幕間 姉の暗殺を目論むカロリーヌ
王宮――カロリーヌの寝室。
そこで部屋主はアゴをタプタプ揺らしながら上機嫌に笑っていた。
「ブヒューフフフ……」
部屋主が怒りで暴れ回って壊した形跡はすっかりと無くなり、調度品なども一流の芸術家に作らせた物に置き換わっていた。
絢爛豪華、それでいて落ち着きも兼ね備えた至高の一品ばかりだ。
ケインは王国から去ってしまったが、新たにそれと同じくらいの品々が王宮に売り込まれたからだ。
それをカロリーヌが購入した。
お気に入りは、まるで生きているかのような眼を持つ鷹の彫像だ。
かなり値は張ったが――もちろん、すべて民から搾り取った金から出している。
「き、機嫌が良いね、カロリーヌ……」
象と仔犬のようなサイズ差に見える存在――トリスが横に座って、恐る恐る話しかけた。
付き合い始めは〝愛しのカロリーヌ〟などと甘い呼び方をしていたが、今ではもう甘くなく辛いばかりだ。
「わかるぅ~? アタシの美しさに見合う品々がやっと手に入ったから……。ああ、それとジョセフィーヌお姉様がもうすぐ死んでくれるのも嬉しいわぁ」
「えっ!? ジョセフィーヌが!? …………ど、どうやって殺すんだい?」
トリスは、普段からカロリーヌがジョセフィーヌを害そうとしていたのは知っていたのだが、それが〝もうすぐ〟となると気が焦ってしまう。
「それはぁ……。ブッフフ……ジョセフィーヌお姉様も、まさか身近に暗殺者が紛れ込んでいるとは気付かないでしょう。暗殺者の方も明日中に決行をしないと人質がどうなるかわからないと脅しておいたし……ブッヒヒヒ」
「そ、それはあの〝特級封印指定区域〟――つまりジョセフィーヌのいる山奥に足を踏み入れられる暗殺者ということかい?」
「ええ、そうよぉ。送り込んだ兵士たちはダメだったけど、アレは何故か迷わずに辿り着けたようだからぁ」
カロリーヌには黙っていたのだが、トリスは以前、あの山小屋に単独で辿り着いている。
しかし、カロリーヌが送り込んだ兵士たちはたどり着く事ができなくて戻ってきたり、行方不明になったりという状態なのだ。
この二つの違いから、何か山に結界のようなものでも貼られているのかもしれないと密かに思った。
その条件はわからないが、何故かトリスはそのことをカロリーヌには話さないでおいたのだった。
「さぁ、明日がジョセフィーヌお姉様の命日よぉ……。今日は気分が良いわぁ、素晴らしい芸術品に囲まれて、お上品な紅茶がさらに美味しい……ブゴブゴブゴォ!」
カロリーヌは砂糖で埋められた紅茶を花瓶サイズのカップで一気飲みしながら、ブタのような笑い声を轟かせた。
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