超巨大な鶏のささ身をゲットする
コカトリスとは、全長4mにも及ぶ巨体を持つ鳥型モンスターである。
その生態系を無視した巨大な身体を維持するために純度の高い魔石を体内に有しており、物理法則に反したような俊敏さを見せる。
そのため出会った人間は、コカトリスが動いたら一瞬で戦闘不能に陥るために、睨まれたら動けない――という逸話から相手を石にする鳥と呼ばれているのだ。
「今すぐ逃げ――」
「鶏のささ身ゲットですわ」
コカトリスに睨まれていたと思われたジョセフィーヌだったが、それは違った。
勝負は一瞬だった。
逃げだそうとしたコカトリスが巨体らしからぬ高速移動で一歩踏み出そうとしたところ――ジョセフィーヌが影を置き去りにするように数十歩の距離を詰めた。
瞬きの間にコカトリスが倒れていて、ジョセフィーヌは正拳突きのポーズ。
「な、何が起きたんだ……」
「さぁ、外で羽根むしりを手伝ってもらいますわ」
ジョセフィーヌはコカトリスの首根っこを引っ張って、ズルズルと洞窟の外に手際よく運び出すのであった。
ドレッドは呆然としつつも付いて行くしかない。
川の近くまで巨大なコカトリスを運んで、作業が始まった。
最初に羽根むしり。
小さな鳥でも大変なのだが、サイズ的にビッグスケールになっている。
これもトレーニングだと思いながらドレッドはむしっていくが、ジョセフィーヌはすごい勢いでコカトリスに張り付きながらブチブチ引き抜いていく。
それを終えたら解体なのだが――ドレッドは多少は血に慣れていたと思い込んでいた幻想をぶち壊された。
省略するが、巨大なアレやソレは色々ときつくて、気分が悪くなってしまう。
「いや~、わたくしも最初は何度も逃げられて大変でしたわ~。慣れると肉を傷付けず仕留められ、良質のタンパク質となってくれて助かりますわ。今日も山の恵みに感謝、感謝」
ジョセフィーヌはというと、山生活に慣れすぎていて猟師のような手際で解体しながら世間話をしていた。
頬に付いた血を笑顔でグイッと拭う。
「少し汚れてしまいましたわね。解体し終えたら、食事の前にお風呂に入りましょう」
ジョセフィーヌはそう言ったのだが、ドレッドとしては山で風呂に入れるとは思っていなかったので意外だった。
「色々と疲れたので風呂はありがたい……もうクタクタで動けな――」
「さぁ、お風呂一杯分のお水を家まで運びますわよ!」
ドレッドは巨大な水桶を手渡され、しばらく立ち尽くしていた。
山小屋にある風呂を大量の水で満たしたあと、ドレッドはいつものように死んでいた。
全身の筋肉痛で身じろぎすら出来ず、風呂が沸くまで倒れっぱなしだった。
「お風呂沸きましたわ~。お先にどうぞ、ドレッドさん」
「そ、そうか……すまない」
普段なら女性に順番を譲るのだが、今ばかりは早くお湯に入って疲れを癒やしたいために言葉に従う。
ドレッドはガシャンガシャンと黒鎧を鳴らしながら、脱衣所へと向かった。
「さてと、わたくしは……」
手持ち無沙汰になったジョセフィーヌは、ベルダンディーに届けてもらった物資を確認していた。
切れてしまった石鹸や、新しいタオルなどが補充されている。
そこでふと思い出した。
お風呂場にそれらを補充していないため、ドレッドが困ってしまうのではないかということに。
「持っていかなきゃ」
ジョセフィーヌの常識としては、お風呂というのは侍女が途中で入ってくるのも当然だ。
よって、ドレッドのお風呂にジョセフィーヌが途中で石鹸やタオルを渡しに行くというのも普通なのだ。
「失礼しますわ~」
お風呂場の扉をガラッと開けて、ジョセフィーヌは中に入ってしまう。
「なっ!? ジョセ!?」
「石鹸とタオルをお持ちしまし~……んん? 尖った耳と角?」
黒鎧を脱いで素顔を晒していたドレッドの姿がそこにあった。
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