幕間 王宮にて

「ブキィィィィ!! 送り出した部隊が行方不明ってどういうことよォ!?」


 王宮の一室にブタの様な声が響き渡る。

 それは激しい怒りを伴ったカロリーヌだった。

 トリスは震えながら答えるしかない。


「そ、それが僕にもよくわからなくて……」


「トリス……あんた、人望ないんじゃないのぉ……?」


「い、いきなりジョセフィーヌを殺すように命令したカロリーヌが悪いんだよ……。きっと、それで部隊が逃げ出してしまって……」


「なんですって……?」


「ヒィッ」


 丸々と太ったカロリーヌの前に縮こまるトリスは、死人のように青ざめた顔をしていた。

 元々が痩せ気味であったトリスは、今の太ったカロリーヌとの体格差で戦々恐々だ。

 まだ付き合いたてだった頃――普通に見えていた昔のカロリーヌを思い出してしまう。

 ジョセフィーヌが〝美しい〟だとすれば、カロリーヌは〝可愛い〟という印象だった。


 手のかからないジョセフィーヌと違って、甘えてくるカロリーヌは『自分がいなければダメだ!』と思わせてくれて、自信が付いた気がしていた。

 もちろん、外見も今のブタの様ではなく、ジョセフィーヌまでとは言わないが素晴らしかった。特に胸が。


(今では胸は埋没して、ただの脂肪の一部と化している……何て醜いんだ……)


「ほら、全部あんたが悪いんだから、まずはあたしに謝りなさいよ」


「え……指示をしたのはカロリーヌで、僕はそれを仲介しただけで……」


「謝れつってんの? 死にたい?」


「ご、ごめんなさいっ!!」


 トリスは眼前のブタを見て心底後悔していた。

 ジョセフィーヌが戻ってきてくれない今、もう誰にも助けを求めることができない。

 こんなカロリーヌでも、トリス以外に対して上っ面だけはいいのだ。

 太った理由も、悪女の姉と不出来な夫を支えるためにのストレスが原因……ということになっている。

 しかし、それは違うとトリスは確信していた。

 まるで食べることが目的だというくらい、バクバクと四六時中食べ続けているのだ。

 たとえるなら――そう、カロリーの化身である。


「ったく、ジョセフィーヌお姉様は運だけはいいんだから。手間かけさせんなっつーの……。まぁいいわ。トリス、またあんたの私財で何とかすればいいだけなんだからね」


 土下座をしているところを踏み付けられているトリスは、もう絶望しか感じていなかった。

 心の中でジョセフィーヌに詫び続けた。

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