第4話 初クエスト(前編)

私はミーア。ついこの前、一緒に冒険していたパーティー『金色の月光』を辞めました。辞めた?辞めさせられた?……うーむ、まあいいか、今はフリーです。強引に辞めさせられたわけじゃないんですよ。ちゃんと円満にお別れしました。

フリーの冒険者になったわけですけど、やっぱり私、戦えません。戦う力のほとんどない、支援職でしたから。フリーになった途端、戦えるようになるなんて都合のいい話は、やっぱりありませんでした。


フリー?ソロじゃないの?

フリーです。ソロって言うとボッチっぽくってさみしいから、フリーって言ってます。ソロですけど。


「エレンさん、こんにちは。今日もいいですか?」

「いいわよ、これが終わったらね。ちょっと待ってて」

ここは冒険者ギルド。エレンさんはここで受付などのお仕事をしています。


私がなぜ冒険者ギルドに来ているかですって?

だって私冒険者ですよ。だから何の問題もありません、ここに出入りしていても。


っていうのは建前で、実は私、エレンさんに戦い方のレクチャーを受けているんです。

冒険者のランクはDなんですけど戦闘力はEランク並みで、安全にクエストをこなそうとすると、街中でのお手伝いぐらいしかないんです。でもそれだと報酬が……

だからせめて外での簡単な討伐クエストがこなせるぐらいと、エレンさんに実地訓練をしてもらっているんです。

『金色の月光』はBランクの上位でしたから、戦いには慣れています。私が逃げ回っているうちに、仲間がサクサク倒していましたから。逃げてただけじゃありませんよ、一応私も戦いに参加はしていました。魔物に追いかけられたとき、持っていた木の棒を振り回して。


今特訓しているのは弓。普通の弓じゃないです、クロスボウです。小さい割に威力があって、私みたいな女の子でも、使いこなせさえいれば結構便利なヤツです。

それに私、探索のスキル持ちですから、相手より先に気づく事が出来るんです。そこでで弓、アウトレンジから狩り放題です。

ごめんなさい、カッコつけました。2匹以上いたら、狙ったまま逃げる訓練をしています。1発目はいいんですが、2発目、3発目が遅いんです。その間に近づかれたらお終いなんで、逃げる訓練です。

逃げるなんてカッコ悪い?

カッコよさより命の方が大事ですから。


探索用の木の杖で殴る戦い方と、ナイフの扱い方も習っています。

どれも難しいですね。戦闘職の人って凄いことが分かりました。



エレンさんとの訓練を初めて1カ月、私なりに『少しずつ様になってきたかな』と思うようになってきました。

そしてもう一つ変化が、私がエレンさんと訓練をしているのを聞きつけた初心者冒険者の人たちが、一緒にやるようになりました。ギルド公認の初級冒険者講習会になったのです。

エレンさん、初めは「ミーアだからやってたのに、仕事が増えた」などとぼやいていましたが、ギルドから特別な手当てが出るようになった途端ホクホク顔になりました。

エレンさん曰く、「初心者の冒険者が傷つくのはみたくない。受付をやっていて、そういう冒険者達をたくさん見てきた。死んだ冒険者もいっぱいいた。大怪我を負って冒険者を引退せざるを得なくなった人も見てきた。最低限の知識と技術でそういう人が減るならその方がいい」だって。殊勝なことを言っているようですが、要はお給料が増えたことが良かったみたい。



さらに1カ月、訓練を続けました。その間に初心者講習を終えた人たちもいっぱいいましたけど。

クロスボウ、杖、ナイフ、どれもそれなりには使えるようになりました。ゴブリン3匹ぐらいなら大丈夫そうです。

更にもう一つ大きな変化が。私、水の魔法が使えるようになったのです。これも初心者講習会の魔法の部のおかげです。

ジョブとしての魔法使いは魔法のエキスパートです。でも魔法使いじゃなきゃ魔法が使えないという訳じゃないんです。つまり訓練すればできるようになれるかもしれないのです。

私は魔法使いじゃないので強力な魔法をバンバン使うことはできませんが、私のジョブ毒使いとの相性はよかったようです。水に毒を混ぜて攻撃する、そんな水魔法の使い手いませんから。


エレンさん(ギルド?)から講習会終了のお墨付きをもらえたので、クエストを受けることにしました。フリーになってから受けるはじめて依頼は、『薬草の採取』と『ゴブリンの討伐』です。はい、常設依頼です。

