祭りの後の祭り
コンテスト終了後の外は、入った時とは全く違う風景となっていた。
これまであった誕生日の文字が消え、代わりに目立つのは『精霊際』の文字だった。
あっという間のイベントの切り替え、値切り品として姫様グッズが端に積まれ、だけども売れずに放置されていた。
あれだけ賑わい、コラボカフェまで出して求められてたはずなのに、最後のイベントのそっくりさんコンテストが終わって日を跨ぐ前にこの扱い、客は正直ということなんだろう。
だから毎日何かイベントを作り出しては引き伸ばし、終われば次へと渡っていく。途絶えれば沈む悪循環、断ち切るのは難しそう。そしていつか限界が来てまとめて不景気に落ちて沈む。そうなる前に何か手を打たないと、とリーアは思う。
その後ろを四人、複雑な表情で付いて行く。
無言、沈黙、誰も喋らない。
目的地は一応、夕ご飯を食べるのに食事処とはざっくり決まっているとは言え、これまでの経緯から何の言わずモメもせずについてくる様子は普通に見えて、だけども普通じゃない五人にとっては普通ではない状況だった。
「何よ。気持ち悪い」
耐えきれず振り返りリーアが口に出すも、残る四人からの返事は無いに等しいほどに薄かった。
これに、リーア、立ち止まり、クルリと向き直る。
「何? 言いたいことがあるなら言いなさいよ」
改めて問い直すも四人、立ち止まるだけで言葉を濁す。
そんな四人にリーア、心当たりがあった。
「別に気にしてないわよ」
呟くように言う。
「二位のおばあちゃんは病院に運ばれての同情票だし、一位のあの出っ歯眼鏡そばかすとか、全然関係ない私事で、学校の担任に告白してヒューヒュー言われて人気集めただけ、そっくりだから評価されたわけじゃないわ」
「はぁん。まぁ犬よりましってだけだがな」
ケルズスの軽口、だけどもリーアは気にしない。
「妾は同情でもヒューヒューでもなく実力で三位なのよ? これって実質一位じゃない? つまり、妾が姫である証拠の一つができたのよ」
「そう、ですか?」
「そうなの!」
懐疑的なマルクにびしりとリーアは断言する。
「これだけじゃ絶対じゃないけど、これまでに比べたら立派な一歩よ。これをきっかけに、本当かも? が広がって次の証拠に近づきやすくなるの。これなら、次の証拠が強すぎるけど、その分を補えるわ。大きな収穫よ」
「あぁなら、それで」
「……何よ?」
ダンの何気ない一言にリーア、引っ掛かる。
「何、あなたたちがなんか変なのって、妾が三位だからじゃ、無いの?」
問いに、わかりやすく肯定したのはダンの表情だった。
「何、妾の舞台が気に入らなかった?」
緊張、肯定の表情。
「最初の挨拶? それとも次のテイスティング?」
安堵、否定の表情。
「じゃあ何? 最後? 最後の乱入のところ?」
緊張、肯定の表情。
「おいちょっとおめぇ顔隠せ!」
ケルズスが両手伸ばしてダンの顔を隠す。
「何よ! 妾の何がいけなかったって言うのよ!」
「いえ、何かが悪かったわけじゃないですよ」
マルク、ため息とともに説明する。
「あの時、ウマイモが飛び交う中で迷わず前に出て、そして暴徒を収めた度胸、その心意気、何よりその必死さに、少々おふざけが過ぎてた僕たちは反省といいますか、恥じらいを感じたんです。でもそれを口に出すのが気が引けて、こんな感じになってしまってたんですよ。気分を悪くさせてしまったようで、すみません」
マルクの弁明に、納得するリーア、だけどそれも表情を見るまでだった。
マルクではない。今回はダンでも、ケルズスでもなかった。
トーチャ、小さな体で油断したのか、だけども黒い肌に白目は目立ち、目線が泳ぐのがしっかりと見てとれた。
「違うわね?」
リーアの問いに動じないマルク、代わりに残り三人が動じてる。
「何よ。アレの何が可笑しかったわけ? 頭に血の上った暴徒を落ち着かせるために美しい音色は有効、だから王族は護身の意味もあって音楽を習うの。妾はまだ歌だけだけど、それでも美声で解決できた……何よ。歌なの?」
四人、小さいながらも表情の変化で肯定する。
「何よ妾の国歌は上手かったでしょ! あの暴動も治まったし! お父様もお母様も歌の先生にも元気があってのびのびしてて素晴らしいって!」
ここまで言って、四人の表情を見て、それでリーアも遡って察する。
つまりあの時褒められたのは、文字通りの意味ではなくて、つまり美声ではないとのことで、なのにそれをさも自慢げに披露してきた過去、そして今回のそっくりさんコンテスト、三位の意味、モロモロが変わってしまう。
「何よ。じゃあ何、妾が三位なのは、歌が素晴らしかったからじゃなくて、歌があいつらの勝手に思い描いてる姫様に似てたからって、こと?」
「まぁ、子供は大きな声が良い歌声だと勘違いしがちだからな」
場の空気を読まずに止めを刺したダンへ、残る三人が睨みつける中、リーアは押し黙る。
リーアが思い出すのはこれまでのこと、あちらこちらで自信満々に美声だと思っていた歌声を披露してきた日々、良いはずの思い出が恥となって襲い掛かって来る。
そして居たたまれない沈黙の後、リーアはカッと目を見開く。
「……練習する」
「はぁん?」
「練習するの! 練習して本当の美声になるの! 今からするの!」
顔真っ赤に、今にも地団駄を踏みそうなリーア、スカートの裾掴んでわなわな震える。
「歌の練習なら練習なら寝る前でもできるでしょ! だから聞いて! それで妾の歌がどう悪いか教えて! それで今から練習して入学式までに間に合わせるの!」
「いや、おいちょっと待て、入学って、歳いくつだよ」
「レディに年齢訊かないで!」
ほぼヒステリック、涙に潤む目、荒い呼吸で応えるリーア、行ってしまう背中に四人、違う意味で狼狽していた。
「訊ねるが、こちらのわっぱはあの背格好でどれぐらいの歳だ?」
「僕に訊かないでください」
「おい。何で俺っちに訊かない? 俺っちには分かりっこないってか? あ?」
「あれだぁな。嘘か真か知らねぇが、良い家に産まれて良いもん食ってっから年齢のわりに体でかいんだろうさぁ。しっかし、中身ガキっつったってそれ差しい退いてもあれな性格だがなぁ」
「そんなわっぱに、私たちはいいように使われている?」
「そう言う契約ですからね」
「嫌なら辞めちまえよ。あんな指で数打たなきゃならないお前なんかいなくったって俺っち一人で十分だってさんざ言ってんだろ」
「あぁ、一突きで十分だな」
「あ? あんな速いだけで俺っちに当たれられるってか?」
「グダグダ言ってないで早く来なさい! 道端じゃ練習できないでしょ!」
つかつか行ってしまうリーアに四人、慌てて付いて行く。
「……ふと思ったのだが、あの字のことが通じるのなら、この国を治めた後に、あの歌声が正しいものとすればよいのでは?」
ダンの一言にリーア、戻ってきてその裸足を思い切り蹴り飛ばした。
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