新しい朝

 散々、傍若無人な振る舞いをした挙句に眠ってしまった璃音りおんを、麗亜れいあは茫然と見ていた。

『これからどうしよう……』

 そんなことも思ってしまう。とは言え、彼女を追い出したり捨てたりする気にもなれなかった。麗亜は、そういうタイプだった。押しに弱いというか、お人好しというか。

 だから学校に通っていた頃も、掃除や用事を押し付けられては一人であたふたするということが多かった。イジメられていたという程ではないにしろ、いいように他人に使われていたのも事実かもしれない。

 それでも、麗亜はそういう自分を決して嫌ってはいなかった。損な性分だというのは分かっていたけれど、それで誰かを恨んだりもしなかった。自分に与えられたものをちゃんと受け入れられていたからかもしれない。

 麗亜は、両親に愛されて育った。決して器用でも華やかでも才能に溢れてるタイプでもなくても、彼女の両親は娘のことをとても愛していた。だから麗亜にはいつも心に余裕があったのだと思われた。

『ま、なるようになるか……』

 それが彼女の基本的なスタンスだった。厄介事があってもいつまでもくよくよせず、『なるようになる』『何とかなる』と考えて実際に何とかしてきた。

 彼女の両親がそういう人だったから、彼女もそんな両親に学んだのだろう。

 璃音が寝ているのをなるべく邪魔をしないように夕食を食べて風呂に入って寝る。ちなみに彼女は家では基本、寒い時期以外は全裸だった。それをだらしないとか恥ずかしいとかは思わない。そういう意味では大らかな性格だとも言えた。

 だから、

「うわっ! なにあんた!? 何で裸なの!?」

 昨夜は麗亜が璃音に驚かされたが、今朝は璃音が麗亜に驚かされる番だった。着替えの為に一時的に裸になってるという感じですらなく、全裸のまま歯を磨いていたからだ。

「あ、おはよう… よく眠れた?」

 裸を見られたというのにそれを気にする様子もなく、麗亜がそう尋ねてくる。その様子に璃音が口を開けて呆然としていた。

「あ…あんた、変な奴ね……」

 人形のクセに動くわ喋るわワガママ放題だわという自分を棚に上げてそう言う璃音に、麗亜は微笑みかけた。

「璃音って言ったっけ? あなたは何か食べるの?」

 歯磨きを終えてもやはり裸のままの麗亜に問い掛けられて、璃音は目を逸らしつつ応えた。

「私は人形よ。人間の食べるものなんて食べる訳ないじゃない」

 昨夜と同じように不躾な喋り方なのに、今朝の彼女は明らかに麗亜にペースを奪われていた。

 こうして二人は、新しい朝を迎えたのだった。


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