第5話 初クエスト(後編)

ゴブリンは退治しました。2匹もやりました。

2匹?たった?

そうですよ。たったの2匹です。この辺りに棲むゴブリンの数からすれば誤差程度でしょうけど。

でも、初めて一人で倒したので、今日は記念日です。


おっと、ゴブリン相手にこんなに歓心してる場合じゃありません。

もう一つの依頼、『薬草採取』をこなさなければなりません。


まわりを警戒しながら森の入り口近くまでやってきました。一面の草っ原です。

殆どが雑草でしょうけど、この中に薬草が混ざっています。それを1本ずつ探していくのは結構大変、……ではないのです。


私のスキル【探索】はを探すことができます。警戒の時に使っているのが正にこれで、広い範囲の中にいるものをピックアップするのです。見つけた結果は『ゴブリン』とか『オーク』とか『ウルフ』とかになります。ただのゴブリンもゴブリンメイジもゴブリンキングも全部『ゴブリン』です。

それとは別にを探すこともできます。『ゴブリン』を探すと、ゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンキングがそれぞれ分かれて見つかります。ただ、オークやウルフは纏めて『その他』になってしまいます。


私のジョブは【毒使い】です。だから、毒草を探すことは簡単です。探索で『毒草』とやればすぐに見つかります。

この毒草、薬の原料にもなるって知っていました?薬と毒なんて大して変わらないんです。身体に悪ければ毒、良ければ薬、そんなもんです。薬も間違って使うと体を悪くします。だから同じ括りなんです。


だから、ちょっと賢い私は考えたんです。

えっ?自分で賢いって言うなって?

いいじゃないですか、それぐらい。でないと私、惨めになっちゃいそうですから。

で、探索に『薬の材料』ってやるんです。すると薬草やら毒草やら薬の材料になるものがわらわらと見つかるんです。


採集系の依頼でそれはズルじゃないかって?

スキル使っちゃいけないって決まりありませんから。自分の持てる力はフルに使えばいいんです。『コネ』とか『カネ』とか『スキル』とか。

ごめんなさい。コネはありません。カネは大事です、無駄遣いはできません。


私、薬も作っていたから、薬草の採り方はチョット詳しいです。葉っぱだけ採るとか花を摘む、蕾を採る、若芽を採る、根っこから引き抜く、根っこの周りの土ごと採るなど、色々あります。葉っぱだけが必要なのに根っこごと引っこ抜いちゃったら、次に葉っぱ生えてきませんからね。

資源保護のためにも重要です。ここんとこギルドでちゃんと説明してるのかな?


ここは薬草採取依頼にとって天国のようなところでした。いたるところに薬草やら薬の材料やらが生えています。お宝ザクザク状態です。

いっぱいいっぱい採りました。でも根こそぎじゃないですよ。ちゃんと残す分は残してあります。

3時間ぐらい頑張りましたかね。持ってきた袋は薬草でいっぱいになりました。

これなら十分依頼達成です。レアな素材も見つけました。これらは少し取っておくことにします、私用に。

ふと違和感を感じました、私自身にです。ゆっくりと立ち上がります。違和感の正体が分かりました。

コ・シ・ガ・イ・タ・イ。

ヒ・ザ・ガ・イ・タ・イ。

薬草採取で受けるダメージですね。



今の時間は午後3時ごろ。引き上げるには丁度いい時間です。町まで1時間ぐらい。ギルドも夕方になると混みますからね、依頼を終えた冒険者さんたちで。


採った薬草の整理が終わろうとしていた時、探索に反応がありました。ゴブリンです。でも今度は3匹。

採取直後の違和感はもうありません。

エレンさんとの訓練でも、ゴブリン3匹なら大丈夫なぐらいにはなっています。

奴らはまだ気づいていないし、私は奴らの射程外。1匹射抜ければ残り2匹は殴り倒せる。3匹でもおそらく大丈夫。


奴らを屠ることにしました。1匹は矢で仕留めることにしました。残りの2匹は魔法を使ってみることにしました。例の毒水魔法です。念には念を入れ、毒は即効性の猛毒に、さらにこれまた即効性の強力なマヒも混ぜておきました。


