ちょっと良質なタンパク質を求めに
「……ハッ!? ここはどこだ……さっきまでどす黒い世界にいて川を渡るところだったのだが……」
お姫様抱っこで山小屋まで運ばれて、床にゴロンと寝かされていたドレッドが目を覚ました。
柱に両足でしがみ付いて、ブンブンと腹筋をしていたジョセフィーヌがそれに気が付く。
「あら、お目覚めですわね。あなたは最初の軽いトレーニング中に倒れてしまわれたのですわ」
「軽い……?」
そこでドレッドは思い出した。
いきなり身体の重さが増したような気がして、そこから全力ダッシュに近い速度で30kmほど走ったのだ。
結果は途中でダウン。
「いやいやいや、どんな仕組みを使ったのかは知らんが、普段はアレを平然とこなしているのか? ジョセは……」
「それはもちろん。淑女の嗜みというやつですわ」
ドレッドはガクリと肩を落として、鎧の上からでも分かるくらいに落胆していた。
「この我の身体がなまっているとでもいうのか……」
「我?」
普段聞かないような『我』という言葉にジョセフィーヌは違和感を覚えた。
もしかして黒鎧で見えない中身はお爺ちゃんなのだろうかとも思ったが、声は歳を取っていないように聞こえる。
「普段から〝馬〟に乗っていて楽をしすぎたな……」
「あら、乗馬って結構体幹とか鍛えられませんこと?」
「我の馬は馬でも、ペガサスなのだ。空を飛ぶときは魔法のようなモノがかかっていて重力をほぼ感じない」
「ペガサス!」
王国や帝国でも、一握りの騎士しか乗れないという希少な幻想生物だ。
天馬とも呼ばれ、その華麗に大空を羽ばたく姿は美しく力強い。
「自分の不甲斐なさを感じ取った。どうか厳しく鍛えてくれ」
まずは鎧を脱いだ方が――ともジョセフィーヌは思ったのだが……職業柄、着っぱなしになるので脱がない方が実戦的なのだろう。
鎧の下のゴツゴツした騎士っぽい大柄な身体を何となく想像してしまうが、頭を振って雑念を取り払う。
「わかりましたわ! だけど、毎回倒れられては効率が悪いので、身体作りから始めましょう!」
「身体作りだと……?」
「ええ、そうですわ。身体は何から出来ているかと言えば、それはタンパク質からですわ」
「なるほどな」
「肉を作るには肉を喰らえばいい。つまり、モンスターを食べに行きますわ」
「なるほど……な?」
その常軌を逸した言葉に、ドレッドは理解したかわからないような困惑の
山小屋から少し離れたところにある洞窟へやってきた二人。
その中はかなり広く、巨人が歩けるような通路になっていた。
「ジョセ、モンスターというのはスライムか? それともブラッドウルフのようなものか? 後者なら多少は手こずりそうだが……」
ブラッドウルフは1m程度のモンスターで、鋭い牙と爪が特徴だ。
家畜などを襲い、近隣に深刻な被害を出すケースもあって騎士たちも対処したりする。
危険度は十段階評価で、ランク2といったところだろうか。
ちなみに基準となる十段階はランク9が上級魔族で、ランク10が魔王ということらしいが伝承の中だけの話だ。
「うーん、わたくしはモンスターの名前には詳しくないのですが……。あっ、いましたわ!」
群れのブラッドウルフ――がいたのだが、なぜか必死に逃げていた。
その背後、洞窟の奥に別の巨大な眼光が見えた。
位置は高さ4m程。
ブラッドウルフの群れが逃げ出すほどの巨大すぎる何かを見て、ドレッドは一瞬何かわからなかったが、少し遅れて脳が危険信号を発する。
「……あ、アレはランク7モンスター――コカトリスだと!?」
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