薬草は冒険者の必需品ポーションの材料です。なので沢山必要なのですが、畑では育たないのです。森との境から少し入った辺りにはそれなりに生えています。薬草の生育には地面の魔力やらいろんなことが影響しているようです。

ゴブリンは子供ぐらいの大きさの魔物です。くすんだ緑色の肌をしていて、厄介なことにレベルは低いながらも知能を持っています。このゴブリン、気を付けなきゃいけないのが、ソルジャーやアーチャー、メイジといった特技を持つ個体がいることや、ロード、キングといった群れを率い、強力なリーダーシップを持つ個体までいることです。ゴブリンは畑を荒らしたり人を襲ったりします。特に女の人を好んで襲います。女性を襲って繁殖に使う、正に悪魔のような存在です。女性の敵です。女性の私からすると、殲滅すべき魔物なのです。で、こいつら、平気で街の近くに出没します。大きな街の近くにも出没するぐらいなので、小さな町や村では被害は深刻です。なので、こいつらは常に討伐対象なのです。


街の北側の門から外に出ます。門のところにいた衛兵さんに声をかけられました。「気を付けるんだよ」って。嬉しかったです。

そういえば冒険者になって一人で街の外に出るのって久しぶり?初めて?一人で出た記憶がありません。いつもパーティーのみんなと一緒でしたから。だから新鮮な気持ちで外に出ました。

でも周囲の探索だけは忘れません。これが私の命綱ですから。


1時間ぐらい歩くと森が見えてきます。普通に歩いているわけじゃないですよ。周りに何もない処をプラプラと歩いていたら、的が歩いているようなものです。魔物に気づかれたら狙われ放題です。私はそんなドMな性格ではありません。なので身を隠せそうな岩や木などを使いながら進むんです。なので思ったよりは進みません。


岩の陰に潜んでいた時、探索に反応がありました。魔物です。この反応は……ゴブリンです。しかも2匹。どうやら特別な個体ではないようです。さらに広範囲に探索を広げます。他にはいないようです。

「やるか?」様子を伺います。まだ奴らは気づいていません。大分距離は離れていますが、目標は十分にクロスボウの射程の範囲内です。


弓を構えます。この一撃で確実に仕留められるよう、慎重に狙いを定めます。

目標は立ち止まって明後日の方を見ています。これで外したらエレンさんに何を言われるかわかったもんじゃありません。目標に向けて弓を放ちました。空気を切り裂く音を残して矢は目標に吸い込まれていきます。


「グギャ!」

ゴブリンの頭が弾けました。もう1匹は何が起きたかわからずにキョロキョロしています。急いで2発目を装填します。


ゴブリンはまだこちらを見つけていないようです。2発目を装填した矢を構えます。目標に狙いを定めていた時、ついに奴は私を見つけました。

「グギーーーーッ!」

一直線に向かってきます。でもまだ十分に距離があります。


『ヒュンッ!』

2発目の矢が放たれました。矢はゴブリンの右肩を貫きましたが、奴は倒れませんでした。

少し立ち止まりましたが、再び私に向け突進を始めました。

もう弓を使うのは無理です。次に射程の長い杖を構えます。


目の前にゴブリンが迫ってきました。目を開けているだけでも怖いです。でも、目を閉じてしまうと私の攻撃は当たらず、やられてしまうのは確実です。

私は思いっきり木の杖を振りぬきました。


しっかりとした手ごたえがありました。杖は奴の頭を確実にとらえ、首を在らぬ方向へ捻じ曲げました。奴の身体は宙を舞い、地面に叩きつけられました。勝負は決しました。


ゴブリンの魔石を回収しました。小さい魔石ですが、これでも少しは役に立ちます。他に売却できる素材があれば回収するのですが、ゴブリンの肉は不味くて買ってもらえません。素材として売却できるキバだけ回収して、死体を処分します。そのまま放置すると他の魔物が寄ってきてしまいますからね。

処分の方法には燃やしてしまう、埋めてしまうというのがあります。でも私はどちらもできません。なので死体を1箇所に集めておきます。ギルドの講習会で「処分が難しいようであればせめて集めておけ」と習いましたから。


初めて一人でゴブリンを退治しました。嬉しいというよりホッとしたという感じです。

怪我なく終わりましたから、それが一番です。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る