第2話 私、追放?(後編)

「えっ!」


何を言われたのか分かんなかった。 ん、ん、ん、卒業?


「……卒業って……」

「ミーアにはこのパーティーから抜けてほしいんだ」

「意味分かんないよ。なんで私が?」

「…………」


みんな俯いてる。そりゃそうだよね、クエスト成功させて、Aランク試験受けられることになって、さあこれからって時にいきなりこんな話だもんね。


「これ、俺たちからの餞別だから持ってって」


私の前に置かれた袋には金貨がぎっしり詰まっていた。


「……これは?」

「私たち魔物と闘うじゃない。そうすると武器とか防具とかすぐダメになっちゃうの。そんなんで冒険していると命に関わるから、直したり買い替えたりするのね。でもそれって結構お金かかるのよ」

「でもミーアは戦えないからそういう金使わないじゃん。でもだからって俺らが使っちゃったら悪いかなって思ってたからさ、ミーアの分って取っといたんだ」

「それにミーアちゃんの作るお薬、あれも売れたんだよ。それなりのお値段で。ミーアちゃんお薬がちょっと古くなるとすぐに新しいのポンポン作ってくれたから」

「だって、古くなったお薬使って効き目が悪くなってたらって思うと、やっぱり怖いから。新しいの使って欲しいって思ったから」

「でもそのちょっと古いお薬っていうのが他では普通に使えたんだよ。薬屋さんで売っているのと変わんないんだから。だから私たちが使わないお薬をギルドや薬屋さんに売ってたの。そのお金も入ってる」

「…………」


お金は私が貰っていいものだって事は分かった。


「私はみんなと一緒にいたいだけなんだけど、ダメなの?」

「…………」

「…………」

「……それは……」


ローデが重い口を開いた。

「俺たちもAランクが見えてきた。Aランクになれば仕事の内容も今までとは全然違う。今まで以上の強敵と闘うこともあるだろうし、貴族との付き合いも出てくる」


冒険者と貴族の付き合い。貴族が移動する時、冒険者を護衛として雇うことがあるの。当主様が動くときは私設の騎士団とかに護衛させることが多いんだけど、奥様とかご子息様、ご息女様とかの場合冒険者を雇うのよね。そこでランクよ。Aランクともなれば実力のお墨付きをもらったようなものだから、雇う側としてはぜひともそういうパーティーにお願いしたい。でもAランクパーティーって忙しいからすぐにいなくなっちゃう。それじゃ困るから多少お金がかかってもってことで指名依頼を出してくるってわけさ。


「そこに私の居場所はないの?」

「分かってくれ、今までより強い敵や護るべく優先度の高い人がいる中で、戦えない君を護り続けることは無理がある。仲間を見捨ててでもやらなきゃいけないって理解はしているけど、そんなこと出来る訳がない。でもそれじゃみんなダメになっちゃう。だから……」



『金色の月光』というパーティーはもともとローデ、ディート、カッチェ、セリーヌの4人のパーティーだったの。幼馴染みたいなもんで、みんなで冒険者活動をしていたみたいなんだけど、パーティーがDランクになった頃から伸び悩んだって言ってた。ギルドに相談したら支援役を入れた方がいいって言われて私が入ったの。一生懸命だった、みんなについてくのに。私のおかげってことはないんだろうけど、『金色の月光』は順調に力を付けていったわ。Dランクで伸び悩んでいたのがウソのようにね。



「それでもみんなと一緒にいたいの。一緒に冒険したい。一緒にいさせてよ……」

少し声が大きくなっていたみたいっだた。お店にいる人たちがこっちを見てた。


「ゴメン、ちょっと声、大きくなっちゃった」

「…………」



「じゃあ、俺のこの疲れた躰と心をミーアが癒してくれるって言うんなら、格安で考えてやっても……」

「うん、それでも……」

「ちょっとディート、いい加減にしなさいよね!それにミーア、アンタもよ。ディートが何言ってたのかわかってんの?ミーアのこと玩具にしようって言ってるのよ」

「冗談だって、セリーヌ。悪かったよ。それにミーア、ゴメン。そんなことするつもりなんてないから。ホントだから」



「俺たちはミーアの事をパーティーから追放したいんじゃないんだ」

「でも戦えない私はいらない、って事なんでしょ。パーティーから出てけって」

「そうじゃない。パーティーから追放されるのと、パーティーから自分で抜けるんじゃ全く意味が違うんだって。俺たちはミーアのこれからの事を思って言ってるんだ。分かってくれよ」


