第46話
「うげぇえ!?」
わりと勢い勇んできた俺は思わず悲鳴をあげてしまった。
それからすぐに背中を向けた。同時、近くできょとんとしていた美月を隠すように抱きしめる。
「!?」
そのまますすーと、店と店の隙間へと避難する。
顔を真っ赤にしていた美月が、
「しぇんぱ――!?」
聞きとれない悲鳴をあげていて、俺はその体を落ち着かせるようにたたいた。
「……すまん、美月。取り乱した」
「……べ、別にセンパイに抱きしめられるのは、好きだから……いいですけど、ど、どうしたんですか? 発情しちゃったんですか?」
「ちげぇよ……まさか、学校の不良グループがいるとは思わなくてな……」
「……え? あちらの方たちですか?」
俺の陰からひょっこりとカラオケ店の入り口を見る。そこには三人組がいた。
……男三人で仲良くカラオケに来ているところだったようだ。
「……奴らが中入ったら、教えてくれないか?」
「……それまで、この態勢ですか?」
「悪いな……」
「……じゃあ、中に入ったこと教えたくないですね」
ぎゅっと、美月は嬉しそうに俺のほうにくっついてきた。
店と店の間の隙間にいた俺たちだが、それでもこんな雄一衆の面前で抱き着いていると、過行く人々にちらちらとみられる。
しばらくして、美月がつんつんと俺の腕をつついた。
「センパイ、もう行きましたよ」
「……そうか。カラオケ店入ったのか?」
「はい。別の店にしたいところですけど、予約しちゃっていますしね」
……そうだな。予約キャンセルとなると、金をとられる可能性が高いからな。
「……まあ、入るときに気を付ければなんとかなるだろ」
「それじゃあ、私が先に入って、手続きしておきますね。あとから隙を見て入ってきてください」
「了解」
理解のある後輩で助かる。
美月を先に行かせ、俺は中を伺いながら、ストーカー男を見る。
……さっき抱きしめたことで、どうやらかなり苛立っているようだった。
結果的に、挑発に成功したということだな。奴らには感謝だな。
美月が手招きをしたので、俺はすぐに中へと入った。
美月とともに速やかに目的の部屋へと入り、そこでようやく一息がつけた。
「センパイがあんなに焦っているの初めてみたかもしれませんね。新鮮でした」
「からかうんじゃねぇよ。美月を連れていたら、絶対彼女だと疑われるからな。そんでもって、あいつら俺に対してかなり雑な扱いをする連中なんだぞ? おまえの眼鏡とかマスクとか奪い取ろうとするかもしれないだろ?」
「……え? そんなやばい人たちなんですか?」
「ああ、可能性がないわけじゃない。それで、俺だってそれを黙ってみているわけにはいかない。そうなって間に入ったら、さすがに喧嘩になるからな。怪我させたら悪いだろ」
「センパイが負ける心配はないんですか?」
「あいつらにやられるような軟な鍛え方はしてねぇよ。そういうわけで、出来ればバレたくなかったんだよ」
「そうですか……でも、さっきセンパイに抱きしめられて、凄い温かったです。嬉しかったですよ?」
「そうか。それで? ここのはドリンクバー方式なんだな」
「はい。気持ちよく歌っているときに店員が入ってくると、なんだか嫌じゃないですか」
「……その気持ちは分からないでもないな」
「センパイの分も取ってきますよ? 美月オリジナルで作ってあげますからね」
……こいつ適当に混ぜようとしているな?
「……いや、大丈夫だ。そのくらいは俺でもできるからな」
「それじゃあ、最初の一杯は一緒に取りに行きますか」
「ああ、そうだな」
俺が周囲を警戒しながら扉を開けたときだった。すぐ隣の扉が開いて、見慣れた顔を発見する。
不良グループだ。一人がトレーとコップを三つもって、ちょうど廊下に出てきたところだ。
俺は反射的に美月をとんと押して扉を閉めた。
……美月と扉越しに目が合う。俺の表情で、すべてを悟ってくれたようだった。
「あれ? ……陰キャじゃん、何? 一人で来てんの? おい、おまえら、陰キャが来てるぞ!」
ぷっと彼が笑いながら、仲間たちを呼んだ。
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