギルドに帰って、荷車を借りてここに戻ってくるまで2時間はかからないでしょう。でもその間にこの猪、他の獣に食べられちゃうかもしれません。何とかならないかと頭を巡らせます。
ダメもとで試してみたのが、魔物や獣が嫌がる毒を獲物の周りに撒いておくことです。冒険者に見つかれば盗られちゃうかもしれませんが、ここは森の中だし、ほとんど冒険者を見かけないから多分大丈夫でしょう。
そうとなれば、さっさと準備をしてギルドに戻ります。血を抜くために首を切っておきます。本当なら吊るしておいた方がいいのでしょうけど、私にはそんな技術も力もありません。出来ることをやるだけです。
途中2匹ゴブリンと遭遇しましたが、屠るだけ屠って放置です。魔石と素材は帰りに回収します。
荷車を借りて獲物の所に戻るまで1時間とちょっとでした。私、頑張りました。猪は無事です。
荷車に積み込みます。私より何倍も重いのですが、滑車を使って乗せることができました。しっかり括り付けてギルドへGOです。
お…重い………
一生懸命引っ張って帰りました。放置しておいた2匹のゴブリンと、追加で3匹、計5匹分がオマケです。
街に帰るまで2時間以上かかってしまいました。夕刻が近づいているのでしょうか、街中に人が出始めています。ギルドはさほどではありませんでした。
「ただいま~~。これよろしく~~~」
ギルドに着くなりへたり込んでしまいました。我ながら情けないですが、仕方ありません。脳みそどころか、体にだってそんなに筋肉が付いていないのですから。
「これ、嬢ちゃん一人でやったんか?」
脳みそが筋肉でできてそうな男の人が手伝ってくれました。野生の猪としては大きいサイズだそうです。
完全じゃないにしても下処理もしてあったためか、ギルドの解体部門が活気づいてきました。
「ミーアちゃん凄いね、あれ一人でやったんでしょ」
エレンさんがニコニコしています。何故でしょう、少し引きつった笑顔なのが気になります。
「狩るのは簡単でした。見つかる前に弓でドズン。一撃でしたから。
でも、持ってくるのが大変でした。重いし、重いし、重いし」
「あれを狩るのが簡単って、アンタどんな弓のセンスしてるのよ」
「エレンさんに教わっただけですけど。外したなんて言ったら、エレンさんに何されるか………」
「何もしないわよっ!!でもこれだけできるようになったんだから、アンタはCランクでいいわね。処理しとくからね」
ギルドのお姉さんは強引に私のランクを上げてしまいました。普通ランクアップには、講習とか試験とかあるんですけどね。それ全部省いてランクアップさせられるなんて、エレンさん、あなた一体何者ですか。
あの猪、銀貨72枚にもなりました。頑張って持って帰ってきたかいがありました。
お肉の塊としても少し分けてもらいました。私が泊まっている『小鳥の止まり木』へのお土産と、エレンさんに渡す分です。エレンさんにはいつもお世話になっていますから。
エレンさん、とても喜んでくれて、ギュッと抱きしめてくれました。
「今日は大丈夫だったけど、危ない事しちゃダメだからね」
さっき手伝ってくれた男の人(お兄さん?)が呼んでます。お兄さんのお仲間でしょうか、全身筋肉の塊(脳みそも)のような人たちが集まっています。何ということでしょう、その中には女の人も混ざっているではありませんか。
手伝ってくれたお礼に銀貨1枚を出しました。そんなことはいいから、あの猪の事を話してほしいそうです。
お酒を6つ頼んでテーブルに着きました。場違い感満載です。
猪の事や私の事をいろいろと話しました。もちろん暈すところは暈してあります。探索の事とか毒の事とか。
弓はクロスボウを見せてギルドで訓練したことを話しました。これは隠すことじゃないですから。みんな知っていますしね。
お兄さんたちの事も聞きました。やはり5人でパーティーを組んでいるそうです。全員で殴り掛かるのかと思ったら、このパーティー、魔法使いもヒーラーもいました。ビックリです。
驚いていたら、「パーティーのバランスをとることは重要だ」と言われてしまいました。それはそうなのですが………
でも思った通りのこともありました。魔法使いの方もヒーラーの方も、やっぱり殴り倒すそうです。納得しました。
猪は特別でしたが、基本、私はジミ~な冒険者活動をしています。
宿代とご飯代を稼いで、冒険に必要なものを揃えて、少し貯金ができるぐらい、銀貨にして5~6枚が1日の目標です。
猪の一件で特に感じたことは、『とにかく荷物が運べない』ということでした。マジックバックという便利そうな代物があるらしいです。見たことないですから知りませんけど。これ、見た目は普通のバックなのですがとにかく中にいっぱい入るんだそうです。見たことないということは多分出回ってないのでしょう。もし売ってたとしても、とってもお高いのでしょうね。金貨100枚とか。もっとかな、1000枚とかだったりして。どのみち手の出るものではありません。
「魔法で何とかできないのかなぁ」
荷物の問題は私だけではないはずです。多くの冒険者たちが持つ悩みだと思います。
「筋肉が解決してくれる」という人も中にはいますが、困り果ててる感じがしないところを見ると、やはり何か策がありそうです。
「マジックバックは持ってない。でも荷物の問題はあまりない。ってことは魔法?何か特別な?」
そのような考えに至るのに時間はかかりませんでした。
「少し調べてみますか。その魔法とやらを」
魔法だったら何とかなる気がします。水魔法も使えるようになった私です。がんばればなんとかなるはずです。早速明日から調べてみることにします。
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