クロスボウを構えて狙いをつけて、の前に魔法の準備です。いつでも発動できる状態で止めておきます。そのまま矢を構えて、……撃ちます。

狙い通りです。ゴブリンの頭が弾け散りました。奴らのうちの1匹がすぐに私を見つけました。デキる奴がいるようです。


私の方に向かってきます。魔法は…まだです。杖を構えて、届く距離になるまでじっと待ちます。

魔法の射程に入りました。が、まだです。もう少し距離を詰めます。確度を上げるために。

ついに奴らは私のゾーンに足を踏み入れました。私の魔法が炸裂します。

「ウォーターショット!イッケー!!」

麻痺入りの猛毒の水が奴らに襲い掛かります。咄嗟に逃げようとしましたが無駄な足掻きです。私のゾーンの中で逃げられるわけがありません。毒水が奴らに豪快に掛かりました。


2匹のゴブリンは急に手足を硬直させて倒れます。ピクピクと動いていましたが、やがてそれもなくなりました。

完全勝利です。3匹のゴブリンから魔石や素材を採ります。そして死体を纏めておけば終わりです。

死体を片付けるときに気づきました。あの真っ先に私を見つけたゴブリン、あいつもう少しでゴブリンアーチャーに進化するようでした。面倒くさくなる前にやっちゃってよかったです。



街に戻ってきました。まだ明るいです。予定通りです。

怪我をしないで戻ってきたので、門番の衛兵さんもニコニコです。そりゃそうですよね、怪我してボロボロで戻ってきたら、何があったかと不安になりますからね。


ギルドの中は……まださほど混んでません。こちらも予定通りです。

エレンさんの居る受付に並びます。

「エレンさーん、帰ってきたよ」

「お帰り、ミーアちゃん。怪我しなかった」

相変わらずの心配性です。私はそれの上をいく臆病者ですけど。

「大丈夫です。依頼の完了報告お願いします」

「依頼?ミーアちゃん、そんなの受けてたっけ?」

「薬草とゴブリンです」

「ああ、常設の。じゃあ薬草と討伐証明部位、出してくれる」

ゴブリンの魔石5個と袋一杯の薬草をカウンターに広げました。

「ちょ、ちょっと待って。なに、この薬草の量。これアンタ一人で採ってきたの?」

「そうですよ。3時間ぐらいかかりましたけど」

「3時間で!いいポイント見つけたの」

「いいポイントっていうか、まあちょっとしたテクニックです。ナイショですけど」

「そうね。冒険者のテクニックは秘匿対象だもんね。薬草はちょっと待ってて、急いで鑑定するから。ゴブリンの魔石は全部買取でいいかな」

「これ1個は持っておきます。後はお願いします」

アーチャーになりそこないのゴブリンの魔石だけは手元に置いとくことにしました。記念の品ですから。


「一人で外出てたみたいだけど、どうだった?」

冒険者の人たちがまだ帰ってこないからなのでしょうか、手持無沙汰になりそうなエレンさんは私を手放しません。

「エレンさんの特訓でばっちりでした。3匹までは平気でしたよ。魔法もOKでした」

「魔法も使ったの?」

「はい。例の水魔法に毒を混ぜるやつで。2匹はそれで倒しました」

「じゃあミーアちゃん、魔法使いデビューだったんだ」

「魔法使いねぇ。実感ないなぁ」

「そういえばアンタ、杖持ってたわよね。それ魔法使いのに変えてみたら。魔法、強くなるわよ」

「いえいえ、これは大事な装備なんですよ。罠や危ないとこがないか調べたり、坂道登るのにも重宝しています。それにこれも立派な武器なんです。ゴブリン1匹を殴り倒しましたから」

「魔法使いの杖でも同じようなこと出来るわよ。そのうち見てみるといいわ。あっ、薬草の査定が終わったみたい」


明細を見ていたエレンさんの目が、カッと大きく見開きました。

「なにこの、銀貨2枚に銅貨62枚って。プラス査定がすごいわ」

そりゃそうです。私は薬も作ります。薬草の採り方など基本中の基本なのですから。

「ねぇミーア、アンタここで薬草採取の講習してみない?」

ええ、それはそれは至極丁寧にお断りさせていただきましたよ。

「それはそうね。じゃあこれが今日の分ね」

ゴブリンの魔石や他の分と合わせて銀貨6枚と銅貨12枚を受け取ってギルドを後にしました。

一人でやった稼ぎとしてはまあまあでした。


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