「カッチェ、セリーヌ、なんか言ってよ。仲間じゃないの」

「…………」

「……そうなんだ。もう、みんな話ができてたんだね」

「……ミーア」



「分かったわよ、辞めればいいんでしょ辞めれば」

私の目から大粒の涙がこぼれだしたの。声もだんだん涙声になってきちゃった。

「明日ギルドにパーティーから抜けるって言ってくるわ。もうみんなの顔見るの辛いから、私一人で行ってくるから。じゃあね、さよなら。……………………楽しかったわ」


溢れてくる涙を拭わないで真っ赤な目をした私は、ローデがくれたお金の袋を抱えて部屋に帰ったの。ベッドに飛び込んで大きな声を出して泣いたわ。周りの迷惑なんて考えないで。


いつの間にか眠ってたみたい。気が付くと朝だった。朝っていうか、もうだいぶ陽が高くなってたみたい。

『グ~~』

こんな気分でもおなかは空くのね。そういえば昨日の夕ご飯、食べ損ねちゃったからね。

下の食堂に降りていくと、おじさんが待っていた。おじさんじゃないや、ここのご主人だ。

「おじさん、朝ごはんまだいい?」

「おおよ、ちょっと待ってな。今作ってやっから」


奥の厨房から何やらいい匂いがしてきた。これはベーコンかな。

「はいよ、お待たせ。ベーコンに卵、パンにスープだ。あと、これはサービスだからな」

おじさん、オレンジのジュースまで持ってきてくれた。

「ミーアちゃん、なんだか大変そうだけど大丈夫か?」

「ええ……多分、大丈夫じゃないですけど……まあ……」

「ま、なんかあったら言ってくれ、力になってやっから。って言ってもできる範囲でだけどな」

「おじさん、ありがとう」

「いいって事よ。冷めちまうからさっさと食っちまいな」


おじさんの作ってくれた朝ごはん、ほんと温かかった。熱いとか冷たいの温かいじゃないのよ。心が温まるっていうの、そんな温かさ。



お昼近くなったんでギルドに行くことにしたの。この時間のギルドって空いてるから、彼らと顔合わせ無くて済みそうだし。あ~、でも憂鬱だな、パーティー抜けるって報告するの。


「あのー、すみません」

「あれっ?ミーアちゃん、どうしたの?こんな時間に」

ギルドの受付に行くと、私たちを担当してくれているエレンさんが応じてくれた。

「あのー、なんて言ったらいいかわかんないんですけど、私、『金色の月光』抜けました」

「えっ!どうしたの?」

「だから、パーティー辞めたんです」

「ちょっとその話、詳しく聞かせてくれない」


エレンさんに奥の部屋に連れていかれました。そこで、昨日の話をしました。

「で、ちゃんとお金はもらったの?」

「はい、金貨で100枚ぐらいあったと思います」

「あのパーティーならいいところね。じゃあ円満に別かれたって事でいいのね?」

「はい、まだ気持ちの整理はついてませんけど」

「最近多いのよ。パーティーの中でいいように使って、難癖付けた挙句全部取り上げて追放する奴が」

「そんなんじゃありませんでしたよ。ローデさんたち、私を護り切れなくなるから、危ない目に合わせたくないからって言ってくれたし、お金もいっぱいくれたし」

「『金色の月光』の新メンバー募集が来たら受け付けていいわね」

「ええ」

「で、貴方はどうするの?冒険者は続けるの?どこかのパーティーに入りたいの?」

「冒険者は続けようと思ってます。でもまだ気持ちの整理がつかないんで、すぐに別のパーティーっていう気には……」

「そうよね」

「だから暫くはソロでやってこうと思ってます。と言っても当分お休みしますけど」

「ソロねぇ。Dランクだったっけ。ミーアちゃん気を付けなさいよ。あなたソロじゃ戦えないでしょ。お姉さんが教えてあげようか」

「エレンさんさえ良ければ、お願いします。今度相談に来ますね」

「じゃあね。しっかりするのよ。待ってるからね」


冒険者ギルドを出ると、肩の荷が下りた感じ(?)、なんかフッと軽くなったような気がしたの。

『小鳥の止まり木』に戻って、おじさんにもう暫くお世話になりますって言ってお金払おうとしたら止められた。なんでも1か月分先払いしてあるんだって。


これから先どうしようかな。なんも分かんないや。でも、まあ時間はあるから、ゆっくり考えようっと。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



このとき、ある人の陰謀によってミーアがパーティーから追放されたことを知る由もなかった。

ある人とは。その陰謀とは。

この先明らかになっていく、かも知れません。



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