筋トレの成果

 それは数十度目の溶岩地帯での出来事だった。

 ドレッドはいつものようにスクワットをしながら上方からの攻撃を避け、片手腕立て伏せ中の空いている手でモンスターを斬り払っていく。


「何か最近、あまり熱さが苦にならなくなってきたな……」


「ついに壊れてしまいましたのね」


「ジョセが言うと何かな……」


 溶岩地帯の温度は六十度もあり、いくら人間以外の種族でも長くは耐えられないだろう。

 現に最初の頃のドレッドはすぐに倒れてお姫様抱っこされていた。

 しかし、徐々に熱さの中でも筋トレを続けられるようになってきたのだ。


「どういうことだ……。さすがに慣れだけでは説明がつかない……」


「それはたぶん、溶岩地帯の食材を食べ続けたからですわ」


「なに……!? どういうことだ!」


 ジョセフィーヌは二本指で壁の突起に掴まって懸垂しながら答えた。


「この地の食材を食べると、何故かそこに対する耐性みたいなものが徐々についてくるのですわ。暑いところの食材を食べれば暑さに強くなり、寒いところの食材を食べれば寒さに強くなる」


「なんだそのとんでもない効果は……」


「もっとも、自分で獲らないと効果はないみたいなので、ドレッドさんがここに来る必要もあったというわけですわ」


「そ、そうか……。ジョセは我に料理のウデの差を見せつけられた逆恨みで、きつい溶岩地帯に連れて来たのではなかったのだな……」


「何かイラッときたので追加筋トレ決定ですわ」


 ドレッドは溶岩地帯のモンスターより、ジョセフィーヌの笑顔の方が怖かった。

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