やさしいキリギリス

「お兄さん。あなたは、そんなに正しいのですか?自分は苦労していて、他人は楽をしている。と」そして、主人は彼に尋ねた。「お兄さん。[アリとキリギリス]の話を知っていますか?」主人は唐突に聞いてきた。

「はい。有名なイソップ物語の話ですよね。

それが何か。」

「お兄さんの知っている。[アリとキリギリス]はどんな話ですか?」

「えっと。確かキリギリスは夏の間ずっと遊んで暮らし、アリはその間もずっと苦労して働いていた。そして、冬が来て、キリギリスは蓄えをすべて使い果たし、アリの所に助けを求める、しかし、アリはそれはあなたの怠慢によって起きたことと冷たくあしらい、ついにキリギリスは冬の寒空で生き絶えてしまう。と言う話だと思います。」主人は彼の話を黙って聞いていた。そして、おもむろに煙草に火を付け、目一杯煙を吐き出した。

「お兄さん。実はその話には、別の話があるんですよ。お兄さんが話したお話は、子供向けに作り変えたものなんですよ。本当はの話は、こんな話なんです。」主人は煙草を空き缶におとした。

「キリギリスはアリの所に行って、私はさんざん夏に遊んで暮らして来ました。もう、満足です。この世に未練はありません。どうか私を食べてこの冬を乗り越えてください。アリはキリギリスを食べてその冬を越すことができた。そう言い話なんです。」彼は主人の話を聞いて固まっていた。

「お兄さん。いいですか?この世はほとんどが作られた世界なんです。本当の真実というのは目には見えてないのですよ。あなたは、

かりそめの正義に酔っているに過ぎないのです。目を見開き、常に常識を疑い、自分自身をも疑って本当の幸せを掴んでください。」主人はそう言うと、また煙草に火を付けた。私は、二人の話を隣でずっと聞いていて、自分自身の人生に置き換えていた。

「この世の常識は実は虚構であって、真実ではない。つまり、[世間的な幸せ]も世の中が作り出した虚構である。と。」私は圧倒的な言葉にうちのめされていた。

聞いていた、彼も、もはや何も言い出すことも無く、ただただ泣きながら頭を下げ、去って行った。

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